再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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九校戦編 九校戦⑩

 2095年8月8日/大会六日目

 

 

 九校戦六日目で新人戦三日目。

 

 本日は昨日に続いて新人戦アイス・ピラーズ・ブレイク、並びに新人戦バトル・ボードが行われる。

 

 既に会場入りしている俺は控え室にいて、モニターで光井が出ている試合を観戦していた。

 

 バトル・ボードは現在、光井が幻術を使ってゴーグルを使用してる相手選手を翻弄させてトップである。

 

「兵藤君、女子ピラーズ・ブレイクは観ないのかい? 今は司波さんが出ているんだよ」

 

 観戦中に五十里が不思議そうに尋ねてきた。

 

 司波が新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイクの女子選手三名を見ている為、今日もまた五十里が臨時として来てもらっている。今は俺のCADの最終チェック中だ。

 

 因みに千代田は此処へ来させないようにしている。一応俺の応援と言う事で来てくれたが、殆ど五十里とイチャ付いてるだけで、鬱陶しく思った俺は摩利に頼んだ。事情を汲んでくれた摩利は今日、五十里の所へ向かおうとする千代田の首根っこを掴んで無理矢理同行してくれている。

 

 それはそうと、三回戦の俺が出場する試合は第三試合。昨日は一回戦の第一試合でやっていたから、普通に考えれば今頃第一試合をやっていると思うだろう。

 

 これには当然理由があり、コンディションの公平を期す為、試合の順番は昨日とひっくり返されているのだ。なので俺は第一試合でなく、第三試合で試合をする事となっている。

 

 女子も同様で、今行われている第一試合は五十里が言ったように司波妹だった。それ故に司波兄は妹を優先しようと、此処にいない訳である。

 

「観なくても分かります」

 

「……ああ、うん」

 

 理由を言った俺に五十里は間がありながらも頷きながら、昨日と同じく『氷結地獄(インフェルノ)』を使って圧倒的勝利してるのを想像してるだろう。

 

 彼が納得した直後、モニターで光井がトップのまま一位となって決勝進出確定となる。

 

 次は沓子が出る予定だ。第三試合が始まるのに時間がまだあるからこのまま――

 

 

『続いて、新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイク三回戦第二試合が始まります』

 

 

 突然のアナウンスに、俺は急遽バトル・ボードからアイス・ピラーズ・ブレイクへ切り替える。勿論男子の方だ。

 

 時間に余裕があれば観て欲しいと沓子に言われたが、気になる試合があるので諦めるとする。

 

「あ、今度はピラーズ・ブレイクなんだね」

 

「ええ。一応確認って事で」

 

 チャンネルを切り替えたのは、さっきのアナウンスであった男子アイス・ピラーズ・ブレイクの方だ。

 

 第二試合に昨日俺と顔を合わせた三高の『クリムゾン・プリンス』こと一条将輝が出る。

 

 中二病っぽい二つ名があるけど、そう呼ばれている理由は司波から聞いた。

 

 一条将輝は今から三年前に勃発した新ソ連の佐渡侵攻作戦に際し、若干十三歳で義勇兵として防衛線に加わり、『爆裂(ばくれつ)』の魔法を以って数多くの敵兵を葬った実戦経験済みの魔法師。この実績によって、一条の『クリムゾン・プリンス』と称せられる事となったらしい。

 

 若い内から戦争を経験するのはどうかと思うが、十師族に連なる者の責務と言われればそれまでだ。

 

 尤も、それに関して俺が偉そうに言える立場じゃなかった。前世(むかし)の俺は、赤龍帝である(イッセー)を強くする為に厳しい修行の他、数々の実戦経験を積ませる為に数々の犯罪組織や魔物などの超常的存在達と戦わせた。正直言って一条の実績は(イッセー)に比べて大した事はない。イージーレベルも良いところだ。と言っても、比べること自体間違っているが。

 

