再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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今回は短いです。


九校戦編 九校戦⑥

「凄いじゃない! 快挙よこれは! 一高が三位まで独占なんて!」

 

「選手が頑張ったからですよ」

 

 女子スピード・シューティングの決勝が終わった正午。

 

 第一高校の天幕は、浮ついた雰囲気に満たされていた。

 

 結果として一位が北山、二位が明智、三位が滝川と、一高の女子チーム全選手が上位独占と言う快挙となった。

 

 それを見た真由美が大喜びしながら司波の背中をバシバシと何度も叩いている。痛みは無いだろうが、叩かれてる司波も流石に辟易している様子だ。

 

「エンジニアである司波の助力もあったからこその結果だと、俺は思うんだが」

 

「リューセーくんの言う通りだぞ。これは間違いなく快挙だよ」

 

 俺の台詞に頷きながら、上機嫌な顔で摩利も真由美と同じく称賛していた。 

 

 因みに俺が天幕にいるのは北山に呼ばれたからで、彼女と会って早々『予選を観てなくてゴメンナサイ』と謝っている。いきなりの事に北山は戸惑いつつも、『次からはちゃんと守るように』と許してくれた。と言っても、スイーツを奢らされる破目になったが。

 

「特に北山さんの魔法については、大学の方から魔法大全――『インデックス』に正式採用するかもしれないとの打診が来ています」

 

 司波を称賛している中、市原の言葉に誰もが驚いていた。

 

 確か『インデックス』は、国立魔法大学が作成している魔法の百科事典に収録された魔法の固有名称の一覧表だったな。これに登録される事は即ち、『能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)』は新種魔法として独立した見出しが付けられる他に、魔法開発者にとって一つの目標とされている名誉でもある。

 

(止めた方が良いと思うけどなぁ……)

 

 しかし、俺としては内心反対だった。

 

 確かに『能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)』は凄い魔法だ。インデックスに登録してもおかしくはないだろう。

 

 九校戦のような競技で使うには心配ないのだが、もし実戦で使ったらどうなるだろうか。

 

 あの仮想領域に捕らわれて術者が引き金を引いた瞬間、クレーは瞬時に破壊された。もし無機物でなく人間相手に使えば……間違いなく絶命するだろう。全身の骨が砕かれた血袋となって。

 

 だから登録するのは止めた方が良いと進言したかったが、流石にこの状況でそんな事を言えば確実に空気が読めない発言となるだろう。

 

 どう言おうか判断に迷ってると――

 

「そうですか。開発者名の問合せには北山さんの名前を回答しておいてください」

 

「そんな!? ダメだよ! あれは達也さんのオリジナルなのに!」

 

 司波が興味無さそうに返した事に、北山が大慌てで詰め寄った。

 

 驚いたな。まさか向こうから辞退するとは。俺はてっきりクールなまま受け入れると思っていたんだが。

 

「北山、取り敢えず落ち着け。司波がそう言うって事は何か理由がある筈……と思っていいんだよな?」

 

「勿論だ」

 

 確認するように尋ねると、司波はコクリと頷いた。

 

「じゃあ教えてくれ。そうしないと周囲が納得しないだろうし」

 

「俺は、自分の名前が開発者として登録された魔法を、実際には自分で使えないなどという恥を晒したくないだけだ」

 

 確かに新種魔法の開発者として名前が知られれば、その魔法の実演を求められる事はよくある。

 

 そこで「使えない」と言えば、実は他人が開発した魔法を横取りしたんじゃないかと疑われるだろう。

 

 けど、司波がそれを理由にするのは少しばかり無理がある。

 

「じゃああの魔法はどうやって作動確認したんだ?」

 

 魔法を開発しておいて、一切確認せず他人に使わせるのはリスクを無視した愚かな行為で、著しくモラルに反する。司波がそんな事を到底するとは思えないんだが。

 

「全く使えない訳じゃない。ただ発動するまでに時間が掛かり過ぎて、『使える』というレベルじゃないということだ」 

 

「そう言うことか。……だそうだぞ、北山」

 

「……………」

 

 一通りの理由を聞き終えた俺は納得するも、北山は全然納得行かない表情のままだ。

 

「まあまあ、今はそんなことで口論しなくていいじゃない。せっかく幸先の良いスタートを切ったんだし」

 

 そこを真由美が間に割って入り、笑顔で司波の肩を軽く叩きながら空気を戻したのであった。

 

(幸先の良い、か。だと良いんだが……)

 

 女子スピード・シューティングは何事も無く終わったから良いものの、その後の競技がどうなるかは分からない。

 

 それは俺でなく、近くにいる司波もそう考えているだろう。

 

 

 

 

 

 

 午後から男子スピード・シューティングが始まろうとしてるが、それに興味の無い俺は昼食を済ませた後、ホテルへ戻っていた。

 

 その為、後ほど女子バトル・ボードで光井の出る試合を観に行く予定である。彼女の出走は第六レースで一番最後となってるから、まだ二時間近く余裕があるので戻ろうとしている訳だ。

