再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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今回は九校戦後夜祭の話です。


夏休み編 一条将輝との交渉

 九校戦後夜祭まで少し遡る。

 

 

 

 

「えっと、一条は……」

 

 十文字との話を終えた俺は、再び会場に戻った。

 

 今も変わらず中央には魔法科高校の生徒達がダンスを繰り広げており、恋に発展するかしないかの瀬戸際となっている。

 

 俺が歩いてる事に、またしても他校の女子達から踊って欲しいと誘われるも、適当な理由で断り続けていた。でないと真由美辺りから再び苦言を呈されそうな気がするから。

 

 如何でも良い事だが、司波が会場にいなかった。一条と踊っていた筈の司波妹も含めて。

 

 気になった俺は二人のオーラを探ってみたところ、何故か庭にいた。オーラの動きからして、ダンスをしてるようだ。恐らく兄妹水入らずの時間を作ろうと、庭で踊っているんだろう。ま、俺には関係の無い事だから放っておくとする。

 

 他校女子達からのお誘いを断りながら歩いていると、思った以上簡単に対象――一条将輝を見付ける事が出来た。

 

 今はダンスをしてないが、上級生らしきお姉さま方から引っ張りダコとなっている。しかもかなりの人数だ。全員踊り切るのは無理だと思うほどに。

 

 その一条も何度も踊っていたのか、少々へばり気味な様子。試合中に見せた闘志溢れる姿とは全然違う。

 

 気になっていたと思われる司波妹と踊れて満足した矢先、他の女子達から何度も誘われたら、流石の一条も参るのは当然か。

 

 彼女達には申し訳ないが、俺としてはそろそろアイツと話したいので、ここいらで助け舟を出すとしよう。

 

「ちょっと失礼、一条将輝」

 

「むっ、兵藤隆誠か」

 

 声を掛けた瞬間、先程まで参っていた筈の一条が俺を見た途端に表情が変わった。モノリス・コードで負けた事を思い出したんだろう。

 

 それと同時に、一条にダンスを申し入れようとしていた上級生の女子達数名が、警戒するように見ていた。三高の生徒だから当然である。

 

「そう邪険にするなって。まぁ、俺に負けたからそうなるのは仕方ない、か」

 

「!」

 

 おっといかん。もう九校戦は終わった筈なのに、思わず挑発染みた事を言ってしまった。

 

 俺が余計な事を言った所為で、一条が不快そうに俺を見ている。

 

「すまん、今のは俺が悪かった。謝るよ」

 

「……別に良い。負けたのは事実だからな」

 

 おや? 意外と潔いな。

 

 十師族って結構プライド高そうだから、てっきり負け惜しみ染みた事を言うと思っていた。

 

 どうやら一条は負けは負けだと認めているようだ。実に良い事だと感心してしまう。

 

 聖書の神(わたし)の上から目線になってしまうが、人は敗北を受け入れる事で更に強くなり成長する。逆にそれが出来ない奴は一生そのままで終わってしまう。それが人間と言う生き物だ。

 

「それで、俺に一体何の用だ?」

 

「チョッと話したい事があってな」

 

 そう返答した後、俺は次に一条と踊りたがってる女性達に向かってこう言った。

 

「淑女の皆様には申し訳ありませんが、少しの間だけ一条を借りさせてもらいます。どうしても男同士で話さなければいけない大事な内容ですので」

 

『!?』

 

 一条と踊りたがってる女子達が何を勘違いしてるのか、妙に興奮気味となっていた。しかもゴクリと唾を飲みながら。

 

 もしかしてこの女子達、実は『腐女子』ではないだろうか。前世(むかし)の学生時代にいた、少々思考が可笑しかった女子生徒達と似ている。

 

 それを知らない一条は向こうの反応を見て訳が分からない表情だ。知らない方が良い事もある。

 

 取り敢えず許可を貰った俺は一条を人がいない場所まで連れて行こうとするも、話が気になるのか、女子数名が後をつけている。

 

 完全に誤解してると思った俺は、場所を会場から庭に移す事にした。途中で吉祥寺が此方に気付いていたが、敢えて無視させてもらう。

 

 庭の隅に移動した後、すぐに遮音障壁を展開する俺に、一条が途端に訝る。

 

 因みに俺が使った遮音障壁は、真由美や十文字の魔法を真似た聖書の神(わたし)能力(ちから)である。

 

「どう言うつもりだ? 俺をこんな場所に連れて来ただけでなく、遮音障壁まで展開するなんて」

 

「それだけ大事な話なんだよ」

 

