再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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九校戦編 九校戦⑭

 2095年8月9日/大会七日目

 

 

 九校戦七日目で新人戦四日目。

 

 昨日は色々と大変だった。ホテルで遭遇した三高の沓子達の他、修哉に紫苑、エリカ達四人に壬生や桐原、一科生女子の北山達が、立て続けに棄権理由を問い詰められた。

 

 大会委員会と九島が言った事が全てだと答えても、全員が全くと言っていいほど納得しなかった。それどころか、何か別の理由があって棄権になったのではないかと鋭い考察をして動揺を禁じえなかった。

 

 九島から箝口令を敷かれたとは言え、黙っているのは少しばかり忍びない。特に友人である修哉と紫苑がそうだ。決勝を観たかったとは別に、俺に何か不都合な事が起きたのではないかと心配していたから。

 

 これ以上考えると大変申し訳ない気持ちになってしまうから、話題を変えるとしよう。

 

 今日の競技は、九校戦メイン競技とも言えるモノリス・コードの新人戦予選リーグ、並びに花形競技ミラージ・バットが行われる予定だ。

 

 どちらも見応えある競技だが、観客の関心は主に女子のみを対象とするミラージ・バットだった。華やかな衣装で身に纏う若い女性が空中を舞い踊るから、男性ファンがそっちに関心を寄せるのは当然と言えよう。

 

 そう言った事に大して興味のない俺としては如何でも良い事だが、あの競技には光井と里美が出場する。なので其方を観に行くのは自然の流れだ。

 

 因みにモノリス・コードは一科生の森崎達が出場するのだが、今も一方的に二科生(ウィード)と敵視してる連中を応援する義理はない。もし頑張れと言ったところで、素っ気ない態度を取られるか、要らん世話だと噛みつかれるのが目に見えてる。

 

 さて、今日は修哉と紫苑と一緒にミラージ・バットの観戦に行きますか。俺が出る競技はアイス・ピラーズ・ブレイク単一だから、以降は観戦に徹するのみだ。

 

 

 

 

 

 

「凄いわね、光井さん。まるで出てくるのが分かってるみたい」

 

「司波の調整のおかげってやつか?」

 

「いや、恐らくソレとは別だろう」

 

 驚いている紫苑とは別に、修哉が司波の恩恵と予想するように言うも、俺がすぐに違うと否定した。

 

 女子新人戦ミラージ・バットは現在第二試合まで進んでいる。

 

 因みに第一試合では里美が他校の選手を圧倒するような跳躍を見せて、見事に予選通過だ。

 

 担当エンジニアである司波が調整した結果と言えよう。恐らく里美も自身の実力以上だと思っているに違いない。CADの調整で差を付けられている事に他校のエンジニアとしては歯軋りする一方だ。

 

 そして今観ている第二試合には光井が出ており、第一試合とは違う展開となっている。ホログラム球体が出てくる前に跳んだ瞬間、まるで予想していたかのように球体ホログラムがピンポイントで出現し、見事にスティックで打っていた。

 

「別って、どういう事だ?」

 

「沓子……んんっ。三高の四十九院から聞いた話によると、光井は『光のエレメンツの末裔』らしい」

 

「エレメンツ? 何なのそれ」

 

 咳払いしながら修哉の質問に答えると、聞いた事のない単語に今度は紫苑が訊いてきた。

 

「詳しい事は分からないが、何でもそれぞれの属性を持った魔法師らしい。因みに光井の属性は『光』みたいだ。バトル・ボードとかで光を中心とした魔法を使っていただろ?」

 

「言われてみれば確かに……」

 

「加えて、『光のエレメンツ』は常人の目には見えない光の発生を知覚出来るんだとさ。それで光井は他の選手と違って、ホログラム球体の出現する位置が既に見えてるから、ああして先回りするように跳躍してるんだ」

 

 昨日沓子に問い詰められた後、バトル・ボードの話題になった際に『悔しかったのじゃ~!』とか言って何故か抱き付かれた。その所為でまた一色愛梨と十七夜栞に誤解されたのは言うまでもない。

 

 まぁその際、沓子がエレメンツである光井に負けた要因が『想う心』で差が付いたとの事だ。彼女が想っている相手が誰なのかは既に分かっているから、敢えてそこには触れないでおく。

 

