再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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今回はいつも以上に長くなっています。


九校戦編 九校戦㉒

(兵藤の予想通り、やはり一条が前に出たか……)

 

 試合開始の合図早々、三高側がすぐに動いた。拳銃型CADを突きつけ、ゆっくりと歩きながら砲撃を放つ一条が見えた。

 

 三高の大将(リーダー)が動いたとなれば、当然一高の大将(リーダー)である隆誠も動いて迎撃すると思われるだろう。

 

 だが、実際に一条が放ってる魔法を迎撃してるのは隆誠でなく――

 

(これは本来、兵藤がやるべきだろうに)

 

 何と達也だった。今も内心愚痴っていながら、右手の拳銃型CADで高位対抗魔法――『術式解体(グラム・デモリッション)』で相手の魔法を撃ち落とし、左手の拳銃型CADで大して威力の無い振動魔法を放っている。尤も、その射撃は将輝、と言うより魔法師が無意識に展開してる情報強化の防壁で防がれてしまっているが。

 

 本当であれば隆誠が将輝と戦う予定だったのだが、試合前の打ち合わせの時に、隆誠の指示で急遽相手をしろと言われたのだ。勿論、それを聞いた達也は難色を示すも、まるで予想していたかのように隆誠が明確な理由を説明した事によって従わざるを得なかった。

 

 将輝の相手をする事となった達也は、迂闊な事をしてしまったと少しばかり反省している。第二試合の八高戦で『術式解体(グラム・デモリッション)』を使ってしまった事に。

 

 それを映像記録で見た隆誠が、『八高戦の時に使った解体魔法で迎撃しろ』と命じたのだから、達也としては完全に予想外だった。

 

 一番厄介な相手に情報を知られてしまったと達也は舌打ちしたい衝動に駆られている。だがもし隆誠が知れば、『普段から俺の情報を探ってるお前に言われたくない』と即座に言い返すだろうが。

 

 とは言え、リーダーである隆誠から明確な理由を説明され、それに納得せざるを得なかった達也は与えられた役割を果たそうとする。同時に自分が戦う予定である(・・・・・・・・・・)本来の相手(・・・・・)を観察しながら。

 

(兵藤、なるべく早く動いてくれ。これ以上の接近は流石に不味い……)

 

 今も後ろで見守っている隆誠に対し、行動を開始して欲しいと願っている達也。

 

 相手との距離が近くなれば、照準も容易になる。対象物が近くにあればあるほど狙われ易くなるから、五感だけで察知しきれなくなってしまい、『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』を使わざるを得なくなってしまう。

 

 ただでさえ隆誠に『術式解体(グラム・デモリッション)』の情報を知られてしまった為、『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』まで知られたら非常に面倒な事になると、達也はそう考えている。

 

 尤も、それを当の本人が知ったら――

 

『それ使って毎回俺を覗き見するのはいい加減に止めてくれないか?』

 

 と、まるでとっくに気付いてるかのように苦言を呈しているだろう。

 

 

 

(どう言うつもりだ、兵藤の奴。何故俺と戦おうとしない……!)

 

 前進しながら『射撃』を放つ将輝は、自陣のモノリスから一歩も動こうとしない隆誠を見て苛立ちを募らせていた。

 

 自分と相手をしているのは予想していたように、司波達也だった。本人としては自分が望んだ相手で無い事で、余計に苛立っていく。

 

 だが、それでも警戒すべき相手である事に変わりない。現に今も自身が放った空気圧縮弾を、達也が『術式解体(グラム・デモリッション)』で、その魔法式を撃ち抜き消し飛ばしている。

 

 達也が放っている魔法については既に調べがついている。自身の相棒である真紅郎によって判明している。規格外の想子(サイオン)保有量を要求し、専門の研究者であっても目にする機会が数少ない魔法である事も。

 

 隆誠と言う存在がいなければ、もしかすれば司波達也が本来の相手だったかもしれないと将輝は考えた。こうして相対しているだけでも、充分脅威に値すると思いながら。

 

(一体ヤツは何を考えている……?)

