生徒会長の七草真由美、風紀委員長の渡辺摩利の登場で緊張が走る空間となるも、部活連副会頭の一条隆誠の状況説明によって一気に緩和される事となった。
魔法の起動式を瞬時に読み取った話を聞いた際に疑問を抱かれたが、司波達也が一切嘘を吐いていないと言った他、隆誠の証言によって、魔法を人に向けて放とうとしていた女子生徒の他、騒ぎを起こした件についても不問となる。
それとは別に、真由美が達也に対して非常に興味を抱いたかのように、とても意味深な笑みを浮かべていたのを摩利と隆誠は確信した。あの顔は絶対何か企んでいると内心思いながら。
不問となった一科生と二科生の生徒達も安堵しながら、各々帰宅する為に学校から出ようとしていく。
「にしても、あの一条副会頭って人も凄かったな」
二科生達(達也、美月、エリカ、レオ)と一科生達(深雪、ほのか、雫)が一緒に駅まで同行してる際、その途中にあった店でドリンクを購入して一旦足を止めていた。
ふと、レオがドリンクを飲みながら、先程起きていた校門での騒ぎの事を思い出して呟く。
その台詞を聞いた達也達は一斉に彼の方へと視線を向ける。
「何だかまるで金縛りにあったかのような凄ぇ威圧感を感じたぜ」
蛇に睨まれた蛙みたいな事を言うレオに、達也達は否定出来る要素が見付からなかった。
ほのかも思い出したのか、手にしてるドリンクごと身体をブルッと震わせていた。あの時の恐怖を思い出したかのように。
「チョッとアンタ!」
「え? あっ! わ、悪い光井さん!」
「だ、大丈夫ですから……」
エリカが失言だと小突くと、途端に頭を下げて謝罪するレオ。だが、その謝罪をほのかは大して気にしないように言い返していた。
「それとは他に気になる事もある」
身体を震わせているほのかの心配をしながらも、雫は話題を変えようとして来た。
「あの人、ほのかの魔法をどうやって止めたのかな?
もしも魔法を使ったのであれば、威力の強弱など関係無く、身体の一部から魔法を使ったと思われる
魔法を止める為には魔法で対抗しなければならない。それは魔法師としての常識である。
しかし、隆誠がほのかを止めた際、
彼女の言葉に、他の面子も『そう言われてみれば』と、途端に疑問を抱き始めている。
「いや、アレは魔法じゃないよ」
すると、即座に否定の答えを出した。言ったのは達也である。
雫だけでなく、深雪達も彼の方へと視線を向けた。達也は校門で起きた騒ぎの時、ほのかの魔法を分析したから、理由も当然あるだろうと思いながら。
「一条副会頭がほのかに向けて放ったのは、魔法でも何でもない。軽い衝撃波みたいなものだ」
「衝撃波、ですか?」
思わず鸚鵡返しをする妹の深雪だが、達也は大して気にする事なく頷いている。
「深雪達が魔法を使おうとするほのかに意識を向けている中、一条副会頭は直ぐに止めようとしていた。こんな仕草をしながらな」
達也は説明しながら、右手を軽く上げ、同時に中指を内側に丸め親指で押さえ、そして放した。
「………なぁ達也、それって『デコピン』、だよな?」
誰もが唖然としてる中、レオが代表する様に尋ねるも、当の本人は「ああ」と真面目な表情で答えた。
「疑う気持ちは分からなくも無いが事実だ。実際、一条副会頭がこれをやった事でほのかの腕にピンポイントで当たった。目測だが、約7~80
「7~80
ずっと聞いていた美月が信じられないように驚愕していた。
あの校門付近では騒ぎを起こしていた自分達だけでなく、野次馬と化していた他の生徒達も囲うように見ていた。それをすり抜け、正確にほのかの腕だけに当てると言う芸当をしたのだから、彼女がそうなるのは無理も無い。
当然、深雪達も同様の反応を示している。しかし、その中で何故か納得の表情をしてるのが一人いる。
「成程ね。まぁ確かに、『剣鬼』と呼ばれてるぐらいだから、それ位は造作も無いか」
「『剣鬼』?」
エリカから聞き慣れない単語を言った事で、反応したレオが呟いた。
それを見た彼女は信じられないような表情になっていく。
「アンタ知らないの? 三年前に起きた『佐渡侵攻事件』で、一条家が大活躍したアレを」