「へぇ~。その末裔である光井さんにとって、ミラージ・バットは正に最適な競技って訳ね」

 

「そう言う事だ」

 

「だとすると、この試合はもう勝ったも同然だな。あんだけの差が付いてるんだから」

 

 修哉の言う通り、先回りしてホログラム球体を打っている光井のポイントは、もう完全に他校選手を引き離していた。逆転するのが難しいと思われる程の差がついている。

 

 まだ第二ピリオドだけど、第三ピリオドになれば更に差が開くのが容易に想像出来て、この後はもう観なくても分かってしまう。

 

 だが、それでも最後まで観るつもりだ。光井とはそんなに親しい仲ではないが、他の一科生達と違って普通に接してくれてる。勝つのが分かっても、同じ司波のグループの一人として見届けるのが礼儀だ。

 

 そして第二ピリオドが終わって休憩後、第三ピリオドに移るも、予想通り光井が余裕で予選通過となった。

 

 一高二人が出る決勝は午後七時となる為、時間がかなり空く事になる。修哉と紫苑はこのままミラージ・バットを観るようだ。

 

 俺も時間潰しの為に他校が出る試合を観るのもいいが、昨日のアレを実行する前の事前準備をしようと、一旦ホテルに戻ろうとする。二人も俺の棄権で色々と大騒ぎになったのを察して、引き留めずにそのまま見送ってくれた。

 

 

「おい見ろ、アイツ一高の……」

 

「急な体調不良が起きたって九島閣下が言ってたけど……今は元気そうだな」

 

「どうせ一条と戦うのが恐かったんだろ、ダセェ」

 

「ま、相手は十師族だから仕方ないさ」

 

「無様に負けるより棄権したほうが賢い選択ってとこだろ」

 

 

 会場を出る際、観客達が俺を見た瞬間にヒソヒソと話していた。

 

 随分と好き勝手言ってくれるが、そんなのに一々構ってられないから無視している。もし向こうにいるミカエル達が聞けば、間違いなく激怒してるだろうが。

 

 そう思いながら会場を出てホテルに辿り着き、ロビーに預けてるカードキーを受け取ろうとするが――

 

「兵藤隆誠様ですね。申し訳ありませんが、ある御方から貴方と話がしたいと仰るため、是非ともご同行願えますか?」

 

「はい?」

 

 まるで待ち受けていたと思われるウェイターがそう言った事で、俺は思わず首を傾げてしまった。

 

 

 

 

 

 

「てっきり前みたいに、コッソリ抜け出して俺に会うんじゃないかと思ってましたよ」

 

「そうしたかったのは山々だが、今は動くに動けなくてね」

 

 誰かが聞いたら間違いなく無礼だと叱責するだろう俺の軽口に、目の前の老人は大して気にする事なく言い返していた。

 

 ウェイターに案内されたのはVIPルームで、案内されて中にいたのは昨日会った老人――九島烈だった。

 

 ついさっきまで護衛らしき者達がいたが、俺と二人だけで話したいと九島が命じて外させている。それでも何か遭ったらと言う事で入り口付近に待機しているから、トラブルが起きた途端即座に駆け付けるだろう。

 

 方や、十師族でも百家でもない一介の高校生。

 

 方や、『最高にして最巧』と謳われ、『トリック・スター』の異名を持っていた魔法協会理事の老師。

 

 明らかに場違い過ぎると誰もが思うだろうが、九島が俺を呼び出したのはそれなりの理由がある。

 

 昨日の新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦で俺が棄権する際、大会委員からのCAD検査に問題が生じ、それを九島烈が一時的に預かって保留にしている。大会委員会も異論が無い為、中立の立場である彼に任せている状態だ。九校戦が終われば即座にその効力が消えてしまうが。

 

 九島は詳しい事を知る為の尋問をしようと、使いを出して俺を此処に呼びつけたのだ。

 

 だが、目の前にいる老人から重苦しい雰囲気を微塵も醸し出していない。それどころか、まるで茶飲み話を楽しむかのような感じだ。

 

 かく言う俺も全く緊張した様子を一切見せないで、用意された紅茶を飲みながら話している。

 

「随分と美味しい紅茶ですね。俺は風味があるアールグレイ派ですけど、閣下は香り高いダージリン派なんですね」

 