 

 達也の相手をしながら時折視線を向けるも、隆誠は未だ微動だにしない。彼の後ろにいる幹比古が何かやっているようだが、将輝にとっては如何でも良い事だと思っている。

 

 前進しながら射撃を繰り出している将輝と達也の距離が残り百メートルを切った瞬間、突如一高側の自陣が動き始める。先程まで隆誠の後ろにいた幹比古が、達也の背中を迂回して三高陣地へ駆け出したのだ。隆誠は未だに動かないまま。

 

(やはり兵藤隆誠はディフェンス、なのか……?)

 

 試合開始前に将輝のチームメイトが推測を立てていたのを思い出すも、それでも将輝は納得が行かなかった。

 

(彼の考えが全く分からない。一体何がしたいんだ?)

 

 三高自陣で将輝と全く同じ事を考えている真紅郎も、隆誠が何をしたいのかが全く分からない様子だった。

 

 ピラーズ・ブレイクで使用した魔法を大会側で禁止されているとは言え、あの途轍もないスピードや剣技を使えば、間違いなく此方を翻弄出来る筈だ。なのに隆誠は、それをやろうとする素振りを一切見せていない。三高側はもう既に隆誠の行動に疑念を抱くばかりだった。

 

 とは言え、隆誠以外のメンバーも充分に曲者揃いである。今も将輝と対峙している司波達也は『術式解体(グラム・デモリッション)』を使っており、決勝前の試合で見せた古式魔法を使う吉田幹比古も、真紅郎にとって非常に厄介な相手であると見ている。

 

 その幹比古がローブを身に纏いながらも、迂回して三高自陣へ向かっているから、このまま何もせず見守ると言う愚かな選択は一切無い。

 

「打ち合わせどおり、あの古式魔法師は僕がやるから、此処を頼むよ」

 

「おう、後は任せろ」

 

 狙いは今も分からないが、幹比古が動いた以上は対処しなければならない。

 

 真紅郎からすれば、自分が相手をする予定の一人である。態々向こうから来てくれるなら、相応のもてなしをしようと動き出す。一高自陣にいる隆誠がニヤリと笑みを浮かべている事に気付かないまま。

 

 

 

(まだか? まだなのか、兵藤……!?)

 

 段々と距離が近くなり、達也は将輝の攻撃を撃ち落とすのに神経を集中している。

 

 その途中、三高陣地から真紅郎が動き出したのは見えていた。後ろを振り返る事は出来ないが、一高陣地で幹比古が動いたからと察していた。

 

 今のところ(・・・・・)全て隆誠の(・・・・・)筋書き通りなっている(・・・・・・・・・・)と思いながらも、将輝の相手をしてる達也も段々辛くなっている。

 

 将輝が放つ空気圧縮弾の狙いがどんどんと正確になっていき、五感だけで全て捌くのに限界が近づいてきた。これ以上の対処は『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』を使わなければいけない状況に陥る寸前だ。

 

 早くしろと心底願う達也とは他所に、迂回している真紅郎が幹比古と相対する寸前――

 

 

It’s(イッツ) Showtime(ショータイム)!」

 

 

『!』

 

 突如、一高陣地から隆誠の叫び声がした。

 

 それを聞いた達也と幹比古は反応し、将輝達も突然の事によって動きが止まっている。

 

 誰もが一高陣地の方へ振り向いた先には……いつの間にかマントを脱いでいる隆誠が、何やら浮いてるボードらしき物に乗っていた。

 

『………は?』

 

 これには流石の将輝達も目が点になっているようだ。あんな物、一体何処から出したのだと不可解そうに見ている。

 

(やっと動いたか!)

 

(次に僕がやる事は……!)

