再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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夏休み編 新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦(非公式)

『待たせたな諸君! いよいよ選手入場だ!』

 

 かなり乗り気となってる前田校長のアナウンスにより、俺は入場した。

 

 此処は第三高校の野外プール場だった。けれど、流石は魔法科高校と言うべきか相当な広さだ。アイス・ピラーズ・ブレイクをやるのに問題無い場所である。

 

 急ピッチで作ったのか分からないが、観客席らしき物が設置されている。そこには三高生徒達がびっしりと座って既に満員状態。あの中には沓子、一色、十七夜、そして吉祥寺も座っている。

 

 修哉と紫苑は、俺の友人と言う事もあって別席に座っていた。しかも剛毅と一緒のようだ。その所為か、あの二人はまたしても緊張状態となるが、ある程度の耐性が付いたようで何とか普通に話せているようだ。

 

 そして俺の相手である将輝だが……やはり俺と同じく制服姿のようだ。

 

 一時間前に会った時とはまるで別人のように、完全に剥き出してる闘志を俺に思いっきりぶつけている。並みの魔法師なら完全に委縮してもおかしくない。

 

 けれど、俺にとっては単なる強がりとしか思えない程度である為、軽く流すように笑みを浮かべているだけだ。

 

 将輝は思う所はあっても、何も言わずに只管俺に闘志をぶつけている。モノリス・コードの敗北もあって、己を律しているんだろう。実に結構だ。

 

『前回のピラーズ・ブレイク決勝は諸事情により、兵藤選手は棄権と言う結果で終わったが、今回は万全な状態で我が第三高校の一条君に勝負を挑む事となった!』

 

 観客最前列の中央にいる前田校長は実況役をしたかったのか、本当に乗り気だった。生徒達に期待を寄せるような上手い言い方をする。

 

 

 

 

「すまないな、君達。本当は別の席にしたかったが」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

「こうして座らせて貰えるだけありがたいですから……」

 

 三高生徒達が座っている観客席とは別に、特別席に座っている剛毅は隆誠の友人二人に申し訳なさそうに言っていた。

 

 修哉と紫苑が自分と会って凄く緊張してる事を理解してる。十師族の一員で一条家当主と言う立場上、そうなるのは仕方ないと理解してるのだ。

 

 本当であれば同年代の生徒達と一緒に座らせたかったが、前田校長が特別席に座るよう言われた為、隆誠の友人達と一緒になってしまった。

 

 そんな申し訳なさが出てる剛毅に、修哉と紫苑は未だに多少の緊張をしながらも、漸く普通に話せるようになっていた。大物と話すだけの耐性と度胸が付いたのだろう。

 

「ところで、一条の小父様はどちらが勝つとお思いですか?」

 

「……う、うむ。そうだな」

 

 令嬢としての雰囲気を醸し出す紫苑からの問いに、剛毅は不意打ちを受けたように少々照れくさい表情となっていた。

 

 相応の容姿をしてる紫苑から「小父様」という人称に、彼は動揺を隠しきれていない。会食やパーティーなどで彼女みたく年若い少女から似たような呼び方をされても動揺しないが、一条家当主と言う仮面を付けてないプライベート状態で言われると、少々こそばゆくなってしまう。

 

「本来であれば息子が勝つと断言したいところだが、相手はあの兵藤君だ。正直言って分からないな」

 

「それはリューセーがピラーズ・ブレイクやモノリス・コードで活躍したから、ですか?」

 

 今度は修哉からの問いに、剛毅はさっきと違って即座に頷いた。

 

「だが同時に疑問に思ってるのだよ。あれほどの魔法力や身体能力を持った少年が、十師族では無い事が逆に不思議でね」

 

 剛毅の台詞に二人は内心確かにと思っていた。

 

 隆誠が強いのは知ってるが、九校戦を観て改めてとんでもない実力者だと何度も驚かされた。もしかしたら十師族の一員なんじゃないかと、剛毅と似たような事を考えた程だ。

 

 さり気なく本人に尋ねても『いや違うから』と凄く嫌そうに否定された。あれは本心で言っていたから、彼が十師族でない事は一先ず違うと結論に達している。

 

「ま、リューセーが何者であっても、俺達はアイツの友達です」

 

「そうだな。君達はそれでいい」

 

 隆誠が十師族であろうがなかろうが、修哉と紫苑が彼の友人であるのに変わりない。

 

 加えてまだまだ遊び盛りな高校生の少年少女達だ。いい年した大人の自分が子供達の交友関係を詮索してはいけないと、剛毅は内心反省する。

 

