再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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九校戦編 九校戦㉕

 第一高校の天幕へ戻るとやはりと言うべきか、周囲の司波に対する視線が厳しかった。

 

 それは仕方の無い事だった。事情があったとは言え、突然検査員に暴行を仕出かそうとしたのだ。それを知らない者達からすれば、司波のやった事は大問題である。

 

 だが―― 

 

「それでそれで? どうなったの?」

 

「もう本当に危うかったですよ。あそこまで怒り狂うとは思いませんでしたから。俺が止めても、『コイツは俺の大事な愛しい深雪のCADに異物を紛れ込ませようとした。それは絶対に許されない事だ!』と言い返されましてねぇ~正にシスコンここに極まれり、でしたね」

 

「まぁ! もう達也くんったら、本当に妹の深雪さんが大好きなのね~!」

 

 俺と真由美が周囲にも聞こえるように、少々大袈裟な会話をしてる事で緩和されつつあった。

 

 三文芝居も同然のやり取りだが、これは周囲が司波に対する忌避の感情を失くす為の手段である。尤も、それを最初にやったのは真由美だったので、俺は敢えて乗っかる事にした。

 

 俺が司波のシスコンによる暴走だと言った事で、真由美が顔を赤らめながら素晴らしい兄妹愛だと言い返した。

 

「……………………」

 

「お、お兄様、『俺の大事な愛しい』だなんて……わ、わたし達は兄妹なんですから……」

 

 俺と真由美のやり取りを見ている司波が納得行かないみたいに睨むのに対し、司波妹は口では文句を言いつつも満更でもなさそうに顔を赤らめていた。

 

「いや~、俺も司波さんみたいな可愛い妹がいたら、ああなっちゃうかもしれないですね~」

 

「あ、それ分かるかも~兄の達也くんとしては、大事な大事な妹にちょっかいを掛けられたら怒り狂っちゃうんだからね~」

 

 司波にとっては極めて不本意な言われようだろうが、これ位は我慢して欲しい。こうでもしないと空気を変える事が出来ないのだから。

 

 周囲が忌避の感情が消え失せていくも、今度は台風接近間近の如きジットリと湿った生暖かい風が吹きつけていた。当然それは司波に対して。

 

「兵藤、後で覚えてろ……!」

 

「お、お兄様!?」

 

 もう耐えられなくなったのか、これ以上此処に居たくないと言わんばかりに、戦略的撤退を選択した。エンジニアに割り当てられた作業室へ、こそこそと逃げ込んだだけだが。

 

 司波妹も付いて行き、話題となった兄妹がいなくなった事で、どうにかこの場は収まる事となった。

 

「………ふぅっ。一先ずこれで安心ですね」

 

「そうね。ありがとう、リューセーくん。咄嗟に私に合わせてくれて」

 

 司波が一高の中で忌み嫌われ孤立する、と言う事態を免れた事で俺と真由美は安堵の息を吐く。

 

 けど、俺はすぐに真面目な顔になり、彼女に向かってこう言った。

 

「真由美さん、今すぐに摩利さんと十文字会頭を奥の部屋へ呼んで頂けますか? 出来れば五十里先輩も一緒に」

 

 

 

 

 

 

 三巨頭の真由美や五十里に一通りの報告をすると、四人は揃って共通の反応を示した。それを一言で示せば『信じられない』だ。

 

 それは当然と言えよう。相手が工作員とは言え、公平な立場であり、信頼していた筈の大会委員が仕組んでいたなどと夢にも思わなかったのだから。

 

 特に四人の中で憤っていたのは五十里だった。普段温厚である筈の彼としても、今回の件はそれだけ許せなかったのだろう。司波と一緒に無実だと大会委員長に抗議してる際、その場にいた犯人に踊らされていたと考えれば、憤るのは無理もない事だ。

 

 九校戦後に行われる予定だった俺のCAD没収の他、一高に対する検査機損害の賠償責任が全て無くなった事に、五十里と同じく憤っていた真由美達は顔に出さずとも安堵していた。全ての責任は大会委員会が負う事となったので。

 

