再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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夏休み編 三高へ

 って言う事を後夜祭で一条と話したが、まさか本当に三高を会場にするとは。俺と一条の私事同然の試合だと言うのに。

 

 数日前にあった話を思い出しながら、一条と吉祥寺の案内で俺は友人達と一緒に第三高校の敷地に足を踏み入れていた。

 

 同じ魔法科高校でもやはり違うようだ。一高は真っ白な建物を基調としてるが、三高はレンガ造りみたいな建物だ。どちらも貫録がある雰囲気の為、比較しようにも甲乙つけがたい。

 

「やっぱり一高とは違うなぁ~」

 

「こういう雰囲気も中々良いわね」

 

 俺とは別に、修哉と紫苑は物珍しそうに周囲を見回していた。一高と違う造りだから、そうなるのは当然の反応だ。案内役の一条と吉祥寺が苦笑している。

 

 その途中、一条達以外の三高生徒が物珍しそうに此方を見ているのがチラホラいた。三高じゃない他校の生徒が校内にいれば、珍しそうに見るのは必然と言えよう。

 

 けれど、妙に生徒の数が多いような気がする。魔法科高校の夏休みは統一されている為、今も夏休み期間の筈だ。クラブ活動で来てる生徒かもしれないが、それでもやっぱり多い。

 

「なぁ、一条」

 

「何だ?」

 

 俺が声を掛けると、案内してる一条が歩きながらも振り向く。

 

「何か一高の俺達を見てる生徒の数が随分多くないか?」

 

「俺とお前の試合を観る為に来てるんだよ」

 

「………は?」

 

 予想外の返答が返って来た事に、俺は思わず唖然となった。

 

 ちょっと待て。今回は非公式試合だぞ。なのに何で他の三高生徒達に知れ渡ってるんだよ。

 

三高(ウチ)の校長に会場を貸してくれと頼んだ際、即了承してくれたのは良いんだが……俺と兵藤の試合を、『第三高校限定の臨時企画にする』と言ってな。それを通達した結果、こうして殆どの生徒達が集まってるって訳だ」

 

「臨時企画って……」

 

 三高の校長は凄い事を考えたなぁ~。

 

 まさか私事同然の非公式試合を第三高校限定イベントにしてしまうとは……思わず尊敬してしまいそうだ。その決断力と行動力に対して。

 

 ん? 待てよ。第三高校の生徒達が集まってるって事は――

 

「隆誠殿!」

 

 考え事をしてる最中、聞き覚えのある声がした途端、俺の片腕に引っ付いてきた。

 

「久しぶりじゃの! といっても、ほんの数日振りじゃが」

 

「やっぱり君もいたか」

 

 いつの間にか懐いてしまった四十九院沓子の登場により、思わず嘆息してしまう。

 

 一条や吉祥寺は『いつの間に!』みたいな反応をしている中、修哉と紫苑はあの時の事を思い出したのか『ははは……』と苦笑している。

 

「全く。殿方を見て早々に引っ付くなんて、淑女としてあるまじき行為だわ」

 

「沓子は少しばかり自重すべき」

 

 その後には彼女の友人である一色愛梨、十七夜栞も此方に来ている。

 

 因みに沓子が他校生の俺に引っ付いてる事で、滅茶苦茶目立ってしまっていた。

 

「兵藤、後夜祭の時に一色達と踊っていたのを見てたが……まさかお前、四十九院と……!」

 

「んな訳あるか」

 

 沓子は俺にとって単なる友人に過ぎない。そこはいくら一条でも誤解されると堪ったもんじゃない。

 

「え~~? わしは隆誠殿となら構わないんじゃがな~」

 

「せめて司波深雪さんみたいになってから出直してくれ」

 

「それは無理じゃろうがぁ!」

 

 お子様体型に興味無いと思われたのか、沓子は『ぐぬぬ……!』と俺を睨んでいた。それでも引っ付くのは止めていないが。

 

 すると、俺が出した名前に一条と一色がピクリと反応する。

 

