「と言う訳で、俺の説得により司波は了承してくれました」
「そうか。感謝する、司波」
「いえ……」
話を終えた数分後、ミーティング・ルームに第一高校の幹部達が揃って入室してきた。
三巨頭の真由美と摩利と十文字の他、市原、中条、服部。他に五十里や桐原もいる。
俺が説得に成功したと聞いた十文字が礼を言うも、当の司波は何とも言えない表情だった。十文字によって隠していた事をバラされたのだから、司波からすれば複雑な気分だろう。
それとは別に真由美と摩利は若干申し訳なさそうな表情をしながら、さり気なく司波に謝っている仕草をしている。だが、そこは敢えて無視する。
司波の選手入りに安堵してる中、当の本人は俺にある事を確認しようとする。
「それで兵藤、俺達以外のメンバーはもう決めているのか?」
「いや、まだだ。お前と話し合ってから、チームメイト以外の奴を選ぼうと思ってる」
「えっ? リューセーくん、それはチョッと」
そんな話は聞いていないと真由美が口を出そうとするも、十文字が咄嗟に止めようとする。
「構わん。もう既に例外に例外を積み重ねているのだ。あと一つや二つ、例外が増えても今更だ」
「大丈夫ですよ、真由美さん。もしダメだと言われても、そこは九島閣下がフォローしてくれると思いますから」
「九島閣下が!?」
予想外の人物名が出た事に真由美だけでなく、司波や摩利達も揃って目を見開いていた。事情を知っている十文字だけは驚く事なく、彼がいれば例外は問題無く通るだろうと考えている筈だ。
彼女達が驚いているのを余所に、俺は司波と話を続ける。
「司波の方で誰か候補者はいるか? と言っても、お前の場合はクラスメイトのレオか幹比古だろうが」
「……そう言う兵藤は天城だろう」
「まぁな」
やっぱり考えてる事は同じだったか。司波は西城レオンハルトと吉田幹比古、そして俺は天城修哉。
三人とも二科生だが、それでも一科生に劣らない実力を持っている。
レオと幹比古の実力は直接見てないから分からないが、司波が候補に出すから信頼出来る筈だ。
あと俺が推した修哉だが、身体能力に関してはそこら辺の魔法師達より上だった。中級用のバンドを付けてるから、それを外せば桐原と良い勝負が出来る筈だ。
「と言っても、修哉に関しては今のところ近接戦メインで鍛えてるから、モノリス・コードにはあまり向いてない。出来れば魔法メインで使う奴が良いんだが」
「そうなると古式魔法師の幹比古しかいない。レオは天城と同じく近接戦メインの魔法師だからな」
「決まりか。では会頭、三人目のメンバーは1-Eの吉田幹比古って事で」
「おいっ、本気か兵藤!?」
三人目が選手以外の新たな二科生を選ぶ事に服部が慌てた声で口を挿もうとしたが、市原が手振りで制止した。
「良いだろう。中条」
「は、はいっ!」
過剰な反応をする中条に、十文字は大して気にした様子を見せなかった。
「吉田幹比古をここに呼んでくれ。確か応援メンバーとは別口で、このホテルに泊まっていた筈だ」
何で知ってるんだと思わずツッコみたい衝動に一瞬駆られるも、すぐに考え直した。確かにこの時期に正規メンバーでも応援メンバーでもない生徒が、このホテルに宿泊しているのはかなり異例だ。だから十文字が知っていても不思議ではない。
「……リューセーくん。その人選の理由を訊いても構わないかね?」
俺が人選した事に不審がっている摩利がそう訊ねた。
「モノリス・コードはチームワークが必須の競技です。幹比古ならきっと合わせてくれます。一科生の選手にチームワークを求めたところで、『二科生の分際で』と下らない理由で足手纏いになられたら邪魔ですし」
「……随分と容赦無いな、君は」
「事実を言ったまでです」
優勝を目指す以上、ハッキリ言わせてもらう。詰まらない事に拘ってる一科生には何も期待してないと。
「それに司波の友人達はかなり優秀な人材が揃ってて頼りになります。摩利さんもそう思ってるでしょう? 特にエリカの事に関しては」
「…………」
エリカと聞いた瞬間、摩利は複雑な表情をしながらも言い返さなかった。
前々から気になっていたが、エリカと摩利って何故か仲が悪い様子を見せている。と言うより、エリカが一方的に毛嫌いしてると言った方が正しいか。それをちょっとばかり聞いてみたいが、今は関係無い事なので後日訊いてみるとしよう。
「今更だが司波から見て、俺の人選は間違っているか?」
