再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

243 / 243
小ネタ3

 

 

 

 とある夜の河川敷。街灯の光が届かない薄闇の中で、二つの影が高速で交錯していた。

 

 木刀を手にした少年と青年――隆誠と千葉修次。互いの呼吸が乱れぬまま、ただ木刀の衝突音だけが静寂を裂いていく。

 

 実力は完全に互角。だが、互角であるがゆえに一撃ごとに研ぎ澄まされた緊張が走り、剣劇は凄まじい速度で加速していく。夜風が二人の動きに追いつけず、遅れて草を揺らすほどだった。

 

 そして勝負は終わりを迎えようとしていた。最後の一撃が交錯し、木刀が甲高い音を響かせた直後、二人は同時に後退する。

 

「ふぅっ……。今日はここまでにしましょうか」

 

「そうだね。僕としては続けたいところだけど……」

 

 隆誠が静かに終了を告げると、修次は名残惜しげに肩を落としながらも素直に頷いた。その表情には、悔しさよりも純粋な楽しさが滲んでいる。

 

「と言うか修次さん、段々本気になってますね」

 

「当然だよ。エリカに圧勝した君に、手を抜く事なんか出来ないからね」

 

 修次は当たり前のように言い返した。

 

 彼は千葉エリカの兄であり、千葉家の次男。千刃流剣術免許皆伝の実力者で、『魔法白兵戦技の英才』『千葉の麒麟児』と呼ばれる男だ。3メートル以内の間合いなら世界でも十指に入ると噂すら囁かれる、日本屈指の魔法剣士。

 

 だが今、彼は年下の隆誠を相手に本気で木刀を振るっていた。それでもなお、自身の剣技は難なく捌かれ、紙一重で躱され続けている。

 

 並の剣士なら激昂しているだろう。だが、千刃流剣術印可の妹――エリカを圧倒した相手となれば話は別だ。益して、純粋な剣技だけで魔法を凌駕する奥義を披露したとなれば、手を抜く理由など存在しない。

 

(やはり隆誠君は強い。何度もやって分かったけど、まだ実力を隠している)

 

 修次は確信していた。

 

 エリカとの手合わせでも、隆誠は本気を出していなかった。その本気を見たいがために、修次は忙しい合間を縫ってこうして時間を作っている。

 

 やればやるほど、自分の剣が届かないと痛感する。しかし、心は折れない。むしろ、剣士として更なる高みへ踏み出すための刺激として、隆誠との手合わせを歓迎していた。

 

「それにしても修次さん。いつも手合わせの時間を作ってくれるのは良いのですが、大丈夫なんですか? 家の手伝いとか、大学で忙しいのでは……」

 

「大丈夫だよ。僕としては、こうして君と手合わせするのが有意義なんだ」

 

 隆誠の心配を、修次は柔らかい笑みで否定した。

 

 家や軍の立場など関係ない。一人の剣士として、隆誠と剣を交える時間こそが何より心地良いのだ。

 

「はぁ……。そう言えば、摩利さんはこのことを知ってるのですか? あの人、自分が除け者にされてると分かった途端に拗ねそうですし」

 

「摩利はそんな事で拗ねたりしないから大丈夫だよ」

 

 恋人の名を出されても、修次はどこか楽しげに笑った。

 

 隆誠との手合わせを心から楽しんでいる。その事実が、彼の声色に滲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし修次が思っていたのとは全く異なる方向で、事態は進んでいた。

 

「………………はぁっ」

 

 場所は国立魔法大学校のカフェ。授業終わりの学生達が談笑する柔らかな空気の中で、ひときわ重い溜息が落ちた。

 

 椅子に腰かけていた渡辺摩利が、テーブルに視線を落としたまま深く息を吐く。その向かいで、七草真由美が心配そうに眉を寄せた。

 

「ねぇ摩利、ここ最近溜息吐いてるけど、何か遭ったの?」

 

 摩利は修次と同じ防衛大学校の生徒だが、特殊戦技研究科に所属しているため、魔法大学の授業を週一で聴講している。

 

 今日もその聴講を終え、親友である真由美とカフェで一息つくはずだった。摩利の表情は晴れないから。

 

「…………実は最近、シュウが夜中に何処かへ出かけているらしくて」

 

 摩利は、意を決して胸の内を打ち明けた。普段なら軽口を叩く彼女が、こんな声を出すのは珍しい。

 

「夜中に? 家の手伝いとか、軍の仕事とかじゃないの?」

 

 真由美は当然の疑問を口にする。

 

 修次の立場を知っている彼女からすれば、深夜の外出は任務か家の事情だと考えるのが自然だ。

 

「あたしも最初はそう思ったんだが、どうもそんな感じじゃない」

 

「じゃあどんな感じなの?」

 

 摩利の否定に、真由美はさらに身を乗り出す。

 

 摩利は唇を噛み、少しだけ視線を泳がせた。言いたくない。けれど、言わなければ胸の奥が苦しくて仕方ない。

 

「この前、偶然にシュウが電話をしてるのを見たんだが……電話の相手と会うのが非常に楽しみのような会話をしてて……!」

 

 その瞬間、摩利の胸の奥で何かがグツグツと煮えたぎった。

 

 修次が楽しそうに話していた『誰か』。その存在を思い出すだけで、胸の奥がざわつく。

 

 真由美は一瞬、言葉を選びかけ――

 

「……ねぇ摩利、それってまさか浮――」

 

「シュウがそんな事するわけないだろう!」

 

 摩利はバンッとテーブルを叩いた。周囲の学生が驚いて振り向くほどの勢いだった。

 

 真由美は目を丸くする。

 

 摩利は怒っているのではない。ただ修次を疑うことが、彼女には耐えられなかったのだ。

 

 胸の奥で渦巻く不安と、信じたい気持ちが激しくぶつかり合っている。




感想お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ(作者:さすらいの旅人)(原作:魔法科高校の劣等生)

本編の「再び転生した元神は魔法科高校へ」で一般人として転生した兵藤隆誠が、原作キャラの関係者に転生した場合の内容です。


総合評価:3097/評価:7.98/連載:64話/更新日時:2026年01月01日(木) 01:55 小説情報

再転生した元神は転スラの世界へ(作者:さすらいの旅人)(原作:転生したらスライムだった件)

「再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ」の司波隆誠が、ひょんな事から転スラの世界に来てしまったと言う内容です。


総合評価:1183/評価:6.78/連載:39話/更新日時:2026年09月16日(水) 00:00 小説情報

私の主は最高です(作者:ノーム)(原作:魔法科高校の劣等生)

これは魔法科高校劣等生に登場する北山雫の幼馴染み(義弟)兼北山家の(自称)最高執事を目指す男の物語▼本作の主人公は年下です


総合評価:917/評価:7.48/連載:29話/更新日時:2026年09月23日(水) 00:19 小説情報

四葉家の死神 (作者:The sleeper)(原作:魔法科高校の劣等生)

 主人公を最強にしながらも、達也といいパワーバランスを保った小説を書きたかった。▼ 完全なる自己満作品▼


総合評価:6211/評価:6.99/連載:77話/更新日時:2026年05月17日(日) 20:38 小説情報

別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ(作者:さすらいの旅人)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

「別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか」で豊穣の女主人の店員になっている兵藤隆誠が、ファミリアの眷族になっていたらのIF話です。


総合評価:1738/評価:7.45/連載:76話/更新日時:2026年09月21日(月) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>