再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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完結状態ですが、コッソリとフライング更新しました。


夏休み編 金沢へ

 九校戦を終え、学生の俺達は残りの夏休みを満喫する事となる。

 

 魔法科高校の夏休みは八月末までとなっており、九校戦で潰されても半分以上残ってるから問題無い。

 

 けれど生憎、俺にとっての九校戦はまだ終わっていない。やらなければいけない大事な試合があるから。尤も、これは完全な非公式な試合だが。

 

 試合と言っても、九校戦会場の富士演習場でやらない。別の場所でやる予定だ。それは当然相手側も了承済。

 

 場所は石川県金沢市の外れにある第三高校。そこで俺は非公式の新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦を、十師族一条家の次期当主である一条将輝と戦う予定だ。

 

 

 

「は~るばる来たぜ、か~なざわ~♪」

 

「何だ、その歌は?」

 

「金沢にそんな歌あったの?」

 

 九校戦から数日後。

 

 キャビネットを利用した俺――兵藤隆誠は金沢駅に到着した瞬間、思わず歌ってしまった。一緒に同行してる友人の天城修哉と佐伯紫苑が不可解そうに尋ねてくる。

 

「ご、ごめん二人とも。今の無し。ついでにこれは金沢の歌じゃないから」

 

 少々恥ずかしくなった俺は謝りながら、全く違うと説明した。因みにさっきの歌は金沢でなく北海道にある函館に関する歌である。

 

 前世(むかし)の頃にいた北海道出身の某演歌歌手――北島五郎の函館を舞台にした古い演歌だ。この世界にそんな演歌歌手は存在してない為、修哉達が知らないのも無理はない。

 

 それと、修哉と紫苑が同行してるのは、俺を応援する為だった。と言っても、この二人が試合を観たいからと言う理由だが。

 

 九校戦が終わった後の予定を聞かれた際、出来なかったアイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦をやる為に金沢へ行くと口にした瞬間――

 

『え、マジか!? じゃあ俺も一緒に行く!』

 

『リューセー君の友人として、是非とも応援させてもらうわ!』

 

 と、即座に自分達も一緒に行くと言い出したのだ。

 

 これはあくまで俺の個人的な予定だから、友人達の大事な夏休みを潰す訳にはいかない理由で断ろうとした。

 

 だけど修哉と紫苑からすれば、あの決勝戦を観戦出来なかったのが非常に残念で、機会があれば観たいと思っていたようだ。だから二人からすれば願ってもない展開だったらしく、こうして俺と一緒に金沢へ同行したと言う訳である。

 

 ついでと片付けてはいけないが、今回の件に関して同級生の司波達は勿論の事、三巨頭の真由美達にも一切教えてない。これはあくまで俺の個人的な予定にすぎないから。後でバレたら真由美達に何か言われそうだが、その時はその時だ。

 

 しかし、俺が一条に持ちかけたとは言え、まさか三高を試合会場として用意するとは。いくらアイツが一条家の次期当主でも、学校を会場にする権限があるとは思いもしなかった。三高の最高責任者である校長も、完全に私事丸出しな野試合を認めるなんて恐れ入る。

 

 まぁ見方を変えると、此方が圧倒的に不利かもしれない。何しろ俺は敵地も同然の場所でやるんだ。応援に来てくれた修哉と紫苑からすれば、非常に気まずくなってしまうのだが、この二人からそんな不安は微塵も無かった。どんな場所でも俺の勝ちは揺るぎないと思ってるそうだ。

 

 まだ数ヵ月の付き合いだが、実に頼もしい友人達からの期待に応えるつもりだ。尤も、流石に本気を出して一瞬で終わらせるつもりはないが。

 

「ところでリューセー君、第三高校の場所は知ってるの?」

 

「いいや。でも一条の話だと、駅前に迎えを寄越すそうだ」

 

 話題を変えてくれた紫苑に感謝しながら、俺は思った事をそのまま口にした。

 

 場所を知らないとは言え、地図のアプリを見ながら行ける。それどころか、場所さえ特定すれば転移術で一気に到着する事だって可能だ。

 

 前者はともかく、後者は絶対にやってはいけない。この世界では一瞬で転移する魔法は未だ存在してない上に、もしやれば確実に面倒事が起きてしまう。修哉達なら教えても構わないが、第三者の目があるから不用意に使う訳にはいかない。

 

「なぁ、その迎えって、あそこにいる人じゃないか?」

 

