再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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やっと懇親会まで行けました。


九校戦編 懇親会①

 事故の後、到着した警察から事情聴取や現場を通行可能にする為の手伝いなどで時間をロスしたが、予定外の事が起きても昼過ぎにはホテルに到着した。

 

 俺達は着いて早々、バスから出て荷下ろしを行った。此処はホテルでも軍の施設なので、専従のポーターやドアマンなどいない。高校生の大会と言う理由で、自分達で荷物の積み下ろしをする事になっている。

 

 自身の荷物を持ってる俺は一足先にホテルの中に入ると、思わぬ人物と遭遇する。

 

「よっ、リューセー。久しぶり」

 

「予定よりチョッと遅かったわね、リューセーくん」

 

「え? 何で二人が此処に……?」

 

 私服姿の修哉と紫苑が声を掛けて来た事に俺は思わず足を止めた。

 

「競技は明後日からだぞ。それに此処は軍の施設だから、簡単に来れる所じゃない筈だが?」

 

「ああ、それなんだが……」

 

「あそこにいる人から誘われたのよ」

 

 紫苑が指した方向には、窓際に置かれたソファーに座っている人物がいた。ショートパンツに編み上げサンダルで素足を人目に曝し、タンクトップで肩をむき出しにした少女――千葉エリカが俺に向かって手を振っていた。

 

 どうやら二人は彼女に誘われて、此処へ来たようだ。俺の知り合いだからと言う理由で。

 

 それと今晩行われる懇親会にも参加すると言っていた。関係者以外参加出来ない筈だが、エリカ曰く関係者になってるらしい。

 

「エリカがいるなら、もしやレオ達も来てるのか?」

 

「正解。柴田さんがあそこのロビーで部屋を取る手続きをしてて、男子の西城君と吉田君は女子二人の荷物持ちされてるわ」

 

「やっぱりそうだったか……って、吉田?」

 

 司波一行の中にその人物はいなかった筈だ。

 

 確か吉田って、この前の体育のレッグボールでE組と対戦したメンバーだったな。いつの間にか司波の友人になったんだろうか。

 

 そんな俺の疑問に紫苑は簡単に説明してくれた。

 

 その人物は吉田幹比古でエリカの幼馴染。レッグボールの試合が終わった際、そこで司波達と友人関係になったようだ。

 

「エリカの幼馴染、ねぇ。ソイツはさぞかし振り回されているんだろうなぁ」

 

「おい、聞こえちまうぞ」

 

「ま、それは当たってるわ。私達はまだ会って間もないけど、今日だって散々弄られていたし」

 

 思った事を口にする俺に修哉がツッコムも、紫苑は当たっていると頷いていた。

 

 因みにエリカには聞こえていないが、それでも少しばかり怪訝気味に此方を見ている。

 

「あ、そうだリューセー。その吉田って奴はお前と話したがっているみたいだぞ。機会があれば紹介して欲しいって頼まれたんだ」

 

「俺に? 何で?」

 

 俺が問うと、どうやらこの前の定期試験の事で気になる事があるそうだ。

 

 恐らく司波達と同様に、二科生の俺がどうやって実技であれ程の結果を出したのかを知りたいんだろう。けれど、それは俺の能力(ちから)に関するものだから教える事は出来ない。

 

 一応、目の前にいる修哉と紫苑にも独学で学んだと誤魔化している。尤も、直接俺に鍛えられている修哉は僅かながらも、感付いているかもしれない。俺が普通の魔法師とは違う力を持っている事に。

 

 久しぶりに会った二人ともう少し話したいのは山々だが、指定された部屋に行かなければならないから、一旦別れる事にする。二人を誘ってくれたエリカに礼を言って、そのままエレベーターホールへと向かった。

 

 

 

 

 

 

「司波、あの事故についてどう思う? 俺は狙ってやったんじゃないかと思うんだが」

 

「いきなりだな。何か根拠はあるのか?」

 

 指定の部屋に入った後、遅れて入って来たルームメイトとなっている司波と事故について話していた。

 

 最初は俺を見て警戒気味だったが、バスの移動中に起きた事故の話題になると、それなりに警戒を緩めた。

 

