「殺す!」
(ほう、速いな)
両手に刃渡り約三十センチの大型ナイフを持ったパラサイドールが、一気に接近してソレをかなりのスピードで振るっていた。
単純な速度だけで言えば、エリカが使う自己加速術式に匹敵するだろうが、それだけだ。さっきの圧斬りと同様、この個体にも技が無い。いくら正確で無駄の無い動きであっても、それが逆に分かり易い。
俺は左右二連の斬撃を躱す為に一歩下がった直後、『遠当て』を使おうと強く睨んだ。眼から発した衝撃波によって、パラサイドールは軽く吹っ飛ぶ。並みの人間であれば確実に骨が砕かれて立ち上がれない威力なのだが、兵器として頑丈に作られたみたいで、倒れる事無く未だ両足で立っている。
それでもすぐに動く事は出来ないみたいで、完全に隙だらけだった。
俺はパラサイドールの核であるパラサイトを滅しようと、
「む? これを防ぐか」
あと少しで当たる寸前、ナイフを持つパラサイドールの前に魔法障壁が出現する。ソレの所為でキルビームが当たって貫通しようとするも、威力と速度が減衰した所為で、対象に寸でのところで躱されてしまった。四体目のパラサイドールが展開した魔法障壁によって。
一旦態勢を整えようと思ったのか、俺の目の前にいるナイフの個体は後方に下がった。それを見た残り三体の個体も合流した直後、ダイヤ型の陣形を取った。前に二刀の大型ナイフを使う高速接近戦型、右に
中々面白い陣形だ。さっきの攻撃が分かり易かったとは言え、前回相手をしたパラサイト達よりもマシな連携攻撃をしてくる。パラサイドールになった事で、それなりの戦闘知識も得たのだろう。開発した九島家によって、な。
「あの時の我等とは違うぞ!」
「へぇ、少しは出来るようだな。前に戦った時の集合体は、正直言って芸の無い戦い方だった」
八つのパラサイトが一つになって八岐大蛇みたいな姿となり、単に八つの口から魔法のブレスを吐くだけの攻撃のみ。俺が
けれど、目の前にいる四体のパラサイドールは違う。決められた役割を持って連携をするから、実に厄介な戦い方をしてくれる。
「だが一つ訊きたい。あの時のお前は集合体にならず封印されていた筈なのに、俺がお前の仲間を倒した事を何故知っている?」
「同胞達の叫びが我に伝わったのだ!」
個体の一つが此方の質問にはちゃんと答えてくれるも――
「あの悲痛な叫びを一瞬たりとも忘れた事は無い!」
「だがあの人間共に増殖された事で、殆どが貴様に対する怒りと憎しみが消えてしまった!」
「自我を保ち続けた我等は敢えて奴等の操り人形を演じていたが、最早その必要はない!」
(成程、そう言う事だったのか)
どうやら残りの三体も相当俺に対する恨みが深いようだ。
増殖、ねぇ。パラサイトが急激に増えた理由は、やはり九島家の仕業だったか。
こんな事は言いたくないが、どうやら九島烈は見誤っていたようだ。制御装置があっても俺に対する憎しみを消す事が出来なかったどころか、こうも簡単に手が付けられない状態になるとは微塵も予想していなかっただろう。
でも、全て彼一人だけの責任ではない。俺がピクシーにパラサイトが宿っている事を話さなければ、パラサイドールを開発する事を考えなかったのだから。
いくら俺が切欠に過ぎないとは言え、それでもある程度の責を負う必要がある。目の前の個体を何としても倒さなければならないと言う責を、な。
本当なら実力を把握する為にもう少し相手をしたいところだが、今のコイツ等は俺が原因で九島の制御から離れている為、他の選手達と遭遇したら何の躊躇いもなく殺す筈だ。そんな恐ろしい事態を絶対引き起こす訳にはいかない。
「そうか、よく分かった。ならばさっさと倒すか」
「「「「!」」」」