 

 達也と幹比古も同様の反応を示していたが、事前に打ち合わせした内容を思い出しながら次の行動に移ろうとしていた。

 

 因みに会場側は隆誠の行動を見て困惑する一方だ。尤も、来賓席にいる九島だけは笑みを浮かべたまま、一体何をしてくれるのかとワクワクしながら見守っている。

 

 そんな空気の中――

 

「さぁ行くぞぉ!」

 

 隆誠がそう言った瞬間、浮いていたサーフボードが動き出した。さながらバトル・ボードみたいな走行を披露している。

 

『はぁ!?』

 

 余りにも突然過ぎて将輝達は驚愕と同時に困惑するばかりだ。

 

 けれど、あのボードの正体に気付いた者がいる。

 

(あのボードは彼が羽織っていたマント! あんな使い方があったのか……!)

 

 真紅郎だけはボードの正体に気付いた。アレは隆誠が脱ぎ捨てたマントであると。

 

 マントがボード状になっているのは硬化魔法で固め、浮遊走行してるのは移動魔法を使っているのだと推測した。

 

 それが大当たりであるかのように、隆誠が乗っているボード状のマントは凄まじい勢いで進行し、将輝に接近しようとする。因みに彼と相手をしていた達也は巻き込まれないよう、既に離脱している。

 

(初めからコレが目的だったのか!)

 

 あの移動をする為に、達也が将輝の相手をしたのだと真紅郎は確信した。

 

 もしも試合開始後に隆誠がその準備に取り掛かろうとしたら、将輝は即座にさせまいと空気圧縮弾による遠距離攻撃を仕掛けただろう。

 

 しかし、将輝が達也との相手に集中していたで意識が逸れてしまった。真紅郎自身も動き出した幹比古の相手をしようと一旦目を離している。

 

 その結果、自分達が気付いていない内に準備する時間を与えてしまった為、後手に回らざるを得なくなってしまう。

 

「くそっ!」

 

 真紅郎と似たような事を考える将輝だが、隆誠の行動を阻止しようと圧縮空気弾を放っていた。しかし、隆誠が乗っているボードのスピードが速く、狙いを定めてもジグザグに回避するから通り過ぎてしまう。

 

 隆誠はピラーズ・ブレイクの時から、魔法師としての常識を壊しまくっていた。モノリス・コードでも常識外れの事を仕出かしてるのだから、普通のやり方で倒す事は出来ないと将輝は即座に判断する。ルール違反も覚悟して、全力で止めなければならないと。

 

 圧縮空気弾による爆発でボードの移動を阻止する為、威力を上げようと狙いを定めるも……ジグザグ移動していた筈の隆誠が、突如自分に向かって突進してきた。

 

「勝負だ、一条将輝っ!」

 

「そうきたかっ!」

 

 あれほどのスピードで突進されたら将輝もタダでは済まない。だが、自分は魔法師であり、防御用としての『干渉装甲』で防ぐ事が出来る。

 

 例えぶつかった所で『干渉装甲』で守られるから、自身に一切のダメージは無い。その代わり、それに激突した隆誠が吹っ飛んでしまう恐れがあるも、向こうも当然覚悟している筈だと甘い考えを切り捨てる。

 

(来い、兵藤隆誠!)

 

 拳銃型CADを構えながら、例えぶつかっても大丈夫だと、簡易的でありながらも『干渉装甲』を展開する将輝。

 

 距離が三十メートルを切り、いざ迎撃の引き金を――

 

「な~んてな!」

 

「なぁっ!?」

 

 引く瞬間、ボードに乗っている隆誠が急上昇し、放物線を描くような大ジャンプで飛び越えた。流石の将輝もこれには仰天している様子だ。

 

 つられる様に飛び越えたボードを見て向かおうとしてる先には、三高陣地のモノリスがある。

 

(しまった! ヤツの狙いは……!)