(『佐渡侵攻事件』、か)
誰もが不可解そうな表情になる中、達也だけは途端に目を細めた。エリカと同様に知っているから。
この中で知っているのは妹の深雪だけだが、彼はとある事情で国防軍に所属している軍人である。そして三年前の『佐渡侵攻事件』とは別に、『沖縄海戦』に参加して勝利に貢献していた一人であった。尤も、表立って戦っていた一条隆誠とは別に、司波達也は敵に知られる事は無かったが。
校門で会った際、達也と隆誠はお互いに初対面である。しかし、あくまで情報だけだが、達也は隆誠の事をよく知っており、そして一番に警戒すべき人物でもある。自分以上の実力がある他、自分と同じく艦隊を撃沈する戦略級魔法を使えるから、警戒するのは当然と言えよう。
深雪の前では決して言わないが、もしも隆誠が自分と戦うようなことになれば、絶対に敗北すると断言出来る。
加えて、今もどう言う理論になっているのかは知らないが、隆誠は自分が研究してる『飛行魔法』をCAD無しで使う事が出来る。他の研究者たちと同様に達也も知りたい一人だが、それはもう無理であった。何故ならその飛行魔法は一条家の秘術『
当初は一条隆誠が使う飛行魔法がBS魔法ではないかと疑われたが、すぐに解消される事となった。一条家当主の一条剛毅、その次期当主である一条将輝が隆誠に教えられた事で見事に使う事が出来たのだ。現代魔法師である二人が使えた事で、一条隆誠の『飛翔』は決してBS魔法でないと判明し、正式に一条家の秘術として登録される決定打となった。これによって、飛行魔法の原理を知りたかった者達は追求する事が出来なくなり、歯噛みせざるを得ない状況となってしまう。
飛行魔法についての研究が閉ざされる事になってもおかしくないが、ここで一条家から条件付きの特例を許可していた。CADを介する『飛行魔法』であれば、研究は引き続き行っても問題無いと。研究者達が安堵する事になっても、結局は自分達で一から調べなければならない為、振り出しに戻っただけに過ぎなかった。因みに達也は他の研究者達と同様に少しばかり悔しがるも、それでも引き続き研究出来るなら問題無いと安堵している。現在はあと一歩という所で完成間近となっている為に。
だが、それでも達也は知りたかった。隆誠の使う『飛翔』は、自身が開発している『飛行魔法』との相違点を知りたいから。出来れば彼と何かしらの繋がりを得たいとも考えている程だ。
「へぇ~、そんな凄ぇ人が俺達の先輩なのかよ」
エリカから当時の事件で一条隆誠の活躍を聞いたレオの他、ほのか達も驚きの連続だった。
「でも何でエリカがそんなに詳しいんだ?」
「アンタねぇ……『千葉家』のあたしが知ってても別段おかしくないでしょう」
(やはりな)
呆れるように言い放ってるエリカの発言を聞いていた達也は確信する。彼女が百家本流の家系『千葉家』の令嬢である事を。自己加速・自己加重魔法を用いた白兵戦技で知られている名門で、『剣の魔法師』の二つ名が与えられている事も含めて。
エリカの使う特殊なCADの他、兜割りと言う秘伝や奥義に分類する技術を簡単に言ってたから、もしやと思っていたが大当たりであった。
「一条隆誠が『剣鬼』なんて大それた二つ名が付いていたら、剣士である
「だったら何であの時スルーしたんだ? お前がそこまで言うなら、あの騒ぎの後に声を掛けてもおかしくねぇ筈だが?」
「うるさいわね! いくらあたしでも、あんな状況で声を掛ける度胸なんかないわよ!」
と言っているエリカだが、本当ならレオの言う通りに声を掛けるつもりでいたが出来なかった。隆誠の近くに風紀委員長の渡辺摩利がいた事で。
直後、二人が口論する事になったが、いきなりの事にあたふたし始める美月達。
(これから慌ただしい学生生活を送る事になるだろうな。色々な意味で)
達也だけは呆れるように見ていながらも止める様子を一切見せず、今後の事を考えているのであった。
本当なら九校戦の内容にしようかと考えましたが、敢えて飛ばさず引っ張る事にしました。
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