今回はオリジナル話です。
懇親会を終えた翌日、一高を含めた各校は明日に始まる九校戦に備えて英気を養っている。
尤も、新人戦を行う一年生は大会四日目からだ。その為、同級生達の殆どは団体旅行気分ではしゃいでいた。
勿論それは俺も同様である。と言うより、俺はもう完全に単なるお遊びのイベントとしか思っていない。
九校戦に参加する者達にとっては魔法師としてのデビュー戦である為、真剣に取り組んでいる。お遊び気分でやるのは以ての外だろう。
けれど、
諸事情によって中止されてる悪魔側のレーティングゲームも遊びの一つであるが、余りにもレベルが違い過ぎる。もしも貴族悪魔達が九校戦を見たら、『お遊戯』とか言って嘲笑するだろう。
因みに俺は真剣に取り組んでる九校戦参加者達を嘲笑する気は一切無いが、生憎そこまでの熱意はない。あるとするなら、二科生の俺や司波が大成果を挙げて、一高の悪しき伝統を壊す切っ掛けになればいいと思ってる程度だ。三巨頭の真由美達なら受け入れても、他の一科生達なら大激怒するのは容易に想像出来る。
とまあ、話は少し脱線しかけたが、九校戦を只のお遊びとしか考えてない俺にとって平穏な日常の一つに過ぎなかった。かと言って、余りにだらけすぎて周囲の和を乱す事はしていない。何か呼び出しなどがあれば即座に動けるようにしている。
協調性があるように言っても、生憎と本日は九校戦前の休養日になってる為、自由行動を許可されているから一切問題無い。
先ず午前中はアルバイトとしてやってきた修哉の修行時間にした。九校戦に向けての練習期間中、剣道部へ行ってない為に一切見ていなかったから。
当の本人は『九校戦は大丈夫なのか?』と心配されるも、そこは大丈夫と言って安心させた。
ホテルの庭にある人気のない場所で軽い基礎練をやって怠けていないかと確認したところ杞憂に済んだ。それどころか、前以て用意しておいた中級用バンドを使ってて、ある程度慣れている様子で逆に安心した。
その後には竹刀を使っての実戦形式をしながら指摘、と言う事を昼食時間になるまでぶっ続けでやっていた。いつもの修哉だったらある程度休憩を入れてやるが、今回は一切無しで最後までやり続けた。
これをやって俺はある事が判明した。修哉の身体能力は当初と比べて格段に進歩した事に。今なら魔法を使った桐原と良い勝負が出来るだろうと予測する。
自分が想定した以上に段々強くなっていく修哉の成長を感じながら昼食を済ませ、午後からは自身の鍛錬時間に移る事にした。
「ふぅっ……今日はここまでだ。戻れ」
「分かった」
場所はホテルから離れた富士山付近の森。
このエリアは規制をされてて立入禁止となっている。もうお気付きだろうが、俺は無断侵入をした。バレたら大目玉を喰らうだろう。
しかし、
此処へ来た目的は自身の鍛錬をする為だった。今はもう既に夜中となっている。一応ルームメイトの司波には夜までに戻って来ると言ってあるが、そろそろ戻らないと不味い。
ついさっきまで、分身拳を使った俺と全力の実戦組手をやっていた。俺がこの世界で本気を出せる相手は今のところ、分身拳を使った俺しかいない。自分で言って凄く虚しい気持ちだが。
因みにもし結界を張っていなければ地震やら爆発が発生して、今頃ホテルにいる軍や魔法師達が大騒ぎになっているだろう。
「っ!」
そして組手を終えた分身拳の俺は、そのまま消えていく。すると、消えなかった方の俺は少しばかり表情を歪める。
分身が一人に戻ろうとする際に、さっき戦っていた俺の記憶と戦闘経験が集約されるだけでなく、痛みと疲労感も襲われるのだ。前世にやった非常にリスクのある鍛錬であるが、これによって俺は向こうにいた頃の実力をある程度取り戻す事が出来ている。
この鍛錬を魔法師がやろうとしたら、脳が崩壊すると思う。いくら演算能力が優れている魔法師でも、一度に大量の情報を一気に脳に詰め込んだら処理しきれない。それどころか暴走する恐れだってある。
