「ですから兵藤君のCADには何の問題もありません! 僕や司波君が何度も事前に確認しました!」
「俺も五十里先輩に同意です。こればかりは担当エンジニアとして納得出来ません」
「ならばこれは一体どう説明するのかね!?」
(はぁっ……。まさか、こんな結果になるとは……)
数分前に大会委員長から棄権と言う名の失格を言い渡された俺は、柄にもなく残念な気持ちとなっている。
今も司波や五十里が俺の棄権を撤回するよう求めているが、激昂してる大会委員長に何を言っても無駄だった。もう明らかに俺の仕業だと決めつけている。
何故そうなったかについては、今から少し時間を遡る事になる。
実は――
新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝は司波妹の優勝で終わり、今度は新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝に移ろうとしている。
現在俺は、CADのレギュレーションチェックをしようと大会委員のテントへ赴いていた。
このチェックは既に午前中にやったのだが、決勝戦と言う事もあって再度行わなければならないルールとなっている。決められたルールに文句を言えないので従うしかない。
摩利の事故が起きた原因はコレじゃないかと最初は俺や司波達は警戒するも、今まで何も起きてないから問題無いと保留にした。加えて俺も昨日からの試合でチェックしても、何事もなく進み、何事もなく終わっているのを確認している。
決勝前だと言うのに、面倒なチェックをしなければならない事を考えると、思わず煩わしいと吐き捨てたくなってしまう。
エンジニアの司波や五十里に任せるという選択もあるが、自分の持ち物だから自分でやらないといけない。俺のCADに一通りの基本的な魔法は登録してるが、殆ど偽装同然で見せかけのデータだ。殆どは俺の
第一試合の『光の槍』、第二試合の『トラップシューティング』、第三試合の『キルビーム』は全て、
それ等を使った全ての技はCADを介さず、俺自身のオーラを使って発動させたから、実際は魔法じゃない。とは言え、この世界の人間達にはCADを使ってる
テントに辿り着いて中に入ると、試合予定の一条は既にチェックを終えているのか、三高らしき関係者は誰もいなかった。
「兵藤隆誠選手ですね。お待ちしていました。では、CADを診ますので置いて下さい」
「はい」
運営委員の男性からの指示に頷いた俺は、CADを検査装置の上に置いた。
今回も問題無く終わるから、思わず瞑目して待っていると――
「な、何だ!?」
「ん? って、うわぁ!」
突如、俺のCADからバリバリと雷撃が発生し、それを受けた検査装置はボンッと煙を出しながらショートしてしまった。
『…………………』
完全に壊れてしまった検査装置を見た俺や運営委員達は、余りの出来事に呆然としてしまう。
雷撃が発生していた俺のCADだが、検査装置と違って壊れていなく、全くの無傷のまま置かれているままだ。
(今のはまさか……)
周囲が呆然としてる中、俺は自身のCADを見てある事に気付いた。
「おい、さっきの音は一体……なっ、検査装置が!」
すると、慌てた様子でテントに入ってくる大会委員が今の惨状を見て驚愕の表情となった。
首に掛けられているネームプレートを見ると、彼は大会委員長のようだ。注目の決勝戦という事もあって、偶々此処へ寄ったんだろう。
だが運の悪い事に、九校戦の責任者が来てしまうと色々と面倒な事になってしまいそうだ。
「一体何が起きたと言うのだ!? 誰か状況を説明してくれ!」
「そ、それが……」
検査をしていた委員の男性が、先程起きた出来事をありのまま説明した。
そして話の内容を一通り聞き終えた大会委員長は、次に俺の方へと視線を向ける。しかもかなり怒ってる顔だ。
「兵藤選手、そのCADに一体何の魔法をインストールしていたか、詳しく聞かせてもらおうか」
「いや、詳しくも何も、原因はそちらの検査装置なんですが」
と言う俺だが、これは不味い返答だとすぐに後悔した。
原因が分かっているのは俺だけで、それを全く知らない向こうからしたら――
「検査装置が壊れた原因を作ったのは、明らかにそのCADでしょう! そんなふざけた言い訳は通用しない!」
御覧の通り、火に油を注ぐ事となってしまった。
我ながら迂闊な発言をしたと気付くも既に遅い。
「いや、俺が言いたいのは――」
