九校戦に向けての練習は誰もが真剣で、毎日閉門時間ギリギリまで行われている。
当然、出場種目も決まっている。選手は五種目のうち二種目選ぶ事が出来るが、一種目のみに絞って出場する事もある。
今回の九校戦で俺は一種目のみの出場となった。俺の体力なら二種目程度の競技でも充分にやれるんだが、余り派手に目立ち過ぎると一年の森崎達が騒ぎかねないので、此処は敢えて一種目のみにしたのだ。
俺が出る種目はアイス・ピラーズ・ブレイク。通称『棒倒し』と略されている。
それは自陣営12本、相手陣営12本の氷柱を巡って魔法で競い合う競技。時間は無制限で、先に相手陣営の12本の氷柱を全て倒す、または破壊した方の勝利と言うルールである。
氷柱を破壊する方法は、純粋な遠隔魔法で競う事となっている。俺が使っていた剣技は当然無理だ。加えて遠当ても単なる衝撃波なので、魔法と呼べる代物ではない。
だから俺の戦い方を知っている司波は当初、クラウド・ボールに出るべきじゃないかと提言された。俺の使う
因みにその競技は、制限時間内にシューターから射出された低反発ボールをラケット、または魔法を使って相手コートへ落とした回数を競う対戦競技。早い話が魔法を利用したテニスみたいな競技だと思えば良い。
司波からの提言はありがたく受け取るも、それは丁重に断らせてもらった。俺としては身体能力でやる競技より、偶には魔法――
本来なら人目に付いてはいけないものだが、生憎と俺は魔法師の卵なので、他の魔法師や観客が見ても少々変わった魔法と言う程度の認識で済むから問題無い。仮に大袈裟に捉えて聞きだそうとしても、そこはマナー違反で通せばいい。基本的に魔法師が使う魔法は詮索してはいけないルールとなっているので。
俺が一種目のみ参加するのに対し、司波が担当してる女子達は全員二種目に参加する事となっている。その為、俺だけは時間が空き気味だった。
アイス・ピラーズ・ブレイクの練習に専念出来ると言っても、競技を並行して頑張っている彼女達に申し訳ない気持ちとなった俺は、可能な限り練習に付き合う事にした。アイス・ピラーズ・ブレイクとバトル・ボード、そしてミラージ・バットを除き、スピード・シューティングとクラウド・ボールに参加する女子達の模擬戦相手として付き合った。
先ず最初にスピード・シューティングで――
「兵藤さん、何でスピード・シューティングにしなかったの?」
「百発百中なんて嘘でしょ!?」
「私たちの得意分野に余裕で勝てるなら、今すぐに変更しなさいよ!」
北山と滝川は信じられないと驚いており、明智には出場する競技の変更を勧められた。
次にクラウド・ボールだが――
「はぁっ……はぁっ……ぼ、僕達と二連戦やっても全然息が上がってないなんて……!」
「だ、男子だからって……体力、あり過ぎでしょ……!」
全く息を切らさずにストレート勝ちした事によって、里美と春日から何故かバケモノ扱いされてしまった。
そして模擬戦の結果を知った司波から――
「………念の為にしておくか」
急にブツブツと呟いた後に何処かへ行ってしまった。
何をやるのかは知らないが、取り敢えずは気にしないでおくとしよう。
因みに司波はCADの調整と司波妹の仕事の肩代わりをしてる事で、毎日遅くまで駆けずり回っている。
余りにも多忙過ぎるので、俺は独自にやるから女子達に専念するよう言っておいた。ついでにCADの調整も自分で出来るからと言って。
コレには司波が『スタッフとして選ばれた以上は兵藤も付き合う』と反論するも、『もしも俺が原因で倒れたなんて妹に知られたら怖いから』と言い返しておいた。その直後、司波妹の名前が出た途端に『……何かあればいつでも呼んでくれ』と言って妥協する事となる。
そうしたのには理由があった。仕事が色々と重なって過労で倒れさせないのが主であるが、練習中に俺のCAD調整や、
俺のCADは一応現代魔法をインストールしてるが、
まぁ、司波を遠ざける事はしても、ちょっとした世間話程度の話をしようと接近している。それによって深雪ほどではないが、多少の警戒を緩めて気兼ねなく話せるようになった。その際、いつの間に司波妹と仲良くなったとか、何を話していたのかと問い詰められたが。
色々な事をしながらも、九校戦に向けての練習を着々と進めるのであった。
それと余談だが、練習期間中の際に奇妙な事が起きたので簡単に記しておく。
