再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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今回は短いです。


九校戦編 後処理

 2095年8月12日/大会十日目

 

 

 九校戦十日目、本戦五日目。

 

 九校戦も最終日を迎えた。本日の競技は本戦モノリス・コードの一種類のみ。

 

 無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)を壊滅させた事により、もう何の心配もなく観戦に集中する事が出来る。

 

 けど観戦前に、俺は昨晩世話になった者の部屋へ向かう事になっている。

 

 修哉と紫苑と一緒に朝食を済ませ、呼び出しを受けてるからと二人に伝えて一旦別れた。

 

 

 

 

「初めてだよ。この私をここまで驚かせた若者は」

 

「恐縮です」

 

 いつものVIPルームかと思いきや、今回は九島の部屋。

 

 昨晩の件をあそこで話すのは少々不味いと言う理由で場所を変えていた。

 

 学生の俺達が使っている部屋と違い、かなり重厚感のあるロイヤルスイートルームだ。

 

 一人で使うには勿体ない広さだと思いながらも、九島が前以て用意していた紅茶を頂いている。

 

 如何でも良いけど、九島の台詞は聞いた事のある名言だった。どこのフリーズだよとツッコミたい衝動を何とか抑えるのに一苦労だったのは内緒だ。

 

「この度は、一介の学生である自分の私事で閣下に度重なるご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

 

「謝る必要はないと言った筈だが」

 

「これは俺なりのけじめです」

 

 必要無いと言い返す九島だが、俺はそれでも頭を下げていた。

 

 昨日あった出来事は、表沙汰に出来ない程の内容ばかりで、九校戦全体に大きく影響していた。もしも九島に手を打ってもらわなければ、確実に大騒ぎになってもおかしくない。

 

 連絡先を知っているとは言え、十師族でも百家でもない俺が、十師族の長老である九島に何度も頼むこと自体あり得ない。端から見れば無礼極まりない行為だ。

 

「……分かった。そう言う事にしておこう」

 

 梃子でも動かぬ態度を見た九島は、少々呆れるように言いながらも、俺の謝罪を受け取り締め括った。

 

 九島が話題を変えたかったのか、昨夜についての話を始めようとする。

 

「まさか君に、あれほど腕の立つ知り合いがいるとは思いもしなかったよ。『白般若』と言う若者は、君の師なのかね?」

 

「閣下、彼から『一切詮索するな』と昨日釘を刺された筈ですよね?」

 

「おっと、そうだったな」

 

 俺が少々睨みながら言うと、九島は思い出したかのような顔をした。明らかに態と言ったのが見え見えだ。

 

 昨夜の話になるが、『白般若』に扮したままの俺は九島に会って、奴等の機密情報をそっくりそのまま渡した。ついでに無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)の幹部共と古式魔法師は、指定の場所に置いてあるから引き取ってくれと言った。

 

 何故そんな事になったのかと言うと、アリバイ工作用として置いた分身の俺に結果報告をした後、向こうからいっそ全て九島に引き渡した方が良いと提案された。

 

 それを聞いて最初は難色を示すも、確かにそうした方が良いかもしれないと思った。奴等の機密情報は俺が持ってるより、軍の誰かに渡した方が良い。けれど白般若と言う正体不明の俺が渡したところで、軍から怪しまれるのがオチだ。故に分身の俺から提案に乗るかたちで、九島に渡そうと決意した。

 

 ホテルに戻って分身を回収しようする寸前、どうせなら『白般若』と俺を別人に仕立て上げた方が好都合だと考えた。その後、分身の俺に携帯端末を渡し、九島を呼び出した。『俺の知り合いから、指定場所に置いてある無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)幹部と古式魔法師を引き取って欲しい他、その機密情報を渡したいから受け取って欲しい』と。

 

 見事に食い付いた九島は何人か護衛を連れて指定場所へ向かい、分身の俺と『白般若』の俺と対面する。

 

 最初は白般若の俺を怪しんでいたが、捕らえた無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)幹部数名の名前、機密情報の一部を口頭で教えた途端、目の色が変わるかのように詳細を求められたが、咄嗟にある条件を出した。

 

『それ以上知りたければ、俺は勿論の事、そこにいる兵藤隆誠についての素性を一切詮索しない事だ』

 

 条件を提示した俺に九島の護衛達が『閣下に向かって無礼な!』と激高するも、彼等を制した九島は『良かろう』と言ってすんなり受け入れた。

 

 随分と物分かりが良過ぎる事に思わず疑問を抱いたが、向こうは兵藤隆誠(おれ)に対する信用がそれなりにあったみたいだ。それに加えて、前々から欲しかった無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)の機密情報を、その程度の条件で得られるなら喜んで受け入れるとの事だ。

 

 念の為に能力(ちから)を使って心の中を探るも、嘘じゃないのは確かだったので、白般若の俺は残りの機密情報である帳簿や資料を渡し、幹部共の居場所を教えて直ぐに超スピードを使って姿を消した。

 

 突然消えた事に九島の護衛達が追跡しようとするが――

 

『今は彼の事より、この機密情報の詳細確認、並びに無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)幹部達の確保が最優先だ』

 

 と言って、彼等はその命令に従った。

 

 そして指定場所に向かった護衛達は幹部達を確保し、今は軍の施設に囚われの身となっている。

 

「だけど私としては彼に少しばかり訊きたい事があるんだよ。報告によると、確保した幹部達は何やら悍ましい表情になっていたそうだが……奴等に一体何をやらかしたのかね?」

 

