スティープルチェースで俺と修哉がワンツーフィニッシュを飾り、一高側は祝勝会が始まる前からお祭り気分になっていた。四年連続で総合優勝の栄冠を勝ち取っただけでなく、今年の九校戦は去年以上に難儀していたから、そうなるのは無理もないだろう。
それとは別に、司波から急な電話が入った。それは当然パラサイドールを始末したかの確認について、な。普通に直接話せば良いと思うかもしれないが、どうやら司波妹や光井の目を潜れなかったみたいで、仕方なく電話で話さざるを得なかったのだ。あの二人は俺と司波が実は怪しい関係じゃないかと未だに誤解してるみたいで、これ以上弁明しても無駄だから匙を投げるしかない。と言うか、もう勝手にしてくれ。寧ろいっそのこと、司波に俺の手料理を食わせる際に相伴させて、二人の
司波に問題無く片付けた事を報告した後、後夜祭が始まるまでゆっくり休んでいようかと思っていたが、神造精霊レイから緊急の念話が届いた。十日前からずっと監視していたエルンスト・ローゼンが漸く動き出したと。本当は朝の時点で判明していたみたいだけど、俺がスティープルチェースを終えるまでずっと待ってくれたようだ。
エルンストは今まで身動きが取れずに大人しくせざるを得なかったが、パラサイドールの一件によって国防軍の内部抗争が発生しているとの情報を掴んだようだ。それを好機と捉えたのか、彼は双子と思わしき姉妹を呼んで、ある事を命じていた。エリカを出しにして
中々面白い事を考えているようだ。秘密裏とは言え、九校戦の会場として利用してる国防軍基地の中で、まさかそんな大胆な行動を取るとは予想だにしなかった。姉妹の方も相当やる気満々で、敗北する事を一切考えていないから本当に良い度胸している。因みに俺を捕獲すると聞いていたレイは相当苛立っていたようで、思わず攻撃しそうだったとか。ちゃんと我慢し監視に徹してくれたご褒美を考えておくとしよう。
向こうが漸く本性を現しただけでなく、行動を起こすと分かれば先手を打っておく必要がある。極秘に相手の情報を入手しておいて、それを活かす事なく無策で相手の思惑通りに動けば、レイのやった事が無意味になってしまうから、な。
とは言え、一学生の身である俺が国防軍基地内を勝手に動く訳にはいかない。パラサイドールと交戦した場所が一番最適だが、あそこの出入り口には警備がいるから無理だろう。
何処へ誘き出そうと考えている中、九島烈から『大事な話がある』との電話が入った為、一旦後回しにすることにした。
「兵藤君、すまなかった」
場所は昨日と同じく九島のスイートルーム。
呼び出された俺は椅子に座り対面して早々、九島烈が途端に頭を下げて謝罪していた。
有名な十師族の長老が一般人に頭を下げるなど、普通に考えて有り得ない行為だろう。立場が上であればあるほど難しくなるのだが、彼はそんなの全く気にしてないようにやっていた。
「もう君は既に知っているのであろう? スティープルチェースで交戦した四体の戦闘用ガノノイドは、我々九島家が開発したパラサイドールだと」
「ええ、最初は耳を疑いましたよ」
九重と言う情報源には敢えて触れず、俺は向こうに合わせて頷いた。尤も、彼の事だから薄々気付いているかもしれないが。
「ですがそれ以上に、急にパラサイドールが暴走したのが一番驚きでしたよ」
「っ……」
普段の九島なら全く動じない筈なのだが、まるで大変痛い所を突かれたかのように表情を歪めていた。
「競技が始まる前までの私は、制御装置があればパラサイドールは決して暴走しないと思っていた。だがその思い込みが災いし、君に大変迷惑を掛けてしまう結果となり、誠に申し訳ない」
「…………………」
非を完全に認めているのか、九島は言い訳をせずに謝るばかりだ。それに対して俺は、誠心誠意の謝罪をしてくる彼に何とも言えなくなっているが。
「頭を上げてください、九島閣下。別に貴方だけの責任ではありません。アレが暴走した原因は俺でもあるんですから」
「どういうことかね?」
俺にも原因があると聞いた事で、九島は言われた通り頭を上げるも怪訝な表情になっていた。