 まぁ兎に角、一条はそこら辺の魔法師と違って、多少出来る程度(・・・・・・・)の実力を持ち合わせている。実戦経験が有るのと無いのとでは心構えが全く違うとしても聖書の神(わたし)、もとい俺の敵ではないが。

 

 とは言え、俺が出る競技の中で奴が一番の強敵である事に変わりはない。だから決勝で対戦する事を考慮して、第二試合を観ようとしてると言う訳である。

 

 モニターが切り替わると、第二試合がそろそろ始まろうとしてる。制服姿の一条と戦う相手は、剣道着姿の七高選手だ。

 

「これは……」

 

「あ~らら、七高は気の毒に……」

 

 五十里と俺は思った事をそのまま口にしてしまう。

 

 試合が始まる前からもう勝敗が分かった。七高選手が委縮させられていたのだ。笑みを浮かべながらも闘志を剥き出しにしている一条を見て。

 

 既に棄権したがってるだろうが、無情にも試合が開始されてしまう。一条が早撃ちをするかのように拳銃型CADを即座に抜き出して構え、そして魔法を発動させた。

 

 その直後、あっと言う間に七高選手側の十二本の氷柱が全て爆発する。

 

 一条が使った『爆裂』は、対象内部の液体を瞬時に気化させる魔法。真夏の気温によって、氷柱の内部や表面上に融けた液体がある事で『爆裂』が作用し、物の見事に爆発したと言う訳である。

 

 因みにアレを人間に向かって撃てば、体内にある全ての血液が気化して、身体が風船のように膨らんで爆発すると言うグロテスクでショッキングな光景を目にするだろう。あの場にいる一般客なら間違いなく吐く、もしくは発狂してもおかしくない。

 

 本来ならば使用禁止と呼べるほどの殺傷性ランクが高い魔法だが、九校戦で行うアイス・ピラーズ・ブレイクみたいな無機物の氷柱なら問題無い。

 

「は、速い! 兵藤君以上じゃないか!」

 

 信じられないように叫ぶ五十里。

 

 俺が一回戦をやった際に十秒未満で勝利したのに対し、今観ている一条の試合はそれ以上の速さで終わらせた。五十里が叫ぶのは無理もない。観客席側も一条の魔法速度と威力を見て驚きの様子を見せている。

 

 昨日も当然試合を観たが、あそこまで速く魔法を発動させていなかった。それを覆すような速度で魔法を展開したのは即ち、あれが一条将輝(クリムゾン・プリンス)本来の実力と言う事なんだろう。

 

 一条が本気でやっているのはもう察しが付いている。俺と戦う前の準備運動、もしくは俺に対する挑発かもしれない。或いは両方、とも考えられる。そうでなければ昨日俺と会って『決勝を楽しみにしてる』なんて言わない筈だ。

 

 あの様子からして、本気で俺に勝つ気でいるのは一目瞭然だ。同時に絶対の自信も持っている。

 

 圧倒的な力の差を見せ付けると同時に、プライドを粉々に打ち砕く程の圧倒的勝利をするのは簡単だが……それはそれで問題が起きてしまう。

 

 知っての通り、一条将輝は十師族に連なる者だ。日本で最強の魔法師と謳われている家系の一つが二十八家、もしくは百家でもない一般魔法師の俺に負けたとなれば、間違いなく面倒事が起きる。

 

 一条本人としては、こんな高校生の大会で十師族が動くなんて微塵も思ってないだろう。だが権力者と言うのは意外と臆病で、何れ自分達の権威に危険が及ぶ存在かもしれないから、今の内に芽を摘んでおこうと考えてしまう。特に権力に執着している奴ほど、そういう傾向が強い。そんな物に微塵も興味の無い俺には傍迷惑極まりないが。

 

 まぁ、本当に動くかどうか分からない上に、今此処でそんな事を考えてもどうしようもない。取り敢えず今は放置してくれることを祈っておこう。

 

「さ~てと、次は第三試合だから準備体操するか」

 