「さぁ、俺に訊かれても……」

 

 流石に『男好きの男達に尻を掘られまくったから』などと言えやしない。いくら九島でも、そんな情報は知りたくないだろう。

 

 結局分からないと言う事にした俺は、確認の意味も込めて問う。

 

「ところで、アイツが言っていた無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)と言う犯罪組織が、今回の九校戦にちょっかいを掛けた黒幕と見ていいのですね?」

 

「そう言う事だ。重ねて言うが、今回の事も他言無用だ」

 

「当然『ソーサリー・ブースター』とやらの事も、ですよね?」

 

「無論だとも」

 

 ソーサリー・ブースターと言った瞬間、九島が途轍もなく真剣な表情で言い放った。

 

 恐らく彼は知っているだろう。アレの中枢部品に魔法師の大脳が使われてる事に。

 

 魔法師を文字通りの部品にする事に、流石の九島でも嫌悪感を露わにしてもおかしくない。彼としては無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)の機密情報を入手し、製造と供給を止めたかったと思う。

 

「学生の君にこんな事は言いたくないが……もし誰かに口外すれば、君だけでなく君の家族にすら危険が及ぶ。そう心してくれ」

 

「分かっています」

 

 俺と九島は既にちょっとした一蓮托生になっている。と言っても、俺が一方的にそうしてしまったんだが。

 

 九校戦で注目されたとは言え、俺は未だに一介の学生だ。そんな学生が(変装した白般若の俺)知り合いを通じて九島に情報提供したと周囲に知れ渡れば、それを受け取った九島も只では済まない。

 

「ああ、そうだ。兵藤君、この後に私はチョッとした独り言を呟くから、聞き流してくれて構わんよ」

 

「?」

 

 突然、九島がそう言った事に俺は怪訝な表情を浮かべるも、彼は紅茶を飲みながらこう呟いた。

 

「昨日、魔法師を中心とした国防軍の特殊部隊――独立魔装大隊とやらが兵藤君の行動を疑問視してるようだ。ついでに私と何らかの繋がりがあるのではないかと昨夜問われたが、単なる偶然だと言っておいた。けれど、その隊長は未だに疑っているだろうから、今後は兵藤君の行動を注視する事になるだろう。それと噂では独立魔装大隊の中に、第一高校の司波達也君と似ている若者もいるそうだ。もし彼がその隊員であれば、君を探るような指令を出すかもしれないな」

 

「……………………」

 

 もしやこれは無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)の情報を提供してくれたお礼、と見るべきかな? 口外してはいけない筈の部隊名だけでなく、さり気なく司波の名前も出すとは、随分思い切った事をしたものだ。

 

 大体の予想はしていたが、やはり司波の奴は軍人だったか。道理で立ち振る舞いが一般人と全然違う訳だ。

 

 九島が何故そこまで知ってるのかは分からないが、軍関連の事は大抵把握しているんだろう。

 

 取り敢えず情報はありがたく受け取っておこうと思いながら、俺は再び紅茶を口にする。

 

「随分と長い独り言でしたが、もう終わりですか?」

 

「以上だ。このまま君とゆっくり茶飲み話に興じたいところだが――」

 

 すると、突如アラームらしき音がした。

 

 振り返った先には、置かれているテレビがONとなって本戦モノリス・コードが中継されている。けれど、今は試合していた第一高校の勝利が表示されていた。

 

「いつまでも君を老人の我儘で引き留める訳にもいかないからな。決勝くらいは観戦しにいくといい」

 

「分かりました。では閣下、失礼します」

 

「うむ」

 

 丁度紅茶を飲み終えた俺は、九島に一礼した後に部屋から退室した。

 

 

 

「あと少しか……」

 

 応援席に着き、俺は既に探知してる修哉と紫苑がいる場所へ向かっている。

 

 すると――

 

「お、隆誠殿ではないか!」

 

「沓子……」

 

 聞き覚えのある声がして振り向くと、三高の四十九院沓子と鉢合わせた。そして彼女の友人である一色愛梨と十七夜栞もいる。

 

 修哉と紫苑を意識する余り、この三人に気付かなかったか。沓子が声を掛けなければスルーしていただろう。

 

 そう思ってると、席を立った沓子が俺の腕に引っ付いてくる。

 

「何で君は俺を見たらすぐに――」

 

「折角じゃから、一緒に観戦しようではないか」

 

「――え? ちょ、ちょっと沓子……!?」

 

 言ってる最中に、沓子は人の話を全く無視するように俺を自分達が座ってる席の近くに座らせるのであった。

 

 本当なら断る事が出来る筈なのに、何故か沓子には甘いんだよなぁ。まるで孫の我儘を聞いてる気分だ。

 

「えっと……お二人さんは良いのかい?」

 

 他校生の俺と一緒に観戦するのに抵抗があるのか確認するも、向こうは全く気にしてない様子だ。

 

「貴方でしたら問題ありませんわ」

 

「兵藤君、愛梨はこう言ってるけど、実は貴方の事が結構気になってる」

 

「栞、誤解を招く言い方はしないで!」

 

 十七夜の台詞に一色が突っ込んでいた。

 

 何やら気になる台詞だが、取り敢えず問題はなさそうだ。

 

 結局俺は修哉と紫苑のいる席には向かわず、三高の沓子達と仲良く観戦するのであったとさ。

 

 ついでに、俺が有名な三高の一年美少女達と一緒にいる事で、周囲にいる男子達から怨嗟と嫉妬の籠った目で睨まられる破目になってしまったのは言うまでもない。




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