 

 隆誠の不可解な行動が分かった将輝は途端に焦り出した。自分に勝負を仕掛けると思い込ませ、本当はモノリスを狙っていたのだと。

 

 だが、それに気付いたところでもう遅い。先程の大ジャンプであと少しで三高のモノリス手前に辿り着こうとしている。

 

「どわぁっ!!」

 

 自分に襲い掛かって来るとは微塵も考えなかった三高のチームメイトは、大慌てでモノリスから離れようとする。

 

 ディフェンスとしてあるまじき行為だが、ボードが急速に向かってくるから、避けようとするのは当然と言えよう。将輝と真紅郎も彼の行動は至極当然だから、責める事は一切しない。

 

 そしてボードの先が三高陣地の約数メートルで激突した事により、その衝撃で土煙が舞った。

 

「くそっ!」

 

 将輝は移動魔法を使って自陣に戻りながらも、別の魔法で土煙を晴らす。そしてモノリスに鍵を打ち込もうとする隆誠を阻止しようとするが――

 

「い、いないだと!?」

 

 三高側のモノリスに隆誠と思わしき人影がなかった。

 

 将輝が周囲を見渡しても、少々離れているチームメイトの他、相棒の真紅郎に達也が向かっており(・・・・・・・・・)、幹比古は何故か後退して一高陣地に戻っている。

 

(い、一体これは、どう言う事なんだ……!?)

 

 隆誠が突如姿を消した上に、達也と急遽相手をしている真紅郎も困惑する一方だ。

 

 今の三高は完全に翻弄されている一方で、会場側も何が何だか分からない状態に陥っている。

 

 

「俺はここだぁ!!」

 

 

『!』

 

 突如上から大声がしたから、三高の将輝達、そして達也と幹比古も反応し、全員揃って上を見上げる。

 

 その先には、どれだけ跳躍したんだと思われるほど、遥か上空に隆誠がいた。減速魔法でも使っているのか、地面に落ちる落下スピードが明らかに遅い。

 

 だが、端から見ればそれは悪手であった。あんな所から大声を出さなければ、未だに気付いてない自分達に不意打ちを仕掛けるか、もしくは三高側のモノリスを開く事が出来ただろう。

 

 同時に今の隆誠は無防備も同然だった。減速魔法で落下スピードが遅いとは言え、あの状態のままでは完全に格好の的だ。

 

「これで終わりだ、兵藤隆誠!」

 

 将輝はそれを理解してるからこそ、すぐに上空へ向けて圧縮空気弾で狙いを定めようとする。

 

 しかし、当の本人は狙われても全く焦った様子を見せていない。それどころか、いつの間にか両手を開き顔の横にやると言う独特なポーズを取っている。

 

(何だ、あのポーズは?)

 

 狙いを定めている将輝だったが、隆誠が奇妙なポーズを取ってる事に思わず凝視してしまう。これは彼だけでなく、真紅郎やチームメイト、そして会場にいる観客達も同様だ。

 

 唯一の例外は、それを見ていた達也と幹比古は周囲に気付かれないよう顔を下に向け、両眼を閉じている。

 

 そして――

 

 

太陽光(たいようこう)!!」

 

 

『ッ!!!???』

 

 再び隆誠が叫んだ直後、彼の全身から強烈な光を発した。

 

 十秒くらい経ち、丁度地面に着地した隆誠が周囲を見ると――

 

「お、おのれ、兵藤隆誠……!」

 

「ぐっ……くそっ、やられた……!」

 

「目が、目がぁ~!」

 

 将輝や真紅郎、そして三高のチームメイトの視界が完全に封じられて両目を手で覆いながら悶えていた。

 

 逆に顔を下を向けていた達也と幹比古は悶える事無く、自身の役割を果たそうと再び動き始めようとしている。

 

「よし」

 

 好機と捉えた隆誠は、三高側が怯んでいる隙に拳銃型CADを抜いて、目の前にあるモノリスに鍵を打ち込んだ。

 

「っ! しまっ……ぐっ!」

 

