時間は遡る。
壬生を保健室に連れて行き、安宿が治療中の他、未だに眠っている修哉と紫苑を確認した後に一旦席を外した。俺と一緒に同行していたエリカには、少し疲れたから一人になりたいと言ってある。
「えっと、場所は確か……」
誰もいない一室に移動した俺は、周囲に人目や気配が無い事を確認して、懐から携帯端末を取り出して地図アプリを呼びだす。
ブランシュの一人から記憶を探り、あらゆる情報を引き出した際、奴等のアジトも判明した。
記憶を巻き戻しするかのように探った結果、奴等が居る場所は街外れの丘陵地帯に建てられた、バイオ燃料の廃工場だ。しかもこの第一高校から目と鼻の先で、徒歩でも一時間は掛からない距離である。
流石の三巨頭も、まさか連中がこんな近く潜んでいたなんて思ってもいないだろう。
まぁ、現在襲撃の鎮圧が完了しつつあるが、向こうはすぐにアジトを潰そうだなんて考えない筈だ。俺以外の誰かが場所を特定しない限りは。
このまま俺一人でブランシュのアジトに向かって速攻でぶっ潰して終わらせたい。しかし、今の状況では動くわけにはいかなかった。俺は今回派手にやり過ぎた為、学校から抜け出たら色々と問題となってしまう。特に警戒しまくってる司波に感付かれるのは現状好ましくない。
ではどうしようかと考えた末、アレを使う事にした。前の世界で修行時に有効活用した技――
そして俺は両腕を顔の前で交差し、すぐに両腕を開いた瞬間――
「このままブランシュのアジトに向かって殲滅しろ。但し、俺だとバレないよう変装してから行け」
「分かった」
俺が指示すると、もう一人の俺は頷いてすぐに転移術を使って姿を消した。
因みに目の前にいたのは分身拳を使った正真正銘の俺だ。
この技は『ドラグ・ソボール』の天津丼が使っていた秘奥義で、文字通り身体が実態を持った分身に変わる。最大は四人までだが、今回は二人だけで充分だった。
ついでに分身拳は二人になると本来の実力が半減、更に四人になると四分の一になるという欠点がある。前の世界でそれを如何にかしようと改良した結果、最大四人になっても約二~三割程度落ちるだけに留まっている。究極体のデルがどうやって欠点無しで使いこなしてるのか知りたいもんだ。
それはそうと、多少の実力が落ちる欠点がある技と言っても、この世界の人間相手では大して問題無い。例え実力が四分の一になったところで百パーセント勝てる。相手に前の世界にいた
では、そろそろ保健室に戻るとしよう。俺が学校にいるというアリバイ作りとして。
☆
「此処か……」
転移術を使って閉鎖された工場の門扉前に現れた(分身拳の)俺は、目的の場所を見て呟いた。
今のところは見ての通り誰もいないような静けさだが、それでも内部に数十名が潜んでいるのはオーラで探知済みだ。恐らくブランシュのリーダーである司甲の義兄――
突入する前に一通りの確認をする。此処へ来る前、学校にいる俺から変装するよう言われたから、念の為に自身の身形を確認する。
今は第一高校の制服でなく、前の世界にいた頃で高校生活を送っていた駒王学園の制服だ。俺にとっては一番思い出でがあって、何より制服も気に入っているから、俺が独自に再現して作った。ついでに
本当ならドラグ・ソボールのキャラ衣装――ピッコルの胴着とマントでも良かったが、アレはこの世界で着ると色々とアレな人に見られてしまうので却下せざるを得なかった。これが本物のファンタジー世界なら着ても問題無かったんだが。そう言う理由で駒王学園の制服にした。
第一高校と駒王学園の制服は全く作りが違う。故に俺が変装用として着てる制服を目撃されても、殆どが他校の生徒だと勘違いするだろう。俺の事を知ってる第一高校の生徒でない限り。
更に万が一、第一高校の生徒が此処へ来た時の事を考え白般若の面を被って鉢合わせしてもすぐに俺だと認識できないようにした。仮に鉢合わせる事になっても転移術を使って姿を消せばいい話だが。
「お次は……」
身形を確認した俺は次に指をパチンッと鳴らした。
直後、工場全体を覆うような膜が張られたが、それはすぐに消えて何事も無かったようになる。
言うまでもなく
更にはこの結界から出ようにも、見えない分厚い壁のようになってるから逃走も出来ない。この結界の仕組みと対処法が分からなければ二度と出られない。俺が解除しない限り、な。
この世界の魔法師が、現代魔法を使ってこの結界を壊す事が出来るかどうか検証してみたいが、生憎と今は時間が限られてるので省略させてもらう。
さて、身形の確認と結界も問題無く張れたから行動に移すか。私利私欲の為に学校の生徒を利用し、
そう固い決意をした俺は飛翔術を使ってフワッと浮かび上がり、門扉を軽く飛び越えて何事も無いように簡単に侵入する。
「止まれ!」
「どうやって入って来た!?」
俺の侵入に気付いたみたいで、武装したブランシュのメンバーが複数現れて銃口を向けてきた。
