再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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九校戦編 九校戦⑳

 決勝トーナメントの組み合わせが発表され、一高は第二試合で九高と対戦する事となった。因みに第一試合は三高対八高で、正午に開始される予定だ。

 

 俺たち一高の試合は午後十三時からとなるが、三高の試合を見逃すわけにはいかない。なので少し早めに昼食を済ませようと、俺達は一旦別行動にして解散した。

 

 本当だったら三人揃って昼食を済ませたかったんだが、これには勿論理由がある。司波妹が自分も一緒に食べると言ってきたのだ。その瞬間に俺と幹比古は思い出した。二高との試合に備えた休憩中に、司波兄妹が人目も憚らずにイチャ付いていた光景を。

 

 食事中にまたしても見せ付けられるのは嫌だから、俺が咄嗟に別行動にしようと決めた。リーダーである俺の提案に、何故だと疑問に思いながらも受け入れる司波とは別に、幹比古は即座に賛成してくれた事で一時解散となった訳である。

 

 一足先にホテルへ戻った俺は、修哉がいる自室で食べようと決めた。当然紫苑も一緒である。俺が寝泊まりしてる部屋には司波がいて、同行してるであろう司波妹がそこで一緒に食べてイチャ付くのが目に見えてるから。

 

 二人が食事を用意してくれるみたいなので、俺は手ぶらのままだ。後でスイーツを奢ろうと考えながらホテルのロビーに辿り着くと――

 

次兄上(つぐあにうえ)! 何故このような所にいらっしゃるのですかっ!?」

 

 聞き慣れた声が、いつもと異なる丁寧な言葉遣いで誰かを糾弾していた。

 

 それを聞いた俺は振り向くと、エリカが物凄い剣幕で青年に詰め寄っている。その彼の隣には何と摩利さんもいた。

 

 あの組み合わせは一体何なんだと思いながら、俺は移動していた足を止めてジッと様子を見る事にした。

 

「兄上は来週まで、タイへ剣術指南の為のご出張のはずです! 何故ここにいらっしゃるのですか!」

 

「エリカ……少し落ち着いて」

 

 兄上、ねぇ。問い詰めてる相手は間違いなくエリカの身内だろう。青年も親しげに彼女の名前を呼びながら宥めようとしてるのだから。

 

 だけどエリカは青年の言葉を全く聞いてなく、興奮も少しも治まらない様子だ。今も怒鳴り散らしているエリカに、青年は段々と負けそうになっている。

 

(何かあれはもう兄妹喧嘩じゃないな……)

 

 エリカと青年のやり取りを見て俺は気付いた。完全に(エリカ)の八つ当たりであると。

 

「兄上、まさかとは思いますが、この女と会う為に、お務めを投げ出したのではないでしょうね?」

 

「いや、だから落ち着いて……僕は仕事を放り出して来た訳ではなくてね……」

 

 エリカが言った『この女』とは、間違いなく摩利だろう。

 

「……エリカ、あたしは一応学校ではお前の先輩になるんだがな。『この女』呼ばわりされる覚えはないぞ」

 

 ずっと沈黙していた筈の摩利がもう黙っていられなくなったのか、少々呆れるような感じで口を挟んだ。

 

 けれどエリカは彼女の言葉を完全に無視しており、今も青年の方へ視線を向けたままである。

 

「兄上はこの女と関わり始めてから堕落しました。千葉流剣術免許皆伝の剣士ともあろう者が、剣技を磨く事も忘れて小手先の魔法に現を抜かして――」

 

「エリカ!」

 

 さっきまで弱腰だった筈の青年が、途端に気迫のこもった叱責をした。さっきまで強気だった筈のエリカがビクッと身体を震わせている。

 

「技を磨く為には、常に新たな技術を取り入れ続ける必要がある。僕がそう考えて、そうしたのだ。摩利は関係無い」

 

 ほう、あの青年は随分と進歩的な考えを持っているようだ。

 

 技と言うのは、完成してしまえば進化する事は無い。だけどそれを覆すには彼の言う通り、新たな技術を取り入れなければ進化出来ないだろう。

 

 尤も、必ずしも上手く行くとは限らない。極端になるが、逆に退化して技その物が弱体化する恐れだってある。

 

 あの青年もそうなる事を承知の上でやっている筈、なんて断言は出来ない。あくまでそれは俺の考えに過ぎないので。

 

「今回のことも、摩利が怪我をしたと聞いて、僕が居ても立っても居られなくなっただけだ。それでなくとも先刻からの礼を失する言動の数々、千葉の娘として恥を知るのはお前の方だ」

 

 ああ、成程。あの青年が此処へ来たのは自分の恋人が心配だったのか。そう分かったのは、摩利がほんのりと頬を染めて恥ずかしげな表情になっていたからだ。

 

 摩利に恋人がいると言う噂を耳にしていたが、それがまさかエリカの兄だったとは。それだったら納得が行く。エリカが何故そこまでして摩利を毛嫌いしているのかを、な。

 