 

 因みに修哉と紫苑だが、午後からアルバイトの時間となっている為、既にホテルへ戻っていた。それは当然エリカ、レオ、幹比古、柴田も同様である。

 

 なので現在一人行動をしている俺は、光井の試合が始まる前までホテルの部屋で時間を潰そうと考えていた。司波の方は緊張しているであろう光井の様子を見に行こうと、既にバトル・ボードの会場へ向かっている。

 

 部屋で時間潰すよりもレイとディーネの様子を見に行くって選択も――

 

「おお、隆誠殿ではないか!」

 

「ん?」

 

 すると、誰かが俺を呼ぶ声がした。

 

 それに反応した俺が振り返ると、懇親会の時に出会った三校の女子――四十九院沓子が何故か嬉しそうな表情で駆け寄ってくる。

 

「誰かと思えば沓子か。懇親会以来だな」

 

「うむ、久しぶりじゃの!」

 

 久しぶり、か。まぁ確かに同じホテルにいて懇親会から六日経っても全然鉢合わせする事無かったから、確かにそうかもしれない。

 

 予想外の再会に内心驚くも、俺と沓子はその場で談笑を始めようとする。

 

「そう言えば、君の連れである十七夜選手は大丈夫なのかい? 午前にやったスピード・シューティングで一高(ウチ)に負けて結構落ち込んでいたみたいだけど」

 

「大丈夫じゃ。わしの直感(・・・・・)では、直に戻る予定じゃ」

 

「ほう、それは実に厄介だな」

 

 随分確信持った言い方だ。この子が此処まで断言するという事は、もしかしたら本当にそうなるかもしれない。

 

 人間の直感と言うものはバカに出来る物じゃないと、前の世界で充分身に染みている。だから俺は決して侮ったりせず、真摯に受け止めている。

 

 そう思ってると、沓子は何故か突如俺のニオイを嗅ぐように鼻を近づけている。

 

「おい沓子、何をしてるんだ?」

 

「何故か分からぬが、隆誠殿の身体から水の精霊らしき気配と匂いがしてのう」

 

「はぁ?」

 

 そう言えば司波からの情報だと、四十九院って家系の古式魔法師は水に関する魔法を得意としているって言ってたな。

 

 恐らく沓子は、午前中に引っ付かれた水の精霊(ディーネ)の残滓を感じ取ったかもしれない。古式魔法師ならではの感知能力とでも言うべきか。

 

「聞いた話によると、この富士山周辺にはたくさんの精霊がいるそうだから、偶然俺の体に付いたんじゃないのか?」

 

「う~む……。精霊は余程の事が無い限り、自ら人間の身体に付く事はしない筈なんじゃが……隆誠殿、もしや何かわしに隠しておるのではないかのう?」

 

「いや、言ってる意味が分からないんだが」

 

 鋭いなぁ、この子は。もしかすれば直感が働いているかもしれないな。

 

 とは言え、流石にディーネの事は口外出来ないので、ここは何とか誤魔化すしかない。

 

「それはそうと、沓子は確かバトル・ボードに出ると言ってたな。もう試合は終わったのか?」

 

「いや、これから会場に向かって準備をするところじゃ」

 

「そうか。だったら早く行くと――」

 

「折角じゃから、隆誠殿もわしと一緒に付き合ってくれぬか」

 

「は? お、おいちょっと!?」

 

 会場へ行くのを促すも、沓子が突然俺の腕を掴んで、そのまま会場へ連れて行かれるのであった。

 

 振り払う事は勿論出来るんだが、何故か断ってはいけないと自身の謎の直感が働いた為、結局されるがままとなってしまう。

 

 それと沓子、出来れば腕に引っ付くのは止めて欲しい。ただでさえ他校生だと言うのに、一高生徒に目撃されたら絶対誤解されてしまうんだが。

 

 

 

 

 

 

「え、ええ!? な、何で兵藤くんが三校の人と仲良く一緒にいるの!?」

 

「お前達、本当に一体どういう関係なんだ?」

 

 ほら見ろ。会場にいる光井と司波から完全に誤解されたじゃないか。

 

 一応誤解は解いておいたが、司波はともかく、光井の事だから絶対誰かに言うだろう。

 

 その後には沓子の試合を観るも、水面に干渉する魔法を使った事によって圧倒的一位で予選通過となった。

 

 そして次に行われた肝心の光井の試合だが、明らかに司波の入れ知恵だと思われる作戦勝ちで、沓子と同様に一位で予選通過である。

 

 因みに俺が司波の入れ知恵と思われるところについてだが、絶対に光井が使わないであろうサングラスを掛けて、スタート開始直後に閃光魔法で目潰しを喰らわせていた。そんなセコイと思われる作戦を光井や、技術スタッフである中条が考える筈がないと断言出来る。

 

 新人戦一日目が終わり、明日は漸く俺が出る競技――アイス・ピラーズ・ブレイクが開催される予定だ。無様な結果は見せないように頑張るとしよう。




もう飛ばし飛ばしと書いてる状態です。

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