次の試合予定である、一高対二高は一時間後となった。
俺が一人で三分以内で終わらせた事により、時間が思った以上に空いた為、休憩時間が長くなったのだ。
と言っても、司波と幹比古は何もしてない状態だったから、実質俺だけの休憩も同然だった。あの程度で全く疲れていない俺としては、今すぐにやったところで問題無い。
まぁ休憩が長くなったのは却って好都合だった。真由美達に説明するのに少々疲れてしまったのだ。主に精神的に。
だってさ、天幕に戻って早々不意打ちも同然で詰め寄られたんだぞ。
『チョッとリューセーくん! 勝ったのは嬉しいけど、余りにも早過ぎでしょ!?』
俺が三分以内で
『何だあの技は!? 縮地法と同時に斬撃を繰り出す技だけでなく、影を残す技なんか聞いた事もないぞ!』
瞬連斬と幻影拳に物凄く興味がありそうな摩利から情報を求められ――
『兵藤君! あそこまで速いなんて聞いてないわよ! 君、やっぱり陸上部に入部しなさい!』
またしても陸上部に入部しろと千代田から迫られ――
『あんな凄ぇ剣技今まで見た事ねぇぞ! 頼む兵藤! 期間限定でも良いから是非とも剣術部に顔を出してくれ!』
ストッパーである恋人の壬生がいないからか剣術部に来てくれと懇願する桐原。
他にも十文字や服部、後から来た司波妹達の対応も凄く大変だったと付け加えておく。
説明するのに三十分以上掛かって、試合するよりも疲れたと言う訳である。
因みに、俺の事を一番に知りたいであろう司波だが、他と違って妙に大人しく詰問する気配を見せなかった。それどころか、まるで恐ろしげに俺を見てるような感じだった。
恐らく例の眼でも使って、遠くから覗き見をしていたんじゃないかと思う。俺が先行してる際、いつものように司波が妙な魔法を使ってたのを感じられた。本当なら『これ以上勝手に覗き見してると、対抗魔法を発動させるぞ?』と警告したいが、それをやると余計に警戒されてしまうから敢えて放置せざるを得ない。
司波には本当困ったものだ。頭が良すぎる人間ほど面倒とは正にアイツの事を言う。出来れば少しでもいいから楽観的な考えを持って欲しいと願いたい。あ、確かこれってバス移動の時にも考えたな。
☆
次の試合に備えて休憩してる一高選手控え室で、幹比古が何やら落ち着かない様子だった。
「幹比古、少し落ち着いたらどうだ?」
司波に試合後の微調整を済ませた『小通連』を確かめている俺だが、幹比古の行動に呆れるように言い放った。
「リューセー……君はよく平気だね」
幹比古は一体何を言っているのかと疑問を抱くと思われるだろう。けど、俺には意図が伝わっている。
何故なら俺達の視界では――
「吉田君は随分と落ち着かない様子ですね」
「さっきの試合は兵藤だけで終わらせて出番が無かったからな。次が本当の意味で初試合だから、緊張するのは仕方ない。勿論俺も緊張している」
「まぁ、お兄様ったら。そう言ってる割には全然緊張してはいないではないですか。せめて深雪の前で見せても良いのですよ?」
鬱陶しいとしか言いようが無いほど、司波兄妹が人目も憚らずイチャ付いているからだ。
身体を預けるように座ってる司波兄の背後に立ち、その肩を優しく揉んでいる司波妹。と言う光景は、どう見ても恋人同士としか言いようがない。
ああ言った事は前世の頃、義妹のアーシアにされた事がある。だから俺は別に大して気にしてはいない。けれど、幹比古にとっては非常に恥ずかしく見えてしまうから、今も落ち着きがないと言う訳だ。
イチャ付くのは別に構わないが、出来れば人がいない場所でやって欲しい。ってか、そう言う事は家でやってくれ。尤も、このラブラブ兄妹に指摘したところで無駄なのは分かってるので、放置するしかなかった。
もしもあのやり取りが
少しばかり不穏な事を考えていると、真由美と中条が控え室に入って来た。恋人みたいな雰囲気を作ってる司波兄妹を見た瞬間、二人揃ってカチンと固まったのは言うまでもない。
