「まさか、兵藤が深雪を抜いてトップになるとは思いもしなかったぞ」
「それを言えば、司波も妹を抜いてトップじゃないか」
色々とすっ飛ばしたかのように思われる7月中旬。
俺がいる国立魔法大学付属第一高校は先週、一学期の定期試験が終わって、生徒達の誰もが夏に行われる九校戦へと意識を向けていた。
しかし、俺と今一緒にいる司波はそんなの如何でも良いようにしか思っていない。他クラスのコイツと一緒なのは勿論理由がある。今日は定期試験の結果に絡んで教師から同時に呼び出しを喰らったからだ。
「達也」
「レオ……どうしたんだ、皆揃って」
そして現在、生徒指導室から解放されて一緒に歩いていると、司波の友人達がいた。
目の前にはレオとエリカと眼鏡の女子生徒――
レオとエリカ以外に、残りの三人とはそれなりに話す関係となっていた。前に俺がエリカと試合した後、そこで話せるきっかけとなったから、互いに自己紹介を済ませている。
「んじゃ、俺はこれで」
「ちょっと隆誠くん、何であたし達を見た途端に別行動するのよ。どうせ行く方向は一緒なんだから」
「……はぁっ、分かったよ」
俺が司波達から別れようとするも、エリカから引き留められた為、一緒に行動する事になってしまった。
別に一緒に行動しても良いけど、誰かさんが何かある度に勝負しろとしつこく言ってくるから避けたくなってしまう。まぁそれだけ、あの時の勝負に納得出来ないという証拠なんだろうが。
司波達と同行してる際、通りかかった同級生も上級生も、俺を含めた六人が視界に入った途端に横目で見て行ってる。
正直言ってこれは無理もない事だ。何故なら俺達が目立っているから。
司波は二科生でありながらも風紀委員に選ばれ、新入部員勧誘週間で武勇伝を作った事で有名人となってる。
エリカは(性格を除けば)誰もが認める陽性の美少女。
柴田はエリカと違って大人しげな癒し系美少女で、俺からすれば非常に好ましい子だ。
レオは見た目通り運動神経抜群の他、端整な顔立ちをしている。
加えて光井と北山は、一年一科生の中でも優秀な二人だ。容姿も充分に可愛いと称される程に。
最後に俺は容姿なんか大して気にしてないが、紫苑曰く『カッコいい系男子』らしい。
そう言う理由で、司波達と一緒に俺も歩いていれば嫌でも目立つと言う訳だ。尤も、他にも理由はあるが。
「どうした、ってのはこっちのセリフだぜ。指導室に呼ばれるなんて、いったいどうしたんだよ? まぁ、リューセーの方は大体察しが付いてるけどよ」
どうやらレオは友人である司波を心配して集まったようだ。
多分、教室で待ってる修哉と紫苑も同じ気持ちだと思う。俺が生徒指導室に呼ばれるのを知った際、凄く心配そうな顔をしていたからな。
そう考えてると、司波は質問に答えようとしていた。
「兵藤と一緒に実技試験のことで尋問を受けていた」
「因みに『何故今まで手を抜いていた?』っていう内容だ」
司波の台詞を俺が繋ぎ合わせるように言うと、エリカが即座に全くバカバカしいと一蹴した。
しかし、北山が分かる気がすると呟いた後、光井も同調するように衝撃的だったと答える。
「まぁ、俺から言わせれば、兵藤の成績が今でも信じられないがな」
『確かに』
「おい」
司波が言った直後、揃って頷いた一向に思わずツッコミを入れる俺。
けれど、そう言いたくなる気持ちは分からなくもない。
何故なら俺は、今回の定期試験で前代未聞とも言うべき結果を出したからだ。
第一高校、というより魔法科高校の定期試験は魔法理論の記述式テストと魔法の実技テストが行われる。
試験内容の詳細は割愛させてもらうが、結果だけを言おう。
結果に関しては、成績優秀者が学内ネットで氏名が公表される事になっている。当然、一年生の成績も公表済みだ。
先ず理論・実技を合算した総合順位はこうなっている。
一位 1-A 司波深雪
二位 1-F 兵藤隆誠
三位 1-A 光井ほのか
四位 1-A 北山雫
もう分かったと思うが、俺が二位となった。本来であれば全て一科生がランクインされる筈だが、二科生が上位に入った事で学校中が大騒ぎとなったのだ。