「兵藤選手。私としては非常に残念ですが、こうなってしまった以上は仕方ありません。大会委員長として、検査したCADに異常があったと見なし、決勝戦は失格とさせて頂く!」
「はい?」
何と大会委員長の決断により、予定していた決勝は不戦敗となってしまうのであった。
呆然となる俺を余所に、大会委員長は運営委員の一人に指示を出した。試合を楽しみにしていた観客達に事実を言うのは流石に不味いと思ったみたいで、『諸事情により棄権する』と言う理由にされる始末。
本当なら反論したいが、今も激昂してる彼に何を言っても聞いてくれないだろう。もう明らかに俺が悪いと断定しているのが一目瞭然だ。
「さて、兵藤選手。君の担当エンジニアを今すぐ此処へ呼んで頂こうか。訊かなければならない事があるのでね」
「…………」
大会委員長は俺だけでなく、エンジニアの司波や五十里もグルではないかと疑っているようだ。
業腹だが今は逆らう事が出来ない状態である為、二人に連絡して来てもらうしか術はなかった。二人を連れて来たところで、俺と同じく反論するのが目に見えてるが。
あ、司波妹と千代田には付いてこないよう言っておかないと不味いな。前以て言っておかないと絶対付いて来ようとするだろうから。
――と言う事情があったのだ。
呼び出された司波と五十里は事の顛末を聞いた直後、すぐに俺のCADには何の異常も無かったと反論していた。
だけど、大会委員長が壊れた検査装置を指した事により、二人は途端に口ごもってしまう。
更には俺のCADが全くの無傷な状態である為、明らかに検査装置を壊した証拠だと力説されている。
検査装置に原因があると俺が改めて反論し、それを聞いた司波と五十里も同意するも、大会委員長が即座に否定した。原因はどう見ても俺のCADだと言い返されるばかりだ。
一応此方の反論は聞いてくれるも、彼は俺の無実を証明する為の提案を出した。『
確かに向こうの言い分は分かる。検査装置が壊れた原因を探るには一番手っ取り早い方法であり、それで俺の身の潔白を証明する事は出来るだろう。肝心の検査装置は完全に壊れていて、調べようにもデータが完全に消失していると確認済みだ。
今の状況で確認出来るのは、俺のCADしかない。検査中に何の魔法が発動したのかを調べるのは至極当然の流れだ。
だけどそれは俺にとって最悪な提案だった。既に言ったが、俺のCADにインストールされてる内容の大半は見せかけで、試合で使った技は登録されていない。これが発覚したら別の疑惑を掛けられてしまい、場合によっては連行されてしまう恐れもある。
因みに司波や五十里がCADをチェックしてる時に見てるデータは、殆ど簡易的な物で詳細は見えないよう俺の方でプロテクトを掛けている。あくまでチェックしてるだけなので、もし詳しい内容を覗く為にハッキングでもすれば、検査装置と同じ運命を辿る事となってしまう。
「ちょっと待って下さい! それはいくらなんでも横暴ではないですか!?」
「一つだけならまだしも、全ての魔法や魔法式の詳細を調べ上げるのは、一魔法師のプライバシーを暴露するも同然です。いくら兵藤の無実を証明する為とは言え、明らかにマナー違反の度を越えていると思うのですが」
大会委員長の提案を聞いて即座に待ったを掛ける五十里と司波。
魔法師の踏み込んではいけない領域を侵しているから、二人がそう言うのは当然だ。
俺の事を調べたがってる司波としては願ってもない展開かもしれないが、こんな状況ではそうも言ってられないだろう。表面上とは言え、自身が担当した選手のCADをチェックしたにも関わらず問題があると言われたら、エンジニアとしてのプライドが許さない筈だ。
「勿論それは百も承知です。しかし現状で確認出来る唯一の証拠は、兵藤選手のCADだけしかありません。ならば徹底的に調べるしかないでしょう。それとも他に証明する方法があるのなら、是非とも伺いましょう」
「「……………」」
強気な発言をする大会委員長に二人は何も言い返せなかった。
二人も分かっているのだ。確認出来る方法が俺のCADを調べるしかないと言う事を。
もし此処で『そちらの検査装置が
さて、どうするか。俺が
「決まりですな。では、そのCADは此方で預からせて頂きます。今回の件についても第一高校にも説明し、然るべき責任と賠償をしてもらい――」
「この騒ぎは一体何事かね?」
すると、穏やかな老人の声がした。しかも凄く聞き覚えのある。
俺達が一斉に振り向くと、この前密かに俺に会った老人――九島烈の登場により空気が一変。五十里が驚いているのに対し、司波はすぐ九島に一礼している。
