再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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九校戦編 九校戦⑧

 控え室で準備を済ませた俺は、いつでも動ける万全な状態となった。

 

 五十里に最終チェックしてもらった汎用型CADに何の異常も無いのも確認済みだ。彼を信じていない訳ではないが、自身の能力(ちから)を使って見てみるも、本当に大丈夫だったので少し安堵している。

 

「兵藤君は制服のままで行くのかい?」

 

「あたしはてっきり剣道着で行くと思ってたわ」

 

「俺としてはこっちの方が良いんで」

 

 アイス・ピラーズ・ブレイクは遠隔魔法のみで氷柱を倒す、あるいは破壊する競技である。

 

 その為、この競技に選手の服装は一切影響しない。但し、CADを構えるのに邪魔になる等と言う服装は論外だが。

 

 ルール上で服装に対する規制は、『公序良俗に反しないこと』と言う唯一つだけだ。

 

 詳しい事は分からないが、女子アイス・ピラーズ・ブレイクは一種のファッション・ショーの様相を呈しているらしい。もしかすれば一般客もそれ目当てで来てるかもしれない。

 

 現に目の前にいる千代田が、九校戦二日目と三日目の本戦に出場していた際に私服と殆ど変わらない格好だったと言えば分かるだろう。

 

 恐らく彼女と同じ競技に出場する明智と北山、そして司波妹も制服以外の衣装を身に纏う筈だ。

 

「それじゃ行ってきます」

 

「頑張ってね」

 

「啓がチェックしたんだから、負けたら承知しないわよ」

 

 控え室を出てステージへ向かう俺に、二人は俺にエールを送ってくれた。

 

 

 

 

 

(え~っと……修哉に紫苑、壬生と桐原、E組のレオ達に、三巨頭の真由美達がいるな)

 

 ステージに立って観客達の前に姿を見せてる俺は周囲を見渡しながら、次々に一高関係者達を見付けていた。

 

 対する俺の相手は第四高校で、俺と違って制服でない衣装だ。

 

 格好良く見せたいのかどうか分からないが、身に纏っているタキシードに加えてマントを羽織っていた。何だか見てて痛々しく見えるのは俺の思い過ごしだろうか。

 

 まぁ今は多感な時期である高校生だから、ああして格好良い衣装を着たい気持ちは分からなくもない。けれど後々になって、封印しなければならない黒歴史になると心底後悔するだろう。『何で俺はあんな格好をして人前に姿を晒したんだ!?』みたいな事を言って。

 

 そんな非常に如何でも良い事を考えていると、不意に憶えのある一つのオーラを感じた。周囲にいる観客席ではなく、来賓席側からだ。

 

(何であの爺さん此処に来てるんだよ……)

 

 チラッと来賓席側の方へ視線を向けると、一昨日に出会った老人――九島烈が最前列の席に座っているのが見えた。

 

 視線に気付いたのか、九島は俺と目が合った途端に笑みを浮かべていた。何だかまるで『期待している』と言ってるように聞こえる。

 

 ああ言う超大物は普通、VIPルームにあるモニターで観戦すべきだろうに。大方、俺が使う魔法を直接観たくて態々足を運んで此処へ来たってところだろう。

 

 別にプレッシャーなんて微塵も受けてないが、九島の爺さんが直接観に来たからには、普通の勝ち方でやる訳にはいかないようだ。

 

 本当だったら本戦で戦っていた選手達と同じく、無駄に時間を掛けて勝つつもりでいた。攻撃→防御→攻撃、と言う繰り返し行為を。

 

 しかし、もうその選択は捨てる事にした。どうせあの爺さんの事だから、このまま普通にやったところで絶対納得しないだろう。『次は是非とも本気でやって欲しい』とか云々言うのが目に見えてる。

 

 ならばいっそ見せてやるとしよう。ほんの一部に過ぎないが、聖書の神(わたし)能力(ちから)を。と言っても現代魔法風に見せるつもりだが。

 

 そう思っていると、フィールドの両サイドに立つポールに赤い光が灯った。 

 