 修哉が別の方向を見ながら指したので、俺と紫苑がその方向へ視線を向ける。

 

 そこには、明らかに此方を見ている壮年の男性が佇んでいた。短く刈り込んだ髪と整った顔立ちをしており、筋肉質に日に焼けた肌と、男臭い風貌をしている。

 

 俺と目が合った瞬間、そのまま此方へ近づき、そして話しかけてくる。

 

「失礼。君が兵藤隆誠君だね?」

 

「はい、そうですが……」

 

 男性からの確認に俺は素直に答えた。相手には何の悪意も感じられないから。

 

 けれど、この人から感じるオーラが一条と似ている。

 

 修哉と紫苑が訝しげに見ながらも、俺は代表して質問する。

 

「貴方が一条の言っていた迎えの人、ですか?」

 

「うむ。まぁ本当は私でなく息子の将輝が来る予定だったが、代わりに私が来たのだ」

 

「へぇ、それはそれは……え? 息子って……」

 

「おっと、自己紹介が遅れてしまったな」

 

 聞き捨てならない単語が入っていた事に気付いた俺は少しばかり目が点になってる中、男性は自己紹介をしようとする。

 

「初めまして、兵藤隆誠君。私は将輝の父親である(いち)(じょう)(ごう)()だ。九校戦では愚息が大変世話になった」

 

「い、一条剛毅って……!」

 

「十師族の一条家現当主!?」

 

 男性――一条剛毅の自己紹介を聞いた修哉と紫苑が仰天しながら後退りしていた。二人の叫びで周囲にいる一般人達がどよめき始めている。

 

 二人の反応は当然と言えよう。まさか迎えで一条家現当主が来るなんて予想だにしなかったのだから。

 

 因みに俺は――

 

(う~ん、まさか父親が来るとはなぁ)

 

 多少驚いてはいても、二人のような反応を示していない。ただ少しだけ気まずい思いをしている。

 

 何しろ俺は九校戦の新人戦モノリス・コード決勝で、次期当主である息子の一条将輝を倒したのだ。息子の敗北に父親が何とも思わない筈がない。それが十師族であるなら猶更に。

 

「では、早速向かうとしようか」

 

 そんな考えを余所に、一条剛毅はすぐに俺達を連れて、用意していた車に乗せるのであった。

 

 

 

 

 

 

「まさか、一条家の御当主が自ら案内役をするとは思いませんでしたよ」

 

「君とは一度話したいと思っていたからな」

 

 俺達が車に乗った後、一条剛毅は自ら運転をして第三高校へ向かっていた。

 

 席順としては俺が助手席で、後部座席には修哉と紫苑が座っている。その二人は一条家現当主が直々に運転してるから、凄くガチガチに緊張していた。その気持ちは分からなくもない。

 

「あの、運転して大丈夫なんですか? こう言うのは普通、護衛の人がするべきじゃ……」

 

「生憎と今の私は休暇中の身でな。護衛は連れていない」

 

「休暇中、ですか」

 

 だとしても、十師族の一人である以上は休暇を取ってても、必要最低限の護衛は必要だと思うんだが。

 

 まぁ本人がこう言ってる以上、俺が口を挟む事じゃないから、取り敢えず向こうに合わせるとしよう。

 

「して、自分と話したいと仰っていましたが、ご子息を負かした事での抗議でしょうか?」

 

 次期当主とは言え、一条将輝を倒した事で、俺は十師族から睨まれる事となってしまった。

 

 前に十文字が俺に警告をしたのがその証拠である。当然、現当主である一条剛毅も色々言いたい事があるのは至極当然の流れだ。恐らく案内役を口実にしたのだろう。

 

「まさか。確かに十師族の立場上としてはそうしなければならないだろうな。だが私としては、高校生の競技に口出しをする気などない」

 

「え?」

 

 あっさりと言う一条剛毅に俺は思わず目が点になってしまう。

 

「寧ろ君に礼を言いたい位だ。ここ最近の将輝は少々天狗になっていてな。十師族に連なる立場上として、敗北を許されない身であるのは充分理解している。だがウチの将輝は次期当主とは言え、まだまだ遊びたい盛りの高校生だ。父親の私としては、息子に様々な経験を積んで成長して欲しいと願っている」

 

 一条剛毅は十師族としてでなく、父親としての考え方を持っているようだ。他はどうか分からないが、俺としては大変好感が持てる。

 

