再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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2021/10/28 感想を貰って内容を追加修正しています。


九校戦編 九校戦⑬

「五十里先輩、司波、あの二人から教えて欲しいと頼まれても言わないように。後でコッソリ教えるも無しで」

 

「勿論だよ」

 

「言われなくても分かっている」

 

 新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦は、第三高校一条将輝の不戦勝により優勝となった。

 

 当然これには選手の一条だけでなく、各校や軍関係者の他、一般客達から俺が棄権した理由を説明しろと今も求められているそうだ。今は大会委員会や九島烈がどうにか収めているから大丈夫だろう。

 

 俺のCADが検査中に異常が発生し、更には装置を壊したと言う事は、真実が明らかになるまで伏せている。九島が箝口令を敷いてるからだ。当事者である第一高校も含めて。

 

 しかし、流石に一高の上層部にも話さない訳にはいかない。なので俺は司波と五十里と一緒に、一高の天幕にいるであろう三巨頭の真由美達に事情を説明する事にした。

 

「お兄様、ご無事ですか!?」

 

「啓、一体何があったの!?」

 

 天幕に入って早々、予想通りと言うべきか、司波妹と千代田が心配そうな表情をしながら来た。司波妹は兄へ、千代田は五十里へと。

 

 九島から緘口令を敷かれてるので言えないが、もしもこの二人に教えれば最後、絶対ややこしい事になると断言出来る。大会委員に苦情を申し立てるか、もしくは迷惑を掛けた原因である俺に詰め寄って来るのが目に浮かぶ。

 

 取り敢えず対応は兄と許婚に任せて、俺はその先にいる真由美の方へ向かう。向こうも俺が来るのを待っていたかのように、奥の部屋へ来るよう案内された。

 

「今回はお二人のご期待に添えず、申し訳ありませんでした」

 

 席に座って早々、九校戦の選手に推薦した真由美と摩利に謝罪から開始した。

 

 頭を下げる俺に二人は全く気にしてないように、笑みを浮かべながら言う。

 

「君が謝る必要など無いさ」

 

「準優勝になっただけでも御の字よ」

 

「ありがとうございます」

 

 逆にお礼を言いたいと返す二人を見た俺は、再び頭を下げた。

 

 今回起きた事が無ければ優勝を飾っていたから、それが叶わなかった事に今も申し訳ない気持ちでいる。

 

 二人が気にしてないと言った以上、いつまでも引き摺る訳にはいかない。ここで謝り続けたら逆に失礼になってしまうから。

 

「それで、何があった」

 

「はい、実は――」

 

 本題に入ろうと十文字が、今回の件について訊いてきた。

 

 すぐに頭を切り替えた俺は表情を引き締めると、真由美と摩利もすぐに聞く姿勢になろうとする。

 

 

 

 

「リューセーくんのCADが原因で検査装置が壊れただと!?」

 

「それで失格とした上に、エンジニアの達也くんと五十里くんを呼びつけた訳ね」

 

「原因究明の為にCADを調査する寸前に九島閣下が止めて、今もああして宥めていると言う訳か」

 

 大会委員のテントで起きた顛末を一通り説明し終えると、三巨頭は異なる反応を示していた。

 

 信じられないように叫ぶ摩利、俺の棄権とエンジニアが呼びつけられた事に納得する真由美、深刻な表情になりながらもモニターの方へ視線を移す十文字。因みにそのモニターでは九島が会場の観客達に俺の棄権についての説明をしてる最中だ。

 

 因みにこの部屋は布で覆われているだけなので、遮音性など無いに等しく、司波達がいる場所でも丸聞こえとなってしまう。けれどそこを真由美が魔法で遮音障壁を張ってくれた為、今の会話が周囲に聞かれる心配はない。

 

「『今回の件については九校戦が終わるまでの間、各校や関係者、並びに一高の選手やスタッフに口外するな』と、九島閣下から箝口令を敷かれました」

 

「だろうな」

 

 周囲に知れ渡れば間違いなく大騒ぎになる他、一高全体の士気に大きく影響する事を十文字は察するように頷いた。

 

 それとは別に、俺の事が気に入らない一科生の連中がここぞとばかりに責め立てようとするだろう。

 