「問題無い。幹比古の事は良く知ってるし、実力も分かっている」
自身に満ちた回答をする司波に、三巨頭だけでなく市原からも、興味深げな視線が向けられた。
「だが、俺から言わせれば兵藤こそ大丈夫なのか? 聞けばピラーズ・ブレイクで使ったCADは使えないようだが」
その問いに真由美、摩利、十文字、そして五十里が反応する。それ以外のメンバーが不可解そうに見てる中、俺はこう答えた。
「心配無用。それが使えなくても、俺には何のハンディキャップにもならん。司波がアレを貸してくれたらな」
「……成程」
アレが何なのかを分かっている司波以外、他は不可解な視線を俺へ向けるのであった。
☆
「そう言う事で幹比古、急で悪いが頼む」
「ミキ、隆誠くんがこう言ってるんだから、チョッとは落ち着いたら?」
「僕の名前は幹比古だ」
場所は変わって俺と司波が寝泊まりで使用してる部屋。
幹比古をミーティング・ルームへ連れてきてもらい、幹部総出で代役を引き受けさせ……と言うより強制的だった。それを終えて、今後の段取りを説明する為に、俺と司波が彼を引っ張って来た。
司波の友人だからか、エリカと柴田、そしてレオが付いて来ているのはもう「お約束」と言うべきか。尤も、今回は俺の友人である修哉と紫苑も一緒にいる。
因みに司波妹と北山と光井だが、他の一科生女子達に捕まってる為、今この部屋にはいない。いたらいたで部屋が余計に狭くなるから、却って好都合だ。
「なぁリューセー、大丈夫なのか? この前の試合で棄権したのは体調不良だったんだろ?」
「また試合に出たら差し障るんじゃないの?」
心配そうに尋ねる修哉と紫苑に、エリカ達も同様の反応を示していた。事情を知っている司波は敢えて無表情でいるが。
「問題無い。今はもうすっかり快調だよ。前にやった100メートル走の記録を更に更新出来るぞ」
「あれ以上出せるのか!?」
「君は一体どれだけ規格外なのよ!?」
信じられないと言わんばかりに声を荒げながらツッコむ修哉と紫苑。
その会話にレオ達が不可解そうに見ている。
「なぁ、一体何の話だ?」
「ひょっとして凄い記録でも出したの? もしかして9秒台行ったとか?」
代表してレオとエリカが訊ねるも――
「甘いわ、二人とも。そんなの軽く超えてるから」
「日本どころか、国際レベルぶっちぎりの5秒6だ。しかも魔法抜きで」
『……………はぁぁぁぁぁああああああ!?』
紫苑と修哉からの回答により、司波を除く全員が一斉に大声を出しながら仰天していた。
えっと、何でこんな急に騒がしくなったんだろうか。俺は単に問題無いとアピールした筈なのに……。
数分後、漸く落ち着いたから話を再開しようとする。
「でもリューセー……僕は何の準備もしてないよ? CADはおろか、着る物すら用意していないし」
顔色が少し青褪めていた幹比古が心配そうに言うも、さっきの会話のお陰で少々落ち着いた様子だった。
確かに突然抜擢され、二科生の自分が新人戦の選手に選ばれるなんて全く考えもしなかったから、戸惑い、怖気づいているのだろう。
「大丈夫。防護服は中条先輩が調達してくれてる最中だ。CADに関しては司波の方でこれから準備する」
「そう言う事だ、幹比古。もう諦めろ。これ以上決まった事を愚痴っても仕方ない」
司波の台詞が止めとなったのか、幹比古は嘆息するも漸く覚悟を決めてくれた。
まぁ此方が勝手に決めてしまった事に関しては申し訳ないと思っている。なので幹比古にはモノリス・コードが終わった後、ちょっとしたお礼をするつもりだ。それがお礼と言えるかどうかは別だが。
「さて、それじゃあフォーメーションについて話すとしようか」
リーダーのように取り仕切ろうとする俺に、司波や幹比古は一切反対していない様子だった。補欠とは言え選手登録してある俺がそうなるのは当然と言えよう。
一応俺の方で司波にリーダーにならないかと訊いてみたが、「そこまでの責任は取れない」と断らわれてしまった為、俺がやらざるを得なかった。幹比古は聞くまでもなく、俺か司波のどちらかに従う姿勢だ。
「代役とは言え、俺達にとって初試合だから……先ずオフェンスは俺で行こうと思ってるが、司波としてはどうだ?」
「是非ともそうしてくれ。ならば俺はディフェンスで、幹比古は遊撃だな」
「まぁそれが妥当か」
「ちょ、ちょっと待って二人とも、出来れば僕にも分かるように説明してくれないかい?」
俺と司波がフォーメーションに納得するも、除け者気味になってる幹比古が説明を求めてきた。
