再び時間は遡る。
九校戦の昼休憩時、達也は深雪達と一旦別れて高級士官用客室へ向かっていた。
そこは魔法科高校の生徒達が利用してる所と違い、軍属の士官しか使う事が許されない場所となっている。
達也が何故そんな場所へと来ている理由は、彼の上司であり、旧知でもある独立魔装大隊の隊長・
隆誠はまだ知らない事だが、達也は独立魔装大隊に所属してる軍人で「特尉」の階級を与えられている。と言っても、それは「准士官」の意味ではなく、「国際法上の軍人資格を持つ非正規の士官」としての意味である。独立魔装大隊で作戦行動に従事する時のみ命令系統に従う事を約しているだけに過ぎない。
ある意味軍のはみ出し者みたいな扱いだと思われるも、実はそうでもない。寧ろ重宝されているからこそ、独立魔装大隊に所属していると言った方が正しいのだ。上司である風間以外にも、他の隊員達からも信頼されている。
達也が訪れた際、風間達は快く歓迎し先程まで談笑をしていた。最後に風間からちょっとした釘を刺されたが。万が一に選手として参加した場合、決して軍事機密指定の魔法を使わないようにとの事だった。
「ところで達也、以前から目を付けている兵藤隆誠の事なんだが」
突如、風間がそう言った事に達也は紅茶の入ったカップに口を付けるのを急に止めた。
「確かこのホテルで君と同室だそうだな。大丈夫なのか?」
「問題ありません。今のところは」
「今のところは、って……やっぱりまだ完全に気を抜ける相手じゃないって事なのね」
風間と達也の会話に割って入る女性士官――藤林少尉が少々心配そうに言った。
「確か達也くんの報告によると、四月に起きた事件の際、第一高校の図書館にある特別閲覧室前の大型扉に施された強固な魔法式を綺麗に消したそうだね」
「他にも相当な身体能力の持ち主である上に、秘伝同然の技を使いこなす実力者であるとも聞いたな」
男性士官――真田大尉と柳大尉が興味深そうに言う。
隆誠の実力に関しては別として、特別閲覧室の扉はブランシュの仕業と情報公開されてるが、軍に所属してる達也は独立魔装大隊にのみ真実を話していた。
その報告を聞いた風間達は達也ほどでないが、隆誠を要注意人物として見ている。
特に風間は彼等と違って色々と思う点があった。自身の師である九重八雲が隆誠と手合わせを苦戦をした他、どこの流派にも属していないと聞いて内心かなり驚いていたので。
「藤林君が調べても、兵藤隆誠は第一高校に入学する前までは只の一般人だったそうだな。そんな人物が達也を警戒させるとは……実に興味深い。是非とも人体実験をして調べたいものだ」
「先生……」
「冗談だよ。そんな怖い顔をしないでくれ」
医者であり一級の治癒魔法師でもある軍医――山中少佐の発言に藤林が睨んだ事により訂正した。要注意人物であっても、守るべき市民にあるまじき行為をする事は大問題なので。
仮にそんな展開になれば隆誠は……多分ここから先は分かると思うので省くとする。
「その彼が今回の九校戦で魔法主体のアイス・ピラーズ・ブレイクに参加するみたいだが、どれほどの実力だ?」
「残念ですが不明です」
「? 技術スタッフの君が担当している筈ではなかったか?」
予想外の返答が返って来た事に訝る風間だが、達也は再度返答する。
「多忙である自分に気を遣ったのか、兵藤が独自にやると言い出したんです。恐らく何かしらの意図があって遠ざけようとしたんでしょうが、多忙なのは否定出来なかったので敢えて向こうに合わせました。一応『何かあればいつでも呼べ』とは言いましたが、九校戦が始まった今も結局分からず仕舞いでして」
「あらあら」
達也が学校で色々と忙しい事を知っているのか、藤林はクスクスと笑っている。流石の彼でも、要注意人物を見る余裕が無かったかと思いながら。
「……まぁ、そういう理由なら仕方あるまい」
風間も同様の事を思っているようで、特に咎めようとはしなかった。それどころか、自分も達也に仕事を依頼して負担を掛けている要因である事を自覚しているかもしれない。
そんな心中とは別に、達也はこう言い切る。