 俺が決勝まで勝ち進んでいて、ぐうの音も出なかったが、追及できる材料を見つけた途端、まるで鬼の首を取ったかのように声高に叫ぶ筈だ。

 

 真由美達もそれが分かっているから、箝口令を敷かれた事に何の文句もない。寧ろ助かったと安堵してるだろう。

 

 とは言え、その措置はあくまで九校戦が終わるまでの時間稼ぎに過ぎない。これで何の進展も無く九校戦が終わってしまえば、大会委員会は間違いなく調査の名目で俺のCADを没収後、一高に検査装置の損害賠償責任を負わせるだろう。

 

 あくまで俺の想像に過ぎないけど、一高の教師陣が責任を全て俺に押し付けて退学させるのを念頭に置いておこう。メンツを気にするか、生徒を守るかは向こう次第となるが。

 

 まぁそんな嫌な事は横に置いておくとしてだ。今は俺は圧倒的不利な現状をどうにかしなければならない。

 

「一先ず話は分かったわ。だけど妙ね。午前中の試合までは検査をして何も問題無かった筈なのに……」

 

 顎を手に当てて、どうも腑に落ちないと言うように考え始める真由美に、腕を組んでいる摩利が確認するように問う。

 

「決勝前に何か規定違反になるような魔法をインストールしたのか?」

 

「それ、司波妹か千代田先輩の前でもう一度言えます?」

 

「…遠慮しとく」

 

 俺が暗にエンジニアとして優秀である二人が見逃す筈がないと答えると、摩利はすぐにがっくりと首を垂れた。分かっていながらも訊いたんだろう。

 

 因みにこの会話を司波妹が聞いていたら、『お兄様がそんなミスをすると思いますか?』と言いながら、全身からブリザードを放出して天幕が氷漬けになったかもしれない。

 

「なら兵藤は、他に原因があると見ているのか?」

 

「十中八九、検査装置だと思いますが……委員会は俺のCADが原因との一点張りです」

 

 十文字からの質問を、俺は所持してるCADを見せながら答えた。本当なら取り上げられてもおかしくないのだが、九島のお陰で今は何とか所持する事を許可されている。

 

 無傷な状態であるCADを見て不思議そうに見てる三人だが、その中で真由美がふと気になったように言い出した。

 

「ねぇ、検査中にCADが暴発したらしいけど、そもそも一体何の魔法が発動したのかしら。所有者であるリューセーくんなら分かる筈よね」

 

 それを聞いた摩利と十文字もピクリと反応して、揃って俺を見る。

 

 流石は生徒会長、大会委員長と違って鋭い質問だ。

 

 彼女の言う通りであり、今回そうなったのは俺のCADに施してる迎撃用の術式が発動した。俺が許可しない限り異物が入った瞬間、即座に跳ね返しながら反撃も加えると言うカウンター魔法だ。

 

 検査中にバリバリと放出した雷撃こそがカウンター魔法であり、異物を流し込もうとした検査装置に反撃したのだ。威力が高過ぎた所為で壊れてしまったが。

 

 あの時は検査しても大丈夫だと思いながらも用心の為に施したんだが、まさかそれが仇になってしまうとは完全に予想外だった。俺のCADが助かっても、今もこうして最悪な展開になってしまっているから。

 

「ええ、勿論分かってます。なので後輩の俺は、尊敬する先輩方に大事な相談をしたいと思いますが、如何でしょうか?」

 

「「「………」」」

 

 俺が遠回しな言い方をしてるのには理由がある。これから話す内容は他言無用であると念を押しているのだ。俺が魔法の内容を説明するから。

 

 摩利は大丈夫だろうが、十師族である真由美と十文字は少しばかり別だった。非常事態が起きれば当主に報告しなければならない義務があるから、そこで俺の事を報告をすれば確実に面倒な事になってしまう。

 

 三人もそれを分かっているみたいで、真剣な表情となって懇願する俺を見て一時無言になるも――

 

「良いだろう。後輩の相談に乗るのも、会頭として当然の務めだからな」

 

「私も生徒会長として、相談内容は決して誰にも言わないから安心して」

 

「……はぁっ。風紀委員長の私も以下同文だ」

 