 俺が使った遮音障壁に一条は何の疑問も抱いてないようだ。それは此方として大変好都合だから、敢えて何も言わない。

 

 取り敢えず本題に入るとしよう。

 

「一条、俺がお前と試合する予定だったピラーズ・ブレイク決勝についてなんだが……アレには裏があるんだ」

 

「!」

 

 あの時の事を思い出したのか、一条が途端に表情を顰めていた。俺が棄権した事で優勝したと言う不本意な結果を思い出したんだろう。

 

「裏だと? 一体どういう事なんだ?」

 

「実は箝口令を敷かれてて、今までお前に本当の事が言えなかったんだ。九島閣下直々の箝口令で、な」

 

「九島閣下が!?」

 

 俺の口から予想外の人物が出てきた為、一条は驚愕を露わにしていた。

 

「ま、まさか兵藤、あの時に九島閣下と話していたのは……!」

 

「ああ。お前に話してもいいかと許可を貰ったんだよ。ついでにこの九校戦を通じて、閣下とはチョッとした御縁も出来た」

 

「御縁って……」

 

 開いた口が塞がらないように唖然としている一条。

 

 そりゃそうだろう。いくら自分を負かしたとは言え、十師族でもない一般人の俺が九島烈と言う超大物と繋がりを得たなんて、普通に考えてあり得ないのだから。

 

「断っておくが、俺は閣下を通じて十師族になろうだなんて微塵も思ってない。それどころか興味も無い。御縁と言っても、単に年が離れた茶飲み友達みたいなものだ」

 

「いや、それはそれで充分に凄いんだが……」

 

 まるで俺が怖いもの知らずみたいな事を言ってくる一条だが、敢えて気にしないでおくことにする。

 

「まぁそんな事より話を戻すぞ。俺がピラーズ・ブレイク決勝で棄権した理由だが――」

 

 俺は一条に話した。無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)についての内容を省きながら。

 

 そして――

 

「……嘘だろ? 公平な立場でなければならない筈の大会委員会が、そんな事をしてたなんて……!」

 

 一条は、まるで裏切られたかのようにショックを受けている表情をしていた。

 

 正々堂々を重んじ、不正を嫌うコイツとしては断じて許せないだろう。向こうの勝手な都合で、俺達の決勝を台無しにしたのだから。

 

「残念ながら事実だ。それと一高側で起きた今までの事故も全部ソレに関係してる」

 

 因みに司波妹もそれに巻き込まれかけたのだが、敢えて言わないでおくことにした。

 

 今の一条の心情を考えると、教えたら大会委員会を訴えるかもしれない。惚れた女の為ならと、一条家の権限を使いそうな気がするから。

 

「此処からは俺にも分からないが、どうやら今回の九校戦には何処かの犯罪組織も関係してたみたいだぞ」

 

「な、に……?」

 

 またしても意外な事実を知った事に、一条はまたしても言葉を失った。

 

「明日以降に九島閣下が、師族会議を通じて十師族の現当主達に通達するってさ。詳しい事はお前の所の当主から聞いてくれ」

 

 九島から詳細を言わないよう釘を刺されている為、俺が言えるのはここまでだった。無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)は一般人が知ってはいけない機密情報を持っているから、十師族でない一般学生の俺が口外しては不味いと言う理由で。

 

 その為、目の前の一条には現当主である一条剛毅から聞いてもらうしかない。内容が内容だけに、向こうがどこまで息子に話すかは分からないが。

 

「ここまで何か質問はあるか?」

 

「……俺にそれを話したと言う事は、七草家や十文字家は既に知ってるのか?」

 

「知ってる。と言うか、その二人は俺と同じ一高で当事者だからな」

 

「つまり九校戦に関わった十師族の中で、俺だけが知らなかったと言う訳か……!」

 

 魔法師の頂点である十師族の一員でありながら、蚊帳の外にされていた事に身体を震わせる一条。

 

 そうなる気持ちは分からなくもない。だが、九島から箝口令を敷かれた以上話す訳にはいかなかった。コイツもそれくらいは理解してる筈だ。

 

「だから俺がこうしてお前に話そうとした訳だ。因みに大会委員会が犯罪組織と関係していた事は、七草会長や十文字会頭も知らないぞ。これは本当だ」

 

「ふんっ。フォローのつもりなら余計なお世話だ」

 

 一条がさっきまでと違い、段々不貞腐れてきた。

 

 俺に色々言いたい事はあっても、事情が事情故に何も言えないから、反抗的な態度を取っているんだろう。分かり易い奴だ。

 

