一色達と一旦別れた俺は将輝の案内で、去年に訪れた三高の校長室へ行き、そこにいる校長の前田千鶴と再会する。
「お久しぶりです、前田校長。去年に続き、今年も他校生の自分を招いて下さり――」
「おいおい、そんな堅苦しい挨拶は無しにしようじゃないか」
再会の挨拶をしているところ、前田校長は面倒くさそうに言い返してきた。
去年は初対面と言う事もあって他校生を招く校長として振舞っていた彼女だが、今は全くそんな様子は見受けられない。まるで自分の生徒のような感じで、完全に素の顔になっている。
こうなる事を予想していたのか、一緒にいる将輝が呆れるように嘆息しながらこう言った。
「前田校長。いくら兵藤が去年来たからと言っても、それでも最低限の挨拶くらいはした方が良いと思いますが」
「何を言うんだ、一条。兵藤君も君と同じく魔法科高校の生徒なんだから、区別をつける必要など無い事を前に聞いた筈だろう?」
「それは、そうですが……」
やり取りを見るだけで、将輝が去年に対応した父親の剛毅と何故か重なってしまう。親子揃って前田校長に振り回されるのは何とも不憫だ。
一条家の男は気が強い女性が苦手である事を改めて認識している中、前田校長が突然此方へ振り向く。
「それはそうと兵藤君、今年の九校戦も見事だったよ。しかも君だけでなく、以前に我が校へ来た天城君と佐伯さんも優勝するとは凄いじゃないか。聞いた話では、あの二人は君の弟子らしいな」
「ええ、まぁ。二人の身体能力と魔法力を向上させようと、自分なりのやり方で二科生の頃から鍛えて――」
「素晴らしい!」
俺が言ってる最中、前田校長が突然称賛の言葉を浴びせてきた。
「二科生を理由に腐る事無く地道に努力し、九校戦で素晴らしい結果を示すなど偉業も同然ではないか! 君は強いだけでなく、師としての育成能力も兼ね備えているとは見事としか言いようがない!」
「は、はぁ……」
「君のような生徒は是非とも我が第三高校に来るべきだ。兵藤君、良ければ天城くんや佐伯さんと一緒に我が校に――」
「前田校長! 同じ魔法科高校の生徒と言っておきながら、そんな引き抜き行為はしないで下さい! 俺の父からそう言われた筈でしょう!?」
物凄い勢いで称賛しながら三高へ来ないかと言ってくる前田校長に、ハッとした将輝が阻止するように遮った。
剛毅からも釘を刺されても実行する目の前の女傑は、どうやら簡単に諦める性格ではないようだ。
「これ以上兵藤を困らせるなら、父に報告しますよ!」
「ちっ、そう言う真面目な所まで剛毅にそっくりだな。仕方ない、
今回はって、俺はこの人に会う度に毎回スカウト行為されるのかよ。そうなると来年は三高に来ない方が良い気がしてきたな。
将輝の警告を聞いて諦めた前田校長は、すぐに話題を変えようとこう言ってきた。
「話は逸れてしまったが兵藤君、確か君は剛毅の家で寝泊まりしてるそうだな。どのくらい滞在するか聞いても良いかな?」
「滞在と言っても、大体四~五日くらいですが……一体何を企んでいるんですか?」
「企むとは人聞きが悪い。君が良かったら一条君と試合する以外に、我が校にあるクラブの体験会をして欲しいんだ」
クラブの体験会と言われて俺は思わず訝ってしまう。
別にその程度の事であれば問題無いが、どうも素直に参加しようとは言えなかった。俺を三高に(本気で)引き抜こうとしていた前田校長の事だから、何か裏があるんじゃないかと疑っている。
「俺が剣道部に所属してる事をご存知であれば、此処の剣道部員達と練習試合をさせようと?」
「いやいや、そこまで考えてない。まぁそれはそれで面白そうだが、実は、我が校にあるクラブの一つ『リープル・エペー部』から熱烈な要望があってな」
「『リープル・エペー部』……」
端的に言えばフェンシングに魔法を使用する魔法競技の一つ。
ルール上は殆どフェンシングと似たようなものだが、魔法が加わるだけで攻撃速度が全く異なる。
「何で剣道部と異なる部から、そんな要望が来たのですか? 俺はその競技やったことありませんよ」
「正確には、そこに所属する部員が君と手合わせしたいと言ってな。だからここは私の顔を立てて、どうか相手をしてくれないか?」
「相手をして欲しいと言われても……と言うか、その部員は一体誰です?」
三校にいるリープル・エペー部の男子部員なんて全く知らないんだが――
「我が第三高校のエースの一人――一色愛梨だ」
「……………は?」
余りにも予想外な人物の名前を聞いた事で、俺は思わず目が点になってしまった。
一色愛梨って……何であの子なの。司波深雪ならともかく、男子の俺と手合わせしたがるのは普通あり得ないんだが。
いくら友人とは言え、相手が女子となれば流石に気が引ける。手加減は勿論するが、修哉以上に気を遣わなければならない。
俺が思わず将輝の方を見ると、何故か気まずそうな顔をしながら目を逸らした。こんな事をすると言うのは、さては知っていたな。
「えっと、何で彼女が俺と手合わせしたいのですか?」
「本当は佐伯さんとミラージ・バットで相手をしたがってたみたいだが、肝心の彼女が来てないから、急遽君と手合わせしようと決めたそうだ」
おいおい一色、俺は紫苑の代わりなのかよ。ミラージ・バットが出来なくなったとは言え、得意競技で俺と手合わせするのは流石に如何かと思うんだが。
「因みにお断りする事は?」
「そこは君の判断に任せるが、そうなると一条君との試合に大きく差し障る事になるな」
「リューセー、気が引けるのは重々理解してるが、どうか相手をしてくれないか。一色は断られても簡単に諦める性格じゃないから」
だろうな。付き合いは浅いが、俺も彼女の性格は大体理解してる。おまけに前田校長と同じく気も強いから、何が何でも手合わせするよう強請ってくる光景が目に浮かんでしまう。
此処まで来てしまった以上、『断る』と言う選択肢が既に断たれたのは言うまでもない。
「………はぁっ、分かりました。多分大丈夫だと思いますが、もし彼女が後から文句を言ってきても責任は持てませんから」
「流石にそれはないから安心すると良い」
「だと良いのですが……」
因みに将輝とのピラーズ・ブレイクは後日やると前田校長がそう言った。
どうやら彼女は俺が金沢にいる間、試合以外のイベントを考えていたようだ。それを知らずに三高へ来た俺は、さぞや絶好の獲物のように見ていただろう。
来年にまた金沢に来たとしても、三高へ足を運ぶのは止めておこうと密かに決意する。
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