再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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九校戦編 決行前

 修哉と紫苑に一旦席を外す事を言った後、俺が移動を開始すると、無表情の男も立ち上がって動き出した。

 

 観客席の出入り口を通ってツカツカと歩行中に、誰かが俺の後を追っている。と言うより、少々早足で此方に近付いてきてると言った方が正しいか。

 

 俺が丁度角に曲がって向こうの視界が消えた途端、無表情の男は即座に走り出して曲がり、無防備に晒している俺の背中へ凶器と化した腕を振り下ろす。

 

「はい、一名様ご案内っと」

 

 餌に食い付いたと笑みを浮かべた俺はパチンッと指を鳴らした。その瞬間、俺と無表情の男は忽然と姿を消す。以前に使った転移術だ。

 

 因みに後を追っていた別の男もいたが、俺達が角を曲がって視界に入らなくなった為、転移術を使ったところは当然見えていない。今頃はどこに消えたと思いながら周囲を探しているだろう。

 

 

 

 

「さて、俺に何か御用かな?」

 

「……………」

 

 転移術を使って、現れた場所は会場外の裏側。

 

 此処には俺と対峙してる無表情の男だけしかいなく、それ以外の人は誰もいない。

 

 改めて問いかけるも、向こうは未だに無言だった。まるで喋れないと言うような感じがする。

 

 この男について分からないが、能力(ちから)を使って分析した際、非常に危険であると判明した。明らかに呪術と思わしき物が施されていたので。

 

 すると、無表情の男は突如再び俺に襲い掛かって来た。

 

「問答無用、か」

 

 低い姿勢で突進してくる無表情の男は、両手を使って攻撃を仕掛けようとする。

 

 交錯する寸前、俺はキッと強く睨んだ瞬間、相手が突然吹っ飛んで元の位置へ叩きつけられた。

 

 使ったのは勿論『遠当て』だ。今まで加減していたが、今回は少々強めにした。相手が普通の人間じゃないという事が既に分かっているから。

 

 これを普通の人間に当ててしまえば、身体の骨が確実に折れるほどの威力で、そう簡単に立ち上がる事も出来ない。いくら相手が魔法師であっても、な。

 

「思った通りだな」

 

 だが、その予想を裏切る様に、遠当てを喰らった無表情の男はムクリと立ち上がる。

 

 サングラスが外れて両目が晒されると、如何にも忌々しいと言うように俺を睨んでいた。普通なら声に出している筈なのに、敢えて表情で表すとは。

 

「お前が普通の人間じゃないのは分かっていた。さっきの遠当てを受けても平然としてるって事は、ひょっとして強化人間か?」

 

「……………」

 

 俺が再び問いかけても、やはり無言だった。

 

 始めから会話する気が無い、もしくは本当に喋る事が出来ないか……恐らく後者だろう。強化を施す際、無駄な部分を省かせる為なのかは分からんが。

 

 まぁどちらにしろ、あの強化人間を操っている奴は碌な連中じゃない事は確かだ。

 

 ほんの一瞬だったが、コイツの身体能力は明らかに異常だった。魔法師以上のスピードで接近し、全力でないとは言え俺の攻撃を受けても平然としている。

 

 こんな危険な奴が先程まで、会場の中にいた事を考えるだけで本当に身震いする。もし俺以外の観客を狙っていたら、間違いなく大惨事になっていた筈だ。いずれにせよ、コイツは此処で捕えなければならない。

 

「答えられないなら、一瞬で終わらせてやる。覚悟しろ」

 

「!」

 

 そう言って俺は超スピードを使い、一瞬で無表情の男の懐に入り、即座に腹部目掛けて抉りこむようなパンチを繰り出した。

 

 相手は目を見開くも、まるで効かないと言わんばかりに両手を使って俺を絞め殺そうとする。だが、それは無理だった。

 

 必死に身体を動かそうとしているが、無表情の男は活動が停止するかのように、そのまま横に倒れていく。ピクピクと身体を震わせながら。

 