しかし、一番に驚くのはそこではなく実技の方だ。
一位 1-F 兵藤隆誠
二位 1-A 司波深雪
三位 1-A 北山雫
四位 1-A 森崎俊
五位 1-A 光井ほのか
はい、お分かり頂けただろうか。何と二科生の俺が実技で新入生総代の司波深雪を抜いて断トツの一位となりました。これが大騒ぎの原因である。
俺のいるF組だけでなく、他の教室から途轍もない絶叫を響かせた程だ。
これは内緒だが、一位を取れた理由は
俺としては、まさかここまでの結果を示す事になるとは思いもしなかった。コンパイルでの魔法実習でバカげた結果を出したから、他の実技も当然上手く行くだろうと予想するも、あそこまで簡単に出来たのは本当に予想外だ。
当然、今回の結果に修哉と紫苑を含めたクラスメイト達から問い詰められた他、隣のクラスであるエリカとレオにも詰め寄られた。その後から妹思いの司波も来たのは言うまでもない。
他に理論もあるが、これも充分驚くべきところがある。
一位 1-E 司波達也
二位 1-A 司波深雪
三位 1-F 兵藤隆誠
四位 1-E 吉田幹比古
今度は俺以外の二科生も上位に入っていた。トップの司波と四位の吉田と言う二科生の二人も。
一応、理論も結構自信あったんだが、あの兄妹は俺以上に知識が豊富だったから少しばかり悔しかった。向こうはこの世界の住人というアドバンデージがあった、と言う事にしておく。
「お前は俺と違って理論だけでなく、実技でもあれ程の結果を示したんだ。入学試験の結果で二科生になったんだから、先生達が疑いたくなるのは当然だろう」
「入学してから必死に努力した結果と見て欲しいな」
「なら俺達にも教えてもらいたいものだ」
「生憎だけど、俺独自の努力だから教えられないよ」
前世で活用していた
「何でよ。ちょっとくらい教えてくれたって良いじゃないの、ケチ」
「そうだぜ、リューセー」
「教えるにしても複雑な理論や知識を頭に叩き込まなければ出来ない方法だ。エリカとレオがどうしても知りたいなら、一週間ぶっ続けで講義を受けてもらうぞ」
俺がそう言った直後、二人は顔を青褪めながら揃って首を横に振って『無理!』と言って拒否した。
やはり見た目通り身体を動かす武闘派タイプで、勉強自体が苦手なようだ。
司波や北山達が興味ありそうな表情をしてるのを見えたから、俺は話題を変える事にした。
「まぁ冗談はともかく、先生達の誤解を解いた後が面白かったな。なんせ俺を一科生のA組にクラス替えしようとしてたし」
「ええ!?」
「それは本当なの?」
クラス替えと聞いた瞬間、A組の光井と北山が真っ先に反応した。勿論、後からエリカ達も驚いた表情になっている。
本来であれば二科生から一科生の転科は認められない決まりとなっている。けれど、俺が二科生でありながらも実技で一科生トップの司波深雪以上の結果を出した為、職員達が特例としてクラス替えを提案したのだ。俺みたいな優秀な魔法師を二科生にしておくのは余りにも勿体ないと言う理由で。
「ああ。と言っても断ったがな。俺としては友達と一緒のクラスのままが良いし」
加えて一科生に興味は無い。俺としては魔法師としての名誉なんかより、友人の修哉と紫苑と一緒に楽しい学生生活を送りたいので。
俺の理由を聞いた一科生の二人は納得しながらも少し残念そうな表情をしていた。
多分だけど、光井と北山は俺がクラス替えをしない理由は他にもあると察しているのだろう。同じクラスにいる森崎と言う奴や、一科至上主義の考えを持った生徒達が快く歓迎しない筈だと。
「けど俺より司波の方が凄かったぞ。聞いてた俺は内心呆れたけど」
「えっと、それはどう言う事ですか?」
内容が気になるのか、柴田が俺に訊いてきた。
「遠回しな理由で司波をこの学校から追い出そうとしたんだよ」
「お、追い出すっ!?」
「そんな、どうして達也さんが!?」
血相を変えて叫ぶ柴田と光井だが、他の三人も似たような反応をしていた。
同じクラスメイトの柴田はともかく、光井が面白いほど食いついたな。入学して三ヵ月経って、司波にそれなりの好意を抱いているんだろうか。