「ですが、これだけは言えます。兵藤はそこら辺の魔法師とは違い、今回の競技で予想外の結果を示すかもしれません」
「そこまで言うほどの選手か……」
この発言に風間は内心驚いていた。
要注意人物とは言え、以前まで普通の一般人であった兵藤隆誠を過大評価しているとも言える達也の発言は完全に予想外だった。
けれど、風間としても分からなくもない。そんな警戒する相手が今まで自分達の耳に入らなかったのだから。
信頼している部下からの報告を聞きつつも、兵藤隆誠が出る競技を見る必要がありそうだと考え始める。
「そう言えば、ピラーズ・ブレイクには一条の
「まだ兵藤の実力を見てないから何とも言えませんが、もしそうなれば十師族が黙っていないでしょう」
高校生の競技だからと言って、百家ですらない一般人同然の魔法師が勝ってしまえば、十師族の力を疑い始める者が必ず現れるだろう。それを払拭させる為の措置として十師族側も何かしらの手を打とうとする。
達也と藤林の会話を聞いている風間も同感だと言わんばかりに内心頷いていた。十師族に冷ややかな感情を持っている彼としても、達也が考えている事を絶対にやりそうだと予測している。
隆誠が出る競技を見るか見ないかと少々悩んでいたが、やはり見ておかねばならないと考えを改める事にした。
☆
九校戦一日目を終えた深夜の午前二時頃。
ホテルの一室に、二人の少年がベッドで眠りに付いている。
「…………すぅ………すぅ……」
「………………よし」
突如起き上がった一人の少年は、
そして――パシャリと言う音がした。
☆
2095年8月4日/大会二日目
「うわっ、なんか気の毒に思えてくるな」
大会二日目の午前、俺はアイス・ピラーズ・ブレイクの試合会場で試合を観戦していた。今は男子の方で十文字の試合を観ている。
今回此処に来たのは試合の参考にする為だ。俺もこの競技に参加する予定なので、試合の流れと言うものを把握する目的で来てると言う訳である。
因みに修哉と紫苑は昨日と同じく別行動してるが、ちょっとばかり違う。修哉は桐原が出る男子クラウド・ボールで、紫苑は千代田が出る女子アイス・ピラーズ・ブレイク。
何でこうも三人別々なのかと言うと、修哉は桐原の応援に来た壬生の付き添いで同行し、紫苑は千代田から絶対観に来るように言われたのだ。
最初に他校の試合も当然観たのだが、正直に言わせてもらう。氷柱を壊すのに時間が掛かり過ぎだ。俺だったら手っ取り早く終わらせる自信がある。
これまでの試合内容を纏めて言うと、相手の氷柱を数本破壊した後、自陣の氷柱に情報強化と言う名の防御。殆どそれの繰り返しだった。
遠距離魔法をメインに使うリアスや朱乃が見たら間違いなく苦笑するどころか、いまいちな反応をするに違いない。余りにも効率が悪いやり方だと。
俺達だったら、無駄に時間を掛けないで12本の氷柱を一気に破壊する。俺は光の槍か光弾、リアスは魔力弾、朱乃は雷撃という方法で。
とは言え、それはあくまで前世での基準に過ぎない。他所の世界から来た俺がこの世界の基準に合わせる事自体が間違っているのだから、ああだこうだ言う資格なんか一切無い。
それとは別に、見応えのある試合があった。今観ている十文字の試合がさっきまでと違う。
相手側が氷柱を破壊する魔法を使うも、十文字は多重移動防壁魔法――『ファランクス』を展開し全て簡単に防いでいた。相手がどんなに攻撃魔法を仕掛けても全然崩せず、もう諦めかけている表情を見せていた。
直後、攻撃が止むのを見て反撃に移ろうと展開させた障壁で氷柱を全て叩きつけて破壊すると言う豪快な手際で圧勝。他校とは言え本当に気の毒だ。あそこまで力の差を見せ付けられたのだから。
流石は十師族と言うべきか、真由美と同様に圧倒的な力を見せて勝利するとは。
何だかまるで十師族の力を見せ付けているように思える。自分達に勝てないと思わせるようなやり方のように見受けられるのは俺の気のせいだろうか。尤も、日本で最強の魔法師の家系である十師族が負けたとなれば、それはそれで問題となるだろうが。