「如何に強化人間でも、流石に耐えきれないか」

 

 対象が倒れたのを確認した俺は、当然のように言い放った。

 

 拳で腹部の一撃を当てた際、同時に光のオーラを注ぎ込んでやった。それによって奴は動けなくなって倒れたのだ。

 

 これは嘗て俺の後輩悪魔――木場祐斗や、旧魔王派の一人――クルゼレイ・アスモデウスに使った。聖書の神(わたし)の光を注ぎ込まれた事で、対象の身体は途轍もない倦怠感に襲われて動けなくなる。悪魔にとっては最悪な毒も同然。

 

 勿論、悪魔だけでなく人間にも効果はある。見ての通り、強化人間と思われる無表情の男もこうして倒れており、今も全く動けずピクピクしているのがその証拠だ。

 

 この世界にいる人間にも聖書の神(わたし)の光が通用するのは、流石に少しばかり驚いた。もし大して通用しなかったら、光の鞭で拘束して電流を流すと言う、朱乃に教えた技を使うつもりでいたが。

 

 さて、取り敢えず捕らえはしたが……こんな危険な奴を俺が預かる訳にはいかない。出来れば別の誰かに引き渡したい。

 

 とは言え、俺が軍に通報したら、一体どうやってコイツを倒したと聴取されるのがオチだ。確実に面倒事になってしまう。

 

 そう考えると……忙しいところ申し訳ないが、またあのご老人に頼むしかないか。

 

 結論に辿り着いた俺は、懐から携帯端末を取り出して連絡する事にした。

 

 

 

 

「全く。まさか柳君ともあろう者が対象を見失うだなんて」

 

「うるさいぞ、真田」

 

 対象を追跡していた独立魔装大隊大尉・(やなぎ)(むらじ)の失態に、同隊大尉・(さな)()(しげ)()が皮肉を言うように詰っていた。

 

「藤林、俺が見失った位置での防犯カメラは捉えたか?」

 

「残念ながら、あそこには設置されていなかったみたいで、把握出来ませんでした」

 

 独立魔装大隊少尉・藤林(きょう)()の索敵結果を期待したが、予想外の結果となった事で柳は舌打ちをする。

 

 会場内を隈なく探したにも関わらず、一向に対象二人――兵藤隆誠と『ジェネレーター』が見付からない。一体どうやってあの場から姿を消したのかが、彼等には全く不可解だった。

 

「会場の外にある防犯カメラは?」

 

「念の為に確認しましたが、やはりいませんでした」

 

 因みに外に隆誠とジェネレーターがつい先ほどまでいた。しかし、そこは隆誠が現代魔法でない能力(ちから)を使った事により視認出来なくしている。

 

 高度なハッキングスキルを持っている藤林でも、流石に未知の物に対する解析は出来なかったようだ。

 

「一体どういう事なんだ? 兵藤隆誠だけでなく、強化人間(ジェネレーター)までも消えるだなんてあり得ないぞ」

 

「まさかとは思うけど、テレポーテーションでも使って会場からいなくなったんじゃないかな?」

 

「……真田、つまらん冗談はやめろ」

 

 真田の推測に柳は間がありながらも切り捨てるように言い放った。

 

 テレポーテーション、またの名を瞬間移動。それは空間を飛び越えるもので、物理的に侵入不可能な場所へ移動する事が出来る。

 

 しかし、一世紀経った現在の現代魔法でも未だ実現出来ていない。辛うじてと言う訳ではないが、『疑似瞬間移動』と言う系統魔法がある。隆誠が使う転移術と違って欠点だらけな魔法であろうと、充分に瞬間移動として成り立っている。

 

 柳がつまらん冗談と言ったのは、余りにも非現実的であったからだ。

 

「ですが柳大尉、彼等が会場のどこにもいないのを考えると……」

 

「俺達がどこかで見落としたかもしれん。とにかくもう一度探して――」

 

 再度捜索をしようと柳が言ってる最中に、藤林が所持してる携帯端末から着信音が鳴った。

 

