再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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今回は少々短いです。


九校戦編 九校戦⑨.5

「さて、戻るか」

 

 新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイクの二回戦が全て終わり、三回戦以降の試合は明日となった。

 

 俺が試合でぶつかる選手の試合を観ている際、司波は次の試合が始まる女子の方へと行くと既にいない。担当エンジニアとして観なければいけないのは分かっているが、多分妹が出る試合を最優先に観なければと思ってる筈だ。

 

 因みに五十里と千代田とはついさっきまで一緒だったが、(主に千代田が)人目も憚らずイチャ付いてるのに段々鬱陶しくなってきたので、一人で先にホテルへ戻ろうとしたのである。

 

「ん?」

 

 控え室を出て会場の出入り口まであと少しという所まで進んでいると、少し先に他校の男子二人が佇んでいた。

 

 その二人が視界に入った途端に歩き始め、此方へ向かおうとしてくる。

 

 これは偶然でなく、明らかに俺を待ち受けていたかのような感じだ。特に二人の内の一人が、表情は穏やかでも並々ならぬ闘志を感じるので。

 

 二人が移動を遮られるように立ち止まる為、俺は足を止めざるを得なかった。

 

 一人目は俺や司波とよく似た体格で、身長も肩幅も殆ど変わらない。しかもかなり端整な顔立ちをしている。

 

 次の二人目はやや小柄でありながらも、ひ弱と思われる印象は感じられない。

 

「第三高校一年、一条将輝だ」

 

 大柄な方が先に口を開いて、いきなり自己紹介をしてきた。

 

 初対面である筈なのに随分と横柄な口調だが、不思議と不快感はない。一高の十文字や真由美みたく、リーダーとして振舞う事が自然だと思わせる風格を見せているからだろう。

 

 十師族に連なる『一条家』の次期当主として当然かもしれないが、まだまだ未熟な部分がいくつもある。

 

 例えば人と話す時に、闘志を剝き出しにしてる時点でアウトだ。それは一種の威嚇とも呼べる行為で、相手を威圧させてしまう。俺ならまだしも、他の一般生徒にそんな事をしたら完全に呑まれるだろう。威嚇してるのが十師族なら猶更に、な。

 

 尤も、そんな事を一条に指摘するつもりはない。いくら十師族だからって、相手はまだ遊び盛りな高校生だ。いずれ当主になれば嫌でも理解するだろう。

 

「同じく第三高校一年の、吉祥寺真紅郎です」

 

 小柄な方は丁寧な口調でありながらも、挑発的な眼差しで自己紹介をした。

 

 十師族ではないにしろ、一条と似たような理由でアウトな部分がある。まぁ彼も高校生だから、そこは敢えて気にしないでおくとしよう。

 

「第一高校一年、兵藤隆誠だ。それで、三高が俺に一体何の用かな?」

 

 と言う俺だが、大体の察しはもう付いてる。

 

 恐らくこの二人は俺の試合を観て警戒すべき相手と認識している筈だ。同時に俺が二回戦で相手をした三高選手の無念を晴らす前の挨拶をしに来たかもしれない。

 

「ほう……俺達を前にして随分と余裕そうだな」

 

「ひょうどう・りゅうせい……君のことは四十九院から聞くまで、全く知りませんでした。ですが、もう忘れることはありません。明日の決勝前に失礼かと思いましたが、僕たちは君の顔を見に来ました」

 

 上から目線な物言いの上に、歯に衣を着せる気が一切無い二人に内心苦笑しながら『まだまだ青いなぁ』と思った。

 

 人間に転生する前の聖書の神(わたし)だったら、無礼だと言いながら確実に憤慨していただろう。ま、それは昔の話だから、今の兵藤隆誠(おれ)には如何でも良いことだ。

 

 それはそうと、やはり沓子はこの二人に俺の事を教えていたか。懇親会の時、一条に警告しておくと言っていたので。

 

「あ、そ。だったら、せいぜい頑張ってくれ」

 

「「!」」

 

 全く眼中に無さげな感じで言い返すと、二人はカチンと来たかのように表情を歪めるが、それはすぐに収まった。

 

 ここで挑発に乗っては相手の思う壺である事を理解しているようだ。尤も、向こうが先に失礼な事を言ってるのでお互い様であるが。

 

「ところで、お前の担当エンジニアは一緒じゃないのか?」

 

 一条が言う担当エンジニアとは司波の事を言ってるんだろう。

 

 どうやらこの二人は俺だけじゃなく、司波も同様に警戒しているようだ。

 

 それは寧ろ当然とも言える。俺を除いたアイツが担当した新人戦女子スピード・シューティング選手全員が上位入賞、今日の新人戦アイス・ピラーズ・ブレイクも予選突破と言う好成績を収めていた。三高側が警戒しない訳がない。

 

「アイツは女子の方へ行ってるよ。今頃試合を終えた司波深雪の傍にいる筈だ」

 

「っ……」

 

 司波妹の名を言った途端、一条が妙な反応をしていた。

 

 何だかまるで気になる女のように思えたが……一先ず気にしないでおこう。いくら俺でも流石にそこまでは読み取れないので。

 

「司波にも用があるなら明日にしてくれ。今も大変忙しい状態だからな。で、そちらの用件は以上か?」

 

 こっちとしてはホテルに戻って夕食を取らなければいけない時間帯が迫ってる。だからそろそろ切り上げて欲しいんだが。

 

