九高との試合は『渓谷ステージ』で行われた。
渓谷ステージの形状は『く』の字形に湾曲した谷間で川が流れている。と言っても、川と呼ばれる程の水深でないから、流れる『水溜まり』と言った方が正しいだろう。それがある事によって、幹比古が大活躍する事になる。
大量の水を利用する古式魔法を使う事で、ステージ全体に白い霧が覆う事となった。詳しい事は聞けなかったが、飽和水蒸気量に関係無く空気中の水蒸気を凝結させる魔法――『結界』をさせているようだ。
これによって九高だけでなく、一高の俺達にも不利だと思われるだろう。しかし、それは大して問題無い。魔法を使用してる幹比古が上手く調節してる事により、一高選手の俺達には薄く、九高選手達には濃く纏わり付くようになっている。
霧によって思うように進攻する事が出来ない九高の選手が、一高側のモノリスへ辿り着く事が出来ない中、オフェンス役である俺は気付かれる事なく、超スピードを使ってスイスイと進んでいる。
(思った通りだ……)
相手のモノリスへ辿り着くも、やはり俺を警戒していたと確信する。ディフェンス選手が二人付いていたから。
濃い霧の所為で周囲が全く見えないから、モノリスの近くに佇んでいて武器を構えている状態だ。もし不意を突こうとしても、例え一人倒したところで、もう一人が即座に反応して迎撃するだろう。
だが、『それがどうした』と言い返してやりたい。並みの魔法師ならまだしも、俺相手では考えが甘すぎる。魔法を使わなくても、二人同時に倒せる手段がある事を教えてやる。
そう思った俺はアレをやろうと一定の距離を置いて立ったまま、二人の位置を捕捉する。濃い霧で纏われてる二人が見えないと思われるかもしれないが、生憎と俺の眼にはハッキリと捉えているから問題無い。
次に小通連を持たず、一切何も持っていない両手を軽く上げ、同時に中指を内側に丸め親指で押さえようとする。懇親会の時、余興で魔法を使っていた九島烈の左胸に当てた技――『指弾』の構えを取り、狙いを定めた俺は放った。
「ごっ!」
「がっ!」
放たれた空気の弾丸が、八高ディフェンス選手二人にクリーンヒットし、そのまま揃って仰向けで倒れた。
「………よし」
声と倒れる音が聞いた俺がすぐに近づいて確認すると、二人は完全に意識を失っている。我ながら見事な命中精度だ。
さっきの指弾で当てたのは顎の部分で、八高選手達はその衝撃で脳が揺れて気絶したのだ。勿論加減して撃ったから、この程度で済んでいる。もし本気でやれば身体を簡単に貫いて死体となってしまう。威力調節するのは本当に大変だ。
取り敢えず対象が戦闘不能となったから、目の前にあるモノリスは完全にガラ空き状態。ついでに八高のオフェンス選手は今も濃い霧の所為で迷ったままで、こちらの状況に全く気付いていない。
完全に勝負あったと思いながら、俺は拳銃型CADを使って『鍵』を撃ち込んだ。その直後にモノリスが開かれ、確認した俺は通信機を使う。
「幹比古、後は頼む」
『…………』
「幹比古?」
『え!? あ、うん。了解したよ!』
通信機の故障かと思ってもう一度声を掛けると、まるでハッとしたような感じで返事をした幹比古。
何だか呆然としていたな。もしかして俺がやっていたのを見えて……あ、そうか。この結界は術者である幹比古がコントロールしていて、結界を把握する為に見えてるんだった。
恐らく俺が指弾で八高選手二人を同時に仕留めたのが見えたから、声を掛けるまで呆然としていたんだろう。尤も、それは今もディフェンスとして自陣のモノリスを守っている最中の司波も、また妙な魔法を使って覗き見してるだろうが。
今は霧によって観客達には見えないから、司波に覗き見防止用の
幹比古がコードを送信し終えた為、一高対九高の試合は、一高の勝利で幕を閉じた。
☆
決勝戦は三位決定戦の後に行われる為、一高の俺達はそれまでの間、自由行動を取る為に各自解散とした。
開始時刻は余裕をもって今から二時間後で、午後三時半に行われる予定だ。
司波はCAD調整を担当してる事もあって競技エリアで過ごしており、俺と幹比古は一旦競技エリアから出て寛ぐ事にした。
……別にあのラブラブ兄妹のイチャ付きっぷりを見たくないから、と言う理由で無い事を付け加えておく。
集合時間を試合開始一時間前と決めて、俺と幹比古はそれぞれ行きたい場所へと向かう。
幹比古は富士山を見ると、ホテル最上階にある展望室へ行くそうだ。神道系の古式魔法師にとって、富士山は特別な意味を持っているらしい。
そして肝心の俺だが――
「凄かったの凄かったの、ご主人様!」
