再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

67 / 223
九校戦編 決勝前の打ち合わせ

 一高側の決勝前打ち合わせの時まで時間は遡る。

 

 

 

 

 天幕にある奥の部屋には隆誠、達也、幹比古の三人がいる。

 

「幹比古、防音は?」

 

「大丈夫だよ。もう周りには聞こえない。と言うか、何でこんな事をするんだい? 会長達も一緒に聞いた方が良いと思うんだけど」

 

 幹比古は隆誠から周囲に聞かれないよう魔法で遮音障壁を張るよう頼まれた。言われるがままにやったとは言え、こんな事をする理由が分からないから訊かざるを得ない。

 

「今回やる作戦は余り周囲に聞かれたくない内容なんだ。どこかの妹が周囲に言い触らすんじゃないかと少々不安でな」

 

「おい」

 

「それじゃあ、早速説明するとしよう」

 

 どこかの妹と言う単語に反応した達也が若干声を低くして睨むが、言い出した当の本人は無視するように、決勝についての話を始めようとする。

 

「知っての通り、今回戦う三高で一番の強敵は一条将輝だ。そしてアイツは俺に勝負を挑もうと、前の試合では挑発染みた行動をしながら圧倒的勝利(ワンサイドゲーム)を見せた。その為、この後にやる決勝戦では俺が一条と戦うしかない。ここまでは二人も分かっている筈だ」

 

 将輝の性格を考えれば、またしても一人で進軍しながら砲撃魔法を仕掛けてくるだろう。

 

 隆誠が確認するように言うと、二人は無言で頷いた。そうなる予定だと認識しているから。

 

 だが――

 

「生憎だけど、俺はアイツと真っ向勝負する気は一切無い。一条の相手をするのは司波、お前だ」

 

「「!」」

 

 隆誠が予想外な事を言い出した為に、二人は途端に目を見開いた。

 

「りゅ、隆誠。どうして一条の相手が達也なんだい? 向こうは君と戦いたがってるのに」

 

「同感だ。確かに敢えて一条の挑発に乗らないと言うのは分からなくも無いが、何故俺がアイツと戦わなければならない」

 

 幹比古は疑念を抱き、達也も難色を示す……ではなく完全に文句だった。

 

 しかし隆誠は、それが分かっていたかのように、特に慌てる事無く理由を話す。

 

「勿論俺が何の考えも無しに一条の相手を司波に任せたりはしない。それと、別に真っ向勝負をしろと言ってるんじゃないぞ。ある程度相手をする為の囮役として、一条の意識を司波に引き付けて欲しいだけだ」

 

「囮役だと?」

 

「何でそんな回りくどい事をする必要が?」

 

 隆誠の考えが全く読めない二人は、もう既に疑念だらけとなった。

 

 将輝と戦う適任者が隆誠であり、倒す事が出来れば一高が勝利したも同然となる。それが一高にとって最大のチャンスであるのに、態々面倒な事をするのかが理解出来ない。

 

「あのなぁ、何でお前等は個人で戦う事をメインに考えているんだよ」

 

 仕方ないと言った感じで隆誠は二人に改めて集団戦について説明しようとする。

 

 そもそもモノリス・コードは、チームワークを主体とした団体競技。それを個人戦に持ち込もうとするのが大間違いである。

 

 だと言うのに、敢えて個人戦に持ち込もうとする三高側のやり方は少しばかり問題だと隆誠はそう感じていた。

 

 尤も、三高側がそうするのには相応の理由があった。一条将輝と言う存在がそうさせているのだ。

 

 魔法力と才能に優れた十師族の一条家次期当主がいれば、三高に敗北は無い。そう言う考えを持っている為、三高は一条のやろうとしてる事に口出しはしない。彼に敗北は無いという絶対の信頼を置いているから。

 

 しかしそれは隆誠から見れば、単なる過信や慢心に過ぎなかった。如何に個人が優れたところで、集団戦となれば話は別である。

 

 隆誠がそう考えるのは前世の頃、嘗て(イッセー)がリアス達と一緒に公式戦のレーティングゲームをやった時に痛感した事がある。赤龍帝(イッセー)と言う強力な存在がいても、相手が見事なチームワークを見せた事により脱落させられた事があった。それ故に、集団戦でのチームワークが如何に重要であるかを隆誠は思い知らされたのだ。

 

 だから今回やるモノリス・コードの決勝戦では、隆誠は個人に頼った戦いを一切抜きにして、チームワークを主体にした戦い方にしようと決めた。態々相手の土俵に合わせた戦いなんか一切せず、逆に此方の思惑通りに動かす為の策を講じてやろうと。

 

 強力な駒がいたところで勝てると言う事実を三高に是非とも教えてやると隆誠が言った事で、達也と幹比古はもう何も文句を言えなかった。特に達也の場合、軍に属してる事もあって、チームワークが重要である事を理解しているから。

