再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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スティープルチェース編 ヴァールブルク姉妹、痛恨の大誤算

 エルンスト・ローゼンが動き出した事を、エリカは偶然にも察知した。後夜祭パーティーに必ず出席する筈の隆誠が急遽不参加になったのを耳にした瞬間、美月に急な用事が出来たと言って走り去っている。

 

 隆誠がエルンスト子飼いの兵を相手に苦戦する事は無いだろうが、万が一の事を考え、部屋に置いてる武装一体型CADを持って一旦部屋に戻った。すぐにホテルの外へ出て敷地を出ようとするも、武器を見られたら不味い巡回の警備兵がいる所為で余計な足止めをされてしまう。

 

 強行突破を決意する直前、予想外の人物が手助けをしてくれた。一高のカウンセラーである小野(おの)(はるか)が、デバイスであるCADを目的の場所へ持っていってあげると。彼女の正体が気になるエリカだったが、手助けが必要だったのは確かなので、敢えて詮索はせずに受け入れることにした。

 

 遥の手助けがあって武器を所持したまま演習林に入ったのは良いのだが――

 

「何でアンタが此処にいるのよ……!?」

 

「何でって、チョッとした散歩をしてるだけだ」

 

 いつの間にか勝手にいなくなっていたレオと鉢合わせる事になった。

 

 本当なら今すぐホテルへ戻れと言いたいところなのだが、この男は素直に戻ってくれる性格ではない。それどころか余計に知りたがり、自分から勝手に首を突っ込む性質なのだ。尤も、それはエリカも該当しており、これまで過去に何度もやらかしている事を当の本人は全く自覚していない。

 

 レオがCADを持っていると分かったのか、エリカは仕方ないと言わんばかりに同行させるのを決めた。今回は必ず荒事が起きるのだから、戦力は多い方が良いと言う理由で。

 

 演習林の奥に進んでる最中、分厚い鉄板を巨大なハンマーで叩いたような、重々しい金属音が二人の耳に届く。

 

「おいおい、今の凄ぇ音は何なんだ?」

 

「黙って付いてきなさい!」

 

 突然の事にレオは気になるように問うも、エリカは答えなかった。

 

 彼女は既に察している。隆誠と、隆誠に接近する二人の追跡者が戦闘を始めたのだと。

 

 本当なら助太刀をしようとすぐに割って入りたいが、今回は敢えてやろうとしない。自分より実力が遥かに上である隆誠の手助けをしても、却って足手纏いになると分かっているから、もし彼が本当に不利な状況になれば手助けをすれば良いと。

 

 エリカはそう考えながら、レオと一緒に発生源と思われる場所に到着するも、木を隠れ蓑にしながら一先ず様子を伺う事にした。

 

 二人の見ている先に、隆誠が妙なスーツを纏った二人と交戦している。

 

 普通に考えて連携攻撃を繰り出してる二人に、隆誠が圧倒的に不利だと考えてもおかしくない。

 

「ハァッ、ハァッ……。な、何故……!?」

 

「一発も、当たらないなんて……!」

 

「おや、もう息が上がっているのですか」

 

 しかし、全く異なる展開になっていた。なんの苦もなく攻撃を躱し続けている隆誠に、息が大きく上がっている二人の方が逆に不利な状況に立たされているのであった。

 

 

 

 

 

 

 隆誠は交戦している相手の素性について大して知らない。向こうが軽く話してくれたドイツの調整体魔法師程度だけで、『城塞シリーズ(ブルク・フォルゲ)』と言う存在も初めて知ったばかりだ。

 

 彼女達はヴァールブルク姉妹と呼ばれており、ドイツで開発された遺伝子調整体魔法師『ブルク・フォルゲ』の第三型式(ドリッテ・アルト)。生物としての安定性と超人兵士としての性能を両立させた最新バージョンであり、第一型式(エアステ・アルト)である西城レオンハルトの改良型として、その血を受け継いだリンダとエマの二個体が誕生した。

 

 二人は同じ母の腹から生まれた姉妹ではなく、同じタイプの人工子宮から約一ヵ月違いで誕生したのだが、遺伝子上では姉妹になっている。リンダが姉で、エマが妹だが、お互いにも姉妹愛は無い。あくまで仕事上のパートナーでありライバルの関係に過ぎないが、対外的には「エマ」「姉さん」と呼び合う仲にしている。

