再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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もしも隆誠が誰かの家族だったら 一条家④

 2093年4月

 

 

 

「今日からこの学校の生徒、か」

 

 此処は国立魔法大学付属第一高校。

 

 入学試験を受けて予定通り合格した俺――一条隆誠は、東京にある一条家の別宅に移住し、入学式に参加しようと一高へ来ている。

 

 金沢の実家を出る際、もう色々大変だった。

 

 俺が上京するのに今まで反対していた将輝と茜は漸く諦めてくれたんだが、瑠璃だけはずっと『いかないで』と引っ付いていた。偶には帰って来るからと何度言い聞かせた事か。

 

 家族以外にも大変な人がいた。第三高校にいる前田校長が突如家に来て、『今すぐに考えを改めて第三高校に入学してくれ!』と直談判してきたのだ。突然の不意打ちを受けた事に俺が非常に戸惑っている中、それを聞きつけた父さんが『止めて下さい、千鶴先輩!』と言って何とか抑えてくれた。既に一高の入学が決まった俺に考えを改めろと言われたのは初めての経験である。前世(むかし)の頃にも、そんな事をされた事が無かったから、どう言えばいいのか聖書の神(わたし)でも本当に分からなかった。

 

 そんな出来事がありつつも、東京の別宅に住む事になった俺は、気ままな一人暮らしとなった。父さんが護衛や使用人を連れて行こうと手配するも、そこは丁重に断り、代わりにHARだけで良いと言ってある。本格的な修行が漸く出来ると言うのに、使用人がいれば面倒な事が起きてしまうから。俺が家事を出来るのを知ってる事もあって、父さんから『一人暮らしをするからと言って、不規則な生活をしないように』と念を押された事で了承してくれた。

 

 十師族としての責務を果たす気は毛頭無いが、それでも自分を後押ししてくれた一条家の名に泥を塗るような事はしない。本当なら自由気ままな学生生活を送りたかったが、転生先が名家になった以上、ある程度の自由を諦めざるを得ない。尤も、次期当主じゃない俺はそこまで不自由ではないが、な。

 

 取り敢えず入学式を行う講堂へ向かおうと、俺は移動をしようと足を動かす事にした。

 

 

 ――おい、もしかしてアイツは一条家の

 

 ――『剣鬼』……そして『ジャッジメント』と呼ばれる戦略級魔法師クラスの

 

 ――七草や十文字だけじゃなく、一条までこの学校に入学するなんて……

 

 

 通り過ぎた際、上級生と思われる生徒達が俺を見た途端にヒソヒソと会話をしていた。

 

 どうやら、この学校は俺の事をよく知っているようだ。去年あった佐渡侵攻事件は一般人に知られないよう箝口令を敷かれてる筈だが、魔法師を目指す魔法科高校には情報が届いているって事か。

 

 まぁ、三高の前田校長が知っていたのだから、一高が知ってもおかしくはないだろう。

 

 そう考えながら、此方を見た途端に警戒し出す新入生や上級生を無視しながら、俺はそのまま講堂へ向かおうとする。

 

「チョッと良いですか?」

 

「ん?」

 

 すると、誰かが俺に声を掛けて来た。思わず足を止めて振り向くと、その先には女子生徒と男子生徒がいた。

 

 女子生徒は端整な顔立ちをしており、髪型は黒髪のフワフワした巻き毛ロング。小柄な体型でありながらも、高校生とは思えないスタイル。モデルに抜擢されてもおかしくないと断言出来るほどだ。

 

 男子生徒は厳つい顔立ちで、分厚い胸板と広い肩幅、制服越しでも分かるくっきりと隆起した筋肉の付いた体をしている。女子生徒とは違う意味で、とても高校生とは思えないスタイルである。

 

 その二人が身に纏ってる制服の両肩には、俺と同じく八枚花弁のエンブレムがある。それは即ち、彼女も俺と同じ一科生と言う事になる。

 

 因みにエンブレムがない制服もあり、それを着てる生徒は二科生である。一科生が「ブルーム」で、二科生は「雑草(ウィード)」と言う差別意識が存在していた。それを知った時には実に下らないモノだと凄く呆れたが。

 

「貴方が一条隆誠くんですね。初めまして。私は七草真由美と申します」

 

「俺は十文字克人だ」

 

「おやおや、まさか有名なお二方から、自分のような一介の生徒に声を掛けて頂けるとは」

 

 自己紹介した二人が十師族でも有力な七草家と十文字家であった為、俺は少しばかり芝居がかった挨拶をしながら非礼を詫びた。

 

 それを見た女子生徒――七草は苦笑し、男子生徒――十文字は少しばかり顰めっ面となっている。

 

 因みに俺たち三人の会話に、周囲の生徒達はざわざわと少しばかり騒いでいる。十師族同士の会話となれば、そうなるのは致し方ない。

 