「あの大型車から魔法の反応が僅かに感じたんだよ。タイヤをパンクさせる魔法。車体をスピンさせる魔法。ガード壁をジャンプ台代わりに跳び上がらせる魔法。その三回の魔法を使ったのは全て車内の運転手で、一種の自爆攻撃を仕掛けたんじゃないかと俺は推測した」

 

「驚いたな。お前は直接検証しなければ分からない程の微弱な想子(サイオン)までも感じ取れるのか」

 

 余りにも予想外だったように驚く司波の反応に、それを見た俺はある事に気付いた。

 

「そう言うって事は、当たりだと思っていいみたいだな。お前って魔法に関する検証とか得意そうだし」

 

「!」

 

 指摘された俺にハッとする司波だがもう遅い。

 

 数秒後、もう諦めたかのように嘆息しながら応えようとする。

 

「確かに俺もお前と同じ考えである事は否定しない。だが流石に死んだ犯人の動機までは分からんが」

 

 司波の言う通りなら救助活動をしたが犯人が死亡していたのが確定された。その為、事故の真相は分からずに闇へと葬られる事となる。

 

 バスの中にいた生徒達は事故だと思っているだろうが、俺から見ればとてもそんな風に見えなかった。事故にしてはどうも絶妙なタイミングだった気がする。

 

「案外、どっかの犯罪組織に指示されたのかもな。アレを単独でやるにしても、余りにお粗末で無鉄砲過ぎるやり方だし」

 

「……そうでない事を願う」

 

 俺の予想に司波は若干間がありながらも嫌そうに言い返した。

 

 あたかも知らない素振りをしているが、もしかすれば司波は何か知ってるんじゃないかと思う。それを今問い質したところで、無意味に警戒されるから止めておくが。

 

 部屋で一通りの話を済んだ俺達は、この後に予定されているパーティー――懇親会へ参加する為の準備を始める事にした。

 

 

 

 

 

 

 懇親会の会場へ向かう前、一高生徒達は指定場所へ集合するよう言われた為、二科生の俺と司波も同様に向かう。

 

 他の生徒達が続々と集まっている中、司波は部屋で準備してる時からネガティブになっていた。聞いてみたところ、懇親会のようなパーティーは余り好きではないようだ。裏方をメインにする人間ほど表舞台に出たくないと言う傾向はよくある事だ。

 

 加えて、一科生用の借り物のブレザーで身体がしっくり来ないみたいで、余計にネガティブな気分を増幅していたのだ。サイズに関して俺は辛うじて大丈夫だったが。

 

 それとは別に、相変わらずと言うべきか、兄妹でありながらも恋人みたいな雰囲気を作ってる事に真由美が指摘する。

 

「ねぇねぇリューセーくん、兄妹なのに雰囲気作ってるのを見てどう思う?」

 

「いつもの事でしょう。あのラブラブ兄妹のイチャ付きっぷりは」

 

 答えを求めてくる真由美に俺は思ったままの事を口にした。

 

 それを聞いていた司波がジロリと睨んでくる。

 

「おい兵藤、その誤解を招く言い方は止めろ」

 

「ま、全くです! 発足式前にも言いましたが、私とお兄様はそんな関係では……!」

 

「だから深雪、何故またそこでお前が照れるんだ?」

 

 前回と同様に再び司波妹が恥じらいを浮かべながら俯いていた。恐らく顔も赤いだろう。

 

「さあ、行きましょうか」

 

 そう思ってると、俺の返答を聞いて満足したのか、真由美がさっきとは打って変わって一同に促した。

 

 

 

 

 

 

 司波が懇親会に参加したくない気持ちが改めて分かった気がする。

 

 会場内には九校戦参加の選手だけで合計三百六十名で、裏方を含めると四百名を優に超えている。

 

 全員出席が建前でも、諸事情により欠席する人は各校に必ず一人や二人ほどいるだろう。

 

 けれど、懇親会に出席している者達は大規模な人数となっている。

 

 これだけ多いとホテルのスタッフや軍の関係者だけでは捌き切るのは流石に無理だということは容易に推測出来る。見てて明らかにアルバイトと思わしき人物が給仕服に身を包んで会場内を行き来するのは充分納得出来る。

 

 現に――

 

「お前達が此処へ誘われた理由はこう言う事だったんだな」

 

「ああ。千葉さんから接客業は出来るかって問われて、思わず『俺の親が喫茶店の店長だから手伝っている事もある』と答えた瞬間、是非とも手伝って欲しいって言われてな」

 