 

 第三型式(ドリッテ・アルト)であるリンダとエマは、レオと同じく硬化魔法に著しく偏った適性があるも、非常に高い身体能力を持つ。それ故に格闘戦も非常に得意としており、今までの任務で敗北したことは無い。

 

 今回の相手が呂剛虎を倒したと噂される兵藤隆誠は警戒すべき人物である為、エルンストは任務を確実に成功させる秘策を用意した。まだ製品化されていないローゼン・マギクラフト製の最新魔法装備である、歩兵用の高機動装備『ファントム・アンツーク(ファントム・スーツ)』をリンダとエマに与えたのだ。

 

 ファントム・アンツークは、移動速度と移動距離を重視し打撃力の高い遊撃兵力として運用する他、対探知性能とセンサーのジャミング機能を重視し潜入工作や後方攪乱、建物内部や森林部などの障碍物の多い環境下での戦闘を想定している。隆誠が自ら演習林に行ったことで、エンダとエマは自分達の勝利は揺るぎないと確信していた。

 

 そう思っていたのだが、予想外の出来事に直面している。

 

「ホイっとな」

 

「くっ! どうしてっ!?」

 

「当たる筈なのに!」

 

 リンダとエマが同時に全力で襲い掛かって数分経つも、隆誠に一発も攻撃が当たらないのであった。

 

 ヴァールブルク姉妹は身体能力や格闘戦だけでなく、連携攻撃も優れている。もしも相手がレオであれば確実に翻弄されて、不利な状況に陥っていただろう。

 

 しかし、相手が隆誠であれば別になる。彼女達の同時攻撃、並びに「虚」をつく戦法をやっても、慌てた様子を一切見せる事無く全て余裕で躱していた。身体を僅かにずらして拳や跳び蹴りを避け、当たるかと思えば超スピードによる移動で距離を取る。これを何度も何度も繰り返している事で、リンダとエマの息が上がるのは当然であった。

 

 隆誠がリンダに攻撃して以降から、ずっと回避だけしかやっていない。その際に二人の実力を測っていたのだが、もう既に呂剛虎には程遠いと言う結論に達している。

 

「確かに硬化魔法を使った格闘戦は素晴らしいの一言に尽きます。ですが、あくまでソレ(・・)だけです」

 

 距離を取った隆誠が放った台詞により、エマだけでなくリンダも流石に不快となる。

 

「ついでにお二人がその状態になってる理由も分かりました。貴女達、これまで長時間同じ魔法を使い続けた経験が無いでしょう?」

 

「「ッ!?」」

 

 指摘をされた瞬間、ヴァールブルク姉妹は途端に押し黙った。

 

 隆誠は攻撃を躱している最中、膨大にあった筈の二人のオーラが急激に減少してる事に気付いた。

 

 硬化魔法(パンツァー)を主体として使っているレオは、彼女達と違って長時間維持している。だが実際は負担を減らすコツとして、時々魔法を更新せず切断していたのだ。それによって継続的に使用する事に慣れているから、長期戦はお手の物だった。

 

 その彼に対して、ヴァールブルク姉妹は硬化魔法を維持しようと更新を行い続けた所為で、想子(サイオン)の消耗量が指数的に増える結果になった。既に枯渇寸前となっており、ああして息が上がっている訳である。

 

「やれやれ。久々に呂剛虎以来の相手かと思いきや、存外そうでもなかったみたいですね」

 

「こ、このクソガキ……!」

 

「エマ、あれは挑発よ!」

 

 全くの期待外れだと嘆息しながら言う隆誠に、キレそうになるエマにリンダが辛うじて抑えていた。

 

「それじゃあ準備運動はここまでにしましょう」

 

「なん、ですって……!」

 

「さっきまでのが、準備運動……?」

 

 数分以上の猛攻を躱し続けたのを準備運動だと言い切った隆誠の発言に、エマだけでなくリンダも言葉を失う。先程まで全然本気を出していないと分かった為に。

 

 直後、構えた彼の全身から凄まじい想子(サイオン)光を迸らせ、放出した光は霧散する事無く全身を無駄なく覆われていく。

 

「う、美しい……」

 

