再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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これで入学編は終わりです。


入学編 予想外の結果

 うん、改めて確認すると我ながら怒り任せな行動だったと思う。特にあの大人げない殺気の出し方は、いささかやり過ぎであった。徹底的にぶちのめした自分が言うのも何だがな。反省してるけど後悔は一切無い。

 

 もしもブランシュが学校にいる生徒――特に修哉と紫苑を殺していたら、聖書の神(わたし)は絶対皆殺しにしていたと思う。二度目の高校生活で出来た友人が目の前で殺されても冷静になるのは、今の俺には無理だった。昔の聖書の神(わたし)だった頃なら、多少不快になる程度で済んでいただろう。

 

 我ながら本当に人間寄りになったものだ。前世でもそれなりに変わったと自覚していたが、再び転生して新たな一面が出てきたような気がする。高校に入学して出来たばかりの友人達やその関係者の為に動こうとするとは、な。前世では家族や身内を主に優先していた聖書の神(わたし)がだ。尤も、今でもこの世界の家族は大事に思っている。

 

「兵藤」

 

 家族で思い出したが、確か今日の夕飯は俺が作る予定だったな。こんな予定外な事が起きなければ、今頃は家にいて夕飯の支度をしていたんだが。

 

 弟――(せい)()と妹――(せい)()は俺の料理が大好きなんだよな。普段料理をする母さんも含めて。

 

 前世に培われた料理の知識をこの世界で初めて披露した際、凄く美味しいって言いながら残さず全部食べてくれた。セージとセーラが『おかあさんのよりおいしー!』と言った瞬間、母さんが子供っぽく拗ねたのは今でも憶えている。

 

 まぁ兎に角、今日は確実に遅くなるから、詫びも兼ねていつもより多めに作らないと――

 

「兵藤」

 

「ん?」

 

 何度も呼ぶ声がしたので、ハッとした俺が振り向くと司波が呆れ顔になっていた。

 

 よく見ると、いつの間にか分身拳の俺が来た工場に到着している。俺と司波を除く全員は既に車から出ており、此方に視線を向けていた。

 

 あらら、深く考え事をする余り気付かなかったみたいだ。いかんいかん。どうやら前世(むかし)の悪い癖が出てしまったか。嘗てアザゼルに指摘されたと言うのに。

 

「人がさっきから呼んでいるのに、何をやっているんだ」

 

「ああ、悪い悪い。修哉と紫苑を殺そうとした、残りの連中をどう料理してやろうかと考えててな」

 

 と言っても、既に俺の方で片付けてしまったが。

 

 咄嗟に少々苦しい言い訳をするも、司波は呆れ顔のまま嘆息している。

 

「その様子だと聞いてないようだからもう一度言っておく」

 

「いや、ちゃんと聞いていたぞ。俺もお前の友人達と一緒に退路の確保と、逃げ出そうとする奴の始末。捕まえる事を考えず、安全確実に始末。で良いんだろ?」

 

「……ならいい」

 

 考え事はしてても、司波が指示をしていたのは聞いていた。十文字と桐原が裏口へ回り、司波兄妹は工場に踏み込む事も含めて。

 

 確認を終えて車に出ると、俺がやっと出てきた事にエリカ達は少々怪訝な表情をしている。

 

「アンタ何やってるのよ」

 

「リューセー、もしかして体調でも悪かったのか?」

 

 呆れたように言い放つエリカに、気を遣うように訊いてくるガタイの良い男子生徒――西城レオンハルト。

 

 因みに西城とは車に乗る前、一通り話を済ませていた。エリカと同様中々にフレンドリーな人柄で、向こうから『レオ』と呼んでくれと言われている。俺も俺で『リューセー』でいいと言ったが、話している内にいつの間にか仲良くなった。

 

「スマンスマン。ちょっと色々考え事をしててな」

 

「兵藤君、お兄様が指示を出している最中にそんな事をしてはいけません。次からは気を付けて下さいね」

 

 エリカとレオに謝りながら言ってると、司波妹が少々怖い笑みを浮かべて警告してきた。

 

 如何でもいいけど、このブラコン娘は本当に兄関連の事だと矢鱈と敏感に反応する。何かもう依存してるんじゃないかと思うほどに。

 

 と言っても、俺はそんな人の欠点をとやかく指摘する気はない。互いの事を知ってても、そんなに仲の良い間柄でもないので。万が一に司波兄妹が敵対するような事をしたら、圧倒的な敗北と力の差を思い知らせた後に遠慮なくズバズバと言わせてもらうが。

