国立魔法大学付属第一高校――通称『一高』に入学してから二年が経った。
二年なんてすっ飛ばし過ぎじゃないか、というツッコミが来るだろう。だが、それを語ると長くなるので、敢えて割愛する。
とは言え、それじゃ経過が全然分からないから、簡単かつコンパクトに説明する。
先ずはこの二年、それほど大きな事件は起きずに平和であった。以前あった佐渡侵攻事件、並びに沖縄海戦のような他国からの侵攻も一切起きていない。
世界各国も今のところ大人しいが、何かしらのアクションをしてくると警戒した方がいいだろう。特に意気揚々と日本に侵攻して大敗した新ソ連と大亜連合は。尤も、それは政府や国防軍が対応する事なので、学生の俺が口出しする事ではないが。
その肝心の俺は、日常の学生生活を送っていた。主に行動していた十文字克人、七草真由美、渡辺摩利と共に、今は『四巨頭』として一高を支える存在となっている。
本当なら一介の生徒として目立ちたくなかったが、十師族に連なる家系に転生した為に叶わなかった。俺が世間の笑い者になるような醜態を晒せば、家族に多大な迷惑を被るどころか、一条家を潰す為に追及しようとする各家系が動いてしまう。他者を蹴落としてまで権力を欲したい人間がいる事に、何処の世界でも変わらないかと
権力者の家系に転生した以上、俺は『一条家』の名に恥じぬ成果を示さざるを得ない。だが、チョッとばかり加減を誤ってしまったようだ。周囲から『やり過ぎだ!』とツッコまれる程に。けれどマイナス面が無かった為に強く言われなかったが、それが却って複雑な気分になっていたらしい。
そして俺は現在、課外活動連合会(通称:部活連)の副会頭を務めている。因みに会頭は十文字だ。本来『副会頭』と言う役職は存在しないのだが、俺が会頭の十文字に色々アドバイスをした事により、いつの間にかそう呼ばれる事となった。生徒からだけでなく、何故か教員側からも。
もうついでに、クラブの方は俺の方で新たに設立した。その名は『護身術部』で、主に二科生が入部している。
普通は考えられない事だが、新しいクラブを作ったのには
一年の頃、当時の剣術部部長に『「剣鬼」と呼ばれてる君には是非とも剣術部に入部してほしい』と言われた為、剣術部に入っていた。だが、剣術部員達のレベルが低過ぎて話にならず、たった半年程度で自ら退部している。剣術部員の中に見込みのある奴は誰一人いないどころか、二科生を『
七草が一科生と二科生の対立を知った事で、どうにかその垣根を壊したいと考えていた中、俺はそれを利用する形で新しいクラブを設立しようと考えた。二科生でも充分に活躍出来る機会を作る為の『護身術部』を。
護身術は本来、相手から危害を加えられた場合、これを制して自分の身の安全を
これを聞いた職員達は難色を示すも、佐渡侵攻事件を経験した俺の説得によって、どうにか設立してくれるのを許可してくれた。本当は『制服の発注ミス』についても触れたかったが、完全な脅迫行為になってしまう他、一条家の印象も悪くなる為に敢えてやらなかった。
そして俺が『護身術部』を設立して活動するも、最初は思うように全然集まらなかった。入部してくれたのは二科生の一人だけで、ソイツを中心に鍛え上げた結果、相当な実力者となった事を知った生徒達が入部する事となった。尤も、俺の修行内容に付いてこれずに途中で諦めるのもいたが。
とまあ、これが俺の現状である。まだ語るには足りないが、これ以上続けるとキリが無いのでここまでにする。
2095年4月4日
「ところで真由美、いつ接触するつもりなんだ?」
「……主語が抜けてて何を言ってるか分からないわよ、リューセーくん」
新入生の入学式を終えた翌日の放課後。
用事があって生徒会室へ訪れた部活連の副会頭――一条隆誠が、生徒会長――七草真由美に質問をしていた。
入学して友人関係になった事で、隆誠は真由美を名前で呼ぶほど親しい間柄となっていた。それは当然、部活連会頭――十文字克人や風紀委員長――渡辺摩利も含めて。因みに克人だけは真由美と摩利に対して未だに名字のままで呼んでいるが。
「昨日の入学式で答辞をした主席――司波深雪っていう新入生だよ。お前の事だから、あの際どい答辞内容を聞いた途端、絶対生徒会に入れるって考えてるだろう?」
「どうやらリューセーにもお見通しのようだったな」
隆誠と同じ理由で生徒会室へ来てる風紀委員長の摩利が、少々意地の悪そうな笑みを浮かべながら言っていた。
「これから真由美の毒牙に掛かるであろう彼女の今後は大変そうだ」
「ねぇ、それって生徒会長の私に喧嘩売ってるのかしら?」
侮辱した発言と思ったのか、真由美が隆誠の台詞を聞いた瞬間に頬を引き攣らせている。
しかし、彼女がそうなっても誰も擁護しようとする感じが見受けられない。摩利以外にも、生徒会会計の市原鈴音や、生徒会書記の中条あずさは話を聞いていながらも会話に加わろうとする様子が一切無かったから。
「チョッとリンちゃんとあーちゃん、どうして何も言ってくれないの?」
「一条君の言葉に否定出来る要素がありませんから」
「わ、私は、その、えっと……」
真由美からの問いに淡々と答える鈴音、しどろもどろでありながらも返答に困っているあずさ。
「皆して酷い! 私
「最後の余計な台詞が無ければ、あたしも多少は庇ったんだがな」
自棄になって叫ぶ真由美に、摩利がもうどうしようもないと言わんばかりに嘆息していた。
「さて、俺はそろそろ――ん?」