 あと今回の不祥事については、九島烈が直々に鉄槌を下す事も伝えると、それを聞いた四人はほんの僅かながらも大会委員会を憐れんだ。魔法協会理事である九島烈が自らやると言う事は、それだけ彼の怒りを買ってしまったと理解したからだ。

 

 因みに俺が少し前に九島と二人っきりで仲良く茶飲み話に興じていたと教えたら、別の意味で驚くだろう。と言っても、自分から言う気など一切無いが。

 

 取り敢えず犯人が判明した事により、この後に行われる競技で事故はもう起きないのは確定だ。それによって真由美達は安心している。

 

 尤も、俺は全く安心してない。此方を散々引っ掻き回した無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)の連中には落とし前を付けさせなければならないからだ。これが私利私欲が目的だったら、以前のブランシュと同様に全員ぶちのめすつもりでいる。

 

 

 

 

 

「二人とも、いつまで見惚れてるんだ? もうとっくに試合が始まってるんだぞ」

 

「いや、だってなぁ……」

 

「あんな姿見たら、女の私だってそうなっちゃうわよ」

 

 ミラージ・バット本戦の第二試合が始まっているにも関わらず、俺の隣に座っている修哉と紫苑が競技中の司波妹に見惚れていた。

 

 だが、それは二人に限った話ではない。周囲にいる観客達も同様の反応を示しているからだ。

 

 知っての通り、ミラージ・バットはコスチュームを身に纏って行う競技。昼用と夜用と二種類ある。第二試合が行われている今は昼用だが。

 

 何故こんな事を今更言うのか、それは修哉と紫苑を含めた観客達の殆どが司波妹のコスチュームに見惚れているからだ。濃いマゼンタを基調色としたコスチュームだが、それを着てる事で高貴な雰囲気になってる他、彼女の美しさとスタイルによって色香を漂わせている。正しく、花のような美貌と言えるだろう。

 

 その為に司波妹に釘付けとなっているのだ。男子だけでなく、女子も含めて。

 

 普通なら見惚れてる男の修哉に、ツッコミを入れる筈である女の紫苑がやってもおかしくないが、今回ばかりは見惚れる側になっている。尤も、それは他の女性陣にも言える事だが。

 

 俺は他と違って見惚れてはいない。前世の頃から見目麗しい衣装を身に纏った美女・美少女は見慣れている。

 

 けどまぁ、もしも義妹(アーシア)が高校生だった頃、可愛らしい衣装で競技をやっていたと思えば違う反応をしていたかもしれない。可愛いなぁ、と兄目線で見守っていると断言出来る。

 

 それはそうと、試合は第二ピリオドまで終わったが、司波妹が現状トップに立っていた。

 

 とは言え、一切の油断は出来ない状況だ。二位は三高選手の水尾佐保で、ポイント差は僅か。逆転される可能性は充分にある。

 

 第三ピリオドになれば、今まで余力を残していた三位以下の選手達も一気に動き出す筈だ。そうなれば、いくら司波妹がトップであっても難しいだろう。

 

 だが、それでも勝利は揺るがないと断言出来る。チラッと見えたが、司波妹が担当スタッフの兄に話しかけ、CADらしき物を渡されたのが見えたから。恐らくこの試合に勝つ為の秘策であろうと推測出来る。

 

 そして第三ピリオド開始のチャイムが鳴り、今までと違う展開となった。

 

「お、おい嘘だろ……?」

 

「司波さんが、飛んでる……」

 

 信じられないように呟く修哉と紫苑。だがそれは他の観客達にも言える事だ。

 

 他校の選手達が跳躍の魔法を使っている中、司波妹だけは跳躍せず、まるで空を泳いでいるかのように舞っていた。

 

「飛行魔法……?」

 

 俺達の近くにいる観客の一人が、そう呟いた。

 

「トーラス・シルバーの……?」

 

「そんなバカな……」

 

「先月発表されたばかりだぞ……」

 

 囁きが連鎖し、波紋は徐々に広がっていく。

 

 彼等が言う飛行魔法は、加速・加重系に属する系統魔法。重力制御により継続して任意に飛行することができる。

 