「兵藤君、あの凄い試合を観ても動揺してないのかい?」

 

「逆に聞きますが、千代田先輩でしたらどうすると思いますか?」

 

「……ああ、まぁ……動揺どころか強く意気込んでるだろうね」

 

 流石は許婚と言うべきか、千代田の勝気な性格をよくご存じのようだ。

 

 けど生憎、俺は彼女ほど強く意気込む事はせずにマイペースのままでいる。そんなに慌てるほどの相手じゃない。

 

「ところで五十里先輩、CADのチェックはどうですか?」

 

「昨日と同じく正常で問題無いよ」

 

「それは安心しました」

 

 最終チェックしてもらったCADを身に着けた俺は、三回戦に向けての準備体操を始めようとする。

 

 そう言えば、摩利の事故以来全く音沙汰無いな。今日も何事も無く終わると見て良いと思っていいんだろうか。

 

 

 

 

 

 

「第三試合が始まる前から急に増えてきたな」

 

「リューセー君の試合を観たいんでしょ。昨日は本当に凄かったから」

 

「確かに。もう度肝を抜かされたよ。紗耶香先輩と桐原先輩なんて、もうずっと口開けっぱなしだったからな」

 

 隆誠の応援をしようと、第一試合から既に会場へ訪れている修哉と紫苑は周囲を見ながらそう言っていた。因みに昨日一緒に観ていた紗耶香と桐原はいないが、今は別の席で観ている。

 

 紫苑の言う通り、一般席にいる観客達は隆誠の試合を直接観たいが為である。自陣の氷柱を一切壊されず、見た事の無い魔法を使って瞬殺とも言うべき圧倒的勝利したのだ。今まで見た試合とは比べ物にならないから、観たがるのは当然と言えよう。

 

 女子の方では深雪が第一試合に出てる事もあって、彼女目当てに観ていた観客達は急いで男子側の会場へ来ている者も多くいた。その中には軍・警察・消防・大学などの関係者も多く含まれている。

 

「それはそうと、さっきの第二試合に出てた一条って奴も凄かったな。リューセー並みに秒殺で勝ったし」

 

「同感だけど、私は何だか彼がリューセー君を意識したような感じがしたわね」

 

 先程行っていた第二試合の一条将輝が放った『爆裂』を見て、修哉と紫苑は戦慄していた。流石は十師族と思いながら。

 

 二人、と言うより昨日の試合を観た観客達は何となくでありながらも察しが付いていた。将輝が本気になっている理由を。

 

「あんな瞬殺劇を見せられたら、一条がそうなるのも無理ないだろ」

 

「だとしたら厄介ね。向こうが油断してくれたら、リューセー君の優勝は確実だったのに」

 

「いや、それでもリューセーが余裕で勝つと思う。俺の師匠だからな」

 

「何ソレ……」

 

 一条が本気で挑む事に危惧している紫苑だったが、迷わず勝つと断言する修哉に思わず苦笑してしまう。

 

 隆誠と出会って修哉は少しずつ変わってきた。紫苑はそう思っている。

 

 同い年である筈なのに、隆誠は他の同級生達と違って冷静で大人びている上に、かなり達観した性格をしている。同時に相当な実力者でありながらも、一科生達を見下そうとはしない。

 

 修哉はそういう所を好ましく思っているから、同い年である隆誠が師匠役となっても嫌悪感を抱いていない。そのお陰でめきめきと腕を上げて、今では尊敬する師匠のように見ている。

 

 何だか仲間外れみたいだと紫苑は感じてしまう。もしも自分が男であったら一緒に鍛えてもらい、修哉と似たような考えをもっていたかもしれないと。

 

(私もリューセー君に何か教わろうかしら)

 

 身体能力はもう完全に修哉の方が上であると既に理解してるから、魔法面に関してならと考え始める紫苑。

 

 九校戦が終わったら駄目元で自分も師事しようと考えていた際、見覚えのある四人が駆け足で此方へ来ていた。

 

