隠れて覗き見しているエリカとレオに警告し、二人が退散したのを確認した俺は、担いでいる姉妹と一緒に演習林を出ようとする。
その途中で意識を失ってる姉妹の頭の中を探って見たところ、色々な情報を掴む事が出来た。その一つに俺が担いでいるリンダ・ヴァールブルクとエマ・ヴァールブルクは、同じ母親の腹から生まれた本当の姉妹ではなく、同じタイプの人工子宮から約一ヶ月違いで誕生した調整体だと言うのが分かった。同時に友人の西城レオンハルトが実は調整体魔法師『
思わぬ事実を知った俺だが、それは胸の内にしまっておく事にした。アイツの素性を知ったところで俺の友人である事に変わりないのだから。
演習林を出てすぐに、九島の部下と思わしき軍人達に姉妹を引き渡す。彼女達が纏っているスーツは特殊な機能を持っている事を教えると、彼等はそれを警戒してか、目覚めてすぐに抵抗させないように拘束していた。
姉妹の引き渡しを終えて軍人達が去るのを見届けた後、すぐに携帯端末で九島烈に結果を報告する為の連絡をした。すぐに出てくれたので簡潔に話すと、彼は俺の勝利を予想していたようだ。『エルンスト・ローゼンの追及については此方に任せてくれ』と、な。
あくまで俺の予想だが、エリカは今頃エルンストの所へ向かってるだろう。ローゼンの関係者である彼女が、今回の件について絶対黙っていない筈。俺が警告した後、苛立ちを隠せないままあの男に抗議する光景が容易に想像出来る。
まぁ例え違っていたところで、エルンストは今後俺に強硬手段を取る事は出来ない。エリカはともかく、今も日本魔法界の影響力が強い九島に釘を刺されたら、USNA軍のヴァージニア・バランス大佐と同様の目に遭うのだから。
どんな結果になるのかを想像しながら後夜祭パーティの会場へ向かうと、丁度ダンスの時間になっていた。
修哉が紫苑にダンスのお誘いをしているかが気になっていたが――
「隆誠殿! 今まで何処に行ってたのじゃ!?」
「……ああ、そう言えば君がいたんだったな」
俺とした事が、どうやら肝心な事を忘れていたようだ。
必ずダンスの相手をするように約束した三高の四十九院沓子が、プンスカと怒るも可愛らしい顔をしながら俺の腕を引っ張っていくのであった。
沓子とダンスしたのは良いんだが、これで終わりじゃなかった。
その後には一色や十七夜だけでなく、他校の女子達からもダンスの誘いをされたのだ。去年に相手をした他校生だけでなく、今年入学した下級生の女子達からも、な。
前夜祭パーティの時に九島が俺に名指しの応援をして敵意の視線を送っていたのに、九校戦が終わってからコロッと態度が変わっている事で若干呆れていた。ダンス中におべっかを使いながら勧誘しようとする令嬢もいたが、そこは丁重にお断りさせてもらっている。
立て続けに他校の女子達からダンスの誘いをされ続けたが、思わぬ人物が間に入ってきた。一高の北山雫から「今度は私も踊って欲しい」と。
北山からの意外なお誘いに俺は内心少しばかり驚くも、今回の九校戦で色々世話になったので、断る理由など一切無い。彼女とダンスするのは初めてだったが、去年踊った真由美ほどではなくても上手かったとだけ言っておく。
因みに踊っている最中、修哉と紫苑が緊張しながらもダンスしているのを発見した。二人とすれ違うも、俺が小声で『頑張れ』とエールを送り、ちゃんと最後まで踊れていた。
「今年は他校の女子達からダンスの誘いが随分多かったな」
「何だか下心がありそうな子も混じっていた気がするわね」
ダンスを終えて一息ついてる俺に、修哉と紫苑が俺に声を掛けてきた。
紫苑の指摘は正解だと内心頷きながらも、手にしてるグラスをグイッと仰いでジュースを一気に飲み干す。
「ふぅっ。来年もやる事を考えると、もう九校戦には出たくないんだが……九島閣下がなぁ」
九島から『来年も楽しみにしている』と言われてしまった為、次の九校戦参加が確定となっている。別に断ってもいいんだが、色々恩があるので下手な事は出来ない。つい先程までエルンストの追及と言う名の後処理を任せてしまったから、な。
「そう言えば、その九島老師が来てなかったな」
「リューセー君と話す為に来ると思ってたけど、来る気配が無かったわね」
