再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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今回は短いです。


九校戦編 予想外の事故

 俺が元の後部席に戻ってからも、少しばかり騒がしかった。

 

 騒ぎの原因は司波妹が作っている、と言う訳ではない。彼女に声を掛けようとする男子達が、何かに付けて声を掛けているから騒がしいのだ。一年がメインで、それに混じった二年と三年の男子生徒が一番の原因と言えよう。

 

 ついさっき俺と普通に話しているのを見た男子生徒達が、『二科生のアイツが普通に話せるなら自分も』と言う訳の分からない理由で話しかけている。

 

 それを見ていた摩利が連中を黙らせた後、司波妹や光井と北山を別の席へ移動させ解決した。

 

 その後に服部がいつの間にか元の席に戻っていたので、弄り倒し終えたと思った俺は再び真由美がいる席に戻ろうとするも、いつの間にか市原が彼女の隣に座っているのを見て疑問を抱く。

 

 理由はすぐに分かった。どうやら真由美はすやすや眠っているみたいで、それを見た市原が急遽隣に座ったのだ。

 

 その後に市原から――

 

『無防備な女性の寝顔を見るのは良くないので、すいませんが元の席へ戻って頂けますか?』

 

 と言われた。

 

 俺としては反対する理由はないし、逆にその気遣いに感謝している。なので俺は市原に『ではお任せします』と言って、Uターンするように元の席へ戻った。

 

 そして少々広い後部席にある窓際の席に座り、今は流れ去る風景をぼんやり眺めている。けれど、それが一変した。

 

「危ない!」

 

 いの一番に叫んだのは千代田だった。

 

 彼女も俺と同じく窓を見て気付いたんだろう。対向車線を近づいてくる大型のオフロード車が突如パンクし、傾いた状態で路面に火花を散らしている事に。

 

 だが、それだけでは終わらない。大型車が突然スピンし、対向車線としてある堅固なガード壁に激突するどころか、宙返りをしながら自分達が乗っているバスの方へ飛んできた。

 

 余りにも予想外過ぎる出来事にバスの運転手は急ブレーキを掛けた事で、俺を含めた全員が一斉につんのめる。

 

 バスは止まったが、進路上に落ちた大型車は、炎をあげながら此方へ向かって滑ってくる。

 

 このままでは不味いと思った俺は、取り敢えず現代魔法用の防御結界を展開する準備に移る。能力(ちから)を通じて使えば、現代魔法を簡単に発動させる事が出来るので。

 

「吹っ飛べ!」

 

「消えろ!」

 

「止まって!」

 

(あ、バカ!)

 

 すると、他の生徒達と違ってパニックを起こさなかった千代田、森崎、北山が魔法を使って対処しようとしていた。

 

 だが、それは却って悪化させてしまう行動だった為に、俺は思わず内心罵倒してしまった。

 

 三人が瞬間的に対象の大型車に魔法を発動させた事によって、全ての魔法が相克を起こしている。同時にバスの中では想子(サイオン)の嵐が起きて、魔法が発動出来ない状態に陥ってしまった。

 

「バカ、止めろ!」

 

 気付いた摩利が叫ぶも遅かった。

 

 三人が冷静であれば、中途半端な状態となってる魔法をキャンセルするなど造作もないだろう。

 

 しかし、残念ながら目の前の事故によって摩利の言葉に従う判断力はないようだ。

 

 能力(ちから)で防御結界を発動させようとする俺には何の問題もないが、この想子(サイオン)の嵐の中で異物を紛れ込ませたら、バスの中にいる魔法師達に何らかの影響を及ぼすかもしれないと一瞬考える。

 

 だから此処は冷静に対応出来るであろう十文字の方を見るが……どうやら無理みたいだ。魔法発動の態勢に入っているが、常に冷静である筈の彼が焦りの色を見出しており、俺と同じく頼ろうとしていた摩利が絶望に捉われそうになっていた。

 

 彼女は分かっているんだ。このバスの中は以前にブランシュの連中が使ったアンティナイトのキャスト・ジャミングと似た影響下になって、すぐに魔法が発動出来ない事に。

 