 

「悪かった、反省するよ」

 

 俺が反省の意を示すと、それを見た司波妹は「ならいいです」と言った後、車から降りた司波兄に近付く。

 

 十文字と桐原も何か言いたげだが、時間が惜しいと言わんばかりに作戦を決行しようとする。

 

 ………筈だったが、建物内に入る出入り口にブランシュのメンバー数名が倒れている事に司波達は異変を感じて動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 改めて作戦を決行するも、戻って来た司波達から予想外の返答が返ってきた。ブランシュのリーダーである司一とその部下達は一人残らず全て倒されていたと。

 

 待機組だったエリカとレオ、そして(実行犯の)俺がどう言う事だと問い詰めるが、向こうもこっちが知りたい位だと言い返されてしまった。

 

 唯一分かったのは『白般若の面を被った他校生』と、辛うじて意識を取り戻した司一から問い質したそうだ。当然司波や十文字がその事を更に問い質そうとしたみたいだが、またしても意識を失って聞けず仕舞いになったらしい。

 

 話を聞いていた俺は内心凄いと思った。勿論それは司一の事を指している。目が覚めないほど徹底的にぶちのめした筈なのに、一瞬とは言えよく意識を取り戻したと思わず感心してしまう程に。

 

 結局のところ、ブランシュが壊滅されてしまった為、俺達のやろうとした事は無意味なものとなってしまった。当然、ブランシュを壊滅させた犯人も分からないまま。因みに桐原が『壬生の無念を晴らせなかった』と凄く憤慨していたが、そこはどうにか我慢してもらった。

 

 そして十文字が『実行犯については後ほど調べる』と言った後、事件の後始末をすると自ら引き受ける事になる。

 

 もしも俺達が工場に入ってブランシュと戦闘になったら色々と面倒な事になってしまう。良くて過剰防衛、悪くすれば傷害・及び殺人未遂・更に魔法の無免許使用で。と言っても、そこは十文字が十師族の権力を使って不問に付してるだろうが、彼としてはその手間が省けて内心安堵してるだろう。

 

 ついでと言ってはいけないが、俺が能力(ちから)を使って魔法式を無効化(キャンセル)した図書館特別閲覧室の扉は、ブランシュの工作員の仕業と言う事になった。

 

 本当だったら、俺が入学前から独自に開発した魔法で扉をこじ開けたと言うつもりだったが、そこを何と風紀委員の司波が証言したのだ。『ブランシュが何らかの方法で扉の魔法式を消して特別閲覧室に入った』と。俺も俺でそれに乗っからせてもらった。

 

 恐らく魔法式を無効化(キャンセル)した方法が全く分からない上に、一切証拠も無いまま俺を追及する事は出来ないと踏んで、敢えてあんな証言をしたかもしれない。まぁ司波の事だから今は無理でも、何れ突き止める気でいるだろうが。

 

 学校側もその証言をすんなりと受け入れてる。向こうとしては事実を隠蔽するのには非常に好都合な上に、半分以上本気で信じているそうだ。

 

 ブランシュの目的が学校の図書館特別閲覧室にある機密文献を盗み出す為とは言え、それを生徒が手引きしたという事実を知れれば大問題となってしまう。

 

 故に、俺があの場に来て倒した相手の中に第一高校の生徒がいたという、事実自体も無くなっていた。

 

 それによって壬生のスパイ未遂も、大人の事情によって最初から無かった事になった。

 

 俺としても好都合な流れなので何の文句もない。どこの世界の権力者達も保身に走る行動は非常に素早いなと思いながら。

 

 そもそも、今回の件には学校側も責任がある筈だ。一科生と二科生の差別問題を長年放置した結果、ブランシュが学校を襲撃する原因を作ったにも関わらず、自分達は一切無関係だというスタンスを取る始末。こればかりは聖書の神(わたし)も呆れざるを得ない。

 

 世の中が全て綺麗事だけで成り立たないのは聖書の神(わたし)も充分理解している。けれど、自分達の不始末を隠すから余計に性質が悪い。尤もそれは第一高校に限った話ではなく、他の魔法科高校や組織、更に国防軍や日本政府、そして十師族にも言える事だろう。

 