 光の色が黄色に変わり、更に青へと変わった瞬間に、四高選手が自身のCADのコンソールを打ち込もうとする。

 

 だが、俺が左手でパチンッと指を鳴らした直後、何かが貫かれる音がした。

 

「………………え?」

 

 魔法を放とうとしていた四高選手が動きを止めて、思わず自陣の氷柱を見る。

 

 彼が見ている先には、十二本の氷柱全てに槍と形容すべき黄金の光が突き刺さっていた。

 

『………………………』

 

 余りにも予想外の展開だったのか、少々ざわめいていた筈の観客席側も突然言葉を失い、呆気に取られている様子だ。

 

 そんな空気の中、全く気にも留めていない俺は次の行動に移ろうとする。上げている左手を下ろし、今度は右手を上げてパチンッと鳴らした瞬間、十二本の氷柱に突き刺さっている黄金の光が突然ボンッと爆発した。

 

 その衝撃と熱によって、さっきまであった筈の氷柱が跡形も無く消えている。言うまでも無く十二本全てが。

 

 さっきのは前世(むかし)の頃に使っていた聖書の神(わたし)や天使、そして堕天使の基本と呼ぶべき『光の力』。そしてそれを剣や槍に象って放つと言う一種の技でもある。

 

 今回の標的は氷柱なので問題無いが、もし人間が受けたら簡単に貫く事が出来る殺傷性が高い一撃でもある。当然それは魔法師であっても只では済まない。

 

 ついでにさっきの爆発は必要最低限に落として、氷柱を消す程度の威力にしていた。もし本気でやれば確実に周囲に被害が及んでいるだろう。

 

 それはそうと、四高選手側にある氷柱が全て無くなり、俺の氷柱は全く無傷のままだ。当然俺の勝利である筈なんだが――

 

『………………………』

 

 観客側だけでなく、審判の方も固まっているようで未だに結果のアナウンスを流そうとしない。

 

「あの~、この試合は俺の勝ちじゃないんですか~?」 

 

『!』

 

 俺が周囲に聞こえるよう言い放つと、周囲がハッとした途端、一気にざわめきだす。

 

 そして漸く俺の勝利のアナウンスが流れた事により、一回戦は問題無く通過したのであった。四高選手は未だに呆然としたままだが。

 

 来賓席側にいる九島の方へ視線を向けると、何故か一昨日みたいに大笑いしていた。あそこは室内だから聞こえないが、あの中にいる他の来賓達は彼の行動に驚きながら見ている。相手が相手だから何も言えないんだろう。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって三高側の控え室。

 

 試合を控えている三高の選手達はスタッフと一緒にモニターで隆誠の試合を観戦していたが――

 

「何だよアレ!」

 

「嘘だろ!? 一瞬で終わらせたぞ!」

 

「一体何なんだあの選手は!?」

 

「見た事の無い魔法だったぞ!」

 

 もう既に騒然と化していた。誰もが信じられないように叫んでいる。

 

「……ジョージ、あの選手についての情報はあるか?」

 

「残念だけど詳しい事は分からない。僕が知る限り、彼は一高の二科生――三高(うち)で言う普通科の生徒ぐらいしか……」

 

 一条家の嫡男であるクリムゾン・プリンス――(いち)(じょう)(まさ)()からの問いに、カーディナル・ジョージ――(きち)(じょう)()(しん)()(ろう)が答える。

 

 二人は他の三高メンバーみたいに慌てていない。だがそれでも心情的には彼等と全く同じだった。

 

「あれ程の実力を持った奴が普通科だと? 冗談にしては笑えないぞ」

 

「僕だって同じだよ。だけど、これで四十九院の言った事は正しいと証明された」

 

「……そうだな」

 

 この二人は前以て同じ一年である女子生徒――四十九院沓子から、こう言われていた。

 

『兵藤隆誠殿が出る試合を必ず観ておいた方が良いぞ。わし等では想像出来ない事を必ずやる筈じゃ。特に一条、ピラーズ・ブレイクで彼の御仁と戦う時は本気でやるよう勧めておく』

 