「ほう。君は若いのに紅茶の区別が付けられるのか。後でジュースでも用意しようかと思ったが、余計な気遣いだったようだ」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

 紅茶の好みを当てた事で気を良くしたのか、九島は笑みを浮かべている。

 

 前世の頃に同級生で義妹である純血悪魔――リアス・グレモリーが紅茶を嗜んでおり、話をする際には必ずと言っていいほど用意していた。その際に俺は色々な紅茶の味を知って、多少分かるぐらいの知識がある。因みにリアスも俺と同じくアールグレイ派だ。

 

 紅茶を軽く飲んだ俺は、ティーカップをテーブルの上に置く。

 

「本当ならこのまま茶飲み話に興じたいところですが、そうも行かないですね」

 

「全くだ。昨日の件が無ければ、君が私に見せてくれた素晴らしい試合について、ゆっくり話をしたかったよ」

 

 俺と九島は残念そうに言いながら、そのまま本題に移ろうとする。当然それは昨日のトラブルについての話だ。

 

「既に知っての通り、観客達には君が棄権した理由については『魔法師が稀に発生する、一時的による急な体調不良』と言う事にしている。一般客は納得しても、三高の一条将輝を含めた他校関係者は今も疑問を抱いているだろうが、それで誤魔化すしかなかった。勝手に君を不調扱いにして、誠にすまないと思っている」

 

「閣下に救われた俺には、何の文句もありませんよ。寧ろ感謝しています」

 

「そう言ってくれると助かる」

 

 九島としては不本意だったかもしれない。

 

 本当なら大会委員長が下した俺の棄権を即座に撤回するよう求め、決勝戦を観たかっただろう。しかし、俺が余りにも不利な状況に陥ってると認識し、一時保留と言う形で何とか抑えるしかなかった。

 

 立場が強い魔法協会理事と言えども、大会側が下した決定を簡単に覆す事が出来ないのは九島も充分理解している。明確な証拠さえ出せば、大会側に問題があると見なして取り仕切る事が出来るだろう。だけど、その証拠を俺のCADに入ってる対抗魔法――『鏡面反射(ミラーリフレクター)』が発動した為に消えてしまった。正しくは聖書の神(わたし)能力(ちから)で施したものだが。

 

「今回のCAD検査中に発生した検査装置破壊について、運営委員は兵藤君のCADに問題があると非難し、君は検査装置に問題があると真っ向から反論した。だが、状況は君の方が明らかに不利な為、私が預かると言って辛うじて抑える事に成功したが、正直言ってこれは単なる時間稼ぎに過ぎない。それは君も分かっているだろう?」

 

「ええ。このまま何の進展も無ければ、九校戦が終わった後、大会委員会は即座に俺の魔法を全て調べる為にCADを没収後、第一高校にも検査装置の損壊賠償責任を負わせるつもりでしょうね」

 

「その通り」

 

 俺が解決しなかった場合の末路を答えると、九島は正解だと頷いた。

 

「この圧倒的不利な状況の中、一体どうするつもりかな? 私が調べようにも、あからさまに兵藤君が犯人だと運営委員側の偏った情報ばかりしか入らなくて困っているのだよ」

 

「でしょうね」

 

 大家委員会としては、検査装置は俺のCADが壊したと既に断定している。だから向こうは九島にも納得してもらう為に、色々根回しをしてるだろうと予想していたが、もう既に手配済みのようだ。

 

「九島閣下としては、もう既に俺が犯人だと思ってるんじゃないですか?」

 

「生憎今の私は中立の立場でな。片方の情報だけを鵜吞みにしては公平性に欠けるから、こうして君を此処に呼んで独自に調べようとしているんだ」

 

「それは失礼しました」

 

 尤もらしい事を言ってるけど、俺はもう既に見抜いていた。この老人は明らかに俺寄りの考えを持っている事を。

 

 そう考えるのにはいくつかある。

 

 一つ目、俺から情報を聞き出す為に尋問をするなら、こんなVIPルームでやる必要なんかない。普通ならもっと狭い取調室みたいな所でやるものだ。

 

 二つ目、大会委員会に何らかの不満を抱いているかもしれない。自分達に一切非は無いと断言し、俺と第一高校に責任を全て押し付けようとする大会委員会のスタンスを見て。

 