練習を終えて帰宅する際、実験棟辺りで人払いの結界を張っている他、水の精霊を召喚する魔法を感知した。その後は急に霧散してしまい、術者は一体何をしたかったのかと全然分からないまま帰宅する事となった。
◇
西暦2095年8月1日
「分かってはいるけど、遅いなぁ」
「仕方ないだろう。こっちは了承済みで待っているんだ」
九校戦へ出発する日なのだが、俺と司波は炎天下の中でちょっとした世間話をしていた。
こうなっているのは、ある人物を待っているからだ。言うまでもないが、その一人を除いて九校戦に参加するメンバーは既にバスに乗っている。外で待っている俺と司波を除いて。
さっきまで摩利も一緒に待っていたが、俺の方でバスで待機するよう言っておいた。余りにもどうでも良すぎる話をされて司波が顔に出さずともウンザリしていたので。
「俺が点呼を取っているから、兵藤もバスの中で待っていてもいいんだぞ」
「最後まで付き合うさ。と言うより、もし今ここで俺がバスに戻ったら、お前の妹に何を言われるか分かったもんじゃない」
「……………」
俺が理由を告げた途端、司波は急に何も言わなくなってしまった。恐らくバスの中から司波妹が不機嫌のオーラを発しているのを察知したのかもしれない。
未だに太陽が激しく自己主張している夏空の下で待っていると、急ぎ足で此方へ向かってくる人影が見えた。
「ごめんなさ~い!」
「来たぞ、司波」
「ああ」
軽快に鳴るサンダルのヒール音がBGMとなって近付いてくる女性――真由美が来た。
俺が言った直後、司波は持っている端末に表示されているリストにチェックを入れている。
彼女が一時間半も遅刻した事で、漸く全員集合となった。
「ゴメンね、達也くんにリューセーくん。私一人の所為で、ずいぶん待たせちゃって」
「いえ、事情はお聞きしていますので」
「司波から聞きましたが、急に家の用事が入ったそうですね」
真由美が遅刻した理由のは寝坊ではない。家の事情――七草家の用事があった為だ。
最初は彼女の方から電話があった時、現地で合流するから出発して欲しいと言ってたが、そこを三年生全員が待つと決めた事で、こうして来るのを待っていた。
その結果、真由美は待っているメンバー達の事を考慮し、無理して駆け付けたと言う訳である。
遅刻の件についての話を終えると、途端に彼女が俺達に近寄ってくる。
「ところで二人とも、これ、どうかな?」
真由美の言う“これ”とはもう分かっている。今着ているサマードレスの事だ。
幅広の帽子を頭に被り、可愛らしいポーズをしている彼女の姿に、俺と司波は思ったままの返答をする。
「とてもよくお似合いです」
「右に同じです」
「そう……? アリガト。でも、もうちょっと照れながら褒めてくれると言うことなかったんだけど」
淡々と答える俺に彼女は物足りないのか、更に可愛く見せようとアピールしている。
しかし――
「ストレスが溜まっているんですね」
「えっ?」
司波が予想外な返答をした事で真由美が此処で戸惑いの表情となった。
「十師族、それも七草家の仕事であれば気苦労も多いでしょう。さぁ、出発しましょう。バスの中で少しは休めると思います。兵藤、後を頼む」
「ちょ、チョッと、あの……!」
労わりに満ちた態度とどこか同情を含んだ視線を向けられた事に、真由美が目を白黒するも、言い出した当の本人はそのまま作業車の方へと向かって言った。
「……ねぇリューセーくん、何か達也くん勘違いしてないかな……?」
「ほ、本人は思ったまま答えたと思いますよ……ぷっ」
「そう言う君は笑ってるじゃない!」
司波の発言に笑いを堪えきれなくなって俺が噴出してしまった為、憤慨して言う真由美。
「まぁ取り敢えず、皆さんがお待ちかねなので入りましょうか」
「……リューセーくん、君、私の隣に座りなさい」
「え゛? いや、俺はもう決まった席がありますから」
「い、い、か、ら!」
「ちょ、真由美さん!?」
いきなり真由美が俺の腕を掴んで引っ張った為、一緒にバスに入り、そのまま彼女と相席する事になってしまった。
バスの中で待っていたメンバー達はそれに驚いてる上に、(一部を除く)男子達から物凄く睨まれる破目となったのは言うまでもない。特に二年の服部刑部から凄まじい嫉妬と殺意の視線をバリバリ感じた。
感想お待ちしています。