 

「さて、お二人さんが漸くご理解してくれたようだから話を戻すぞ」

 

 そう言って隆誠は作戦の概要を話す。

 

「さっき言ったように、司波はあくまで囮役だ。一条の相手をする際、主に防御をメインで戦ってくれ。と言っても、最低限の反撃はして欲しいが」

 

「例えそうでも、俺に奴の相手は荷が重い――」

 

「確か映像記録で、二高での市街地ステージ戦の時に『解体術式(グラム・デモリッション)』を使っていたな。それなら問題無く一条の相手は務まる筈だろ?」

 

「…………………」

 

 ちゃんと情報は収集済みだからと言わんばかりの笑みを見せる隆誠に対し、厄介な相手に知られてしまったと何も言い返せないで無表情となる達也。

 

 対照的な表情をしてる二人に、幹比古は戸惑いの様子を見せている。

 

 数秒後、達也は諦めたように嘆息し、将輝の相手をすると了承したのは言うまでもない。これ以上の抵抗は無理だと諦めるように。

 

 その返答を聞いた隆誠は、次に幹比古へ視線を向けた。

 

「司波が一条と戦っている際、幹比古はその間、なるべく三高側に見えないよう俺の後ろに立って、前の試合で目の代わりとして利用した精霊魔法を発動させて欲しい。確認だが、精霊魔法を維持したまま俺の背中に張り付けるのは可能か?」

 

「可能だよ。でもアレはそもそも遮蔽物がある場所で利用する魔法だから、草原ステージで使う意味は無いと思うんだけど」

 

「意味があるから使って欲しいんだ。その理由は後で分かるから」

 

 幹比古の疑問を余所に、隆誠は更に説明を続けようとする。

 

「戦闘中の司波と一条の距離間がある程度近くなったら俺が行けと指示を出すから、幹比古は迂回しながら三高側のモノリスへ向かって欲しい。そうすれば三高の吉祥寺か、もう一人の三高選手のどちらかが迎撃しようと動き出す筈だ。けれど精霊魔法を維持したままでは、まともに戦う事は出来ない……で良いんだな、幹比古?」

 

 その確認に幹比古はコクリと頷く。

 

 精霊魔法は術者の思念の強さに応じて力を貸してくれるが、途中で何らかの雑念が入ってしまえば消えてしまう。前以て幹比古が試合前に隆誠と達也に説明済みである。

 

「勿論、幹比古に戦えなんて言わない。相手を引き付けるだけで充分だから、起動してる精霊魔法はそのまま維持してもらいたい。んで、三高側の誰かが幹比古を迎撃をしようとする寸前に俺が動く」

 

 説明を聞いてる達也と幹比古は、隆誠がどんな行動を起こすのかと気になる様にジッと見る。

 

「先ず向こうが俺に意識が向くよう、デカい声で叫びながらコレを出す」

 

 隆誠が取り出したのは、達也が決勝前に持ってきた洋風の長い黒マントだった。

 

 他にもフード付きのローブもあるが、既に幹比古が使う予定でいる。本人は恥ずかしそうで今も嫌がっているが、達也から仕様を聞かされた為に使わざるを得ない。

 

 それ等には古式の術式媒体で刻印魔法と同じ原理で作動し、着用した者の魔法が掛かりやすくなる効果を付与してると達也が説明済みである。

 

「司波、勝手で悪いがこのマントは俺が使わせてもらうぞ」

 

「それは構わないが……一体何に使うつもりだ?」

 

 本来だったらそのマントは、達也が防御用として使うつもり予定だった。真紅郎が使う『不可視の弾丸(インビジブル・ブリッド)』対策として。

 

 しかし、その予定を変えてまで隆誠が使おうとしてるから、何か理由があるのだろうと使うのを諦める事にした。

 

「俺の硬化魔法でマントをボード状に変形させ、更に移動魔法も加えてバトル・ボードみたいな走行を披露する。その時に三高のモノリスへ急接近した後に鍵を撃ち込む」

 

「なっ……」

 

 これには流石の達也も予想外と言わんばかりの使い方に絶句する。移動用として利用するとは全く考えもしなかったと。

 

 とは言え、使い方に関して理論上は可能であった。但し、二つの魔法を同時に使おうとすれば、かなりの高等テクニックを見せなければならない。水があるバトル・ボードと違い、地面に浮いたまま走行するのはかなり難しい筈だ。

 

 本当に出来るかどうかは不安である達也だが、当の本人が言った以上は必ずやるだろうと自己完結した。

 

 その後に隆誠がマントを使っての走行でモノリスへ到達する方法を説明すると、達也と幹比古は納得する。

 