「な、何だコイツ……!?」
「おかしな面をしててやがる上に……」
「アレは……第一高校の生徒じゃないな」
「ってか、どこの学校だ? 見た事ない制服だぞ」
コイツ等は襲撃した第一高校の事を知ってるから、その関係者が報復に来たと思ったんだろう。その為に迎撃しようと武器を構えている。
だが、俺にとってそんな事は非常に如何でもいい事だ。情報通りブランシュが此処に潜んでいると確信出来たので。
これで遠慮なく叩きのめせると思いながら、変装と一緒に用意した木刀を手にして構えながら歩き始める。
『!』
俺が相手の持ってる武器に怯む様子を見せないどころか、そのまま向かってくるのをが見えたが――超スピードを使ってすぐ、全員一撃で気絶させた。
その気になれば木刀でも斬殺する事は可能だが、今回は学校に死者が出なかったので殺さないでおいた。尤も、負傷者は多数いたので病院送りの刑は確実だ。全員一人たりとも逃す気はない。
因みに俺が一撃で気絶させた奴等の骨は確実に折れている。入院しなければ治らない程に、な。
では会いに行きますか。此処にいるブランシュのリーダーの司一に。
「それで、一体君は何者なのかな? その格好を見る限りは第一高校の生徒ではなさそうだが」
建物の中に入ってどんどんと先へ進み、人が集まっているホール上のフロアに入ってすぐに遭遇した。
「貴様に名乗る名などないが、敢えて言うなら『白般若』とだけ名乗っておく」
「『白般若』? はて、そんな奇妙なコードネームを持った魔法師は聞いた事すらないな」
「そんな事はどうでもいい。お前がブランシュのリーダーか?」
本当に分からないと言う大袈裟な仕草をする男に、俺は冷ややかに問いかけた。
見た感じだと三十前後で意外に若い。
細長い体型に縁無しの伊達メガネをしている。まるで学者のような外見だ。
そのついでに、ソイツの後ろには部下と思われる連中が十人以上いて、全員俺に銃を向けている。
「おお、これは失敬。君の事は知らなくても、此処へ訪れた以上は名乗らなければいけないな。仰せの通り、僕がブランシュ日本支部のリーダー、
面では見えないだろうが、上品に振舞おうとする男――司一の態度を俺は不愉快そうに見ていた。
如何にも絶対の自信があるような雰囲気を醸し出している。こう言う奴ほど、人の心と命を弄ぶテロ組織のリーダーに相応しい。
「そうか」
しかし、俺からすれば滑稽だった。
前の世界で
どんな風に心を圧し折ってやろうか。少なくとも生易しいやり方で済ませる気はない。
「一応、警告はしておく。お前達は今すぐ軍や警察に自首をしろ。その際、第一高校を襲撃した事や、今までやらかした悪行を全て自供しろ。これは俺からの最大の慈悲で、最後の警告とさせてもらう。どうする?」
木刀を手にしてる俺が切っ先を司一に向けながら警告をすると、向こうは一斉にキョトンとしていた。
そして――
「ク、ククク……ハハハハハハハ!」
『ダハハハハハハハハハ!』
司一だけでなく、その後ろにいる連中も揃って爆笑していた。
はぁっ、やっぱりああいう反応になるか。
確かにああなるのは無理もないと思う。何しろ俺が持ってるのはCADでも何でもないただの木刀だから、向こうの武装とは遥かに劣っている。
そんな物を突き付けられて慈悲だの警告と言われたら、爆笑するのも仕方ないだろう。
「ハハハハ……あ~失礼した。思わず大笑いしてしまった。それは心から謝罪しよう。だがね白般若くん。そんな武器を持って言われても全然説得力がないよ? とは言え、君は外にいた部下を倒したみたいだから、魔法師である事は間違いなさそうだ。ならここは僕からも警告をしようじゃないか」
未だに嘲笑しながらも、司一は奇妙な仕草をする。
「白般若くん、我々の仲間になり給え。それと同時に君の素性や、此処へ来た目的を教えるんだ。そうすれば、君が外で倒した部下の件は水に流そう。どうだい? 悪くない条件だろう?」
「断る。どうせ貴様の事だから、俺の事を洗いざらい調べ終えて用が済んだら始末する気なんだろう? もしくはそれなりに使えると分かれば
「ほう? 君は中々頭が良くて実に好ましい。だがそこまで分かっていてノコノコやってくるとは愚か極まりない。そう考えると、君は子供かな? その付けている面を除いて、それ以外は学校の制服のように見えるから、もしかすれば高校生かもしれないね」
「だったらどうする」
「そうだね。ここは大人らしく、強情な子供に分からせてあげるとしよう」
奴は外連味たっぷりに伊達メガネを投げ捨てた直後、前髪をかき上げて正面から目を合わせる。
「白般若、我が同士になるがいい!」
司一がそう言った直後、奴の両眼から妖しい光が放たれた。
………別にこれと言って俺の身に何も起きてはいないんだが。アイツは一体何がしたかったんだ?