 どうやらアイツの真っ直ぐな性格は父親譲りのようだ。それと大変失礼だけど、容姿に関しては母親譲りだろう。外見が全く似ていないから。

 

「君の御父上も、そう願っているのではないかね?」

 

「生憎と、俺の父は一番下の妹が生まれてすぐ、事故で他界してます」

 

「「!」」

 

「……そうだったのか。知らなかったとは言え、大変すまなかった」

 

 失言だったと一条剛毅は運転しながらも謝罪した。後ろに座ってる修哉と紫苑が驚きの声を出しているが、敢えて気にしないでいる。

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

 弟のセージと妹のセーラは亡くなった父親の事は全然知らない。今も長男の俺が父親代わりとなっている。

 

 それ故か、あの二人は自分を父親みたいに慕っている。言っておくが嘘じゃない。

 

 現に俺が九校戦が終わって家に帰り、玄関に入った瞬間――

 

『兄ちゃ~~~ん!!』

 

『にぃに~~~!』

 

 と、泣きじゃくった顔をしたセージとセーラが凄い勢いで飛びついて来たのだ。突然の不意打ちに受け止めるのが大変だった。

 

 俺が十日以上も家から戻ってこない事で、セージとセーラは泣く事があったと母さんが言っていた。二人曰く、凄く寂しかったらしい。

 

 もうそれから先はずっと俺から離れず、一緒に風呂に入り、そして一緒に寝る事となったのだ。まぁ全然嫌じゃなかったけどね。

 

 今日も出掛けると知った際、セージとセーラが揃って『行く!』と駄々を捏ねていた。流石にそれは不味いと思い、俺が咄嗟に遊園地に連れて行く約束を取り付け、二人を抑える事が出来て今に至る。

 

「お? あれが第三高校ですか?」

 

「う、うむ」

 

 話題を変える為に、少し先にある建物を言い当てると、申し訳ない表情をしてる一条剛毅が反応して頷いた。その後からは軽い世間話をしながら三高へ向かっていく。

 

 

 

 

 校門前に辿り着くと、何と一条将輝と吉祥寺真紅郎がいた。車から降りた途端に俺をジッと凝視する。

 

「待っていたぞ、兵藤隆誠」

 

「どうも、一条将輝」

 

 相変わらず闘志を剥き出しにしているな。まぁ、それだけ勝負を楽しみにしていたんだろう。

 

 けど俺はともかく、一緒にいる修哉と紫苑が少々狼狽している様子だ。

 

「こら将輝、まだ試合前なのに何をしている。兵藤君や彼の御友人に失礼ではないか」

 

「お、親父……」

 

 車から出た一条剛毅が窘める為の指摘をした途端、一条将輝は先程まで剥き出しとなっていた闘志が嘘のように萎んでいく。

 

 ハハハ~クリムゾン・プリンスと言う異名を持った奴でも、父親には勝てないみたいだ。

 

「だから言ったじゃないか、将輝。普通に挨拶するようにって……」

 

 彼の隣にいる吉祥寺が呆れて、額に手を当てながら呟いていた。

 

「申し訳ない。私の愚息が突然失礼な事をしてしまって」

 

「大丈夫ですよ。気にしてませんから」

 

「お、俺もです……」

 

「わ、私も……あはは」

 

 一条剛毅からの謝罪に笑って流す俺に、未だに緊張が解けない修哉と紫苑も気にしてないと言い返した。

 

「将輝、私は車を駐車場に停めて来る。お前は彼等を会場へ案内するように」

 

「言われなくても分かってるよ」

 

 父親の発言に少々煩わしいように言い返す一条将輝。

 

 そして一条剛毅は再び車に乗って運転し、校内にある駐車場へ向かっていく。

 

「しっかしまぁ、まさか一条の現当主が案内役をするなんてビックリしたぞ」

 

「親父に事情を説明したら、自分がやるって言い出してな」

 

「成程。だから俺にあんな話をしたって訳か」

 

「おい待て、兵藤。ここへ来るまでの間、親父と一体何を話していたんだ?」

 

 俺が意味深な事を言った所為か、一条が即座に問い詰めようとする。

 

「そんな事より、早く案内してくれないか?」

 

「将輝、気になるのは分からなくもないけど、今は彼の言う通り案内しよう。でないと小父さんが怒るよ?」

 

「……付いてこい」

 

 吉祥寺のフォローによって、一条は不本意ながらも渋々と俺達を三高の案内を始めようとする。




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