さっきまで断罪するように言い放とうとしていた大会委員長も、途端に焦り出した表情となっていた。
「く、九島先生! 何故このような場所へ!?」
「君に用があって来たのだよ、大会委員長」
淡々と理由を言う九島が何だか不機嫌そうに思える。
楽しみにしていた決勝戦が観れなくなったから、今も相当苛立っている筈だ。
「そこにいる兵藤隆誠君が棄権した理由を聞きたかったのだが……これは一体どういう状況かね?」
周囲を見ながら問う九島だが、壊れた検査装置が目に入った途端にジッと見る。
「そこにある検査装置が壊れているように見えるのだが」
「じ、実は――」
説明を求めている九島に大会委員長がすぐに説明しようとする。
検査したCADが突如暴発した事で装置が損壊。原因を探ろうとCADにインストールされてる魔法の詳細を全て確認すると言う名の没収。第一高校に壊れた検査装置の賠償と責任を追及する。
それらの説明を聞き終えると、九島は少しばかり呆れたように嘆息した。
「その結論は些か早計ではないかね? まだ何の確証も無いではないか」
「ですが、CADが暴発したのは間違いないと、目撃した委員達が証言しています」
「ならば検査装置に異常はあったかね? もしくは検査した委員の手違いとか」
「それはあり得ません。兵藤選手のCADを検査するまで、何の問題もなく正常に作動していたと検査員も確認済みです。今はあの通り、もうデータを確認出来る状態ではありませんから、無傷である兵藤選手のCADを調べようとしたのです」
「そうか」
自分達に一切ミスは無いと断言する大会委員長の答えに、九島はそれでも納得が行かない表情だった。
すると、今度は此方へ視線を向けてくる。明らかに俺を見ているのだが、近くにいる五十里がビクッと身体を震わせていたが気にしないでおく。
「兵藤君、大会委員長はこう言ってるが本当なのかね?」
「……敢えて内容を付け加えさせて頂きますと、自分のCADがそうなったのは検査装置が原因です」
「なっ!」
「ほう」
反論するように答える俺の発言に大会委員長が反応し、さっきとは打って変わるように軽く笑みを浮かべる九島。
「兵藤選手! 九島先生相手にそんな見苦しい言い訳は――」
「君は少し黙っていたまえ」
「――はい」
冷徹とも言える鶴の一声が相当効いたみたいで、再び激昂していた大会委員長が瞬時に静まって大人しくなる。
ジッと此方を見続ける九島に、俺は涼しい顔のまま見つめ返す。その数秒後、突如彼はこう言いだした。
「ならば今回の件は一旦私が預かろう。今はまだ九校戦が続いてる最中だ。此処ですぐに決を下したら、第一高校に大きな支障をきたしてしまう。大会委員会側で行う兵藤隆誠君のCAD調査、並びに第一高校への責任追及等は、九校戦が終わるまで一切行わないとする。これに異論がある者はおるか?」
『…………………』
十師族の長老が下した決断に口を挟む者は誰もいなかった。
文句を言った瞬間、ソイツは九島を敵に回すも同然の行為だ。そんな度胸のある奴がいたら逆に凄いと称賛する。
一先ずは何とか俺のCADを没収されずに済んだ。だけど決勝戦は結局俺の棄権となり、三高の一条が優勝する事に変わりはなかった。疑惑が晴れていないCADを決勝で使わせる訳にはいかないと言う尤もな理由で。
それと壊れた検査装置についてだが、九島経由で国防軍の技術者に至急修理するよう頼むようだ。同時に予備の検査装置も用意すると。
その場凌ぎとは言え、九島には感謝しなければならなかった。もし彼がいなければ、今頃CADを没収された他、俺の所為で第一高校に多大な迷惑を被るところだった。
☆
「どうやら上手く行ったようだ」
「ポイントが入ったのは気に入らんが、それでも優勝されるよりはマシか」
「第三高校の一条選手としては喜ぶべき展開であろう。戦わずして勝ったのだからな」
「しかし、報告によると奇妙な事が起きたようだ。兵藤選手のCADに
「確かに奇妙だが、それは寧ろ好都合であろう。壊れた原因は彼のCADだと大会委員は疑っている。CADを調査されるのは時間の問題だ」
「その際に九校戦で使っていた魔法の情報は全て頂くとしよう。恐らく何処の国も欲しがる筈だ。場合によっては大儲け出来るやもしれん」
「そう考えると金の卵かもしれんな、彼が使っている魔法は」
「早く我々の元へ来て欲しいものだ」
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