「主の戦い、お見事、でした」
禁止区域である富士山の近くにある森にいて、レイとディーネの話し相手をする事にした。
思った通りと言うべきか、この子達は俺が出てるモノリス・コードの試合を見ていたようだ。
レイとディーネが誰にも気付かれないよう透明化して。古式魔法師達にも感知しないように施していたとは言え、俺からすると冷や汗ものだった。幹比古や沓子にバレるんじゃないかと焦るほどに。
「全くお前達は……頼むから森で大人しくしててくれよ」
幹比古から聞いた際、二体の精霊は神霊も同然の存在だと改めて認識したから、表沙汰にしたくない気持ちでいっぱいだ。
最初は別に大した問題にならないだろうと思って精霊を集束して造ったが、まさか神道系の古式魔法師達が求める神霊だったとは完全に予想外だった。もし俺が造ったと知られたら、幹比古や沓子だけでなく、他の古式魔法師達も
そうならないよう、レイとディーネを以前の精霊に戻そうかと最初は考えるも、それはすぐに却下した。自分の都合で消そうとするのは、
かと言って、この子達を野に放つ訳にもいかない。もしも自分の知らない所で人目に付き、魔法師達に知られでもしたら絶対に研究対象として捕獲されてしまうだろう。もしくは悪徳な古式魔法師達によって無理矢理従えさせるかもしれない。尤も、レイとディーネの強さを考えれば簡単に捕まらないだろうが。
結論としては……やはり俺が責任持って連れて行くしかなかった。この子達の同胞から何を言われても、是が非でも連れて行くと決心している。その際には何か依り代となる物が必要になるから、九校戦が終わるまでの間に考えておかないといけない。と言っても、俺のCADを使って住処にさせようかと既に考えているが。もしくは、何らかのアクセサリーとか。
「ところで、以前ディーネを操っていた古式魔法師の情報は、相変わらず音沙汰無しか?」
「「!」」
またしても収穫が無いだろうなぁと思いながら訪ねた瞬間、レイとディーネが途端に真面目な表情となった。初めて見る表情に俺が少し戸惑ったのは内緒にしておこう。
「聞いて聞いてご主人様! ついに見つけたの! 捕まえたの!」
「今は、強制的に、眠らせて、おります」
「何だと!?」
思いもよらない情報に俺は思わず声を荒げた事により、二体は急にビクッと震えた。
怖がらせてしまったと自省し、すぐに元の状態で話しかけようとする。
「一体どう言う事だ? 見付けても手を出すなと言った筈だろ」
「ゴメンナサイなの。ご主人様、今日は忙しいって言ってたから……」
「主、レイ姉さまは、何も悪く、ありません。わたしが、決めたのです」
謝ろうとするレイにディーネがすぐに割って入った。
これは予想外だ。まさか古式魔法師を憎んでいる筈のディーネが捕まえようとしていたとは。
「……眠らせてると言ってたが、殺してはいないだろうな?」
「勿論、です。ですが私の、独断で、主の命に、背いたのは、事実です。ですから、処刑をするなら、わたしだけに――」
「ご主人様! どうかお願いなの!
「………………」
自ら処刑を辞さないと姿勢を示してくるディーネに、レイはすぐに許しを懇願してきた。
何だか、
まさかアレと似たような光景を、この世界でまたしても見る事になるとは……これも因果なのだろうか。
まぁそんな事よりも今は――
「分かった。古式魔法師を殺していないなら、ソレに免じて許すとしよう。但し、次からは絶対に独断で動かず、ちゃんと俺に報告しろよ」
「あ、ありがとう、ございます……!」
「ありがとうなの~ご主人様ぁ!」
主人らしくディーネの独断を見逃す事にした。
深々と頭を下げるディーネに、喜びながら俺に抱き付いてくるレイ。
だけど普通に許すのでなく、キチンと戒めておかないとダメだ。また同じ事をしたら、今度は自ら死を以って償うと言い兼ねない。レイ以上に忠誠心の高いディーネなら猶更に。
「この身は、一層、主の為に尽くして――」
「あ~、そう言うのは良いから。取り敢えず、お前達が眠らせてる古式魔法師の場所へ案内してくれ。それとレイ、お前は離れるように」
俺に抱き着いてるレイを離しながら、ディーネに案内を命じた。
さてさて、ディーネが殺すのを我慢してくれたのだ。それに報いる為に、眠ってる古式魔法師の頭の中から情報を根こそぎ頂くとしよう。
そして情報を入手した俺は驚く事となった。これまで起きていた事故が全て、香港系国際犯罪シンジケート――
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