決して口外する気はないが、例え魔法師が知ったところでやろうとしないだろう。と言うより、分身拳なんていう技を使えなければ絶対無理だが。
「……あと二人の俺も回収するか」
さっき消えた俺以外にも、別の場所で違う鍛錬をしている二人の分身もいる。一人は瞑想、もう一人は
瞑想している分身の俺は回収したが、ここでトラブルが発生した。もう一人の俺が凄く困惑している際、大量の精霊達が集まっていたから。
「おい、一体何が起きたんだ?」
「………本体の
俺の問いに最後の分身の俺が消えて完全に一人と戻った瞬間、すぐに記憶が引き継がれた。
どうやら
もしかしたら、
すると、分身の俺が消えた事に気付いた精霊達は、今度は本体の俺に群がり始めた。まるでお見通しだと言わんばかりのように思える。
「………呼び出して悪いが、もう戻っていいよ」
既に
精霊に自我と言うものが無いからか、俺が帰るように言っても全く訊かず、未だに纏わり付いている状態である。
もしこのまま俺がホテルに戻ろうとしたら、間違いなく付いてくるだろう。さっき試しに俺が離れて見た際、精霊達は俺の後を追うのが分かったので。
そうなれば軍や魔法師達が大騒ぎになるかもしれない。特に四十九院沓子あたりが。司波の情報で彼女は由緒正しい古式魔法師の家系だから、大量の精霊を見れば絶対騒ぐのが目に見えてる。
対処する方法としては、強制的に追い払う、もしくは消滅させればいいのだが……とてもやる気にはなれなかった。
この精霊達は悪意を持って俺の近くにいる訳じゃない。
かと言って、まともに会話が通じない精霊をどうにかしなければ………いや、待てよ。だったらいっその事、喋れるようにしてみるか。
この世界の精霊は
それを実行するにはある物が必要となる。精霊達を集約させる為の『
だけど、俺ならば可能だ。
そう考えた俺は試してみようと、両手をパンッと合わせる。徐々にゆっくり手を放すと、手を閉じていた中心から掌サイズの小さな光玉が現れた。
「精霊達に問う。この光に触れたければ集まれ」
俺がそう言った直後、自分に群がっていた精霊達は途端に我先へと光玉に入り込んでいく。
小さな光玉に大量の精霊達が一つも残らず全て収束されると、虹の如く美しい色へと変化した。漏れ出ない為の措置として、俺が更に光の膜で覆わせた後――
「精霊の集合体よ、我が前に姿を見せるがいい!」
虹色の光玉が突如、ドクンドクンと脈打っていきながら、俺の手から離れていく。先程まで弱々しく発していた淡い光が、突然周囲を覆う程の強い輝きを発した。幸い、結界を張っている為にホテルにいる者達には一切見えないので問題無い。
そして強い光が徐々に消えていくと、目の前には長い髪の見目麗しい少女が浮いていた。全裸なのは気にしないでおく。
これは驚いた。
てっきり妖精みたいな凄く小さなサイズになるかと思っていた。けど想像とは全く違って、沓子並みの背丈でありながら、胸がそれなりに大きい。これはロリ巨乳、と言うべきか?
「……ん、んぅ……」
「さっきから俺の傍にいた精霊さん、ご気分は如何かな?」
ゆっくりと目を開ける精霊の集合体に声を掛けると、それを聞いた彼女(?)は俺と目を合わせる。
「ありがとう、ご主人さまぁ……」
「え? お、おい、何してんの!?」
何を血迷ったのか、浮いている彼女(?)はそのまま突然俺に抱き付いてきた。さっきも言ったが、全裸のままでだ。
と言うかご主人さまって何だよ! 俺はただ纏わり付いてる
「!」
「どうかしたか、幹比古?」
「なんか……富士山の方角から精霊達がざわついた様な気がして……達也は感じないかい?」
「いや、俺は何も感じないが」
「そ、そうか。単なる僕の思い違いか……」
ちょっと無理があるような内容かもしれませんが、リューセーが富士山にいる精霊を擬人化させました。
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