 まぁ連中が何をどうしようが、今後どうなろうが自分には関係の無い事だ。異分子である聖書の神(わたし)が口を出す権利も無ければ、反発する気など毛頭無い。それがこの世界のルールだと言うなら甘んじて従うつもりでいる。

 

 尤も、俺の家族や友人に手を出すと言う愚かな行為を仕出かした瞬間、相応の報いを受けてもらう。正体をバラすつもりは一切無いが、聖書の神(わたし)を敵に回した事を心底後悔させてやると誓ってるので。

 

 

 

 

 

 

 2095年5月10日

 

 

 

「へぇ、壬生先輩が桐原先輩とねぇ」

 

「そうなんだよ。俺も初めて知った時にはすっごく驚いた」

 

 ブランシュの襲撃による騒動が落ち着き、漸く平穏な時間が流れ始めた五月。

 

 今は昼休みで、修哉と一緒に昼食中だ。因みに紫苑は他の仲の良い女友達と一緒に食べている。

 

 彼女は俺が負わせた怪我で入院する筈はないんだが、後に司一が相手を洗脳する魔法の使い手と判明した事で、マインドコントロールの影響が残っていないか、様子を見る必要があったのである。

 

 入院中に俺は修哉達と一緒にお見舞いに行ったきりだが、他にも司波やエリカも来ていた。聞いた話ではエリカは頻繁に足を運んでいて、もうすっかり壬生と親しくなったようだ。

 

 他にも、襲撃の手引きをした司甲も入院してて、壬生と同様罪に問われる事はなかった。どうやら壬生以上にマインドコントロールの影響下にあったらしい。あの司一の義弟だったから、そうなるのは無理もないだろう。

 

 これは後で知ったが、現在休学中の彼は長期間の治療を受けてる最中だが、結局は自主退学をする事になったらしい。『諸事情により退学』だそうだが、大体の見当はついている。それを態々言葉に出すまでもない。

 

 まぁそれは置いておくとしよう。

 

 本日は壬生の退院日で、修哉は午前中に彼女が入院してる病院へ訪れた後、今はこうして学校に来ている。

 

 因みに二科生は教師がいなく端末学習である為、それを利用しようと修哉は午前授業を自主休講にした。一科生と違ってそこは便利なところだ。

 

「しかも毎日来てて、それが決め手になって交際に発展したんだってさ」

 

「へぇ、それはまた」

 

 確か桐原は壬生の無念を晴らす為に同行していた。何となく友達以上の感情を抱いてると思ってたが、まさか大当たりだったとは。

 

 剣道部と剣術部のエース二人が恋人同士になる、か。一科生や二科生とか一切関係の無く、末永いお付き合いになる事を祈らせてもらう。

 

 あ、恋人で思い出した。

 

「なぁ修哉、良かったのか?」

 

「何が?」

 

「お前って壬生先輩の事が好きなんじゃないのか? 事情があったとは言え、保健室で抱き合う程の仲だから俺はてっきり……」

 

 紫苑がその光景を見たくないと言わんばかりに視線を逸らしてたから、修哉と壬生が実は相思相愛の関係だと思っていた。

 

 けれど――

 

「いやいや、俺と紗耶香先輩はそんな関係じゃないから!」

 

「え、マジ?」

 

 修哉が即行で否定したという予想外の返答を聞いた事で、俺は思わず目が点になってしまった。

 

「マジだって! まぁ確かにあの時の光景を見たらそう誤解するかもしれないけど、アレは何と言うか……大事な姉さんを慰めるようにやっただけだ」

 

「ね、姉さん?」

 

「ああ。紗耶香先輩って非常に面倒見がいいお姉さんタイプなんだよ。だから俺も思わず弟みたいに接しちゃったばかりに、ちょっと仲が良すぎる先輩後輩の関係になっちゃってな……アハハハ」

 

 あの人も当然俺を弟のようにしか見てないよ、と修哉は付け加えた。

 

 ………そ、そう言うことだったのか。俺とした事がとんだ邪推をしてしまったものだ。まさか仲の良い姉弟みたいな関係だったとは。

 

 言われてみると、確かに壬生は修哉とそのように接していたかも。そんな大事な弟分を巻き込ませないよう、ブランシュ関連について一切何も教えなかったという訳か。

 

 そんな事に全く気付かなった聖書の神(わたし)はまだまだ人間の事を理解しきれてない、か。本当に人間の心と言うのは奥が深くて、完全に理解するのは容易ではないと改めて認識させられる。

