新ソ連の侵攻は、一条剛毅を中心とした義勇軍によって佐渡を奪還する事に成功した。
しかし、奪還しても佐渡には甚大な被害を受けていた。主に魔法の実験施設が奇襲された事により、多くの研究員達が命を失っている。
その亡くなった研究員の中に吉祥寺と呼ばれる夫婦もいるが、息子である『吉祥寺真紅郎』がシェルターに避難していた事を知った剛毅は、救う事が出来なかった償いとして援助をしようと決意する。それによって真紅郎は金沢魔法理学研究所で勤務する事となり、後に将輝の掛け替えのない相棒になる他、『カーディナル・ジョージ』と言う異名で呼ばれる天才少年となる。
それとは別に、今回の『佐渡侵攻事件』による戦闘で一番に貢献した人物――『一条隆誠』の活躍は、国防軍だけでなく、世界各国の魔法師達からも注目の的となった。
魔法を一切使わずに身体能力と刀だけで多くの敵兵を葬るだけでなく、新ソ連の艦隊を戦略級魔法と思われる強大な魔法で撃沈した。加えて、CAD無しで加重系魔法の技術的三大難問の一つとして扱われている飛行魔法を使用したと言う、魔法師社会の大事件と言ってもおかしくない程の前代未聞だった。
今まで『一条家の恥』、『無能魔法師』と蔑称されていた一条家の嫡男が、他の十師族を上回る多大な功績を残した。後に知った元世界最強の魔法師の一人『九島烈』すらも舌を巻くほどである。
この功績によって一条隆誠に対する評価が一気に激変し、そして畏怖の存在へと変貌する事となる。圧倒的な剣技を披露した事によって『剣鬼』、更には新ソ連に裁きを下した意味を込めて『ジャッジメント』と言う二つ名を付けられる事になるも、当の本人は非常に不名誉だと憤慨している。
ついでに、隆誠の事を侮辱していた多くの魔法師達が掌を返すような態度に、一条家は果てしなく呆れる事となった。挙句の果てには縁談を持ち掛けようとする者までいて、一条家当主である剛毅が軽蔑の眼差しを送りながら即座に拒否したのは言うまでもない。
☆
2093年1月
佐渡侵攻事件から五ヵ月後、一条家は平穏な日常の生活へと戻っていた。
そんな中、隆誠は休日によってリビングで寛いでいる父親の剛毅に相談したい事があると言って、座敷で話す事となった。
「第一高校を受験するだと? どう言う事だ、隆誠。お前は第三高校に進学するのではないのか?」
「最初はそのつもりだったけど、事情が変わったんだ」
隆誠が東京にある一高を受験すると聞き、剛毅は寝耳に水だった。
息子が母校の三高を受けると聞いていたから、嘗ての先輩である三高の校長――前田千鶴に隆誠が入学する事を前以て話していた。それを聞いた瞬間、前田校長は『安心して私に任せろ!』と嬉しそうに言っていたが、剛毅としては逆に不安を感じていた。
彼女は国防海軍の元軍人であり、隆誠が去年の佐渡侵攻事件で大活躍した事を知ってるから、第三高校へ来たら一人前の兵士に育てようと固く決意していた。将来有望な教え子を育てたい前田校長としては、是非とも隆誠を確保したい生徒であるから。
しかし、隆誠が前田校長の期待を裏切るのような展開になっていた。剛毅は後々恐ろしい事になりそうだと思いながらも、第一高校へ受験しようとする隆誠に理由を訊こうとする。
「将輝の今後を考えると、色々不味い気がしてな」
「……それとお前が第一高校を受ける事に何の関係があるんだ?」
話の内容が掴めない為に剛毅は首を傾げながら再度問う。
「将輝が俺に頼り過ぎてる節があってな。父さんも気付いてるだろ? 去年の佐渡侵攻事件後、将輝が兄の俺に色々頼ってるのを」
「ああ、そうだな」
兄の実力を知った将輝は、自分より遥かに強いと分かった事で戦闘指導をして欲しいと何度も頼んでいた。
隆誠も最初は苦笑しながら教える事にした。尤も、あくまで教えるのは基本だけで、殆ど軽い手合わせをする程度だ。
そんな中、隆誠はある事に気付く。何れ一条家の当主になろうとする将輝が、ずっと俺の傍にいれば、いくら実力を伸ばす事が出来ても、当主としての成長を妨げるのではないかと。
加えて、将輝は魔法師の才能が溢れた優秀な弟である。今まで独自に腕を磨いて成長したのに、それを遮る事をしてしまったら、却って足を引っ張ってしまう事態になる。隆誠はそう危惧したのだ。
「――とまあ、あくまで俺の憶測なんだけど、父さんとしてはどう思う?」
「むぅ……言われてみれば、確かに」
隆誠から一通りの説明を聞いた剛毅は、思い当たる節が見受けられるように頷いていた。
剛毅としても、将輝が一条家当主となるのであれば、初めから誰かに頼るような情けない当主になって欲しくない。頼るのは決して悪いことではないのだが、当主として一人で決断しなければならない事を、最初から誰かに頼ってしまってはダメであるから。
まだ遊び盛りな学生であると言うのに、既に先の事を見据えてる長男に剛毅は感心していた。流石は私の息子だと少々親馬鹿な事を考えながら。
そして腕を組みながら無言で考え始める剛毅に、隆誠は何も言わずに見守っている。
「……………兄のお前が自ら弟の成長を妨げる要因と考えているのであれば、ここで父親の私が否定したら最大の過ちを犯してしまうであろうな」
数分考えた結果、剛毅は重い決断を下す様に口を開いた。
「それじゃあ」
「あい分かった。隆誠。一条家当主として、お前の上京と第一高校の入学試験を受けるのを許可しよう。但し」
「但し?」
「東京に住む条件として、私が建てた別邸に住んでもらう。並びに第三高校の入学試験を蹴ったのだから、必ず第一高校に合格する為の勉学を今まで以上に励むように。何か異論はあるか?」
「いいえ、ありません。当主殿から家を提供してくれた恩に報いる為、必ず一高に合格すると誓います」
随分軽い条件だと思いながらも、隆誠は一切の文句を言う事なく承諾する。
そしてこの後、第一高校に進学して東京に住む事を家族に話した瞬間、反対する弟の将輝は勿論の事、妹達(特に瑠璃)からも泣き付かれたのは当然の流れであった。
もうついでとして、第三高校の受検当日に、隆誠の姿が無い事に前田校長が疑問を抱き、後輩の剛毅に聞いた瞬間、鬼のように憤慨しながら問い詰めた事も補足しておく。
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