さっきまで木刀を手にしてる右手を思わず下げた事に、向こうは途端に笑い出す。
「ハハハハハ、君はもう、我々の仲間だ! そんなふざけた面を付けたところで、この力の前では無意味なんだよ!」
……成程、そう言うことか。さっきの両眼から放たれた光は、俺を操る為の魔法だったんだな。
となると、コレで壬生を洗脳したのか。何の対策もなければ操られてしまうのは無理もない。
だけど残念でした。
前々から気付いていたが、どうやらこの世界の現代魔法は前の世界の
俺がこの世界の現代魔法を使っても上手く展開出来ないのに対し、現代魔法は前の世界で使っていた俺の
でもそう考えると、俺がこの世界にあるCAD等の機材にオーラを送りこんだら簡単に現代魔法が発動するのはおかしい。
まぁソレは一先ず後回しにしておく。司一の魔法が俺に効かない以上、もう奴を警戒する必要などないか。
「では手始めに、君の名前を教えてくれ。そして、その面を外して僕に忠誠を誓って貰おう!」
洗脳に成功したと思ってるのか、慣れた口調で命令するように言ってくる司一。
確かに今まで、その魔法で多くの人間を洗脳してきたんだろう。あの歪んだ笑顔を見れば一目瞭然だ。
だが――
「愚か者、そんなものが俺に効くか」
「………は?」
俺が心底見下すように侮言をした瞬間、奴等は瞬時に凍り付いた。
「貴様の両眼から放たれた光は恐らく人を洗脳する魔法なんだろう? だが残念だったな。さっき貴様が言っていたこの『ふざけた面』には、洗脳に関するあらゆる魔法を
白般若の面は顔がバレないようにする為の変装用小道具にすぎないが、流石に
それを真に受けたのかどうか分からないが、向こうは驚愕する一方だ。
「ば、バカな……! そ、そんなもの、ある筈がない! か、仮に存在しても、そんな貴重な道具を一介の高校生が持てるものでは……!」
「信じる信じないはそちらの自由だ。さて、ご自慢の手段を防がれた司一さんは、この後どうする気だ?」
向こうは完全に予想外だったみたいで、今は完全に笑みが無くなっていた。それどころか逆に恐怖している。
自らの手を汚さず、ただ命じる事に慣れた口だけの奴ほど大した事がないのはお決まりだ。俺が前の世界で潰した組織のリーダーは大抵そんな奴等ばっかりだった。俺は勿論、
「まぁ、逃げようとしたところで見逃すつもりなんか一切無い。俺からの慈悲を蹴った時点で、な」
「ひっ!」
『!』
俺が途端に表情を変えながら殺気を放った事に、司一だけでなく他の奴等も途端に動けなくなっていた。
勿論ただの殺気なんかじゃない。今このフロア全体を覆う程の、濃厚で濃密な殺気を出している。それによって敵の何人かは恐怖の余り失禁していた。前の世界にいる天使や悪魔などには大した事無いが、この世界の人間は嘗てない恐怖を味わっているだろう。
ドラグ・ソボールの極悪人キャラ――宇宙の帝王フリーズ風に例えて言うなら、『たった十数匹のアリが恐竜に勝てると思ったのか?』みたいなもんだ。
司一も、銃口を向けている連中も、揃いも揃って俺に恐怖して固まっている。
「さて、そちらの部下も動けないようだ。どうやって料理してやろうか」
「ま、待て! 待ってくれ!」
木刀を持ったままゆっくり近づく俺に、完全に腰を抜かしている司一は途端に両手をあげた。
「こ、降伏する! あ、貴方様の言う通り、今すぐに自首します! ですから、ど、どうか命だけはお助けを……!」
さっきまで偉そうに振舞っていた男が、いきなり降伏宣言をしてきた。同様に、俺の殺気に怯えてる奴の部下も含めて。
余りにも呆気なさ過ぎる幕切れに興醒めしてしまう。
ここまでにするのが人情だろうが――
「バカ共が。今更遅すぎる。それに貴様等は、第一高校にいる俺の友人を殺そうとしたんだ。だから………絶対に許さんぞクソ共がぁ!! じわじわと半殺しにしてやる!!!」
『ギャァァアアアアアアアアアアアア!!!!』
久しぶりにキレた
この工場にいる全員、最低でも複雑&粉砕骨折の刑だ! 覚悟しやがれ!!
最後辺りは某DBキャラのフ〇ーザの名言を使わせてもらいました。
感想お待ちしています。
次から連日投稿は難しいです。