「私もそこで手伝ってる事を言った瞬間、修哉と同じく誘われたの」

 

 こうしてアルバイトとして雇われたウェイター姿の修哉と、コンパニオン姿の紫苑がいるから。

 

 とは言え、いくらアルバイトとして雇われたとしても、こんな重要なイベントを高校生が対処するのは普通無理な筈だ。

 

 その証拠に、高校生の修哉達とは別に、他のウェイターやコンパニオンは明らかに成人である。

 

 無理な筈なのに、そこをエリカのお家である千葉家のコネで何とかしたんだろう。コネの使い道を間違っているような気もするけど。

 

「しっかしまぁ……修哉は問題無いけど、紫苑は意外だったな。ご令嬢なのに接客業の経験があるなんて」

 

「あら、心外ね。私だってアルバイトぐらいするわよ」

 

 ムッとしながら言い返す紫苑に、スマンスマンと軽く謝る事にした。

 

 さっき修哉の親が経営してる喫茶店の手伝いをしてるって言ってたから、恐らく修哉と一緒に居たいが為にアルバイトをしていたんだろう。それを口にすれば絶対に抗議されるのが目に見えてるので黙っておくことにする。

 

「ところで、お前一人だけで此処にいるって随分と寂しいな。あそこに混ざらないのか?」

 

「逆に問うが、一科生の連中が二科生の俺と仲良くお喋りしてくれると思うか?」

 

「一科生でも君と普通に話せる人は何人かいるじゃない。例えば生徒会長さん達とか」

 

「生憎その人達は今も他校の幹部達とお話し中だよ」

 

 さっきまで一人だった俺に二人が話しかけてくれるから色々と気が軽くなった。

 

 しかし、今はアルバイト中である事を忘れているんじゃないだろうか。

 

 思わずそれを問い返してみると、修哉と紫苑はハッとしたように『また後で』と言って仕事に専念しようと俺と別れた。

 

 俺と同じく一人で佇んでいるであろう司波の方へ行ってみるかと考えた直後――

 

「そこの御仁、少しよろしいか?」

 

 誰かが俺に声を掛けて来た。

 

 知らない声だなと思いながら振り向くと、その先には見知らぬ他校の女子生徒がいた。

 

 思わず小学生かと思うほどの小柄で顔立ちも幼く、髪は腰すらも超える長い髪をしている。

 

 この制服は……確か第三高校だったな。他の高校と違って一際目立った色をしてるから非常に憶えやすい。

 

 まぁそれはそうと、この子は一体俺に何の用だろうか。フレンドリーに話しかけて来るならまだしも、何だか妙に恭しいように見える。

 

「えっと、どなたかな?」

 

「これは失礼した。わしは第三高校一年、四十九院(つくしいん)(とう)()と申す。以後お見知りおきを」

 

「どうも。俺は第一高校一年、兵藤隆誠だ」

 

 互いに自己紹介をする四十九院と俺。

 

 正直、四十九院と言う名は全く知らない。だが少なくともこの会場にいる以上、相当な実力を持った一年選手であるのは確かだろう。九校戦に参加する各校の選手は精鋭中の精鋭揃いだから。

 

 けれど腑に落ちない。そんな彼女が一体何で俺に声を掛けたのかが今も全く分からなかった。

 

 明らかに連れと思われる他の第三高校女子二人が此方を凝視してるどころか、四十九院の振る舞いに驚いている様子だ。

 

「兵藤隆誠殿、か。その名、しかと覚えた。もしよければ、わしと握手をしてもらえぬか?」

 

「? 別に良いけど……」

 

 手を差し出してきた四十九院のリクエストに応えようと、俺も手を出して彼女と握手をする。

 

 すると、向こうは何やら少々力を込めるように握ってきた。と言っても悪意の意味でやったのではない。

 

 その直後、四十九院は笑みを更に深めようとする。

 

「成程。やはりわしの勘は正しかったようじゃ」

 

「え?」

 

 勘って……ゴメン。何を言ってるのかさっぱり分からない。一体何なのこの子。それに喋り方も妙に年寄り染みてて、前世(むかし)で言う『不思議ちゃん』タイプか?