 

『今回は我々三高だけの独占イベントだ! 我が三高の生徒達よ、心して観るがいい!』

 

 

「……あのぅ、先程から気になっていたのですが、第三高校の校長先生ってあんなにテンション高い人なんですか?」

 

「リューセーから聞きましたけど、此処の校長って一条さんの先輩だったとか」

 

「ゴホンッ! 君達、すまないがそれは余り触れないで頂けると非常に助かる」

 

「「……ああ、はい」」

 

 嘗て自身の先輩である前田校長のハイテンション振りな実況アナウンスに、後輩の剛毅は段々恥ずかしくなって居た堪れなくなってきた。

 

 態とらしい咳払いをする剛毅の姿を見た事に、修哉と紫苑は何となく察し、この話題は止めておこうと密かに決める。

 

「にしてもリューセーの奴、『爆裂』みたいな魔法を使うとか――」

 

「修哉!」

 

「え、あっ……!」

 

 話題を逸らす為に言った修哉だったが、紫苑からの指摘で気付くも遅かった。

 

「それは一体どう言う事かね?」

 

 咄嗟に口を塞ぐも、既に聞こえていた剛毅はさっきとは打って変わる様に、威厳のある表情となって訊きだそうとする。

 

 彼としては修哉の独り言を聞き流すつもりだったが、内容が内容である為に無理からぬことだった。一条家の秘術である『爆裂』に関する内容であれば猶更に。

 

 これはもう誤魔化せそうにないと諦めた紫苑は、諦めて素直に話そうとする。

 

「えっとですね……。別室でリューセー君から聞いたんですが、今回の試合で彼は一条家の『爆裂』と似たような魔法を使うと教えてくれまして。ですが、どんな魔法なのかは私達も一切分かりません。これは本当です」

 

「そうか……」

 

 本心で言う紫苑を見た剛毅は、嘘は吐いていないと判断する。

 

 ならば後ほど隆誠に詳細を改めて聞こうと、剛毅はそう考えた。

 

 相手の魔法の詳細を尋ねるのはマナー違反であるのは重々承知してる。しかし、一条家の秘術である『爆裂』と似てると言われたら話は別だ。どうやって術式を盗んだのかと、一条家の現当主として問い質さなければならないから。

 

 学生である隆誠にそんな事をしたくないのだが、重大な案件である為に、敢えて心を鬼にしてやらなければならなかった。

 

 そんな中、いつでも動けるように構える隆誠と将輝を見た前田校長がアナウンスをする。

 

 

『さて、両者共に準備万端だ。新人戦男子ピラーズ・ブレイクを観た生徒なら既に分かってるかもしれないが、今回の勝負は一瞬で決まる! 全員、一瞬たりとも気を抜かないように!』

 

 

 前田校長がそう言った後、この場にいる観客全員は途端に静かになった。

 

 そして事前に用意されたポールが赤から黄、そして青となって開始のアラームが鳴った瞬間、試合が始まった。

 

 

「決める!」

 

 将輝はやはりと言うべきか、一条家の秘術『爆裂』を放とうと、拳銃型CADを抜いて、銃口を氷柱に向けながら発動させようとする。

 

 対して隆誠は、アラームが鳴った直後に腕輪型CADを装着してる右手を高く掲げ、その掌から美しい虹色の輝きを発する小さな光の塊を出現させた。

 

 その光の輝きに観客全員がほんの一瞬に魅入られてしまう。それを出した隆誠が直後、途端に握り潰したかと思いきや、その右手で相手の氷柱目掛けてサイドスローの投げ方をする。

 

 拡散された光が将輝側の氷柱全てを覆った瞬間、変化が起きた。氷柱の内部が破裂して消滅していくと言う、まるで星屑のように散っていく幻想的なシーンだった。

 

 だが、将輝の『爆裂』も同時に発動していた。隆誠側の氷柱の表面に融け出てる液体が気化し爆発。それも十二本全てである。

 

『……………………………』

 

 あっと言う間に互いの氷柱が全て消失して試合終了となるも、観客達は未だに固まっていた。実況役である前田校長や、一条家現当主の剛毅でさえもだ。

 

 将輝が使った『爆裂』は既に見慣れている。しかし隆誠の放った魔法は全く初めてだった。『爆裂』と少々似ている所はあっても、あれほど幻想的な消え方は初めて見たのだから。

 

 因みに対決している将輝もだった。九校戦では使っていない初めて見る魔法であるから、呆然としながらも、一体どれだけの魔法があるんだと内心少しばかり呆れている。

 