 俺の台詞にハッとした一条は、すぐに切り替えようとする。

 

「時間を取らせたな。決勝を楽しみにしている」

 

 そう告げた一条は吉祥寺と共に俺の横を通り過ぎて行った。向かった先は会場の奥なんだが、多分他の三高達と何らかの打ち合わせがあるんだろう。

 

 あの二人の事だから、明日は絶対司波に会うつもりだろう。ついでに俺と似たような上から目線な物言いな挨拶も含めて。

 

 夕食の時に前以て報せておくかと思いながら、振り返る事をせず、俺は会場を後にした。

 

 

 

 

 

 

「三高の『クリムゾン・プリンス』と『カーディナル・ジョージ』に会っただと?」

 

「ああ。恐らく明日はお前にも挨拶と言う名の宣戦布告をしてくるだろう」

 

 夕食時間。

 

 制限時間は一時間であり、自校のメンバーが一堂に会する一日で一度の機会だ。

 

 その際に本日の戦績に喜びと悔しさを分かち合う時間でもある。

 

「にしても、明らかに差が歴然としてるな」

 

「俺達には関係の無い事だ」

 

 周囲を見ながら言う俺に対し、司波が如何でもよさげに言い放った。

 

 現在、第一高校の食卓は、物の見事に明暗が分かれていた。

 

 暗は一年生男子選手が集まった一角で、明は一年生女子選手が集まった一角だ。

 

 俺と司波は本来男子側の方に入るのだが、訳あって女子側の方にいる。

 

 本日行った競技で予選突破した男子選手が俺だけであり、エンジニアの司波は担当した女子選手達も予選突破と言う順調振りを見せている。その結果に一年男子達が凄く気に食わなかった為に追い出されたから、今はこうして女子側の方にいると言う訳だ。

 

 俺はともかくとして、司波は女子達から大層人気者となっていた。CADを調整した女子選手達が好成績を収めているから、それ以外の女子達が自分のCADを見て欲しいと懇願されている光景を何度も見たので。

 

 当然それは司波妹も目撃している。女子達に囲まれる兄を見て嫉妬するかと思いきや、逆に誇らしげな表情だった。寧ろ称賛されて当然だと言うべきみたいな感じで。

 

「おーい、司波くん」

 

「みんながお礼言いたいって」

 

 俺と司波だけで会話してる最中、近くにいる女子達が一斉に此方へ近づいてきた。

 

「それじゃ司波、ごゆっくり」

 

「待て兵藤、何で離れようとする」

 

「どう見たって彼女達はお前に用があるとしか思えないだろ」

 

 引き止めようとする司波に、俺はのらりくらりと躱しながら離れることにした。

 

 予想通り、光井を筆頭に大勢の女子達が司波を囲ってお礼を言い始めている。離れて見ている司波妹も誇らしげな表情だ。

 

「ご機嫌だねぇ、司波さん」

 

「あ、兵藤くん……」

 

 俺が声を掛けると、彼女は意外そうに此方へ視線を向けるも、すぐに当然と言わんばかりに頷こうとする。

 

「お兄様の実力がみんなに認められているのです。そう思うのは当然でしょう?」

 

「それは確かに」

 

 あの『氷結地獄(インフェルノ)』と言う高難度魔法は司波兄がいなければ、いくら彼女でも使う事が出来ないだろう。エンジニアの調整が無ければ、簡単に使う事が出来ないと五十里が言っていたので。

 

「ですが、兵藤くんの魔法には驚かされました。あれ等は全て兵藤くんが独自に開発した魔法なのですか?」

 

「まぁ、一応な」

 

 聖書の神(わたし)能力(ちから)を利用し、前世(むかし)に見たアニメの技を参考にした。とは絶対に口が裂けても言えないが。

 

 女子達に囲まれている司波兄が、俺と司波妹の会話が気になりながらも対応してるが気にしないでおく。

 

「あ、そうだ司波さん。例の写真、昨夜は無理だったけど今夜は何とか――」

 

「――ぜ、是非ともお願いします」

 

 ある事を思い出した俺は、司波妹にだけしか聞こえないように小声で言った途端、ハッとした彼女は合わせてくれる。

 

 急にコソコソと話しだしている事に疑問を抱いている司波兄が問い詰めようとするも、女子達に囲まれている為に無理だった。

 

 

 

 夕食を終えて、女子達と一緒に食堂を出る俺と司波だが、直後に三高と鉢合わせる事となった。と言っても女子だけだが。

 

 その際、筆頭である一色愛梨が司波妹に謝罪の他、ライバル宣言をして握手をすると言う、少々緊張感が漂うやり取りを行う。

 

 青春だなぁと思いながら見ていると――

 

「おお、隆誠殿ではないか! 試合見たぞ! 凄かったではないかぁ!」

 

「え?」

 

『!?』

 

 沓子が俺を見付けた途端に此方へ駆け寄り、そのまま俺に引っ付こうとする。

 

 この光景は当然司波や一高と三高の女子達全員が見ており、沓子の行動によって誤解されたのは言うまでもない。

 

「なになに? もしかしてあの二人、いつの間にああ言う仲になったの? しかも相手が三高だなんて……!」

 

「ほほ~う、リューセーくんもやるじゃないか。他校の女子相手にあそこまで親密な関係になるとは……」

 

 一番に勘違いしてるのは、後ろから面白そうに眺めている真由美と摩利であった。

 

 あの二人にスイーツ用意するの止めようかと一瞬考えたのは内緒だ。


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