当然それは彼だけでなく、この場にいる修哉と紫苑、レオとエリカと柴田も同様に気になっている様子だ。
ここは説明した方が良さそうなので、俺の方でやる事にした。
おさらいになるが、モノリス・コードの勝利条件は相手チームを戦闘続行不能にするか、モノリスに隠されたコードを端末に打ち込むかどちらかとなる。
後者に関しては隠されたコードを読み取る為、最大射程が10メートルの専用魔法式をモノリスに撃ち込まなければならない。
よって司波がやるディフェンスの役割は、相手チームをモノリスの10メートル以内に近寄らせない他、専用魔法式をモノリスに撃ち込まれてもコードを読み取られないよう阻害する事だ。
対する俺が行うオフェンスはディフェンスの逆だ。もしくは相手を倒すか、誘き寄せて別の奴にコードを読み取らせる場合もある。
オフェンスで最も重要な攻撃についてだが、今回は以前司波にテストとして使われた武装一体型CADの剣――『
説明の途中にエリカがアイス・ピラーズ・ブレイクで見せた魔法を使わないのかと問われたが、そこは適当に誤魔化しておいた。事情を知ってる司波も俺に合わせるように、俺が使った魔法は殺傷性ランクが高いから禁止されているとフォローしてくれた。それで皆はすぐに納得してくれている。
「とまあ、司波のディフェンスと俺のオフェンスについてはこんなところだ。此処まで何か質問はあるか?」
「特にないよ。それで、僕の役目である遊撃なんだけど、何をすれば良いんだい?」
自分の役割を知りたい幹比古の問いに、俺は一先ず答えようとする。
「遊撃はオフェンスとディフェンス、両方を側面支援する役目だ。司波、悪いけどここから説明頼む」
「分かった」
元は幹比古に遊撃をするよう言ったのは司波だ。言い出した本人から説明すべきだろう。
ここから先は色々と長くなるから簡単に済まさせてもらう。
端的に言えば幹比古が使う古式魔法についてや、吉田家の術式には無駄が多いと言う、色々と口外しては不味い内容ばかりだった。
それを聞いてた修哉と紫苑は一旦席を外そうかと思っていたようが、幹比古が問題無いと言った事で、厄介なお家事情を知ってしまったと若干後悔気味になってるのはそっとしておく。
あと術式の無駄についてだが、幹比古が決心したかのようにCADを見せると言った事により、司波がアレンジすると言っていた。恐らくソレで幹比古の悩みは解消する事になるだろう。
そして話は一通り終わって、後はそれぞれ明日の試合に備えての準備に移ろうとするだけとなった。
因みに俺は司波から渡された小通連の慣熟訓練を行う予定だ。当然それを聞いたエリカが勢いよく買って出るも、時間が遅い都合上、丁重に断って修哉とやる事にしている。当然これにエリカが文句を言うが、そこはレオと柴田に頼んで抑えてもらった。
エリカの相手は別に問題無いが、訓練中に勝負を申し込まれる可能性があった。それに負けず嫌いなところもあるので、自分が勝つまで何度も挑もうとするのが容易に想像出来る。以前に勝負した時に再勝負しろと何度もしつこく迫ってきたのが、今でも憶えているから。
訓練を始める前、少し気になる事があった俺は司波にCADのアレンジをする幹比古に声を掛けた。
「幹比古、訊きたい事がある」
「何だい?」
「精霊魔法を使えるみたいだが、お前が呼び出す精霊ってどんなのだ?」
「どんなのって言われても、精霊は基本的に姿形は無いよ。でも敢えて例えるなら、人魂みたいなものかな」
「ふむふむ。じゃあさ、もしその無数の精霊が一つになって人の形を模し、意思を持ち、更には喋る事が出来る……何て言う特殊な精霊とか呼び出せるか?」
「そんな凄い精霊は呼び出せないよ。それにリューセーが言ってる精霊は、僕たち古式魔法師が長年追い求めている『神霊』その物だよ。もし神霊魔法の使い手がいるなら、僕――いや、吉田家が総出でお目に掛かりたい位だ」
「………そ、そうか。変な事を聞いて悪かったな。あ、あははは……」
不味い。本気で不味い。軽い気持ちで聞いて物凄く後悔した。
幹比古がここまで言うとなれば、恐らく沓子も似たような返答をするだろう。
……あ~どうしよ。今のレイとディーネは、俺の傍にいたいと言うだろうから問題無いから大丈夫だが……本当にどうしよう。
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