中条が茹蛸のように顔を真っ赤にするのに対し、真由美は冷ややかな目を司波兄へ向けている。
「……何だか酷く非難されているというか、蔑まれている気がするんですが?」
「気の所為よ。そうよね、リューセーくん?」
「そこで俺に振られても困るんですが……」
司波兄からの抗議に素っ気なく言い放つ真由美が俺に同意を求めてくるが、すぐに咳払いをして本題に入ろうとする。
どうやら彼女は、俺達に次の試合が行われるステージを教えに来てくれたようだ。今度は市街地ステージであると。
「ちょっと待って下さい。昨日あんな大惨事が起きたのに、ですか?」
「リューセーくんの言う事は尤もなんだけど、ステージの選定はランダムなのよ」
「だったらソレだけを外せば良いでしょうに」
大会委員会に対して少々口汚くなってる俺に真由美も一瞬頷きかけていたが、敢えて何も指摘しなかった。
とは言え、決まってしまった以上やるしかない。なので俺はすぐに思考を切り替える事にする。
「ま、仕方ないか。司波、幹比古、移動するから準備」
「もうやってる」
「右に同じだよ」
どうやら二人は既に準備していたようだ。まぁ準備と言っても、防護服を着直し、ヘルメットとCADを携えるだけだが。
俺も一緒にやって準備を一通り終えて、最後の確認をしようとする。
「じゃあ打ち合わせ通り、今度は俺がディフェンスで、司波と幹比古はオフェンスだ。二人は俺の事を一切気にせず進攻してくれ」
「分かった」
「そのつもりだけど……本当に良いのかい? また君がオフェンスをやれば、あっと言う間に終わりそうな気がするんだけど」
頷く司波とは別に、幹比古が確認するように訊いてきた。
確かに俺がオフェンスをやれば、幹比古が想像した通りの展開になるだろう。またしても最短時間で終わるかもしれない。
けど、今回は敢えてディフェンスに回らせてもらう。司波と幹比古には決勝までに一通りの経験を積ませないと、団体競技をする意味が無いから。
それに加えて、二人の実力を知る必要がある。司波は実戦経験がある事を知ってるが今まで見た事が無いし、幹比古はCADを調整した事で古式魔法を効率良く使えるかを是非とも見てみたい。
「俺だけ頑張ってたら、お前等の見せ場が無くなるからな。大丈夫大丈夫。二人なら問題無くやれるさ。だろう、司波さん?」
「ええ。お兄様がいれば勝利も同然です、吉田君」
「こら深雪、試合前なのにそんな自信持って言わないでくれ」
と言ってる司波兄だが、妹の発言に負ける訳にはいかないと意気込むような感じを見せていた。
普段から何事も無いように淡々と答えるが、妹の前だと意外と分かりやすいな。やっぱりコイツは超が付くほどのシスコンだと改めて認識する。
それに気付いたのか、司波兄が途端に俺に鋭い視線を向けてくる。
「おい兵藤、今何か失礼な事を考えなかったか?」
「いきなり何だよ……」
誤魔化す為に呆れるよう言い放った俺は、移動を開始しようとする。
因みに中条が俺のデバイスである『小通連』を使っても大丈夫なのかと問われたが、そこは問題無いと答えておいた。
☆
(う~む、配置を間違えたか……)
一高対二高の試合が始まり、市街地ステージにいる。
二高は俺を相当警戒しているみたいで、オフェンスは一人だけしかいなかった。残りはディフェンス二人で自陣のモノリスへ向かっている。
単独で一高側のモノリスがある五階建ビルに向かう二高のオフェンスを既に探知済みの俺は、先回りして気配を消しながら後を追っていた。
向こうは後ろを見ないで、道が分かれる前方と左右だけを確認している。俺が尾行してる事に全然気付いてないのが一目瞭然だ。自分が通った道に敵はいないとでも思ってるんだろうけど、これが本当の戦場だったら完全にアウトだ。認識が甘いとしか言いようがない。恐らく試合を観ている九島もそう考えている筈だ。