「一条くんが一介の生徒だったら、私達はそれ以下になっちゃうんですけど……」

 

「『剣鬼』、もしくは『ジャッジメント』、そんな謙遜は不要だ。去年起きた佐渡侵攻事件は知っている。俺や七草とは比べ物にならないほど、遥かに上を行く実力者である事も」

 

「そうでしたか。なら此方も……その二つ名のどちらも俺は嫌いだから、出来れば普通に呼んでくれ」

 

「む……すまなかった」

 

 俺が少々睨むように警告すると、十文字は面を喰らったかのようになった後、己の非を認めるよう直ぐに頭を下げて謝罪した。

 

 怖そうな見た目とは裏腹に結構素直な性格だ。外見で人を判断してはいけない、というのは正に彼の事を言うのだろう。

 

「まぁそれはそうと、七草さん、主席の貴女が此処にいて良いんですか? 確かこの後には新入生総代の答辞をするのでは」

 

「ええ、そうですね。私と同じく(・・・・・)主席(・・)である一条くんが即座に辞退してくれたお陰で、私一人でやらざるを得なくなりましたから」

 

 あ、やっぱり彼女の耳にも入っていたか。俺が答辞を断った事を。

 

 今年の入学試験には異例中の異例が起きていた。トップの成績で合格したのが一条隆誠(おれ)と七草真由美で、二人が全く同じ成績であった為にダブル主席が誕生したのだ。

 

 今まで現代魔法をまともに使えなかったが、聖書の神(わたし)能力(ちから)で誤魔化す事が出来ると分かったので、それを今回の魔法実技試験で利用させてもらった。と言っても派手にやる気は無かったから、敢えて加減したが。それがまさか七草と全く同じ結果になったのは予想外だ。

 

 一高の教員達は驚きながらも、十師族の一条(おれ)と七草による二人で答辞をして欲しいと頼まれた。けれど、俺はすぐに断り、華がある女性の方が良いと言う理由で七草に譲る事にしている。

 

 どうやらソレは七草の耳に入ったようだ。その証拠に彼女は笑みを浮かべつつも、少しばかり怒っているような雰囲気を感じられる。改めて考えると、俺に挨拶をするついでに文句も言いに来た、と言ったところか。

 

「いやいや、見目麗しい貴女が答辞した方が良いかと思ってお譲りしたんですよ」

 

「あら、『剣鬼』や『ジャッジメント』と呼ばれてる一条くんが答辞をすれば、一高の新入生は気を引き締めてくれると思いますが」

 

「………七草、そろそろ時間ではないか?」

 

 まだまだ文句を言い足りなさそうな七草を、十文字が時間が迫ってる事を言った。

 

 それを聞いた彼女はハッとして、仕方ないみたいな感じで別れようとする。

 

「一条くん、入学式が終わったら話の続きをするから逃げないでね」

 

 さっきまでの丁寧に話していた筈の七草が、途端に親しげな感じで言ってきて俺は少しばかり面食らってしまった。

 

「……なぁ、アレが彼女の素なのか?」

 

「七草はああ見えて、意外と根に持つタイプでな」

 

「それだけ答辞を断った俺が気に入らなかったと?」

 

「恐らくな」

 

 十文字から聞いた後、俺は内心嘆息した。厄介な相手に目を付けられてしまった事に。

 

 ……まぁ良いか。前世(むかし)の頃、俺に一方的な理由で言い寄られた女性に比べれば、七草はまだまだ可愛い方だ。それ位は受け入れるとしよう。

 

「まぁ取り敢えず宜しくな、十文字」

 

「こちらこそ、一条。俺としても、お前のような強者(つわもの)が一高に入学してくれた事を嬉しく思う」

 

 本心で言ってくる十文字の台詞に、俺はチョッとばかり驚いた。

 

 あの事件以降、俺を見る魔法師の大抵は媚び諂うか、もしくは恐怖するかのどちらかだった。だと言うのに、十文字はまるで強敵のような目で俺を見ている。

 

 中には俺の実力を疑って勝負を挑んだ魔法師達もいたが、魔法を使わず身体能力だけで倒されて完全に自信喪失となっていた。事件以前から俺を見下していた連中だったので、同情する気なんて毛頭無いが。

 

「言っておくが、今まで俺に勝負を挑んできた奴等は、一人も残らず俺に全敗してるぞ。出来れば十師族の君には、そのような目に遭って欲しくないんだが」

 

「それは要らぬ心配だ。十文字家次期当主の俺としては、高い壁があるほど燃える性質なのでな。何度でも挑ませてもらうぞ」

 

 つまり、勝つまで俺に何度も勝負を挑むって事か。若いねぇ……って、俺も今は若いんだった。

 

 この出会いによって、一条(おれ)、十文字、七草の十師族三名の他、後に知り合う事になる渡辺摩利が、一高を支える柱――『四巨頭』と称される世代となる。




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