 

「其方から感じる想子(サイオン)は、普通の魔法師とは全く異なる。余りにも澄み切って質の高いそれはまるで……わしら古式魔法師が長年求めた神霊以上の存在だと錯覚してしまいそうじゃ」

 

「っ!」

 

 全く訳が分からないと困惑してる中、いきなりとんでもない事を言う四十九院に内心驚愕する。

 

 この子、まさか聖書の神(わたし)の正体を見抜いているのか? いや、勘って言ってたから、そこまで判明してないと見ていいだろう。

 

 聖書の神(わたし)の真のオーラは、自ら封印を解かない限り感知する事は誰にも出来ない筈だ。益して、この世界の人間が異物同然である聖書の神(わたし)の存在なんか知っている訳がない。仮にいたとしても、日本に存在してるとは思えないんだが。

 

 確かこの子は古式魔法師と言ってた。俺が調べた限りだと、古式魔法師は神霊――精霊の源を使役する事を目的としている。少なくとも聖書の神(わたし)には該当しない。この世界に神が本当にいるかは分からないが、魔法師がもしも神を使役なんて身の丈に合わない事をすれば、手痛い竹箆返しを受けるのは確実だ。

 

 恐らく四十九院は本能的に聖書の神(わたし)が無意識に発した僅かなオーラを感じ取って、変な勘違いをしたんだと思う。そうであって欲しいのが本音である。

 

 司波みたいに極端な事をするつもりはないが、今後の事を考えて四十九院沓子は忘れないように記憶しておく必要がありそうだ。

 

「是非とも競技で手合わせをしたかったが、今回ばかりは女の身である事を恨めしく思うわい。因みに隆誠殿は何の競技に出るのじゃ? あ、わしの事は是非とも沓子と呼んでくれ」

 

 握手を終えると、今度は親しげに話しかけようとする四十九院、じゃなくて沓子だった。

 

 いきなり名前呼びに少々驚くも、別に構わないから気にしない事にする。と言うかこの子って俺に恭しい態度を取ってる割には、随分と親しげに接して来るんだな。

 

「アイス・ピラーズ・ブレイクだよ。沓子は?」

 

「うむ、バトル・ボードじゃ。しかしお主が棒倒しとはのう……これは一条に警告しておいた方が良さそうじゃな」

 

「? 一条って……」

 

 俺の記憶が確かなら、一条は現在十師族に連なる家だったな。

 

 となると、俺が出る競技にその次期当主が参加するという事か。

 

「何故そんな事をする必要があるんだ? 沓子は随分と俺を高く買ってるようだけど、十師族相手じゃまともな勝負にならないよ」

 

「どうかのう。わしの勘はそうでないと思っておるんじゃが」

 

 何故そこまで自信持って答えれるのかは知らないけど、少なくともこの子の勘は非常に厄介だという事がよく分かった。

 

 確かに俺が能力(ちから)を全開で競技に挑めば、間違いなくそれなりの結果を示せると断言出来る。今の時点で一条がどんな魔法を使うのかは知らないが、すぐに調べれば対策を立てて勝つ事も出来るだろう。尤も、まだ九校戦すら始まっていないこの状況で、堂々と勝てるなんて言えば、三校から総スカンを喰らう事になるので絶対言わない。

 

「買い被り過ぎだ。ところで、そろそろ戻った方が良くないのか? そちらのお連れさんらしき方々が待ってるように思えるが」

 

「ん?」

 

 俺が指した先には、沓子と同じ制服を着た女子二人が今も凝視していた。

 

 金髪ブロンドの少女は若干苛立っており、紫寄りな黒のショートヘアの少女は無表情であり、どちらも見目麗しい容姿だ。勿論、沓子もそれなりの容姿である。

 

「やれやれ、愛梨の方は相変わらず辛抱強くないのう」

 

 金髪の少女に向けての台詞だが、そこは敢えて気にしない事にする。

 

「本当ならお主にあの二人を紹介したかったが、それは次の機会にさせてもらうわい。では隆誠殿、また会おうぞ」

 

 そう言って沓子は俺に別れの挨拶をして、二人の元へと戻っていった。

 

 四十九院沓子、か。バトル・ボードに出ると言ってたから、取り敢えず後で光井と司波に教えておこう。

 

 と言っても、多分司波の事だから、俺と違って彼女の事を既にリサーチ済みだと思うが。




今回は優等生側のキャラを出しました。

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