 他にもまだあるが、その二つが主な理由だと思う。二つ目の理由について確信はないが。

 

「先程のどうするかの質問ですが、真実を報告したリーダーの十文字、七草が調べると仰いましたから、もう俺の出る幕は無いかと」

 

「そんな模範的な行動をしたところで、解決の道は程遠いのではないかね?」

 

 後の事は上に任せると言うやり方では無理だと、少々呆れるように言ってくる九島。

 

 例え十文字と真由美が家のコネを使ったところで、全く当てならないと考えているんだろう。確かにまだそこまで大事になってないこの状況で、十師族が動く可能性は限りなく低いと俺も思う。

 

 目の前にいる九島烈は十師族でも、既に当主から退いている身だ。現当主である息子に言えば何かしらの働きかけをするかもしれないが、それをやったところで意味の無い事だと、彼も重々理解している。

 

「まぁ向こうが成功したのを機に、検査装置にまたSB魔法を仕込んでくれたら良いんですが」

 

「待ちたまえ、それは初耳だ。一体どう言う事かね?」

 

 あ、そう言えばまだ九島に言ってなかったな。検査装置が壊れた原因が何なのかを。

 

 思いもしない情報だと言わんばかりに、彼は是非とも教えて欲しいと言ってくる事に、迂闊な発言だったと内心反省……って、しなくてもいいか。と言うより寧ろ、箝口令を敷いてくれた九島に教えないといけないから。

 

「なら先に言っておきます。俺如きが目上の九島閣下相手に、こんな事を言うのは大変失礼だと重々承知してるんですが、今から話す事は決して他言無用に願えますか? 出来れば今の閣下は魔法協会理事としてでなく、『悩みある高校生の相談に乗ってくれる好々爺』と言う設定で」

 

「……………」

 

 こんな事を入り口に控えている護衛達だけでなく、大会委員会や九島烈を尊敬している全国の魔法師達が知れば、間違いなく一斉に怒りを露わにするだろう。向こうからすれば無礼を通り越して、不敬極まりない要求なのだから。

 

 九校戦に参加してる十文字や真由美、更には一条や他のナンバーズも聞けば間違いなく仰天するだろう。

 

 九島もまさか、自分にそんな要求をされるとは思わなかった筈だ。今も呆然となって無言だから。

 

 そして――

 

「ク、クククク……ハッハッハッハ!」

 

 突然前に見た大笑いをした。

 

「この私にそのようなお願いをする若者は君が初めてだ。私の孫からも一度だって言われた事がない。ああ、別に不快に思ってないから謝罪は結構だよ」

 

 前以て自分が用意していた台詞を防ぐように言う九島に、やっぱり予想してたかと内心舌打ちをする。

 

 この前の休憩室での会話をしていた際、『ご不快だったら土下座する』と言ったから、恐らくそれを思い出したかもしれない。

 

「そうですか。なら俺からのお願いを受け入れてくれますか?」

 

「良かろう。今から私は君の相談に乗る只の好々爺になろうではないか。さぁ若人よ、この私に一体どのような悩み相談をするのかね?」

 

 随分とノリが良い老人な事で。まぁそうしてくれた方が、俺としても大変好都合だから文句はない。それだけ俺の事を気に入ってると見て良いのだろうか。

 

 とにかく向こうが俺の要求を受け入れてくれたので、一先ず話すとしますか。

 

「では先ず、俺のCADにインストールしてる対抗魔法からお話しします」

 

 対抗魔法と聞いた瞬間、さっきまで笑顔だった九島が途端に真面目な表情となった。

 

 便宜上、俺が開発した現代魔法『鏡面反射(ミラーリフレクター)』について話し始めようとするが、突如VIPルームの扉が開いた。

 

 それが聞こえた俺と九島はすぐに振り向くと、九島の護衛らしき軍人が慌てた様子で入室した。

 

「閣下、尋問中のところ申し訳ありません」

 

「一体何事かね?」

 

 折角の話に水を差された九島は気分を害するも、護衛の様子を見て只事ではないと察しながら用件を尋ねた。

 

「たった今、モノリス・コードで事故が起きたとの報せが入りました」

 

「「!」」

 

 護衛からの報告に俺と九島は目を見開いた。

 