 何か段々と騒がしくなってきた所為で、俺達が一層目立つ事になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ第三高校へお出でいただきました。私が当校の校長を務める、(まえ)()()(づる)と申します」

 

「第一高校一年、兵藤隆誠です」

 

 騒々しいやり取りから一変して、場所は校長室。

 

 会場を提供してくれた第三高校校長――前田千鶴に挨拶をする為に訪れていた。

 

 俺と前田の他に、一条親子も同席している。此処へ来る前、余りにも遅いと前田と剛毅(区分けの為に名前にしている)が直接足を運んできた。二人の登場に俺と将輝は不味いと、即座に謝って校長室へ来たと言う訳である。

 

 因みに修哉と紫苑は吉祥寺達の案内で別室に待機してる。今頃は他校生同士との会話に仲良く談話してるだろう。

 

「この度は、自分と一条将輝の私事のために会場を提供して頂き、誠にありがとうございます」

 

「気にしないで下さい。私としても個人的に、ピラーズ・ブレイク決勝を観れなかったのは非常に残念でしたから。それを此処でやってくれるのであれば、喜んで提供します」

 

 随分丁寧な上に、心が広い女性だ。

 

 学生の我儘同然なお願いを簡単に了承してくれるどころか、まさか観たがっていたとは。

 

 如何でも良いが将輝、自分の校長である前田を何故そんな信じられないような目で見てるんだ? 剛毅も何だか彼女を見て、口には出さずとも何か言いたげな目をしてるし。

 

 親子揃って何やってるんだと内心疑問を抱くも――

 

「とまあ、堅苦しい挨拶はここまでにして……今日はよろしく頼むぜ、兵藤君! 一条君から話を聞いて楽しみにしてたからな!」

 

 それはすぐに解消し理解した。前田がさっきまで猫を被った話し方であった事に。まるで別人になったんじゃないかと、獰猛な笑みを浮かべている。

 

 こうなる事を予想していたのか、剛毅は彼女の突然の変わりように嘆息している。

 

「前田先生、本校の生徒ならともかく、他校生の兵藤君にそんな話し方は如何かと」

 

「バカだな、剛毅。この子は他校生でも、同じ魔法科高校の生徒だ。教え子相手に区別を付ける事自体おかしいだろう。それとお前もそんな呼び方は止めろ。あたしとお前の仲だろう?」

 

 一条家現当主をバカ扱いの他、呼び捨てにする前田はあっけらかんと応えた。

 

「親父、前田校長と親しい間柄なのか?」

 

「……あくまで私の先輩だ」

 

 息子からの問いに父親は少し間がありながらも関係を教えた。何だか剛毅が学生時代、先輩の前田に凄く振り回されていたような気がする。

 

 意外な事実関係を知った事に、将輝だけでなく俺も少しばかり驚いている。

 

 今の立場が全く違えど、過去を振り返れば予想外な繋がりがあったとはこの事だ。

 

 一条親子のやり取りを如何でもいいように、前田は俺の方へを視線を向ける。

 

「それにしても凄いじゃないか、兵藤君。ピラーズ・ブレイクだけでなく、モノリス・コードであれ程の実力を持っていた事に驚いたぞ」

 

「は、はぁ、光栄です……」

 

「調べたところ、君は普通科に所属してるようだな。ああ、普通科とは一高で言う二科生の事を指してる。しかし君ほどの実力者が二科生とは、最近の一高の教師陣は目が曇っておるのではないか? こんな優秀な生徒を二科生にするなんて、正直どうかしてるとしか思えん。君ほどの実力者なら専科、向こうで言う一科生に入ってもおかしくないと言うのに」

 

「え、えっと……」

 

 物凄い勢いで喋りまくる前田に押し負けそうになってる俺は、何をどう言えば良いか返答に困っていた。

 

「兵藤君、一高に不満があるのなら、良かったら三高に来ないか? 君が了承すれば、転校手続きについては全て私の方で済ませるぞ」

 

「いや、それは流石に……!」

 

「千鶴先輩! いくら同じ魔法科高校の生徒とは言え、他校の生徒を引き抜く事はしないで下さい」

 