 モノリスが開かれる音が聞こえた将輝が目を開こうとするも、隆誠が放った閃光魔法の所為で途端に痛みが走り出した。

 

 以前に女子バトル・ボードで光井ほのかが使っていた閃光魔法とは明らかに違う。何らかの特殊な光を発した事で、今もこうして目を開けるのが辛いと将輝は推測する。

 

 だがそれでも見逃さないようにと、将輝は痛みを必死に耐えていた。まだ霞んで完全に見えないが、何とか隆誠の姿を捉えていた。

 

「驚いたな。あの光を受けても目を開けられるとは……あんまり無理しないほうがいいぞ」

 

「誰の所為で、こんな事になったと……!」

 

 まるで他人事のように言い放つ隆誠の発言に、将輝は怒りが沸き上がって来た。

 

 拳銃型CADを向けて圧縮空気弾を放つも、目が未だに霞んでいる所為で狙いが雑になっていた。

 

「おっと危な……っ! これは不味いな」

 

 隆誠は当然避けるも、将輝が放った魔法を見て少々驚いた表情を見せる。

 

 向こうが未だ目の痛みによって気付いていないみたいで、圧縮空気弾の威力が明らかに異なっていた。今は辛うじて規定違反にはなっていないようだが、あの状態になっている将輝は恐らく、自棄になって規定違反の威力を放つ恐れがある。

 

 そう考えた隆誠は、腰に差していた小通連を抜こうとする。

 

「本当なら、このまま少し待てば(・・・・・・・・・)此方の勝ち(・・・・・)なんだが……やっぱりお前だけは先に倒しておくか」

 

「なん、だと……?」

 

 突如隆誠が奇妙な事を言った事で、痛みを堪えている将輝は再び困惑した。

 

 三高側のモノリスが開かれていても、その近くにいる隆誠がコードを入力していない。なのに何故、あんな勝利宣言をするのかが理解出来なかった。

 

 目の前にいるヤツの所為で色々と驚かされ、閃光魔法で今も目に痛みが走ってる事で、今の将輝は冷静に考える事が出来ない状態に陥っている。

 

 そんなのお構いなしと言わんばかりに、隆誠は小通連の柄を両手で握り締めながら、突進する構えを取っていた。勿論、刀身を伸ばして分離した状態で。

 

「さぁ見せてやろう、一条将輝。光栄に思うんだな。この技を見せるのは、お前が初めてだ!」

 

「!」

 

 隆誠から放たれた殺気に将輝は思わず怯んだ。

 

 一条将輝は過去に実戦を経験しており、多少の殺気を当てられた程度で怯みはしない。

 

 だが、隆誠のは明らかに違う。まるで自分が経験した実戦とは比べ物にならない強烈な殺気で、まるで金縛りを掛けられたかのように動く事が出来なかった。

 

 その刹那――

 

「奥義、九頭(くず)(りゅう)(げき)!」

 

「なっ……!」

 

 隆誠が技の名を告げた直後、神速とも呼べる速さで突進していった。

 

 一瞬で将輝に接近した後、九つの斬撃(切落(きりおろ)し、袈裟斬(けさぎ)り、(どう)右斬上(みぎきりあげ)逆風(さかかぜ)(ひだり)斬上(きりあげ)逆胴(ぎゃくどう)(さか)袈裟(げさ)刺突(つき))を同時に打ち込んだ。常人の目からすると、隆誠の腕があたかも分身したように思われるだろう。

 

 ついでに言うと、この技は隆誠が編み出した技ではない。前世で見ていた漫画やアニメの中に『放浪する剣信(けんしん)』と言う創作物があり、その主人公の師匠である技を再現しただけに過ぎない。尤も、この技は簡単に出来ず、再現するのは少々大変だったと本人は語っている。

 

 防御も回避も一切出来なかった将輝は直撃するも、まるで何事も無かったかのように隆誠がすり抜けていった。

 