「さあ、エリカ。摩利に謝るんだ」

 

「お断りします」

 

「エリカ!」

 

「お断りします! 私の考えは変わりません! 次兄上は、この女と付き合い始めて堕落しました!」

 

 俺から言わせれば、単に強情を張っているようにしか思えなかった。

 

 ついでに分かった事がある。エリカは兄の事が大好きであり、(一方的な思い込みで)彼を奪った摩利の事が大嫌いであると。前世で家族愛を理解した俺には分かる。

 

 もしも司波兄に恋人が出来たら、司波妹は間違いなくエリカみたいな癇癪を起こすだろう。あの兄大好きな超絶ブラコン娘が簡単に認めるとは到底思えない。

 

 そんな非常に如何でも良い事を考えてると、エリカはクルリと身を翻し、早歩きするように立ち去った。

 

 このままエリカと鉢合わせたら確実に面倒な事になると思い、俺は気付かれないよう気配を消してやり過ごす事にする。

 

「……はぁっ。すまない、摩利。うちの妹が君にとんだ失礼を……」

 

「シュウが謝る必要なんてないさ」

 

 エリカがいなくなったのを確認した青年は、隣にいる恋人に謝り始めた。当の摩利は気にしてないような感じで言い返している。

 

 すると、何だか段々と二人だけの空間のようになってきている。司波兄妹や許婚の千代田と五十里とは違う。

 

 それに加えて、今の摩利は物凄く可愛い。いつも凛々しい顔をしてるのに、恋人の前では完全に恋する乙女の表情だった。彼女のファンが見たらどんな反応をするのか見てみたい。

 

 あの二人には是非とも幸せになって欲しいものだ。と言っても、エリカはそう簡単に認めないだろうが。

 

 さて、俺もそろそろ退散するか。修哉と紫苑を待たせる訳にはいかな……へ? あ、あれ、何で急に……。

 

「はっくしゅんっ!」

 

「「!」」

 

 突然鼻がムズムズした事により、我慢出来なくなった俺はくしゃみをしてしまった。

 

 それは当然周囲に聞こえる為、エリカの兄と摩利が即座に気付いて振り向く。

 

 直後、俺の姿を認識した摩利は途端にカチンと固まる。まるで不味い所を見られたと言わんばかりに。

 

「き、君は確か、兵藤隆誠君!」

 

「あははは……お、お邪魔しました~!」

 

「ま、待ってくれ! 僕は君に訊きたい事があって――」

 

 エリカの兄が何故か目を見開いていたが、一刻も早くこの場から離れたい俺は退散する事にした。後で摩利から呼び出しを受ける破目になるだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだリューセー、珍しく息を切らしてるじゃないか」

 

「何だかまるで、見てはいけないものを見てしまったような感じね」

 

「い、いや、何でもないんだ。あ、あははは……さ、さぁ早く昼食を済ませないとな!」

 

「「?」」

 

 何とか修哉の自室に辿り着いた俺は、二人に何でもないように振舞いながら昼食を食べる事にした。

 

 

 

 

 

 

 時間は正午。予定通り三高と八高の試合が始まった。

 

 試合前に一般用観戦席にいる俺、司波、幹比古は会場で落ち合っている。不機嫌そうなエリカ、少しばかりオドオドしてる柴田、一体何があったのかと疑問視してるレオや司波妹、敢えて気にしないでいる修哉と紫苑を余所に、モニターで映し出されてる『岩場ステージ』は一方的な展開となっていた。

 

 三高一年のエースである一条将輝が俺と同じ事をしてる、と言うべきかもしれない。

 

 違う点を挙げるとするなら、俺と違って超スピードで移動してなく、堂々と姿を晒して歩きながら進軍している。

 

 それは当然、八高が黙っている訳がない。俺と同じ展開で、またたった一人相手に負けたとなれば、もう完全に後が無いと思っている筈だ。

 

 八高選手は一条へ向けて、次々と魔法を繰り出していたのだが……何の意味も無かった。

 

 移動魔法によって投げつけられた石や岩の欠片は、より強力な移動魔法で撃ち落とされている。更には直接仕掛けた加重魔法や振動魔法も無効化されている始末だ。

 

「……『干渉装甲』か。移動型領域干渉は十文字家のお家芸だった筈だが」

 

 この場にいる観客達が一条の圧倒的な技量を見て絶句する中、隣に座っている司波だけは該当せずに褒めちぎっていた。

 

 強力な防御壁を身に纏っている為、いくら攻撃しても埒があかないと判断したのか、八高のオフェンス選手が攻撃を止めて三高陣地へと走りだそうとする。

 

 だが、それは迂闊な行動だったと思い知らされる。

 

 背中が完全にガラ空きとなってる相手を一条が見逃す訳が無く、至近距離で生じた爆風によって、八高オフェンスは前のめりに吹き飛ばされた。

 