そう思ってると司波は俺の台詞に呆れたような表情で嘆息しながら言う。
「兵藤、前にも言ったが誤解を招く言い方をするな。単に第四高校へ転校を勧められただけだ」
「誤解も何も、俺はそう言う風に聞こえたぞ。『第四高校は九校の中でも魔法工学に力を入れているから、司波には向いているんじゃないか』って、明らかに自分達では手に負えないような言い回しだったじゃないか」
俺が教師達が言った台詞を口にすると、レオとエリカが憤慨していた。
レオは学校としての自己否定だとか、エリカは目障りに思われてるとか、教師側に対する非難を口にしている。
聞いていた司波は宥めるついでに、向こうの提案を擁護しながらも無神経な善意や独善と辛辣な評価を下した事に、義憤に燃えていた二人は逆にたじろぐ事になる。
「そ、それで達也さん、本当に転校するんですか?」
「勿論断ったよ。別に強制ではなかったからな」
司波の返答を聞いた光井の他、柴田も一緒にホッと胸を撫で下ろしていた。
「ま、もしも司波が本気で転校する事になったら、それはそれで逆に教師達の首を絞める事になるんだが」
「は? どういうことだ?」
俺の台詞にレオが不可解そうに訊いてきた。司波を除くエリカ達も同じ反応を示している。
「考えてみろ。司波の転校話を聞いたあのブラコン娘がどう言う行動に出るかを、な」
『…………あ』
ブラコン娘という単語ですぐに分かったのか、数秒後にレオ達はハッとしながら気付いた。光井と北山はそれ以上に段々と顔を青褪めてきている。
「……お前達が何を考えているのかは敢えて訊かないでおく。だが兵藤、さっきの『ブラコン娘』と言うのは深雪に対する暴言だと捉えて良いんだな?」
「別にそんなつもりで言ってないって。だけどそう受け取ってしまったなら謝るよ、お兄さん」
眼を鋭くしてくる司波に俺は苦笑しながらも謝罪した。
この三ヵ月ほどで多少だが、それなりに話して分かった事がある。司波兄はシスコンで、司波妹はブラコンだと。
司波兄に関しては共感を抱いている。前世の俺や同志のサーゼクスとセラフォルーと同様、妹を大事にしているところが。もしかすれば妹談議でもすれば仲良く出来るかもしれない。コイツとゆっくり話せる機会があればいいんだが。
そして司波妹だが、兄を愚弄するような事さえしなければ問題無いと見た。例えば兄は素晴らしい人物であるような会話をしたら、結構友好的になるかもしれない。
司波兄妹とはクラスは違えど、この学校で三年間付き合う事になる。ずっと警戒され続けるのは流石に嫌なので、ここは少し友好的な関係を持とうと考えた。それでも向こうは簡単に警戒を緩めないだろうが、仲良く話せる間柄になれば充分なので。
「そ、そういや達也、もうすぐ九校戦の時期じゃね?」
すると、話題を変えたかったのか、咄嗟に言い出したレオに司波が反応して頷きを返した。
「ああ。作業車とか工具とかユニフォームとか、準備する物が多いって、深雪がぼやいていたよ」
「深雪さん、ご自身も出場されるんでしょう? 生徒会で忙しいのに、大変ですよね」
柴田が司波妹を案じる言葉を口にすると、エリカがハッと何か思い出したように言った。
「あれ? 確か九校戦に出られるのって、今回やった定期試験の成績上位者だったわよね? そう考えると、実技トップの隆誠くんも出れるんじゃないの?」
それを聞いたレオ達もすぐに気付いて俺を凝視してきた。
対して俺はそこまで気にすることなく言い放つ。
「どうだろうな。向こうはそんな簡単に俺の出場を認めないと思うぞ」
それを聞いたレオ達は何故だと訊いてくるので、俺は現状で考えられる理由を説明し始める。
彼等と別に司波だけは俺の説明を聞いて『確かにな』と小さく頷いていた。コイツも分かっていたんだろう。二科生の俺が九校戦に出れない一番の理由が、無駄にプライドが高い一科至上主義の連中である事を。
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