「まぁそう不貞腐れるな。ここから先は、俺とお前だけしか知らない話をするつもりだ」

 

「何?」

 

 さっきまで不貞腐れていた一条だったが、気になる話だったのか聞く姿勢となる。

 

 本当に分かり易い奴だなと内心思いながらも、俺は敢えて気にせず話した。

 

「一条。俺もお前と同様、ピラーズ・ブレイク決勝が出来なかったのは、今も非常に残念な気持ちだ。けれど大会が終わってしまった以上、もう再開する事は出来ない。だから俺はお前にある事を提案しようと思っている」

 

「何の提案だ?」

 

 俺が言ってる最中に一条はもう既に気付いただろうが、敢えて口にせず訊ねた。

 

「お互いの不満を解消する為に、どこか別の場所でやらないか? 新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦を」

 

「……ほう」

 

 提案を聞いた一条は段々と好戦的な笑みを浮かべてきた。さっきまでとえらい違いだ。

 

「とは言っても、これはあくまで俺とお前だけの完全非公式な試合だ。尤も、一条がNOと返事をした瞬間、この話は無かった事になる」

 

 今は試合する場所や日時も全く決まっていない。

 

 日時は良いとしても、問題は場所だ。こればかりは簡単に決める事が出来ない。

 

 知っての通り、アイス・ピラーズ・ブレイクは氷柱を破壊する競技。だから互いに十二本、計二十四本の氷柱を設置出来る場所でやらなければいけなかった。

 

 俺が用意しようにも、一般人である俺が広い会場を用意するのは無理だ。それを可能とするのは、十師族の一員である一条にしか頼めない。それ故、試合をするには一条の方で粗方の面倒事を引き受けなければならない前提となっている。

 

 それは当然、一条も理解している。だからコイツがNOと言えば、俺は諦めざるを得ない。

 

「どうする? 後はお前の返答次第となるんだが」

 

「……………」

 

 どちらでも構わないみたいな言い方をする俺が手を差し出す。

 

 それを見た一条は無言だったが――

 

「良いだろう。その提案に乗ってやる」

 

 一条はガシッと俺の手を掴み、力強く握手しながら承諾してくれた。

 

 第一の交渉成立した俺達は互いに手を放す。

 

「会場の方は俺が用意しておく。日時も俺が決めるが構わないか?」

 

「勿論。そちらの予定に合わせるよ」

 

 一番面倒な会場の手配をしてもらえるなら、俺は受け入れるしかない。どんな不都合な予定だったとしても、一条との試合を最優先するつもりだ。

 

「日時はともかく、会場についてはどうする気だ?」

 

「もう決めてる。場所は第三高校だ」

 

「第三高校って……それ大丈夫なのか?」

 

 学校を会場にするのは、結構難しい筈だ。

 

 加えて今回は非公式な試合だから、向こうの校長が簡単に首を縦に振るとは到底思えないんだが。

 

「問題無い。三高(ウチ)の校長なら、すぐにOKを出してくれる筈だ」

 

「なら良いけど」

 

 向こうの事情を深く尋ねる気が無い俺は、問題無く提供出来るなら渡りに船だ。

 

 まさかここまで自分が望んだ展開になっていくとは思いもしなかった。

 

 まぁそれだけ、一条の名は伊達じゃないって事か。流石は十師族。

 

「日時については、明日以降に連絡する。だからお前のナンバーを教えてくれないか?」

 

「いいぞ。なんか番号を教えるって、友人になった気分だな」

 

「勘違いするな。あくまでお前に日時の連絡をするだけだ」

 

 どこのツンデレキャラだよ。ってか、男のツンデレって需要あるのか?

 

 ま、会場にいた『婦女子』共からすれば、かなり嬉しいんだろうが。

 

 そんな非常に如何でも良い事を考えながら、俺と一条は互いに持っている携帯端末のナンバーを交換した。

 

 一通りの話を終えた俺達が会場に戻ると――

 

「ねぇねぇリューセーくん、他校の一条くんと二人っきりで何を話してたのかしら?」

 

「あのさぁ、一条君。さっき三高(ウチ)の女子達が、おかしな事を言ってたんだよね。怪しい事じゃなければ、正直に話して欲しいんだけど」

 

「「………………………」」

 

 何故か興奮気味になって訊こうとする真由美と、妙に頬を引き攣らせてる三高の生徒会長が揃って俺達に真意を尋ねようとしていた。

 

 訳の分からない誤解をされた事に俺と一条は無言になるも、一先ず誤解を解く事にしたのであった。




更新する順番が逆じゃないか? と言うツッコミは無しで。

感想お待ちしています。

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