 そして――

 

「がはっ……」

 

 九つの痛みが同時に走った事により、それに耐えきれなくなった将輝が地面に崩れ落ちた。

 

 

 

 一方、一高側の天幕では狼狽が広がっていた。

 

「なに? リューセーくんが使ったアレは一体何なの?」

 

 一番に狼狽しきっていた声と表情で、真由美は周囲にいる者達に尋ねた。

 

 けれど、誰も答えようとはしない。剣術部である桐原でさえも。

 

 因みに天幕にいる真由美達は隆誠が放った光を目にしたが、直接喰らった将輝達とは違い、そこまで酷い状況ではない。

 

「……例の縮地法を使って一条に接近し、斬撃を当てたのだろう」

 

 十文字が答えをもたらすと、周囲もやっと言葉を発せる状態となっていく。

 

「……そうですね。確かにあれは斬撃でした。勿論、小通連の刀身を分離していたので直接攻撃ではなく、決してルール違反になりません」

 

 彼の言葉を市原が引き継いだ。

 

「今の斬撃は、兵藤君が以前の試合で見せた技と少し似ています。縮地法を使ったと同時に、九回の斬撃を与えた事によって、一条選手を戦闘不能に追い込んだのでしょう」

 

「そんなことは見れば分かるわ! だから、そうじゃなくて!」

 

 しかし、その解説は真由美が望んでいたものじゃなかった。

 

「何でリューセーくんはその斬撃を同時に(・・・)発動させたの!? アレは明らかに摩利が使う秘伝の魔法剣技――」

 

「七草、落ち着け」

 

 真由美がこの場にいない摩利の秘伝技を口外しようとする寸前、十文字がそれを阻止するように落ち着いた声で宥めた。

 

「確かに俺も驚かされたが、アレは明らかに秘伝中の秘伝とも呼べる技だ。剣士でない俺達が詮索して良い事じゃない」

 

「でも……」

 

「以前から言ってる通り、兵藤はどこか古流の武術で学んだのだろう。そうでなければ、『縮地法』や『遠当て』などと言う高等な技を簡単に使いこなす事は出来ない筈だ」

 

「…………」

 

 十文字の言葉に真由美は納得してはいないが、一先ずは落ち着きを取り戻した。

 

「俺達が知っている知識だけが、世界の全てではない。魔法だけが『奇跡』ではないのだ。それよりまだ試合は終わっていない」

 

「……そうね。ごめんなさい」

 

 八つ当たりをしていた事に対する謝罪をしようと、真由美は周囲にいる者達と和解をする。

 

 

 

「凄いな彼は! 本当に高校生なのか!?」

 

 観客席にいる軍人――山中は、隆誠が披露した技を見て凄く楽しそうに呟いていた。

 

 念の為に言っておくが、観客席にいる客達は将輝達と違って目のダメージはない。ステージからかなり離れている会場だから、余り大した事がなかったのだ。尤も、隆誠がそうなるように威力を調節した事は誰も気付いていないが。

 

「あれ程の技を使うなんて……」

 

 彼の隣にいる女性軍人――藤林は逆に恐ろしげに見ていた。明らかにそこら辺の剣士では使う事が出来ない技だと判断している。今頃この九校戦を見ている千葉家が大騒ぎしてるんじゃないかと思うほどに。

 

「なぁ藤林、千葉家にいる『幻影刀(イリュージョン・ブレード)』の千葉(ちば)修次(なおつぐ)に、あの技が使えると思うか?」

 

「さぁ? 私は剣士ではありませんから、何とも言えません」

 

 山中は日本にいる剣士で最強クラスと呼ばれている千葉修次と比較しようとするも、藤林は素っ気なく分からないと答えた。

 

 因みにその彼だが、恋人の摩利と一緒に一般用の観客席で見ており、他の観客達と一緒に言葉を失っている。

 