 彼女はすぐに取り出すと、電話してきたのが独立魔装大隊隊長・(かざ)()(はる)(のぶ)少佐だと分かり、すぐさま電話に出ようとする。

 

「はい、藤林です。ええ、はい。お二人は此処に……えっ!?」

 

「「?」」

 

 急に驚いた反応を示す藤林を見た柳と真田は何事かと訝しむ。

 

 一通りの話を終えて電話を切った彼女はこう言った。

 

「お二人とも、風間少佐より今すぐ対象の捜索を打ち切って、即撤収せよとの指示が出されました」

 

「どう言う事だ?」

 

「まだ対象を捜していないのに、何故風間少佐はそんな指示を出したんだい?」

 

 丸っきり意味が分からないと尋ねる二人だが――

 

「対象の『ジェネレーター』が拘束されたそうです。九島閣下直属の部下によって」

 

「「!?」」

 

 予想外の返答が来た事で困惑するのであった。

 

 

 

 

「お忙しい中、またしてもお手を患ってしまって申し訳ありませんでした」

 

『いやいや、寧ろ私が礼を言いたい位だ。何から何まで助かったよ、兵藤君』

 

 動けなくなった強化人間を九島の手の者に引き渡した後、連絡した老人――九島烈は俺に感謝の言葉を述べていた。

 

 俺が拘束した経緯について一切詮索しない他、周囲にも他言無用にして欲しいと頼んでみると、向こうはお安い御用だと言って了承してくれた。余りにも呆気無い展開になった事で、思わず拍子抜けした程だ。

 

 てっきり九島から何かしらの要求を提示されるかと思っていたが、会場が強化人間によって大惨事が起きなかっただけで充分だそうだ。加えて、学生の俺が捕らえたと周囲に知られたら、軍としてのメンツに色々関わってしまうらしい。

 

『君が捕らえた者についてだが、後はこちらの方で全て任せてくれたまえ。敢えて言うなら、その者についての素性等は知らない方が良い。学生の君が首を突っ込んで良いものじゃないからね』

 

「……分かりました。なら今回の件について俺は偶々運悪く巻き込まれた学生、と言う事にします」

 

『そうしてくれると助かる』

 

 ついでに九島からこうも言われた。もし俺を追跡していたと思われる軍人に訊ねられた場合、一切何も知らないと押し通して欲しいそうだ。それでもしつこく問い詰められた場合、九島烈の名前を出しても構わないと。

 

 彼からのアドバイスを俺は素直に聞き入れた後に電話を切り、未だ会場にいるであろう修哉と紫苑の元へと向かう事にした。

 

 その途中、俺はあの二体に連絡をする。

 

 ――レイ、ディーネ、聞こえるか?

 

 ――はいなの、ご主人様!

 

 ――聞こえ、ます。主、如何(いかが)、なさいましたか?

 

 俺からの念話に元気のいい返事をするレイ、普段通りの返事をするディーネ。

 

 ――あと数時間したら、俺はディーネを操っていた連中の所へ行く予定だが、お前達も来るか?

 

 ――勿論なの!

 

 ――是非とも、同行させて、下さい!

 

 レイはともかく、ディーネから凄く気合の入った返事が返って来た。

 

 まぁそれだけ無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)に恨みがあるからそうなるのは当然かもしれない。

 

 ――分かった。なら後でまた連絡する。それまでに準備を済ませておけ。ついでに今も眠らせている古式魔法師を連れて行く。

 

 ――了解なの!

 

 ――分かり、ました。

 

 あ、そうだ。もしかすれば連中に姿を見せる事も考えて、服を用意しておかないと。と言っても、聖書の神(わたし)のオーラで作った仮初の服だが。

 

 多分嫌がるかもしれないが、『着ないと同行を認めない』と警告しておけば大丈夫だろう。




独立魔装大隊の方達が無能みたいな展開になってますが、決してそんな事はありません。

次回はリューセーが神造精霊二体を連れて、無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)の元へ向かいます。

感想お待ちしています。

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