「色々忙しくて、来れなかったんだろう」
後夜祭に来れない理由を知っている俺だが、そこは敢えて何も知らないフリをする事にした。
軍の高官からのパラサイドール暴走による追及の他、俺を拉致しようと企てたエルンストの対応をしている。そんな事を一般の高校生である二人に言える訳がない。
「それはそうと二人とも、ダンス上手かったじゃないか。もしかして二人っきりの時にコッソリ練習でもしてたか?」
「ッ! な、何言ってんだよ!?」
「そ、そうよ! 私は修哉から踊ってみないかと誘われただけで……」
「おい紫苑!」
「えっ? あっ……!」
「ほほ~う」
墓穴を掘ってしまった紫苑に修哉が指摘するも、俺はバッチリ耳にしていたので思わず笑みを浮かべてしまう。
もしエリカがいたら『幼馴染だからって仲が良いわね♪』とからかっていたかもしれないが、生憎俺はそんな真似をしない。寧ろ嬉しい誤算だと思っており、修哉と紫苑が恋人同士になる為に必要な展開の一つだと思っている。
と言うか修哉の奴、自分から紫苑をダンスに誘うとはやるじゃないか。俺が後押しをした事でやっとその気になって、九校戦が終わった後に紫苑の父親とコンタクトを取る事を祈ろう。
言い出した俺も本来手伝うべきなんだが、今回は修哉だけにやってもらう。修行相手ならまだしも、流石に恋愛にまで口出しをする訳にはいかない。それに明後日以降は家族を連れて一条家へ行く予定だから、帰った後に結果だけを聞くだけに留める。
あ、そうだ。まだ一条家から了承の返事を聞いてなかった。前以て話した将輝の方は良くても、剛毅や美登里から了承の返事を貰っていないので、今の内に確認しておくとしよう。
修哉と紫苑にちょっと席を外すと言って別れた後、俺は一条がいると思われる三高側へ向かうも、すぐに見つかった。アイツは今凄く嬉しそうに司波妹とダンスしていたから。
「何だ、一条は司波さんとダンス中だったか」
「兵藤」
俺の呟きに、近くにいた司波が反応して此方へ振り向く。
「何だ司波、妹とダンスする予定じゃなかったのか?」
「もう終わってる。お前が他校の女子達と踊ってる間にな」
「そうか。にしても、また一条に妹と踊らせるなんて随分優しいじゃないか」
「別にダンスぐらいは構わないと思ってる」
「ほう。じゃあこの後、俺が司波さんと踊っても良いんだな?」
「それはダメだ」
俺が妹と踊りたいと聞いた瞬間、司波は睨みながら却下した。
予想していたが、本当にコイツは俺に対して呆れるほどのシスコン振りを見せるんだな。別に疚しい意味で言った訳じゃないってのに。
「ふ~ん。だったらお前が俺と踊ってくれるか?」
「………は?」
予想外の言葉だったのか、睨んでいた筈の司波の目が点になっていく。
「冗談だよ。大体男同士で踊って何が楽し――」
「ひょ、兵藤くん! 宜しければわたしと踊って頂けませんか!?」
「へ? ちょっ、司波さん!?」
「深雪、一体何を!?」
すると、一条とダンスを終えた司波妹が急に此方へ来たかと思いきや、俺にダンスの誘いをしながら手を掴んでいく。
突然の事に司波も困惑している中、彼女は有無を言わせない雰囲気で俺と踊ろうとする。
「あ、あの、司波さん。何で急にこんな事を?」
「兵藤くん。こう言ったダンスは男女で行うものでありまして、殿方同士、益してやお兄さまと踊るなど言語道断です」
「は、はぁ……」
ダンスをしながら当たり前の事をくどくど言ってくる司波妹は、同時に圧力をかけた笑みを浮かべていた。その所為で俺は何も言い返せず、只管頷くしか出来なかった。
因みに司波は俺が妹とダンスしているのが気に食わないのか、いつもの無表情でありながらも監視するように此方を見続けている。深雪に妙な真似をすれば許さない、みたいな感じで。
「兵藤、何でお前が司波さんと……!?」
一条は思わぬ強敵が現れたみたいな感じで、司波と違って嫉妬を込めた目で睨むのであった。
「んなっ! 司波深雪が隆誠殿と踊っておるじゃと!?」
おい沓子、何でそんなショックを受けてるんだ? 俺が君以外の他校女子と踊っていても余り気にしてなかった筈なのに。
やっとスティープルチェース編が終了になりました。
次回はオリジナル話で『二度目の夏休み編』になります。
感想お待ちしています。