 これには流石の剛毅も黙って見過ごす訳にはいかなかったみたいで、割って入る様に前田を窘めた。

 

「彼が今日此処に来たのは、ピラーズ・ブレイクの試合をする為です。そこを履き違えないで頂きたい」

 

「分かってる分かってる。ついでに言ってみただけだ。ったく。学生時代の頃から今も変わらずクソ真面目な奴だな、剛毅は」

 

「自分をそうさせたのは貴女でしょうに」

 

「あ、あの~……」

 

 俺が剛毅に声を掛けると、彼はハッとして少々罰が悪そうな表情になるもこう言った。

 

「兵藤君、もう行っても構わないよ。試合に備えての準備をするといい。将輝、彼を連れてってくれ」

 

「あ、ああ、分かった……」

 

 矢継ぎ早に言う剛毅に将輝は取り敢えずみたいな感じで頷き、俺を連れて校長室から出る事となった。

 

「まさか、お前の父親と校長が学生時代の付き合いがあったなんて」 

 

「俺も驚きを通り越して、何をどう言えばいいか分からん……」

 

 十師族の一条家当主と第三高校の校長に意外な接点があった事に、将輝は混乱しているようだ。

 

 挨拶は終わったから、剛毅の言う通り試合前の準備をしたいが、念の為に確認しておくか。

 

「ところで一条、お前との試合は何時頃にやる予定なんだ?」

 

「一時間後だ。こうして三高まで足を運んだお前の休息も兼ねている」

 

「別にそんな疲れてはいないんだが」

 

 態々休息時間を与えてくれるとは、随分と気を回してくれるものだ。俺としては今すぐにでもやっても構わないのだが。

 

 試合の展開なんて誰もが予想してるだろう。俺と一条はお互いに速攻で決着をつけようと、たった十秒足らずで終わらせると。

 

「互いに万全な状態でやるべきだと、前田校長が言ったんだ。俺としても、そうしてくれた方がありがたい」

 

「そっか。じゃあお言葉に甘えさせてもらう」

 

 

 

 

 

 

「リューセー、準備は良いのか?」

 

「ああ。と言うより、もうとっくに万端なんだがな」

 

 試合開始五分前。

 

 一条が案内した別室で休憩と準備を終えた俺は、いつでも競技が出来る状態となっていた。

 

 今回は技術スタッフの司波や五十里はいないけど、既に自分で一通りチェック済みだ。吉祥寺からもCADチェック用の機材を貸すと言ってたが、そこは問題無いと言って辞退してる。

 

 先程まで沓子達がいたのだが、試合が始まる事もあって既に退室していた。非公式とは言え他校との試合だから、それなりのけじめを付けておきたいとの事だ。

 

 アイス・ピラーズ・ブレイクは自由な衣装でやってもいいが、俺としては非常に如何でも良いから、今も同じく一高の制服でやるつもりだ。恐らく一条も同様に三高の制服で。

 

「因みに、今回はどんな魔法を使う気なの?」

 

「それは試合を観てのお楽しみって事で」

 

 充分に勝算のある魔法だからと付け加えるも、紫苑からすれば納得の行かない返答のようだ。

 

「良いじゃない、ちょっとくらい教えてくれても。此処には私達しかいないんだから」

 

「ん~……それじゃあ紫苑に免じてヒントくらいは教えるか」

 

「それってどんな?」

 

 紫苑に言った筈が、修哉が教えて欲しいと催促してきた。やっぱりコイツも知りたがっていたか。

 

 まぁ彼女にだけ教える訳じゃないから、修哉に教えても全然問題無い。

 

「一条の『爆裂』と似た魔法、ってところか」

 

「「……え?」」

 

『兵藤隆誠君、準備が出来ましたら移動をお願いします』

 

 何かとんでもない事を聞いてしまったみたいな表情をする修哉と紫苑が固まるも、突然放送が掛かった。

 

「んじゃ、行ってくるよ」

 

 固まってる二人を余所に、俺は一条から教えられた指定の会場へ向かう事にした。




試合前に三高校長との挨拶でした。

次回は試合になります。

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