 確かアレは『(へん)()解放(かいほう)』と言う収束系の魔法だったな。空気を圧縮し破裂させ爆風を一方向に当てるマイナーな魔法で、余り使われる事が無い。

 

 隣に座っている司波が、妹にその魔法についての説明をしてるが、俺にとっては如何でも良い事なので聞き流している。

 

 すると、八高のディフェンス選手が二人掛かりで一条に挑みかかった。

 

 見事な連携とも言える上級魔法を披露するが、結局はあっさりと無効化されてしまう。もしあれを俺に使ったところで即座に躱すか、発動する前に阻止するのどちらかをやっている。

 

 そう思ってると、一条が八高のディフェンス選手二人に、またしても『(へん)()解放(かいほう)』を使ってあっと言う間に倒す。

 

 八高選手三名が全員戦闘不能状態となった事により、試合終了の合図が鳴る。吉祥寺や、もう一人の選手が、三高陣地から一歩も動かないままで。

 

 無名だった俺だけでなく、十師族の一条にも完全敗北した事で、彼等のプライドはもうズタズタに引き裂かれてるだろう。たった一人に二回も大敗すれば猶更に、な。

 

 

 

 

「どう思う、十文字君?」

 

「確証は無いが、兵藤に対する『自分にはどんな攻撃も通用しない』という挑発だろうな」

 

 天幕にあるディスプレイで観戦している真由美は視線を外し、十文字に確認するように話しかけた。

 

「そうでなければ、一条本来の戦闘スタイルを披露しない筈だ」

 

「だとしても、リューセーくんがそんな見え透いた挑発に乗るかしら」

 

 真由美のリューセーに対する印象としては、達也みたく冷静な判断を下す人間と見ている。

 

 だから一条将輝の挑発に乗らず、敢えて無視して他の選手を速攻で倒す、もしくはモノリスを優先するんじゃないかと予想していた。

 

「恐らく乗るだろう。いや、乗らざるを得ないだろうな」

 

「え、どういうことなの?」

 

 彼の発言に真由美は不可解そうに問う。

 

「例え別の相手に切り替えたところで、一条が執拗に兵藤を狙ってくる筈だ」

 

 十文字は同じ男である将輝の心情を何となくだが察していた。自分と互角に戦えるであろう存在を易々と見逃したりしないだろうと。

 

 ピラーズ・ブレイクの決勝戦が始まる前、闘志を燃やしていた将輝は隆誠と戦うのを心待ちにしていた。なのに、突然の棄権と言う報せを聞いた事で怒りと失望に染まる事となる。

 

 燃焼していた心が段々冷えていく中、モノリス・コードで隆誠が出場する事で、またしても闘志を燃やし始める。だから次の試合では、絶対に戦おうとする筈だと。

 

 それに対し隆誠も、将輝の心情を察し、受けて立つかどうか考えているだろうと十文字は予想している。

 

 

 

(う~ん、あそこまでして無視なんかしたら、絶対怒るだろうなぁ……)

 

 明らかに俺と戦えとアピールしている一条の心情を察した俺は、どうすべきか少々悩んでいた。

 

「兵藤、どうするつもりだ? こちらとしては非常に好都合なんだが」

 

「やっぱそうなるよなぁ……」

 

 どうやら司波も見抜いていたみたいで、暗に一条の相手を任せると言ってきた。

 

 まぁ確かに俺が一番厄介な一条を相手にした方が良いだろう。司波がもう一人の厄介な相手と思われる吉祥寺に集中出来るだろうから。

 

 そう考えた結果――

 

「仕方ない。じゃあ俺が頑張って一条将輝(クリムゾン・プリンス)を倒すから、司波と幹比古は吉祥寺真紅郎(カーディナル・ジョージ)とその他を任せる」

 

 役割分担を決める事にした。

 

「そうしてくれると助かる」

 

「え? ちょ、ちょっと待ってリューセー、『カーディナル・ジョージ』ってまさか……!」

 

 了承する司波とは別に、幹比古は吉祥寺の異名を聞いた途端に怯んだ表情を見せていた。

 

 因みに『カーディナル・ジョージ』と言うのは、作用を直接定義することが出来る魔法式――基本(カーディナル)コードの一つを吉祥寺真紅郎が発見した際に付けられた異名らしい。俺はそんな物に大して興味無いが、研究者なら誰でも知ってるほど有名だと五十里が言っていた。それ故に司波は警戒している。

 

 けど今回は俺が一条と戦うから、司波は幹比古と一緒に吉祥寺の相手を優先的に行う事が出来る。

 

 まぁ今は三高より、次の試合で戦う九高に意識を向けないといけないがな。

 

 一通りの話を終えた俺達は、準備を行う為に本部へ移動する事となった。




原作と違って、将輝は達也でなくリューセーと戦う事に拘っています。

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