「え? 負けた?」
「ああ。全員予選落ちだ」
千代田が三回戦進出を決めたのを確認した俺と紫苑は会場を後にして、既に試合を終えてる男子クラウド・ボールの結果を聞く為に修哉と合流する。結果を聞くも予想外の返答が返ってきた。驚いているのは俺だけでなく、紫苑も同様の反応を示している。
今回の男子クラウド・ボールには剣術部の桐原や、他のメンバー二人は予選通過出来る実力者揃いだった。例え優勝出来なくても二位、三位、四位を狙えると真由美や市原から聞いている。
そんな予想を裏切るかのように、三人が揃って予選落ちだと修哉から聞いたのは寝耳に水だ。恐らく、天幕にいるであろう作戦スタッフの市原は内心慌てているだろう。既にポイントの見通しを計算し直している筈だ。
因みに桐原は二回戦敗退だ。相手は優勝候補の三高エースとぶつかってセットカウント三対二、総得点差八点で惜敗だったと。尤も、その優勝候補は桐原との試合で相当体力を消耗していた為、三回戦でストレート負けしたそうだが。ある意味、痛み分けと言えるだろう。
「桐原先輩はどうしてる?」
「余り落ち込んだ様子じゃなかったけど、今も紗耶香先輩が元気付けてる最中だ」
「そうか……」
気丈に振舞っているのかどうか分からないが、一先ずはそっとしておくとしよう。益してや後輩の俺が声を掛けて慰めたところで、却って傷つけてしまう恐れがある。
後ほど聞いたが、司波が桐原に会って『くじ運が悪かった』だの『痛み分け』と言って、事実だけを告げていたそうだ。それを聞いた桐原は爆笑していたとか。
何か司波って妙にズレた事をしてる感じがする。これがもしも自分の妹だったら、物凄く気を遣った慰め方をしてるだろうが。
☆
「兵藤、突然だが硬化魔法を使えるか?」
「取り敢えず使えるとだけ答えておく」
二日目の九校戦が終わり、時刻はまだ夕食前。
食堂の割り当て時間はまだ余裕がある為、一旦割り当てられた部屋に戻る事にした。
そこでルームメイトの司波がダイヤルロック式のハードケースに入っている中身を確認していて、俺が戻って来て咄嗟にしまおうとする仕草を見せるも、何か考え直したかのように突然聞いてきた訳である。
「そのケースの中身に関係する事か?」
「ああ。剣を使いこなすお前に丁度良いと思ってな。コレを見てくれ」
「どれどれ……」
司波に促された俺は机の上に置かれているハードケースの中身を見よう近付く。
入っているのは『剣』らしき物だった。ナックルガード付きのミドルソードで、全長七十センチ、刃渡り五十センチ程度の片手剣と言ったところだ。
しかし、コレに刃はついていない。敢えて言うなら金属製の木剣、もしくは剣の柄が付けられた平べったい棍棒みたいなものだろう。取り敢えずは模擬剣と思えば良い。
明らかに異質な武器だが、司波が硬化魔法について聞いてきたから恐らくCADだろう。
「で、この武器と硬化魔法に何の関係があるんだ?」
「それはだな――」
司波が説明している最中、ドアがノックされた。
気配とオーラからして、司波妹やレオ達が来たのだと察する。
因みに修哉と紫苑はいない。あの二人は食堂で落ち合う予定となってるので。
ともあれ中断する事に変わりないから、しまっておこうかと尋ねるも、司波がその必要は無いと首を横に振った後、ドアに近付いて開けた。
数秒後、司波妹を先頭にエリカ達も続々と入ってくる。
その後に光井、北山、柴田と続き、レオ、吉田で打ち止めだ。
端から見ればレディファーストのように思えるだろうが、何だか力関係に見えるのは俺の気のせいか?
それは別として、随分と大人数で来たもんだ。少し広めの二人部屋とは言え、これだけの人数が一度に押し掛けると手狭になってしまう。
既に椅子とベッドだけでは足りない所為か、エリカが机の上に座っている。本当ならだらしないぞと言いたいが、座る場所が無い為に見過ごす事にした。司波も同様の事を考えているのか、敢えて何も言わないでいる。
「あれ、隆誠くん、手に持ってるのって……」
「コレか? 司波が知り合いの工房に製作依頼した武装一体型CADだと、途中まで聞いててな」
「へぇ……」
俺が手にしている模擬剣を興味深そうに見ながら、先端部分をつんつんと指で突く。
そのやり取りに反応したのは二人だ。
一人目は司波妹で、ハッとしたような表情で隣にいる兄に小声で確認していた。毎度の事ながら必ず兄の近くにいるが、もう気にしないでいる。
続いて二人目はレオだ。俺が武装一体型CADと聞いた瞬間にピクリと反応して、何やらソワソワしながらチラチラと此方を見ている。恐らくエリカが近くにいるから躊躇っているんだろう。
「なぁ司波、コレは俺よりレオで試した方が良いんじゃないか? 硬化魔法をメインに使ってるって前に言ってたし」
「いや、出来れば兵藤の方が良い。
『?』
司波からの返答に俺だけでなく、この場にいる全員が揃って不可解な表情をしていた。
☆
武装一体型CADのテストは夕食後となった。今は九校戦会場外にある、屋外格闘戦用訓練場で行おうとしている。
この場所を借りる手配をしたのは司波ではなくエリカだった。当然千葉家のコネを使って借りた。
コネの使い方を間違ってるんじゃないかとツッコミたかったが、折角試す機会を提供してくれたので俺と司波は敢えて何も言わないでいた。