 将輝と真紅郎は当初、一体何を言っているのだと不可思議に思っていた。

 

 彼女の直感はよく当たると前以て知ってはいるのだが、全く予想外な事を言っていた為、とてもじゃないが信じ切る事が出来ない様子だった。

 

 かと言って戯言と片付ける訳にもいかなかったから、取り敢えずと言った感じで試合を観戦した。隆誠がとんでもない事を仕出かして勝利した瞬間、二人は沓子の予言は正しかったと内心謝罪する事となる。

 

「他の一高選手も奴みたいな実力者揃いなのか?」

 

「どうだろうね。残りの二人は普通科の彼と違って専科だけど、最初から本気で挑んだ方が良いと思う」

 

 ここで補足しておく。『専科』とは三高の学科であり、一高で言う『一科生』の事を指す。将輝と真紅郎は当然、三高の専科として所属している。

 

「なっ、これは……!」

 

 すぐに隆誠について調べようとタブレットを使って表示させる真紅郎だが、ここで思わぬ情報が入った事に絶句する。

 

「どうした、ジョージ?」

 

「………将輝、彼の出鱈目な実力が少し分かった気がするよ。これを見てくれ」

 

「ん?」

 

 真紅郎はそう言いながら、手にしているタブレットを将輝に見せようとする。

 

 それには兵藤隆誠の顔写真の他、担当するエンジニアの名前も記載されていた。

 

「『司波達也』……アイツの仕業か……!」

 

「ああ。どうやら彼が担当してる男子は兵藤隆誠だけみたいだ」

 

 名前を読み上げた途端に将輝は忌々しげに呟き、真紅郎も同感だと言わんばかりに頷いていた。

 

 二人がこうなっているのには勿論理由がある。

 

 昨日の新人戦女子スピード・シューティングで、優勝確実であった十七夜栞が敗北し、更には一高に上位独占されて苦い経験をしたばかりだった。

 

 その際、一高女子選手達が優勝した要因がエンジニア――達也の助力があったからこそと判明した。その為に二人は達也に対して良い感情を持っていないのだ。特にエンジニアも兼ねている真紅郎とては、達也に一杯食わされた事もあって、将輝以上に悔しい思いをしている。

 

 隆誠の出鱈目な強さに納得した将輝は、モニターに映っている彼をジッと見ながら言う。

 

「ジョージ、確か俺が兵藤隆誠と当たるのは決勝だったな」

 

「ああ。と言っても、彼が順当に勝ち進めばの話だけどね」

 

「当然勝ち進むさ。何せ奴の担当エンジニアが、あの司波達也だ」

 

 将輝は断言した。間違いなく隆誠が決勝まで進み、自分と戦う事になると。

 

 同時に高揚もしていた。自分と互角に戦える存在がいるとは思っていなかったから。

 

 これまでの将輝は自分と本気で戦える相手がいない事に少しばかり不満があった。同級生は勿論のこと、上級生でも自分に勝てる存在がいなかったから。

 

 そんな冷めた状態の中で九校戦に挑もうとする際、思わぬ強敵を見つけた事に、将輝の冷めきった心は沸々と燃焼し始めている。

 

「急で悪いが、CADの調節をしてもらえないか? 兵藤隆誠と当たるまでの準備運動をしておきたい」

 

「やれやれ、どうやら将輝の悪い癖が出てしまったようだ」

 

 呆れるように言い放つ真紅郎だが、それとは裏腹にやる気満々の表情となっていた。彼としても、頼れる相棒が本気になって兵藤隆誠を倒すところを見たいと思っているので。同時にエンジニアの達也に一泡吹かせる機会が訪れたと。

 

 しかし、彼等はとんでもない勘違いをしている。

 

 確かに隆誠の担当エンジニアは達也なのだが、それはぶっちゃけ表面上だけに過ぎない。何しろ達也は今も女子の方に専念している為、隆誠は殆ど放置状態なのだ。

 

 もしもソレを知った瞬間、二人は一体どんな反応をするのやら。




リューセーの試合内容が短いと思われるでしょうが勘弁して下さい。

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