 直後、九島はすぐ手元にあるリモコンを操作してVIPルームにある大きなモニターの電源を付けた。

 

 画面には市街地フィールドが映っており、その内の一つである廃ビルが崩壊している。

 

「これ一高(ウチ)の試合じゃないか……」

 

「どう言う事かね?」

 

 崩壊してる廃ビルを凝視する俺とは別に、事故が起きた状況を護衛に訊こうとする九島。

 

「はっ。第一高校対第四高校の試合が始まる直前、第四高校側で突如『()(じょう)(つい)』と思われる魔法を発動させ、廃ビルが崩落したとのことです」

 

「『破城槌』だと?」

 

 護衛の話を聞いて思わず鸚鵡返しをする九島に、俺も思わず振り向く。

 

 確か『破城槌』は加重系で、対象物の「一つの面」に加重がかかるようにエイドスを書き換える系統魔法だ。どの魔法師でも使える基本も同然な魔法だが、使い方によってはかなり危険になる。

 

 その魔法は目の前にある廃ビルのような、屋内に人がいる状況で使用した場合、殺傷性ランクAに格上げされる。今回行われている九校戦でも、屋内で『破城槌』を使う事は厳禁としており、使った瞬間にレギュレーション違反となって失格になる筈。

 

 だと言うのに、それを全く無視するように使用した。普通に考えてあり得ない。こんな自殺行為も同然な事をする奴が九校戦の選手に選ばれる訳が無い。

 

「第一高校の選手達の安否は?」

 

「現在医療班が救援に向かってる最中で未確認ですが、瓦礫の下敷きになっているのは間違いない為、第一高校の三選手とも恐らく重傷かと」

 

「そうか……」

 

 あの廃ビルにいる森崎も含めた一科生三人とも重傷か。俺の棄権とは比べ物にならないほど大事だな。

 

 これには流石の大会委員会も慌てているだろう。今回は競技中に事故が起きたのだから。あの憎たらしい大会委員長が慌てふためている姿が目に浮かぶ。

 

「状況は理解した。それで、今回起きた事態に運営委員はどうするつもりだ? それと第四高校側は何と言っている?」

 

「今は確認中ですので、暫しお待ちを」

 

「ふむ……。兵藤君、この後はどうするかね?」

 

 一通りの話を聞き終えた九島は護衛から俺に視線を向けて訊いてきた。

 

「負傷した選手達の容態が気になるので、すぐに一高側の天幕へ向かいたいと思ってるのですが」

 

 一科生男子に余り良い感情を抱いてないとは言え、アレでも一応チームメイトだから、無関心でいる訳にはいかない。

 

 本当はこのまま九島と話を続けたいが、十文字達の話も聞きたいから、ここは中断させてもらう。

 

「うむ、それは当然の判断だ。ならば君の尋問は後ほど行うとしよう。ああ、そうだ」

 

「?」

 

 九島が突然何か思いついたかのように、小さな紙切れを出したかと思いきや、それに自前の万年筆で何かを書いていた。

 

 書き終えた後、今度は俺に小さな紙切れを渡そうとする。

 

「これを渡しておこう」

 

「……あの、これってもしや……」

 

「困った事があれば、遠慮なく使いたまえ」

 

 紙切れを受け取って書かれている内容を見た途端に思わず頬を引きつらせるが、渡した本人は笑顔のままだ。

 

 因みにこのやり取りを見ている護衛は非常に困惑している状態だった。それは当然の反応だから、俺としても何とも言えないので敢えて放置させてもらう。

 

「分かりました。では、失礼します」

 

「うむ」

 

 立ち上がって九島に一礼をした後、粗相のないようにVIPルームから出た。

 

 そして大急ぎで天幕に向かおうとしてる最中、さっきから懐で振動してる携帯端末を取り出して通話をONにする。

 

「もしもし?」

 

『リューセー、何ですぐ電話に出ないんだよ!? 今大変な事が起きて――』

 

「知ってる。モノリス・コードで崩落事故が起きたんだろ? 今それを確認する為に天幕へ向かってる最中で、すぐ電話に出れなかったんだよ」

 

 怒鳴り散らすように言ってくる修哉からの電話を、冷静に返した事で向こうはすぐに大人しくなった。

 

 流石についさっきまで九島烈と一緒だったとは言えないから、適当に誤魔化すしかない。




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