「兵藤、使い方は理解したか?」
「一応な」
夕食前に司波からマニュアルとして、スピーカーが一体となったミラーシェード型
見た内容としては、少々面白い使い方だ。多分だけどアザゼルが見たら興味を示すかもしれない。
それとは別に、この訓練場はホテルから歩いて三十分程の距離の場所である。
今は昼間でなく夜中。益してや此処は山の中の軍事演習場だ。大勢、特に女性陣が来るのは問題だから、この場には俺と司波しかいない。
自分も同行すると司波妹とエリカが頑強に抵抗していたが、司波兄達がどうにか説き伏せてホテルに残してきた。
コッソリ抜け出して後をつけるだろうと内心思った俺は、二人を見張っておいた方が良いと提案した。
そんな必要は無いと強く反発する二人だったが、司波はすんなりと受け入れ、司波妹の監視を光井、エリカの監視を柴田に頼んだ。それにより司波妹とエリカは揃って俺を恨みがましく睨んだのは言うまでもない。
あの睨み方からして、俺の推測は正解だったと改めて認識した。一応司波に確認してみるも、やはり俺と同じ考えだったようだ。もしあの二人に監視を付けなかったら、絶対抜け出して此処に来るだろうと。
「では、始めてくれ」
「分かった」
模擬剣を手にしてる俺は軽く構えてグリップ上端のトリガーを人差し指で押し込みながら、
直後、刀身部分が突然スポンッと抜けるように勢いよく飛び出していった。大体数メートルほど飛んだが、そこでピタリと止まって空中停止している。
「おおう、本当に浮いたな」
「……………」
俺が面白そうに言いながら刀身が半分以下になった模擬剣を軽く振ってる中、司波は少し驚いているのか無言になっていた。
因みに空中に浮いてる剣は俺の動きに合わせて、刀身の片割れが孤を描いて飛び回っている。
「三、二、一」
司波のカウントを耳にして、すぐに手を止めた。
「ゼロ」
そのカウントと共に、空中に浮いていた刀身が勢いよく手元に戻り、鍔元に残った刀身の切れ端と噛み合い、再び一本の模擬剣に戻った。
「取り敢えず成功、で良いんだよな?」
「ああ。尤も、ほんの僅かで刀身を飛ばすお前の凄さに驚かされたがな」
「そうかい」
若干呆れ気味に言い放つ司波の台詞を誉め言葉として受け取っておいた。
しかしまぁ、司波は中々面白い物を思い付いたものだ。俺が知る限り、この世界で初めて見る代物だ。
「にしても司波、随分と面白い事を考えたな。相対位置を固定する硬化魔法をこんな風に利用するなんて」
「硬化魔法だからって、接触している必要は無い。このデバイスの作動形態は『飛ばす』と言うより、『伸ばす』の方に近いだろう。間が中抜けになってるだけで、刀身の延長線上でしか動かない」
「成程な」
要は長い剣を振るものだと考えれば良い。
ついでに司波から模擬剣の構造を教えてもらった。
どうやらこれは電流反応型の形状記憶合金となっていて、刀身が着脱する瞬間に電流を流して嚙み合わせを外しているらしい。その際、魔法を解いてる状態で強い衝撃を与えれば、刀身部分がポキッと折れてしまう可能性があるようだ。
「確認するが、これって間合いの調整も可能か?」
「不可能ではないが難しい……と言っても、兵藤なら問題無いだろう」
どうやら可能みたいだ。
そう思いながら再び刀身を飛ばし、自分にとって好ましい長さに調節してみると、司波の言う通り問題無く出来た。
「なら次は実技テストだ。今度は標的に当ててくれ」
司波がノート大のタブレットを操作すると、地面から実物大の藁人形が三体突き出てきた。
誰の趣味かは分からないが、随分とレトロな代物だった。今は再生可能なバイオ素材が主流となっている。
けど、試し斬りの相手には申し分ない相手なので文句はない。
再びスイッチを入れて刀身を飛ばした俺は即座に、自分と藁人形の距離を把握し、一歩も動かないまま横に振って二体を叩き潰した。
「凄いな。まだ使って間もないのに、アッサリと使いこなすか」
「それだけこのCADが凄いって事だよ。じゃあ今度は……」
司波からの称賛を素直に受け止めながら刀身を戻す。
残り一体となった藁人形だが、俺はある事を試そうと、模擬剣の切っ先を藁人形に向け、同時に腕も真っ直ぐ伸ばす。
「兵藤、一体何をする気だ?」
「見れば分かる。………ほいっとな!」
「っ!?」
俺がスイッチを押した瞬間、分離した刀身はロケット噴射したかのように飛び出していき、そのまま藁人形に激突して倒れた。
「おっとと……ふぅっ。どうだ司波? 『ロケットパンチ』みたいな要領でやってみたんだが」
「……そんな使い方をするのはお前だけだと言っておこう」
流石の司波も予想外で唖然とするが、それでも凄く参考になったそうだ。もしもレオだったら、ここまで使いこなす事は出来ないだろうと付け加えて。
「まぁ取り敢えずはこれで、万が一の場合に備える事が出来たから良しとするか」
「何だ? その万が一って」
「気にするな。俺の独り言だと思ってくれ」
俺が改めて問うも、司波は何でもないようにはぐらかされる始末で、結局諦める事にした。
それがどう言う意味なのかを俺が知る事になるのは、モノリス・コード新人戦で予想外の出来事を知った後からになるのであった。
感想お待ちしています。