そう言えば、俺が出る新人戦アイス・ピラーズ・ブレイクに『一条』が出るって沓子が言ってたな。もしも俺が圧勝したら、一体どうなるのやら。何事も無くそのまま放置、なんて甘い展開は無いと見ていい。何かしらの手を打ってくると考えるべきだ。
「さて、行くか……」
十文字の試合結果に満足した俺は、会場を後にする。今度は女子のアイス・ピラーズ・ブレイクを観に行く予定だ。戦い方は男子と同じだと思うが、個人的に千代田がどんな戦い方をするのかが気になる。
因みに俺が立ちあがった際、試合を終えた十文字が此方を見ていた。気付いた俺は『お見事です』と言う表現をした後、ペコリと頭を下げて後にする。
☆
「紫苑、千代田先輩の戦い方はどうだった?」
「……何と言うか、まぁ……花音先輩らしいと言うか……」
午前中にやった一回戦の内容を聞こうと、隣の席に座っている紫苑から聞き出すが苦笑するばかりだった。
聞いた話によると、千代田は一回戦を最短時間で勝利したという話だった。なので一体どんな方法でやったのかを知ろうと、彼女の試合を直接観ていた紫苑に聞くつもりだったのだが、今も凄く歯切れが悪い表情だ。
「と、取り敢えず見れば分かるわ」
「? まぁ、お前がそう言うなら……」
丁度良く二回戦、千代田の試合が始まろうとする合図と共に地鳴りが生じた。
そうなっているのは、相手側にある氷柱の地面からだ。そこには魔法式が展開されている他、直下型地震に似た上下方向の爆発的振動が起きて、相手陣内の氷柱が一度に二本、轟音を立てて倒壊していく。
「あれって、もしや地雷に関する魔法か?」
「ええ。千代田家の『地雷源』で、振動系統・遠隔個体振動魔法なんだって」
「よく知ってるな」
「部活の時、花音先輩が私に教えてくれたのよ」
それを聞いた俺は納得した。
千代田は後輩の紫苑を凄く気に入ってるから、訊かれた際にアッサリと教えたと思う。流石に細かな事までは教えてはいないだろうが。
そう考えてると、ここで予想外な展開が起きていた。
防御をしても立て続けに氷柱を倒されてる事に、相手選手が防御優先から攻撃優先に戦法を切り替えている。
俺が今まで見た試合では相手が攻撃優先になった際、防御に切り替えるのが当たり前であった。
だと言うのに、千代田は自陣の氷柱が倒されているのを見ても全く気にしないどころか、相手陣内の氷柱を倒す事に集中して『地雷源』を放っている。
「はぁっ。また同じ事してるわ」
「……もしかしてあの人、一回戦の時にもあんな戦い方をしていたのか?」
防御無視+攻撃特化の戦法を見た俺が呆れながら問うと、同様に呆れている紫苑が間を置きながらもコクリと頷く。
……まぁ、確かに戦法としては間違ってはいない。それと同時に最短時間で勝利した理由がよく分かった。紫苑が呆れている事も含めて。
俺達が呆れながら観ている中、敵陣の氷柱を全て倒して勝利した千代田がスタッフ席に向かってVサインを作って見せている。恐らくそこには彼女の婚約者である五十里がいるんだろう。
「なぁ紫苑、千代田先輩は三回戦でも同じ事やるかな?」
「……間違いなくやると思うわ。あの人、小難しい戦法とか考えるタイプじゃないから。部活の時も常に真っ直ぐ突き進んでるし」
遠回しに言ってるけど、要するに単純なやり方しか出来ないって事か。
まぁそれでも、あの戦法は充分有効なのは間違いない。恐らく三回戦も問題無く勝つだろう。
千代田の大雑把な性格に加え、魔法スピードや『地雷源』の威力を考えれば、相手は逆に戸惑ってやられるのが想像出来る。
「確かリューセー君もピラーズ・ブレイクに出るのよね?」
「ああ。俺がやるのは五日目で、三日後にやる予定だ」
「楽しみにしてるわ。その時には修哉と一緒に必ず応援しに行くから」
「ははは。お前達に見られるのを考えると、それはそれで凄く緊張するなぁ」
友人の前で無様な姿を見せたりする気は無いのだが、張り切り過ぎて力加減を誤らないようにしないといけない。
そして三回戦に行われた千代田の試合は予想通りと言うべきか、全く同じ戦法で勝利するのであった。
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