 十師族ではなく、一個人または先輩として、悩める後輩の相談話に乗ると言う形にしてくれた。その二人の台詞を聞いた摩利は若干呆れたように嘆息するも、敢えて二人に合わせている。

 

 一高の三巨頭はどこぞの一科至上主義の連中と違って、話が通じてくれて本当に助かる。

 

 三人が約束を反故にするような真似はしないだろうが、それでも言質を取った以上は答えないといけない。

 

 では、説明するとしますか。

 

「発動した魔法名は『鏡面反射(ミラーリフレクター)』。サイオン配列に干渉して他者の使用した魔法を、そっくりそのまま反転させる対抗魔法です」

 

 俺のCADに対抗魔法がインストールされてると知った際に三人は当然驚いた。詳細を聞きたい衝動に駆られているだろうが、一先ずはどうにか抑えてもらっている。

 

 便宜上は『鏡面反射(ミラーリフレクター)』としてるだけで、実際は俺の能力(ちから)で発動した物だが。

 

「魔法そのものを反射…それはつまり、一種の呪詛返しのようなものか?」

 

「そうですね。例えば魔法師Aが対象に「魔法を上手く使えなくする魔法」を撃った場合、それは撥ね返され、魔法師Aがその魔法のダメージを受けるという事になります。今回の場合、CAD操作に関わる電気信号に干渉し、魔法の発動を阻害する配列パターンに自動的に反応した瞬間に反射するよう設定したので、術者は自分が使った魔法のせいで、魔法が暫くの間上手く使えなくなります」

 

「なんとまあ……」

 

 感心したのか呆れたのか、あるいはその両方であったのか、摩利は嘆息を漏らすだけだ。

 

 多分彼女の事だから、司波みたいに色々な意味で凄い奴だと思ってるだろう。

 

 魔法についての説明を終えると、ずっと聞いていた十文字が口を開く。

 

「しかし、今回使われたのはCADの操作を妨害する魔法なのだろう? ならその魔法は、魔法を使った張本人――検査員に返る筈だが」

 

 その疑問は至極尤もだった。

 

 十文字の言う通り、検査装置は謂わばCADを検査する事に特化した魔法をインストールされているCAD。妨害魔法をその装置を以て行使したのであれば、返された魔法は検査員に返り、少なくとも検査装置自体に被害が及ばない筈である。

 

「ええ。ただの妨害魔法なら、ここまで大事にもならなかったでしょうが……向こうが使った魔法の所為で、最悪な展開になってしまいました」

 

「と言うと?」

 

「これはまだ推測の域に過ぎないんですが……多分SB魔法を使ったのではないかと思います」

 

 SB魔法とは主に使い魔など、非物質存在を媒体とする魔法の総称とされている。SBは『Spiritual Being(スピリチュアル・ビーイング)』と言う略称であり、精霊魔法に属するものである。

 

 古式魔法師である四十九院沓子がバトル・ボードで精霊魔法を使っていたと言えば分かるだろう。あと直接見た事ないが、幹比古も同様の古式魔法師と付け加えておく。

 

「そっか、SB魔法を魔法の発生源とCADは自動認識して……」

 

「本来の術者である検査員ではなく、SB魔法そのものに反射した結果、SB魔法が入った検査装置が過剰に余波を受けてしまった、という訳か」

 

「恐らくは」

 

 納得する真由美と摩利に俺は肯定を返す。

 

 正直言って、今回は自分の用心深さが迂闊であった。摩利の妨害に使われたのも精霊魔法だったと幹比古が見解してたので、CADに精霊の類が仕込まれることも十分にあり得る話だ。

 

 こんな事ならいっその事、術式を仕込まなければ良かったかもしれないと後悔してしまう。どうせCADはただの見せかけに過ぎないから、あのまま異物(ウィルス)を入れておけば、不正の証拠が丸々残る事が出来て解決できたかもしれない。

 

「……だが目的は一体なんだ。誰が、何のメリットがあってこんな馬鹿げた真似をしている?」

 

「摩利、落ち着いて。治りかけの身体に響くわ」

 

 静かな怒りを滲ませて身体を震わせる摩利に、真由美が身を案じるように宥めているが表情を少しばかり歪めている。

 

 二人がそうなるのは当然と言えば当然だ。自分達三年生、最後の青春とも言えるこの大会において、実像の見えぬ存在が明確な悪意を以て妨害を行っているのだから。

 