 

 多分だけど、修哉と壬生の本当の関係を知った桐原も非常に安堵した筈だ。乱闘事件が始まる前、二人が仲の良い先輩後輩で互いに名前で呼び合ってるのにピクリと反応してたからな。彼としては最初、非常に厄介な恋敵(ライバル)と見ていたのが容易に想像出来る。

 

「成程ねぇ……お姉さんが恋人作ったなら、弟分のお前も作んないといけないなぁ。例えば紫苑とか」

 

「な、何でいきなりそこで紫苑が出てくるんだよ……!」

 

「いや、お前が告ったら即行OKしてくれるんじゃないかと思ってな」

 

 俺から見ても紫苑は修哉に幼馴染以上の感情を抱いているのは分かっている。間違いなく修哉の事を異性として好きなのは一目瞭然だった。

 

 本当ならこの鈍感野郎に教えたいんだが、これは当人同士の問題の為に部外者の俺は敢えて口を出さないでいる。かと言って放置するのは頂けないから、敢えて遠回しな発言で後押しする事にした。

 

 すると、修哉が突然何故か諦めたような嘆息をする。

 

「出来れば俺だってそうしたいよ。紫苑とそう言う関係になりたいって、今でも思ってる」

 

「………はぁ?」

 

 え? 何? どういうこと? もしかして修哉、とっくに紫苑の事が好きなの?

 

『だったら何で告白しないんだよ!? 紫苑はいつでもお前を待ってる状態なんだぞ!』

 

 って言いたいところだが、こんな公衆の面前で叫ぶのは不味いので必死に我慢する事にした。

 

「何か理由でもあるか?」

 

「………まぁ、リューセーなら話してもいいか」

 

 必死に我慢しながら理由を尋ねると、修哉は相手が俺だからか昼食を食べていた手を止めて話そうとする。

 

 幸い俺達の周りには余り人がいない上に、誰も聞き耳を立ててはいないから大丈夫だ。

 

「実は紫苑って、庶民の俺と違っていいとこのお嬢様なんだよ」

 

「へぇ、そうなのか。初めて知った」

 

 確かに言われてみれば、紫苑って分け隔ての無い活発そうな割には令嬢の雰囲気が感じられた。まぁ修哉と二人っきりの時では恋する女の子だが。

 

「リューセーも気付いてるだろうが、紫苑自身そんなの非常に如何でもいいと思ってる。ただ、問題は……」

 

「問題は?」

 

「……紫苑のお父さんが一番厄介なんだよ」

 

「え?」

 

 ……何それ? まさかとは思うけど……『ワシが認めた男でなければ交際は断じて許さん!』みたいなお父さんなのか?

 

 だとしたら、今の時代では凄い古い考えを持ってると言うか、時代遅れと言うか……。いくら紫苑が令嬢だからって、人の恋路に親がああだこうだ口出しするのはどうかと思うんだが。

 

「あのぅ、良かったら教えてもらいたいんだが、どう言う風に厄介なんだ?」

 

「……勝負して勝たない限り絶対認めてくれない。でもあの人、昔はマーシャル・マジック・アーツの達人クラスで、今も滅茶苦茶強いんだ。当然、俺では全然歯が立たない」

 

「そ、それは、また……」

 

 もう完全に父親が一番の障害で人生のラスボスじゃねぇか! そりゃ紫苑と付き合うなんて無理だよ! 

 

 ってか、紫苑の父親に突っ込みたい。折角二人が両想いになろうとしてるところを邪魔すんな! いくら大事な娘でも、そこは温かく見守ってやれよ!

 

 でも、言ってる事が本当なのかどうか俺では判断が付かん。どちらにしろ、修哉がそれなりの実力を見せなければいけないのかもしれない。

 

 となれば此処は――

 

「なぁ修哉、もし俺で良かったら可能な限りお前を強くしてやるって言ったらどうする?」

 

「え? ほ、本当か!?」

 

「あ、ああ……言っておくけど、俺の修行内容は結構ハードだが、それでも試しにやってみるか?」

 

 修哉の恋を成就させる為、俺が一肌脱いで先生役をするしかない。

 

 俺が鍛えるにしても、ある程度は一緒にいないといけないから……仕方ない。壬生に頼んで俺を剣道部に仮入部扱い出来るか頼んでみよう。




締まらない終わり方かと思いますが、どうかご容赦願います。

感想お待ちしています。

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