今頃中継されてるモニターでは、尾行されてる事に全く気付いてない二高のオフェンスに対して、何かしらの言葉を送っているに違いない。『後ろに一高がいるぞ~!』みたいな事を。
現在は三階へ進んでいる。双方のモノリスは五階建ビルの三階にある為、そろそろ向こうが見つける筈だ。発見した瞬間にどうやって倒そうかと考えながら尾行してると、突如オフェンスの動きが止まった。
「あった! 今の内に……!」
一高のモノリスを発見したみたいで、オフェンスは目の前に集中している所為で、無音で接近してる俺に全く気付いていない。
その為――
「はい残念!」
「………え?」
俺に片手でスポッとヘルメットを強制的に脱がされるのに気付くのが遅かった。
モノリス・コードのルールに、ヘルメットを敵に取られた選手はそれ以上の競技行動を禁止される。故に俺にヘルメットを取られた二高のオフェンスは失格となる。
「わぁっ!! お、おま……! い、いつから俺の後ろにいた!?」
漸く俺に尾行されてた事に気付いたオフェンスだが、それはもう本当に今更だった。観客達は勿論、他の二高側も物凄く呆れているだろう。
「このビルに入って来た時から♪」
「嘘だろ!?」
俺が事実を言うも、信じられないように叫ぶオフェンス。
「どう思うかは其方の自由だけど、俺にコレを取られたので悪しからず♪」
「ぐっ……く、くそぉ~~~っ!!」
もう何も出来ない事は理解してるようで、オフェンスは物凄く口惜しそうに叫ぶのであった。
取り敢えず一人は片付いた、と。
さて、残りのディフェンス二人を相手してる司波と幹比古は大丈夫だろうか。特に幹比古が未だに緊張が抜けてないから少々不安だ。
本当なら向こうへ駆け付けたいが、そうしたら俺がディフェンスをやる意味がない。だからこのまま此処に留まって、二人が勝利する時を待つしかない。
とは言え、何もせずに黙って待つのは少々退屈だから、少しばかり
(それじゃあ、やるか……)
失格となったオフェンスがこの場からいなくなったのを確認した俺は、直ぐに
因みに俺がやっているのは、モノリスの前に佇み、そのまま腕を組みながら瞑目と言う姿勢だ。モニターで観ている観客側からすれば、自陣のモノリスを守り、周囲を警戒しながら待っているように思うだろう。
だが、瞑目してる今の俺は映像を見ていた。司波がディフェンス二人を引き付けるように相手し、その間に幹比古が既に開かれているモノリスを直接見てないにも関わらずコードを打ち込んでいる。
(ほほう。もう既に相手側のモノリスを発見したのか……)
よく見ると、モノリスにはSB魔法らしき精霊がコードの目の前で浮遊している。恐らく幹比古はそれに視覚同調し、コードを見ながら打ち込んでいるんだろう。送信が完了したら、一高の勝利は確定だ。
それとは別に、司波もディフェンス二人を相手に全く苦戦していない。相手が魔法を放とうと展開するも、司波が持ってる拳銃用CADの銃口を一人の対象者に向けて放った瞬間に解体されるように起動式が破壊された。
(ん? 今のは……)
司波が使った魔法には見覚えがあった。アレは確か、バス移動中に事故が起きた時だ。
スピンした大型車がバスに迫って来る際、千代田と森崎と北山が対処しようと魔法を発動させて
その魔法式の破壊と、さっき二高のディフェンダ―が発動した魔法式を破壊したのが全く同じだから、やはりアレは司波がやったのだと改めて認識した。
このままアイツの戦いを暫く見物したいところだが、そうもいかなかった。幹比古がコードを送信した事により、試合終了のサイレンが鳴ったから。
さて、覗き見されてるのを気付かれる前に
普段から人を覗き見するのに、いざ自分がやられたら面白い反応するんだよなぁ。今の司波に『人のふり見て我がふり直せ』って
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