 現代魔法が広まった初期の頃から提唱されていたが、長きに渡っても実現されておらず、加重系魔法の技術的三大難問の一つとして扱われていて技術化する事が出来なかったらしい。

 

 けれど、トーラス・シルバーと言う正体不明の魔法工学技師が実現させ、先月に飛行魔法を発表したそうだ。魔法業界からすれば歴史的偉業と称えられるだろう。

 

 そんな凄い魔法を今は司波妹が使っている。観客達の目が釘付けになるのは当然だろう。

 

あの程度(・・・・)じゃ、まだまだ俺の足元にも及ばないな)

 

 残念だけど、前世(むかし)を知ってる俺から言わせればお遊戯レベルも同然だった。

 

 確かにこの世界にとって、あの飛行魔法は充分驚くに値するだろう。この世界に転生した俺もそれなりに理解できる。

 

 俺の場合、CADが無くても飛べる他、司波妹以上の高速飛行が可能だ。前世(むかし)聖書の神(わたし)と比べて速度はかなり落ちてるが、それなりに出せるとだけ言っておく。

 

(う~ん、いっそのこと、修哉と紫苑で試してみようかな?)

 

 司波妹が飛行魔法でポイントを取り続けてる最中、俺は全く別の事を考えていた。俺の扱う飛翔術が、この世界の人間に使用可能であるかを。

 

 実験台にすると言う訳ではないが、もし修哉と紫苑が望むのであれば教えようかと思っている。

 

 (イッセー)が人間だった時、飛翔術を使う際に闘気(オーラ)を必要としていたが、二人の場合は想子(サイオン)になる。そこは俺が上手く変換させれば良いだけの話だ。

 

 九校戦が終わり次第、二人に確認してみようと思いながら競技を見てると、既に大差を付けてる事で司波妹が決勝へ勝ち上がった。

 

(ん?)

 

 周囲が慌ただしくなっている中、妙な奴がいた。他の観客達とは違う無表情な男が、何故か俺をジッと見ている。

 

 普通なら飛行魔法を使っていた司波妹を見て興奮している筈なのに、男は何も感じていないかのように全くの無表情だ。

 

 俺と目が合った瞬間に視線を逸らし、今度はディスプレイに映るメッセージに見入っている。

 

(何だアイツは? それにあの不気味と思われる程の奇妙な無表情……)

 

 明らかに場違いと思われる存在に俺は訝しんだ。

 

 修哉達や周囲の観客、そして司波に気付かれないよう能力(ちから)を使って対象を調べると……予想外の結果が出た事に俺は即座に動いた。

 

 

 

 

 

 

「十七号から連絡があった。ターゲット――兵藤隆誠が観客の中に紛れていたのを発見した」

 

「あのガキが試合前に電子金蚕を見抜いた所為で、第二試合に狙う筈だったターゲットが予選を通過したそうだ」

 

「くそっ! あの疫病神め! どこまでも我々の邪魔をしおって!」

 

「最早手段を選んでいる場合ではないと思うが、どうだろうか」

 

「賛成だ。兵藤隆誠や他の観客達をある程度殺せば充分だろう。大会自体が中止になる」

 

「観客はともかく、兵藤隆誠を殺すのは不味いのではないか? ピラーズ・ブレイクで使っていた術式が手に入らなくなるぞ」

 

「残念ながらそれはもう無理だ。今しがた報告で、もうCADの没収は無しとなった。それが叶わぬなら、もう殺すしかあるまい。あれほどの実力なら、恐らく来年の九校戦にも出場する筈だ。ならば早々に芽を摘んでおいた方が良い」

 

「しかし、十七号だけで大丈夫か? あのガキは魔法だけでなく、かなり腕が立つぞ」

 

「問題無いだろう。武器は持ち込めなかったが、十七号は高速型だ。リミッターを外して奇襲を仕掛ければ、いくら兵藤隆誠でも只では済まない筈だ」

 

「異議はないな……? では、リミッターを解除し、兵藤隆誠の抹殺を最優先とする」




原作と違って、ジェネレーターがリューセーの命を狙う事になりました。

感想お待ちしています。

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