 すると、観客達と違って隆誠は周囲の反応を見た後にパンッと手を強く叩いた。その音を聞いた瞬間、観客達や将輝はすぐにハッとする。

 

「前田校長、勝負の結果は?」

 

『……す、すまないが少々時間をくれ!』

 

 隆誠からの問いに、前田校長は少々間がありながらも答えた後に観客席から一旦離れる。記録したモニターでどちらが速かったのかを確かめる為に。

 

「おい、さっきの映像を再生しろ!」

 

「は、はい!」

 

 映像を記録するよう任せていた生徒の一人が再生すると、前田校長は即座に見てスーパースローで確認しようとする。しかも凄い真剣な表情で。

 

 確認してる中、選手の将輝、そして観客達は一体どっちが勝ったのかと気になってる表情だ。

 

 隆誠だけは、全く違う様子だった。まるでもう分かり切ったかのように、既にリラックス状態になっている。

 

 前田校長が何度も見るように映像を確認して数分経つ。短い時間でありながらも、周囲とっては長く感じられた。

 

 そして、納得したと言わんばかりに彼女はモニターから離れて、再び観客席に戻ろうとする。

 

 試合前はとてもテンションの高い実況をしていた彼女だが、今は全く違う。凄く真剣な表情となって、マイクを手にしてこう言った。

 

『先ず宣言しておく。私が三高の校長であっても一切贔屓などしない。あくまで公平な立場でジャッジをする。それだけは諸君に是非とも念頭に置いて欲しい。観戦していらっしゃる一条剛毅殿も、どうかご了承頂きたい』

 

「承りました」

 

 校長室の時では自身の後輩と親しげに呼んでいた前田校長だが、今は十師族の一条剛毅として見ていた。

 

 突然の指名に剛毅は驚く様子を見せる事無く、一条家現当主として重く受け取る様に了承する。

 

 前田校長の余りの変わりように、三高生徒だけでなく、一高の修哉と紫苑でさえも言葉を失っていた。隆誠だけは『凄いギャップだな』と内心驚いているが。

 

『では、結果を発表する!』

 

 その台詞に(隆誠を除く)この場にいる者達は、一字一句聞き逃さないと言わんばかりに集中する。

 

『新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦の勝者は!』

 

 三高の一条将輝か!?

 

 それとも一高の兵藤隆誠か!?

 

 もうどちらでもいいから、早く言ってくれ!

 

 結果が非常に気になっている観客達がそう強く願っていると――

 

『―――勝者は第一高校、兵藤隆誠選手!』

 

 前田校長の宣言によって、この場にいる者達は様々な反応を示すのであった。

 

「ちくしょう……!」

 

(将輝……)

 

 二度目の敗北を受けた将輝は心底口惜しそうに身体を震わせていた。

 

 そんな息子に父親の剛毅は残念そうに見るも、今は敢えて何も言わずに見守っている。これが結果なのだと。

 

「隆誠の勝ちだぁぁぁぁぁ!」

 

「おめでとう~~~!!」

 

「見事じゃ隆誠殿ぉぉぉぉ!」

 

 その中で修哉と紫苑は、三高でありながらも多いに喜び、隆誠に向かって拍手を送っていた。三高の四十九院沓子も含めて。

 

 そして勝利した隆誠だが――

 

(やはり『ソールパニッシャー』を使って正解だったな)

 

 既に結果が分かっていたのか、自身が使った技についての検証をしていた。

 

 隆誠が使ったのは勿論魔法でなく、能力(ちから)を利用したものだ。

 

 名は『ソールパニッシャー』。ドラグ・ソボールの劇場版で空孫悟とベジターが融合した合体戦士が、極悪人キャラのオンネンバを浄化する時に使った技だ。

 

 掌に浮かんだ虹色に光る球を握り潰し、拡散した光を相手に投げつけ、それに当たったら内部から破裂して消滅する。今回は氷柱であった為、内部が破裂するも、星屑のように消滅していった。それを見た隆誠が思わず綺麗だと思ってしまう程に。

 

 本当ならこの技は、公式の九校戦で使う予定だった。それが出来なくなってしまったから、今回の非公式試合で使おう決めたのだ。

 

(まぁそれよりも……)

 

 技の検証を済ませると、隆誠は次の展開を予想していた。

 

 先程から息子の将輝を見ていた剛毅が、途端に隆誠を凝視してる事に気付いていたのだ。

 

 恐らくこの後、自身が使った魔法について問い質すだろうと。




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