 藤林は思わず本部の来賓席へ視線を向けると、最前列に座っている九島烈が今もとても愉快そうに大笑いをしていた。まるで周囲の事なんかお構いなしとも呼べる滅多に見せない行動に、孫娘である彼女も驚いている。それだけ隆誠が九島のお眼鏡に叶う存在であったと改めて認識した。

 

「まぁどちらにしろ、あれほどの逸材は是非とも独立魔装大隊(ウチ)に来て欲しいものだ。達也君と組めば、最強のコンビになると私は思うぞ」

 

「それはどうでしょうね」

 

 藤林は山中の考えを見抜いていた。兵藤隆誠をスカウトすれば堂々と人体実験が出来る、みたいな事を考えている筈だと。

 

 確かに彼女としても、兵藤隆誠と言う存在は貴重で逸材とも言えるだろう。あれほどの実力者は是非とも独立魔装大隊にスカウトしたい。

 

 けれど、達也と隆誠を比較しても、やはり隆誠の方が劣ると藤林は考えている。いかに戦術が優れているからと言って、戦略級魔法を扱える達也の方が大変貴重な戦力であるのだから。

 

 

 

 やっと痛みが治まって両目を開くも、真紅郎の視界には信じられない光景が映っていた。

 

 信頼している相棒の将輝が地面に倒れている。

 

 相手選手である隆誠は倒れている彼の少し先に立ったまま。

 

 それはつまり――

 

(将輝が、負けた……?)

 

 断じてありえない光景であり、決して起こりえない筈の出来事だった。

 

 如何に隆誠が非常に厄介な相手とは言え、自分やチームメイトがやられるならまだしも、将輝が倒される確率は殆どゼロに等しかった。

 

吉祥寺(カーディナル)一条(プリンス)の敗北は信じられないだろうが、そろそろ現実と向き合ったらどうだ?」

 

「!」

 

 呆然としていた真紅郎に突如聞き覚えのある声に反応すると、達也が目の前にいた。けれど、彼から攻撃の意思が無く、ただ防御の構えを取っているだけだ。

 

 何故自分に攻撃を仕掛けなかったのかを疑問を抱く。達也がその気になれば、自分を簡単に倒せる筈なのに、何故こんな呑気に話しかけているのかが全く理解出来ない。

 

「尤も、俺もお前と同じ心境だがな。まさか兵藤があんな凄い技を使うとは思ってもみなかった」

 

「随分と余裕じゃないか……! 何故僕をすぐに倒そうとしない!?」

 

「その必要が無いからだ」

 

「なに……?」

 

 余りにも余裕を見せている達也の言動に激昂する真紅郎だが、当の本人はあっさりと答えた為、急に毒気を抜かれてしまった。

 

 同時に達也の言ってる意味が分からなかった。自分に攻撃を仕掛けようと必要が無い理由が。

 

「既に俺達の勝利は確定(・・・・・・・・)している。あと少しで試合終了の合図が鳴る筈だ」

 

「一体何を言っているんだ!? 将輝を倒しただけで一高が勝利する訳がないだろう! そんな出任せで僕を追い詰める気か!?」

 

 事実を述べている達也に再び激高する真紅郎。

 

 今の彼は将輝の敗北を認識した事で、完全に冷静でいられなくなっている状態だった。それだけ達也の台詞が癇に障ったのだろう。

 

 しかし、それでも達也は淡々と答えようとする。

 

「俺は追い詰めていないし、事実を言ったまでだ。まぁそれでも信じられないなら、今ここでお前の相手をしても構わないが」

 

「っ! 貴様ぁ!」

 

 この瞬間、真紅郎は堪忍袋の緒が切れたように、そのまま達也に襲い掛かろうとする。

 

 他にも三高のチームメイトが将輝の仇を討とうと言わんばかりに、未だ静止したまま佇んでいる隆誠に攻撃を仕掛けようとする。

 