「どうしたの?」
用事を終えた隆誠が真由美から退散しようとするも、突如表情が一変する。それを見た真由美が彼の様子を見て、ふざけた様子を一切見せずに問う。
「どうやら新入生達が早速やらかそうとしてるな。魔法らしき
「何!?」
魔法と聞いた瞬間、摩利が過敏に反応した。
学校の出入り口である校門は生徒達が必ず通る場所であり、そこで魔法を使えば当然校則違反となる。風紀委員長の摩利が反応するのは当然であった。
そして真由美達は、隆誠が魔法を感じる能力がある事を知っている。特に風紀委員長の摩利は魔法を不正に使用した違反者を検挙した際、隆誠のお陰で色々と助けられた事もあるから。
「場所はどこだ!?」
「校門付近だ。だけど摩利達が駆け付けても間に合わないから、俺が先行して止めてくるよ」
「なっ、待てリューセー!」
生徒会室を出た隆誠は周囲に人がいないのを確認した後、ショートカットする為の裏技を使う事にした。
☆
何とか校門付近に辿り着くと、そこは生徒同士の争いと思われる光景が映っていた。
争っている理由は知らないが、俺――一条隆誠が止める事に変わりはない。
その際、生徒に攻撃魔法らしきモノを放とうとしている女子生徒が視界に入った俺は、それを阻止しようと『指弾』を使った。
「キャッ!」
俺が放った指弾は女子生徒の腕に当たった事で、放とうとしていた魔法は未発のまま霧散した。ただの軽い衝撃波だが、突然の事に集中力が切れてしまったのだろう。
「全員その場から動くな!」
少しばかり威厳のある声で警告を発すると、それを聞いた生徒達は振り向き、俺を見た途端に殆どが何故か顔を青褪めていた。
「い、一条副会頭……!」
此方を見た一人の男子生徒が、ビクビクとしながら俺の名を呼ぶ。
……何もそこまで恐がらなくても良いだろうに。失礼だけど、俺は克人みたいな怖い顔じゃないんだからさ。
まぁそれは置いておくとしよう。今一番の問題は、争いを起こした生徒達を摩利に引き渡さなければならない。
状況から察して、一科生と二科生による諍いが喧嘩に発展して魔法を使おうとした、と言ったところか。大方、一科生達がその引き金を引いたのだろう。一科生と二科生の喧嘩が起きる際、その原因の多くは一科生が毎回作っているのだ。
「そこの一科生女子」
「はっ、はいっっ!」
俺が視線を向けた名前を知らない女子生徒を呼ぶと、彼女はビクッと震えていた。
「さっきのは攻撃魔法を発動しようとしていたのか? もしそうであれば、魔法による対人攻撃は校則違反以前に犯罪である事は知っている筈だが」
「いえ、その……」
睨んではいないのだが、女子生徒は完全に委縮しており、言葉が思うように出せない状態であった。
あの反応からして攻撃魔法ではないかもしれないが、事実はどうあれ、人に魔法を向けた以上見過ごす事は出来ない。
「もし違うのであれば、この後に来る風紀委員長の渡辺摩利に言う事だな」
「そんな……」
部活連副会頭の俺には違反者を取り締まる権限が無い為、風紀委員会に引き渡すしかない。一応、彼女には厳しく尋問しないよう摩利に言っておくつもりだ。
それを知らない女子生徒は両膝を地面に付き、ショックを受けたような表情になっている。更には両眼から涙が浮かび、完全に泣き顔だ。
まるで自分が悪い事をしたかのような罪悪感に苛まれる気分だが、違反は違反なので、流石に見過ごす事は出来ない。
「ほのか……」
「泣いてるところ悪いけど、ちゃんと来てもらうよ」
友達なのか、彼女の傍にいるもう一人の女子生徒が宥めようとするも、俺は(端から見れば)無情の決断を下す。
「待ってください、一条副会頭」
すると、二科生の男子生徒が俺と彼女の間に割って入って来た。
「キミは?」
「1-Eの司波達也です」
俺の問いに男子生徒――司波は自己紹介をした。
司波って確か……入学式に答辞をした司波深雪と同じ苗字だな。今更だが、その彼女がソイツの傍にいるって事は家族なのだろう。
「彼女が使おうとしたのは、ただの閃光魔法でした。攻撃の意思は無かったと思います」
「ほう?」
閃光魔法、ねぇ。
この世界で使う現代魔法の起動式は膨大なデータの塊だ。それを理解するなんて普通出来ない。
けれど、司波達也は女子生徒が使ったのは攻撃魔法じゃないと断言している。
「あの一瞬の間で展開された起動式を読み取ったのか?」
「実技は苦手ですが、分析は得意なので」
此処まで言い切ると言う事は、それほど自信があるのだろう。
中々面白い奴だ。司波達也が本当に二科生なのかと疑いたくなってしまいそうなほどに。
「ハッタリだ!」
「そんなことが出来るものか!」
「ウィードのくせに!」
すると、先程まで黙って見守っていた一科生達から反論の声が上がった。
チョッとばかり気分を害した俺が『黙れ』と言う意味で睨んだ瞬間、あっと言う間に静まり返る。
「生憎俺には不問に付す権限は無いから、あと少しで来る風紀委員長にキミが説明して――」
「チョッと、私達を置いていくなんて酷いじゃない!」
「状況を説明してもらうぞ、リューセー!」
「――ああ、丁度来たようだ」
俺が言ってる最中、真由美と摩利がタイミング良く現れた。
生徒会長と風紀委員長の登場に、新入生達から再び緊張が走るのを感じ取った。
これが俺と司波達也の出会いであり、そして奇妙な関係となっていく事になる。
イマイチな内容かと思うでしょうが、どうかご容赦を。
次回も此方を更新する予定です。