「あんな綺麗な色、今までに見た事ない……」

 

 余りにも淀みなく澄み切った色の想子(サイオン)を見たヴァールブルク姉妹は、余りの光景に目を奪われそうになっていた。ヘルメットのバイザーによって隆誠には見えないが、今の二人は完全に恋する乙女の顔になっている。

 

 そんな二人の反応を余所に隆誠は行動を開始しようと、先制攻撃として構えてる右の拳を猛烈な勢いで繰り出した。

 

「がっ!」

 

 展開している筈の硬化魔法と、ファントム・アンツークの持つ衝撃吸収機能を貫通するかのように、エマは勢いよく吹っ飛んでいく。そのまま倒れ、意識を失ったかのように動く様子を見せていない。

 

 先ほど隆誠が使ったのは神のオーラを加えた『遠当て』であり、去年に八王子特殊鑑別所で呂剛虎と戦っていた摩利の援護をした時に使った技。それを使った事で、彼女が施した魔法やスーツの防御を簡単に貫いたのだ。

 

「エ、エマ?」

 

(おいおい、呆気無さ過ぎだろ)

 

 妹でありパートナーのエマがたった一撃で倒された所為か、リンダは目の前の光景が信じられないように放心している。

 

 隆誠としては軽い牽制(ジャブ)のつもりで放ったのだが、まさか一発だけで終わるとは想像だにしなかった。ちゃんと加減して撃ったんだから、もうちょっと粘ってくれよと内心突っ込みながら。

 

「次は貴女だ」

 

「!」

 

 隆誠が声を掛けた事で、リンダはハッとして意識を切り替えた。本当ならそうせずとも一気に接近して攻撃を仕掛ける事も可能なのだが、これでは余りにも呆気無さ過ぎると言う理由で意識を向けさせることにしたのだ。

 

「ハァァァァァァァ!」

 

 破れかぶれになったのかは分からないが、リンダはただ真っ直ぐ突進していく。

 

 対して隆誠は、今まで彼女の攻撃を回避していたのとは別に、今度は一切動こうとしない。

 

 全身防御の硬化魔法を発動させた事により、リンダの拳や脚は分厚い装甲板と同様の強度になっている。まともに直撃したら決して(ただ)では済まなく、当たり所が悪ければ死んでしまう。

 

 隆誠の顔面、両肩、胸、腰、両脚にあらゆる攻撃を当て続けているが、当の本人は全く堪えた様子を見せていない。男性の弱点である金的もやろうとすれば出来るのだが、彼には多くの女性と子作りさせなければならないと言う事もあり、敢えてそれはやらなかった。その子作りには自分にもやって欲しいと内心願いながら。

 

「もういいか」

 

 無防備になって攻撃を受けていた隆誠だが、突如そう言いながらリンダの首を左手で掴む。

 

「がっ……!」

 

 首を掴まれたところで、彼女の硬化魔法やスーツの防御力で防いでくれる筈なのに、その効果が全く為されてないようにリンダは非常に苦しそうな声を上げていた。

 

 当然彼女は抵抗しているが、それを無視するように隆誠は空いている右手をリンダの腹部に当てた後――

 

「それでは、さようなら」

 

「ッ!!!!」

 

 隆誠が別れの言葉を告げた直後、リンダは突然腹部を何かに貫かれたような強烈な激痛が襲い掛かった。

 

 抵抗していた筈の彼女は虫の息になったのか、ピクピクとしか動いていない。

 

 完全に意識を失ったと確認した隆誠は、まるで興味を失ったかのように地面へ放り投げた。

 

(やっぱりあの男が寄越した部下程度じゃ、隆誠くんの相手は務まらないみたいね)

 

(え、えげつねぇ……)

 

 余りにも容赦の無い光景に、隠れながら覗き見していたエリカは予想通りの結果だと内心嘆息し、ドン引きしているレオであった。

 

(エリカだけでなく、レオも一緒だったか)

 

 二人の存在に隆誠は最初から気付いており、意識を失ってるリンダとエマを担いだ後にこう言った。

 

「此処を覗き見してる二人に告げる。顔を見られたくなかったらさっさと戻れ」

 

「「!」」

 

 思いっきりバレていると瞬時に理解した二人はビクッと身体を震わせるも、言われた通りに退散するのであった。




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