俺がフィンガースナップの仕草をした瞬間、四体のパラサイドールは即座に高速で散開するも――
「がっ!」
「な、何故……!?」
「避けた、筈なのに……!」
「バカな……!」
完全に躱そうと散開したところで、俺の視界に入っている時点で既にロックオンしているので無駄だ。加えて今回はいつもより少々本気で放ったから、奴ら程度のスピードでは決して視認出来ない。
「その光を受けた以上、お前達はもう終わりだ。消えるがいい」
再度フィンガースナップをすると、パラサイドールに突き刺さっている光の槍は消えていく。
「く、くそぉ……!」
「こんな、ところで……!」
「お、おのれぇ……!」
「あぁぁぁぁぁ……!」
同時にパラサイトも俺に対して怨嗟の声を上げながら消滅していく。
そして核を失ったパラサイドールは完全に機能停止し、四体全て揃ってバタンと倒れる。
(ディーネ、確認頼む)
――はい。………主が交戦した、四体の、パラサイト、全て、消滅しました。
念話で斥候役のディーネに通信すると、対象がちゃんと倒せた事を報告してくれた。
倒したのは分かっても、下手に怠ってやっぱり生きていたと言う事態にならないよう、念入りに確認しなければならない。特に妖魔の類は人間以上にしぶとくて、嘗ての
本当は光の槍でパラサイドールごと破壊したかったが、そんな事をすれば大会委員会が騒ぐだろうし、九島家の方も暴走していたのを有耶無耶にする可能性がある。尤も、後で九島烈には報告させてもらうが、な。
さて、目的を達成したから、もう此処に留まる必要などない。修哉や服部達に必ず優勝すると約束した以上、このまま一気にゴールへ向かうとしよう。
☆
隆誠が優勝したのはアナウンスですぐに広まった。それを聞いた選手達は、何としても二位を取ろうと躍起になっている。
そんな中、ゴールまで残り五百メートルまでの地点では、二人の選手が競い合っていた。
「一条ぉ! お前が十師族だからって手は抜かないからな!」
「くっ! 兵藤だけじゃなく、天城もここまで厄介だったとは……!」
一高の修哉の隣に、三高の将輝がいる。今この二人が二位を争っている最中だった。
普通に考えて一般生徒が、十師族直系相手に互角の勝負を繰り広げるなんてあり得ない。将輝はそのような差別はしないが、それでも十師族として負けられないと言う使命感は持っている。
しかし、今の彼はそんな使命感など既に捨てていた。自身と互角の勝負をしている修哉には絶対負けたくないと言う、男としての意地を見せているだけだ。
ゴールまで残り百メートルまでになると、ここで最後の妨害が発生した。自動銃座によるペイント弾が二人に襲い掛かろうとする。修哉はバンドを外した事で全力を出せる状態だから身体能力で躱し、将輝は跳躍の魔法で即座に回避。
そして残り五十メートルになった瞬間、修哉が一気に急加速する。
「なっ! お前、まだ本気じゃなかったのか……!?」
「俺は本気を出したなんて一言も言ってないぞ!」
修哉は隆誠に一年以上鍛えられたこともあって超スピードを使う事が出来るようになった。尤も、隆誠に比べればまだまだ遅いが。
「悪いな一条! 二位は頂くぞ!」
「くっそぉぉぉぉぉ!!」
将輝は移動魔法で何とか追い抜こうとするも、修哉に虚を突かれてしまった所為で叶わなかった。
その結果、天城修哉が二位になり、一条将輝は三位となる。
「でかした修哉! 俺とお前の一高ワンツーフィニッシュだ!」
「よっしゃぁぁぁ!」
優勝した隆誠が手を上げながら言ってきたのに対し、二位の修哉は彼の出迎えに応じる為にパアンッと手を打ち合わせるのであった。
やっとここまで来ましたが、実はまだ続きます。
SS編で暗躍していたエリカの身内が残っています。
感想お待ちしています。