その疑問に答えようと、競技中に四体のパラサイドールが喋っていた事をそのまま話した。去年に
「そうか。あのプライム・フォーだけが、君に対する憎しみを残し続けていたのか」
「名前からして、性能が一番高い機体だったんですか?」
「そうだ。君が倒したあの四体は非常に連携が優れていた。今思えばプライム・フォーが他の機体より高性能だったのは、君に対する怨嗟があった故かもしれんな」
そして兵藤君に倒されるとは実に皮肉な結果だと、自虐的に笑い始める九島。
いつもの彼であれば常に冷静で表情を崩さないと言うのに、それだけ大失態を犯したと認識しているのだろう。
「もう止しましょう。これ以上の自虐は虚しくなるだけです」
自ら追い詰めようとする九島はもう見たくないので、俺は話題を変える事にした。
「九島閣下がパラサイドールを開発しようと計画したのは、あの時俺の報告で『ピクシーにパラサイトが憑依してる件』を聞いてから、後に司波達が封印したパラサイトを秘密裏に回収してからと推測しますが」
「やはり気付いていたか。私がどさくさに紛れて一高の演習場に来ていた事を」
「ええ。本当ならあの後に電話で問い詰めたかったのですが……」
リーナの引き渡しやUSNAの対応をしてくれたから、あの時の俺は九島に対して強く出る事が出来なかった。もし電話していたら違う結果になっていたかもしれないが、な。それはもう今更な話なので、そろそろ訊き出すとしよう。
「そもそも、何故パラサイトを利用しての兵器を作ろうと考えたのですか? ひょっとして閣下のお孫さんが関係してるのでは……」
「いや、
そう言って九島はパラサイドール開発の理由を話し始める。
現在は魔法師が国の戦力として重宝される時代だが、それを理由に高校卒業した若き魔法師を軍に徴用させようと企む軍人達がいた。それを阻止しようと、九島はパラサイドールを開発する事にしたらしい。
本来であれば独立魔装大隊に所属する司波に、プライム・フォーも含めた計十六体のパラサイドールを相手させるつもりだった。しかし、去年の横浜事変で呂剛虎を倒した俺との戦闘経験を積ませようと、敢えてプライム・フォーを最後まで出さなかったようだ。それを後から知った九島烈は当初難色を示していたが、彼自身も見てみたいと言う欲求に負けて了承したのだと。
「それが全て裏目に出てしまい、今に至ると」
「そう言う事だ。もう少ししたら、独立魔装大隊が私を糾弾しに来るだろう」
「責任を取らせる為に隠居しろと言われたら、閣下は受け入れるのですか?」
「どうかな。軍が魔法師に兵器たることを強要しないのであれば、素直に受け入れるつもりでいるが」
九島としては最後の目的を果たすまでは隠居する事は考えていない様子だった。彼に助けられてる俺が言うのもなんだが、そろそろ休んだ方が良いと思う。
外見はまだまだ元気そうに見えても、実際は九十歳近い老人なのだ。ここまで頑張ってる老人は
「君としてはどうかね?」
「余りこんな事は言いたくありませんけど、潔く身を引いた方が宜しいかと思います」
それに、と言って俺は言葉を続ける。
「閣下は今回の件で大きな汚点を残す結果になりました。今はまだ軍内部だけの騒ぎで済んでいますが、これが公になれば、閣下だけでなく九島家を蹴落とす為の非難材料になるでしょう」
もし反魔法主義者の連中が知れば、間違いなく鬼の首を取ったように叫ぶのが目に見えてる。恩がある九島が非難されるのは、俺としては見過ごす事は出来ないのが心情だ。
「余計なお世話かもしれませんが、閣下はもう卒寿間近なので、これ以上頑張ると身体に毒ですよ」
「確かに、そうだな」
俺の台詞に九島は害した様子を見せず、寧ろ受け入れるように嘆息していた。
「こんな死にかけの老いぼれがのさばっていれば、周りは迷惑極まりないだろう」
「チョッと閣下、何もそこまで言ってませんが」
「ハッハッハッハ」
どこまで自虐すれば気が済むんだよと俺は内心突っ込むも、九島は今までと違って少々スッキリした表情になっている。
その後に一通り話しながら
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