「俺がボードで走行中、司波と幹比古はその間に離脱するんだ。司波は幹比古が誘き出した相手の元へ、幹比古は自陣のモノリスへ後退、とな」

 

「成程。三高側が浮足立ってる隙に移動か。だが俺達は良くても、兵藤が鍵を撃ち込む為の接近をするとは言え、一条あたりに撃ち落とされるのがオチじゃないのか?」

 

「そこも当然考えている。モノリスに鍵を撃ち込む前に、俺が使う魔法で三高の動きを一時的に止める予定だ。そのやり方だが――」

 

 ボードで移動中に魔法による跳躍を使い、遥か上空から大声を出して将輝達に注目させた瞬間、閃光魔法――太陽光(たいようこう)を使おうとしてる。

 

 因みに太陽光とは、隆誠が前世で使っていた強烈な光を放ち相手の目を眩ませる技だ。それは当然『ドラグ・ソボール』のキャラで空孫悟やツリリン、そして天津丼が使っていた技を参考にしている。

 

 専用のCADが無ければ使えないんじゃないかと達也と幹比古から疑問視されるも、それ無しでも使えるとちゃんと話している。

 

 因みに達也はその話を聞いて、自身がほのかに教えた閃光魔法(フラッシュ)と似たモノが使えるのかと一瞬考えるも、それは一先ず後回しにした。

 

「それで三高側が俺の閃光魔法で目が眩んでる僅かな間に、モノリスに鍵を撃ち込むって訳だ」

 

「ほう……」

 

「確かにそれは一番効果的だね」

 

 隆誠の接近手段を聞いて納得の表情となる達也と幹比古。

 

「だから司波と幹比古は、俺が閃光魔法を使うポーズを取ったのを見た瞬間、すぐに頭を下に向けながら目を閉じろ。頼むから好奇心で見ないでくれよ。目にした瞬間痛くなって、簡単に目を開ける事が出来なくなるからな」

 

「それはそれで恐ろしいな」

 

 ほのかの閃光魔法(フラッシュ)以上の威力じゃないかと内心恐ろしく思う達也。同時に『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』を使わないようにと内心注意する。

 

「さて、ここまでは下準備だ。その後から勝敗を決める重要な局面となる」

 

「随分と手の込んだ奇策だと言うのに下準備か」

 

「まぁ、そこからは僕や達也の役目は殆どないだろうね」

 

 呆れるように言い放つ達也とは別に、少々安心している幹比古。

 

 しかし、隆誠の口から予想外な事を言い出す。

 

「何言ってるんだ、幹比古。お前にはまだやる事があるぞ。それどころか、今回の決勝戦ではお前が一高が優勝する為の鍵を握っていると言う位の一番重要な役割がな」

 

「ええ!?」

 

 自分の役割はもう終わりかと思いきや、いきなり隆誠が途轍もない事を言い出した事により、幹比古は思わず叫んでしまった。

 

 リーダーである筈の隆誠が勝利の鍵を握っていると思っていたのに、それがまさか自分だとは微塵も考えなかっただろう。

 

「精霊魔法を維持したまま俺の背中に張り付けるよう言ったろ? 三高が俺の閃光魔法で目が眩んでる間に、それで相手のモノリスに隠されたコードを見て打ち込むんだよ」

 

「あっ!」

 

 呆れながら言う隆誠に、大事な事を忘れていたみたいに再び叫ぶ幹比古。

 

 ここで幹比古が重要な役割をやろうとする事を理解した達也は、再び納得の表情となる。

 

「となると、幹比古がコードを打ち込んで送信するまでの間、俺と兵藤は無理に三高と戦わず時間を稼げばいいんだな?」

 

「ああ。奴等は一時的に目が使えない事で、目の前の敵にしか意識を向ける事が出来ない状態に陥る筈だ。だから自陣のモノリスに戻った幹比古がまさか精霊魔法を使ってコードを打ち込んでるなんて考えもしないだろうな。けど万が一の事を考えて、参謀役の吉祥寺だけは気付く可能性があるから――」

 

「その時は奴の配置次第で兵藤が撃破、もしくは俺が足止めをすれば良い、か」

 

「そゆこと。ってな訳で、これが俺の考えたチームワーク主体の作戦だ。こうすれば、十師族の一条相手に無理して戦って勝つ必要なんか無いだろ?」

 

「「……………」」

 

 奇策かと思いきや、実はかなり計算高い作戦を考えていた事に、達也と幹比古は一切反論できない。この場でそれ以上の作戦を考えられないと。

 

 だがこれはあくまで想定したものに過ぎなく、実際の決勝戦で将輝を倒さざるを得ない事態になってしまった事を、この時の隆誠は知る由もない。

 

 三人は作戦を必ず遂行しようと、決勝が始まるまで念入りに確認するのであった。




以上がリューセー考案の作戦でした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。