 十文字も同じ気持ちだろうが、今はただ話を聞いて重苦しい表情のままだ。

 

「確認なのだが、何故お前はそれを委員会や九島閣下の前で言わなかった? それならば状況は変わっていたと思うが」

 

「検査装置がデータごと吹っ飛んでしまったので、調べようが無かったんですよ。実際、俺のCADに何を流し込んだのかも分からず仕舞いですし。それに、委員会がクロなら尚更、委員会の検査に信頼は置けません」

 

「……確かにな」

 

 俺の言い分に、腕を組んでいる十文字は難しい表情をしながら瞑目した。

 

 もし検査装置が壊れてなければ、何のデータを流し込んでいたのかが判明し、即座に犯人である検査員を取り押さえる事が出来たかもしれない。

 

 だが結果は全くの逆になるどころか、犯人側も予想外な展開に驚くも、逆に好都合だと思って安堵してる筈だ。俺に濡れ衣を着せる事が出来たのだから。

 

 まぁ、犯人と思われる奴の顔は覚えたので、後ほどコッソリ会う予定でいる。軽く気絶させた後、能力(ちから)を使って頭の中を覗く為に。

 

 それを実行するのは、明日の夜以降だ。俺は決勝で事実上棄権となっている為、下手に動くわけにはいかない。分身拳を使う手もあるが、焦って動いたら碌な事にならないので控える事にする。

 

「だけど、向こうは何でリューセーくんにそんな事を仕出かしたのかしら。仮に犯人が大会委員会側だとしても、動機が全く分からないわ」

 

「『大会委員に紛れ込んでいる工作員』だったら話は別じゃありませんか? 司波が摩利さんの事故を調査して、そう推測してましたから」

 

『!』

 

 益々謎が深まっている真由美に俺が口にした瞬間、三人は突如ハッとするように顔を上げる。

 

「まさか……バスの事故や摩利の件も、犯罪組織(ブランシュ)が関わって――」

 

「待て七草。その結論を出すには、まだ確固たる証拠がない」

 

 真由美が言ってる最中、十文字が寸での所で止めた。彼の言う通り証拠が何一つないから、下手に口にすれば憶測が更に広まってしまう。

 

「兵藤、俺達に相談してくれた事、感謝する。後はこちらで調べるから、今日はもう部屋に戻ってゆっくり休むといい」

 

 ここで話を切り上げた方が良いと判断した十文字は、俺にホテルへ戻るよう指示を出した。

 

「分かりました。では、失礼します」

 

 反対する理由がない俺もそれに従い、この場を後にする。

 

 三人がいる部屋から出た後、そのまま天幕から出ようとする際――

 

「お兄様、どうして教えてくれないのですか? わたしは何故呼ばれたのかが心配なんです」

 

「深雪がそこまで気にする事じゃないと言ってるだろう」

 

「許婚の私に答えられないってどういう事よ、啓!?」

 

「だから花音、落ち着いて……」

 

 司波と五十里が未だに妹と許婚から問い詰められたままだった。

 

 俺が真由美達と話して、それなりに時間が経っている筈だが……思った以上にしつこいな。

 

 身内が心配な気持ちは理解出来るけど、相手の心情を察して引き下がる事をしないんだろうか。

 

 呆れながら移動してると、司波妹と千代田が途端に俺を見た瞬間――

 

「ああっ! 待ちなさい、兵藤くん!」

 

「チョッとぉ! いきなり逃げるなんてズルいわよ!」

 

 少しばかり殺気を感じたので即座に逃走した。

 

 千代田だけは俺を捕まえようと追跡するも、五十里がどうにか阻止してくれたので問題無くホテルへ戻る事が出来た。

 

 後で聞いたが、司波妹はどうにか引き下がり、俺を問い詰めようと考えていた千代田を摩利が止めてくれたそうだ。

 

 そしてホテルに戻って安堵してると――

 

「隆誠殿、棄権したとは一体どう言う事じゃ!?」

 

「……今度はお前達かよ」

 

 三高の沓子に問い詰められてしまった事に深い溜息を吐くしかなかった。ついでに彼女と一緒にいる一色愛梨と十七夜栞も含めて。




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