「ねぇ二人とも、そこの席に座ってもいい? 空いてる所がもう此処しかないのよ」

 

「どうぞ。別に占有してないから」

 

 四人の内の一人であるエリカからのお願いに、修哉は気分を害する事無く空いてる席に座るよう促した。

 

「助かるぜ」

 

「ありがとう」

 

「では失礼します」

 

 レオ、幹比古、美月は礼を言いながらもエリカと一緒に、修哉と紫苑の後ろにある席に並んで座ろうとする。

 

「バトル・ボードに出てる光井さんはどうだったの?」

 

「余裕で決勝進出よ」

 

 紫苑からの問いにエリカが答えた。

 

 四人から準決勝のレース内容を尋ねると、達也の作戦勝ちであると説明してくれた。しかもかなり手の込んだものであったと詳しく。

 

 達也が相当な策士であると知り、凄く厄介で敵に回したくない相手だと修哉と紫苑は改めて理解する。

 

「お、出て来たぞ」

 

 レオがステージを見ながら言ったので、話を一旦中断した二科生達はステージの方へと視線を向けた。

 

 昨日と同じく制服姿の隆誠は、全く変わらない様子で佇んだままの登場だ。対する相手は第九高校の選手で、私服と思わしきジーンズとTシャツを身に纏っている。

 

 一~二回戦であっと言う間に勝利した相手だからか、九高選手は隆誠を見ながら凄く緊張していた。それだけ昨日の試合が凄く印象的に残っているのだろう。

 

「さっきの第二試合と同じ展開だな」

 

「みたいね」

 

「どんな展開だったんだ?」

 

 十師族の一条が相手を威圧させて圧勝した試合を思い出す二人だが、それを観ていないレオが聞いてきた。

 

 修哉が簡単に教えると、四人は九高選手を気の毒そうに見ることとなった。恐らく隆誠はこの試合も昨日と同じ瞬殺劇を見せるだろうと思いながら。尤も、修哉達が隆誠を応援する事には変わりないが。

 

 他の一般客達や各組織の関係者も、隆誠が今度は一体どんな魔法を使うのかと気になり、こうして足を運んで観に来ている。もしかすれば深雪が見せた『氷結地獄(インフェルノ)』以上に期待しているかもしれない。

 

 そして第三試合が始まり、隆誠と九高選手が動き始めようとする。

 

 速いのは隆誠で、開始直後に何故か右手の人差し指を氷柱に向けていた。

 

 修哉達は一体何をするのかと疑問に思った直後、彼の人差し指の先から光線らしきものが出て、一気に三本の氷柱を融解するように貫く。

 

 今度は二本目、三本目、四本目と連続で光線が放たれ、残った氷柱も全て貫かれ融解していった。しかも十秒も経たない内にだ。

 

『…………………』 

 

 またしても見た事のない魔法を使って勝負を決めた隆誠に、観客達は昨日と同じく再び固まっていた。九高選手も同様に。

 

 だが――

 

「リューセーの奴、また凄い魔法を……」

 

「よくもまぁポンポンと出し惜しみなく使うわね……」

 

 ある程度の耐性が付いた修哉と紫苑は、隆誠のやる事に驚きながらも若干呆れていた。

 

 因みに後ろにいるエリカ達は未だに固まって口を開けたままとなっている。

 

 数秒後には――

 

『またかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 観客達と一緒に仰天しながら叫ぶのであった。

 

 またかと叫んでいる理由は、自分達が見た事のない魔法を使って圧勝したと言う意味合いである。

 

 言うまでもないが隆誠の勝利であり、決勝リーグ進出のアナウンスが漸く流れた。

 

「またアイツは……」

 

 もうついでに、女子ピラーズ・ブレイクの試合を並行しながら見ている達也は隆誠の異質な魔法に頭を痛めるのであった。




リューセーが使った技はフリーザの『デスビーム』ですが、次回に紹介します。

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