 ここは俺が止めないと本当に不味いと危惧した俺は不意に見た。隣にある非常口を。

 

 それを見て即時行動を開始する。圧縮された扉のバルブを開放した事でプシューッと空気が抜けた音がした事で、それを聞いた全員が此方を振り向く。

 

「リューセーくん、一体何を……!?」

 

 摩利は止めようとするも、既に非常口の扉を開けた俺はバスから出た。

 

 そして素早くバスの前に構えるように立ち、此方へ急接近してくる大型車を強く睨む。

 

 余り人前で見せたくないが、先ず鬱陶しい物を消す必要がある。無秩序に発動してる魔法式と、車の中で燃えている炎を。

 

 そう思った俺は能力(ちから)で一気に消そうと指を鳴らす仕草をするも、突如異変が起きた。俺が消す直前、魔法式が一瞬で全てかき消されたのだ。

 

 そして、まるでそれが起こる事を予期していたようなタイミングで、別の魔法が炎上していた大型車を瞬時に消火された。

 

 今のは………取り敢えず考えるのは後回しだ。魔法式と炎が消えたとは言え、大型車が今も向かって来てる事に変わりない。

 

 相克状態が完全に消えていたので、俺は即座に片手を前に出す。

 

 その直後――猛スピードで急接近していた大型車が突然止まった。それを見ていたバスにいる全員が、開いている非常口から驚きと戸惑いの声が聞こえる。

 

 俺がやったのは、単に能力(ちから)を使って緊急停止させただけに過ぎない。既に死んでいるだろうが、大型車の運転手が万が一生きている事を考慮した上での措置である。

 

 これを見ていた他の魔法師達からすれば、何らかの減速魔法を使ったと誤認識してるだろう。流石に緊急停止させたのは不味かったが、人命優先だったので使わざるを得なかった。仮に問い質されても、そこはマナー違反と言っておけば大丈夫、と思いたい。

 

「兵藤、無事か?」

 

 後々の事について考えてると、作業車から出てきたと思われる技術スタッフの司波が駆け付けてきた。他のスタッフ達は大型車の中にいる運転手の救助活動を開始しようとする。

 

「見ての通りだ」

 

「そうか。一応確認だが、お前から見て運転手は生きてると思うか?」

 

「壁に激突した上、さっきまで派手に炎上してたからな。言っちゃ悪いが、もし生きていても虫の息だ」

 

 司波もそれを分かった上で訊いたようだ。直接見た俺がどう言う返答をするのか確認の意味も込めて。

 

「なら事情聴取は無理だな」

 

 俺の返答を聞いた司波は、此処へ来る時に持ってきたビデオカメラを設置しようとする。現場記録の為に持ってきたんだろう。

 

「後の事は俺達がやる。兵藤はバスに戻って休んで良いぞ」

 

「分かった。ああ、そうだ司波」

 

 司波は何事かと思って振り返ると――

 

さっきはありがとな(・・・・・・・・・)

 

「いきなり何だ?」

 

 俺が感謝の言葉を述べるも、向こうは全く意味が分からないと問い返してきた。あるいは敢えて分からないフリをしてるかもしれないが。

 

 本当なら魔法式を消してくれた事を言いたいが、ここでそれをハッキリ言えば司波が変に警戒するかもしれない。ただでさえこの後のホテルではコイツと相部屋になるので、今回は礼を言うだけに留めておいたのだ。

 

「単にそう言いたかっただけだ。そんじゃ」

 

 言うべき事を言い終えた俺は、そのままバスへ戻ろうとする。勿論、勝手に開けた非常口の方から。 

 

 その後に摩利から『勝手に動いて心配させるんじゃない!』と言うお説教の他、真由美や十文字より大型車を止めてくれた事に感謝の言葉を頂いた。

 

 加えて俺が司波妹に消火の魔法と、バスを止める為に減速魔法を使った市原に感謝の言葉を告げた途端、周囲から驚きの声が上がったのは気にしないでおく。


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