 だがその直後、試合終了のアラームが鳴る。それを聞いた真紅郎とチームメイトがディスプレイを見ると、第一高校の勝利が表示されていた。

 

 さっきまで激昂していた真紅郎だったが、予想外の結果が示されている事により、チームメイトと一緒に混乱している。

 

「そ、そんな! 何で!?」

 

「答えは簡単だ。あれを見ろ」

 

「!」

 

 試合終了となって構えるのを解いた達也は、答えを教えようと幹比古がいる場所を指した。その先には自陣のモノリスの陰に潜んでいた幹比古が姿を現し、とても深い安堵の息を漏らしていた。明らかにコードを入力して送信したような仕草で。

 

 それを見た真紅郎はすぐに思い出した。決勝前の試合で、幹比古が精霊魔法を使って自分の『眼』となり、それを頼りにコード入力後に送信していたのを。

 

「バカな……。彼はあの魔法を使っていない筈、なのに……何故……?」

 

「そこまで細かく教える気は無い」

 

 後は映像記録で確認するんだなと言って、達也はこの場から立ち去っていく。呆然としている真紅郎ともう一人の三高の選手を放って。

 

 会場側も漸く一高の勝利を認識したみたいで、一高に暖かな拍手を送っていた。

 

 

 

 拍手のシャワーを浴びながらも、隆誠達は会場へ向かいながら合流していた。

 

 三人ともヘルメットを脱いでおり、敢えて客席を見ようとせずに話しかけようとする。照れ臭さを隠す為に。

 

「優勝を飾れて良かったな、幹比古」

 

「ナイスだったぞ。指示通りに動いてくれて俺は大満足だ」

 

「今はとてもそんな気分になれないよ。コードを打つ度に心臓の音が聞こえるほど緊張してたんだから……」

 

 称賛の言葉を口にする達也と隆誠だが、幹比古は未だに緊張が残っているみたいだ。あと少しすれば元の状態に戻り、その後に大歓喜するだろう。

 

 すると、途端に達也が隆誠に対して苦言を呈する。

 

「ところで兵藤、さっきのアレはどう言う事だ? 打ち合わせでは一条を倒さずに時間稼ぎをするんじゃなかったのか?」

 

「悪い悪い。本当は俺もそのつもりだったんだが、一条の放った圧縮空気弾の威力が明らかに不味かったから、倒さざるを得なくてな」

 

「……そこは否定できないな」

 

 隆誠の言う通り、達也は間がありながらも頷いた。

 

 自分が最初に将輝と戦っていた時は問題無い威力だったが、閃光魔法を使った隆誠によって追い詰められていた際、明らかにルール違反と思われる威力の空気弾を放っていた。あの場で倒さなければ色々不味い事になるから、隆誠の判断は決して間違っていない。

 

 けれど問題は、将輝を倒した時に使った隆誠の技だ。以前に紗耶香との勝負に使った五連撃の技より遥か上を行くと言っても過言ではない。あの時の達也は無意識に『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』を展開しており、九つ同時の斬撃を仕掛けたと認識した際、余りの事に呆然としてしまう程だった。

 

 打ち合わせした内容通りに運べなかったが、必ずしも思い通りに上手く行くとは限らない。今回は予想外のイレギュラーが起きてしまったと、達也は一旦それで済ませる。問題が他にもあるのだ。先程から続いている拍手が。

 

 未だに衰えを見せぬ拍手に漸く観念した三人は、観客達に向かって手を振りながら歓声に応える事にした。

 

 だがそんな空気をぶち破るように――

 

「ちょっと隆誠くん! さっきの技は一体何なのよ!? 詳しく聞かせなさい!」

 

「「「…………」」」

 

 いつのまにか最前列までやってきたエリカが、隆誠が将輝を倒す時に使った技を聞こうと、身を乗り出しながら大きな声を出すのであった。




以上、モノリス・コードの決勝戦でした。

次回には答えを示す為の、一高側の決勝前の打ち合わせを更新します。

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