再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

82 / 224
今回は、以前感想で書いたサンドウィチマンさんの要望に応えた内容です。


夏休み編 観光

「隆誠殿、あそこじゃ!」

 

「分かった分かった。だからそう慌てるなって」

 

 現在、沓子の案内で俺達は金沢観光をしていた。

 

 片腕に引っ付いてる彼女に早く行こうとせっつかれ、目の前にある陶芸店の建物に向かっている。

 

 突然の展開に何故こんな事になっているんだと思われるだろう。

 

 あれは今から数時間前――

 

 

 

 

「十師族とか関係無く、一条家は中々愉快な家族だったな」

 

「そうだな。茜ちゃんがしつこく根掘り葉掘り聞いてくる以外は……」

 

「全くよ。あの子ったら私と修哉が恋人前提で訊いてくるんだから」

 

 一条家に泊まった翌日の朝。

 

 美味しい朝食を頂き、観光する準備を終えた俺達は一条家を後にした。

 

 将輝や吉祥寺が案内をしようかと願い出るも、ただでさえ宿泊の世話になったから遠慮しておくと断っている。

 

 これ以上一緒に行動すれば、またしても『一条親衛隊』の女子達が邪魔してくる可能性があったのだ。そうなったら、またしても紫苑に要らん被害が及ぶ為、やんわりと丁重に断った。俺から例の物(・・・)を受け取った将輝としては礼をしたかったみたいだが。

 

 因みに紫苑本人も、将輝と一緒に行動するのは遠慮していたみたいで、俺が断った事に感謝していた。あの連中に誤解されたら堪ったものじゃないだろう。

 

「まぁ修哉が紫苑の父親に勝てば、そうなるんだけどねぇ」

 

「? 何で私のお父さんが出てくるの?」

 

「ちょっ、リューセー……!」

 

 俺の台詞に紫苑が意味が分からないと首を傾げるとは別に、修哉は途端に焦った表情になる。

 

 う~ん……。この反応から察するに、紫苑はやっぱり知らないみたいだな。彼氏が自分の父親に勝負して勝たない限り交際を認めない事を。

 

 まぁ、俺との修行で着々と強くなってる修哉でも何とか勝てるんじゃないかと思う。今も中級用バンドを身に付けて、何とも無さそうに振舞ってる時点で、相応の身体能力が身に付いてる。それを外して全力で挑めば、紫苑のお父さんに不意を突かせる事が出来るんじゃないかと俺は予想してる。まぁ、向こうの実力をある程度知らなければ、勝てるとは断言できないがな。

 

「お前なぁ……!」

 

「ご、ゴメン、修哉。つい口が滑っちゃった……」

 

 修哉が俺を連れて紫苑から少し離れ、咎めるように言ってきた。

 

「ったく。昨日の件でチャラだからな。もう紫苑の前で余計な事は言わないでくれ」

 

「ああ、気を付けるよ」

 

 昨日の件とは、修哉が剛毅の前で俺の魔法について口走った事だ。まさかこれで貸し借り無しとなるとは思いもしなかったが。

 

「ねぇ、一体何の話をしてたの?」

 

「ちょっとな」

 

 一通り話を終えて紫苑の下へ戻ると、彼女は不可解そうな表情をしながら訊いてきた。

 

 さっき余計な事を喋ってしまった俺は、誤魔化してる修哉に敢えて何も口にしないようそっぽを向いていた。また余計な事を言ってしまうかもしれないから。

 

「まぁそれより、二人はどこか行きたい所はあるか?」

 

 折角、金沢に来たのだから楽しんで観光しないと損するからな。

 

 俺が咄嗟に話題を変えようと、本来の目的である観光について言うと、修哉と紫苑は思い出したようにハッとした。

 

「俺は市場とか見たいと思ってる」

 

「私は茶屋街に行ってみたいわ」

 

「ふむふむ、成程」

 

 修哉と紫苑が言ったところは、金沢ならではの観光スポットがたくさんあるから、そこへ行きたいのは尤もだろう。

 

 当然俺も色々行きたい所はある。二人と違う点があるとすれば、工芸品関連を見たいといったところか。

 

 金沢は『九谷焼』と言う焼き物が有名で、母さんにソレを土産にしたいと思ってる。セージとセーラは食べ物の土産にするつもりだが。

 

「なら先ずは茶屋街に行くか。そこは朝にしか見られない風景があるぞ」

 

「そうなのか?」

 

「何かまるで来た事があるみたいな言い方ね」

 

 紫苑の台詞に一瞬ドキッとするが、何でもないように振舞った。

 

 この世界は俺の知ってる日本と全く変わっていない。前世の頃に日本中を旅した経験があるから、一通りの観光名所を憶えている。金沢もその一つで、色々と見て回ったものだ。

 

 尤も、流石に道順までは憶えていない。と言うか、この世界の日本は前世(むかし)と違い、自分が知ってるものと全く異なっていた。

 

 だが、それでも構わない。分からないなら調べればいいだけだ。幸い、俺達が持ってる携帯端末には正確な位置が分かる地図アプリがあるから、それさえあれば迷う事は無い。前世(むかし)はこれほど高性能な携帯端末は無かったが、これも時代の流れだろう。

 

 そう思いながら、携帯端末の地図アプリを開いて茶屋街へ向かおうと――

 

「見つけたのじゃ!」

 

「ん?」

 

「「なっ……」」

 

 昨日会った奴の声に似てるなぁと思いながら振り向いた瞬間、誰かが俺の片腕に引っ付いてきた。

 

 突然の事に修哉と紫苑が戸惑いの声を出すも、俺は全く慌てていない。こんな真似を仕出かすのは既に分かってるからだ。

 

「また会えたのじゃ、隆誠殿!」

 

「やれやれ、君は相変わらずだな、沓子。どうやって俺達のいる所が分かったんだ?」

 

 俺の片腕に引っ付いてきた女子――四十九院沓子の登場に、少々呆れるように俺は尋ねた。

 

「わしの直感で、ここにいると予想したのじゃ」

 

「ソレ本当に便利だな」

 

 直感の使いどころを間違えてるんじゃないかと突っ込みたかったが、敢えて口にしない。それはそれで大変失礼になると思ったから。

 

「で、他の二人は?」

 

「今日はわしだけしかおらん。もしや愛梨や栞の方が良かったかのう?」

 

「別にそんな事は言ってないよ」

 

 俺の中では沓子達三人がセットになっていた為、一色と十七夜がいなかったのを疑問に思っただけだ。

 

「そ、それより、四十九院さんはどうして此処に?」

 

 少々困り気味な表情をしてる俺をフォローするように、紫苑が沓子に理由を訊いてきた。

 

「お主等が観光をすると聞いて、わしが金沢を案内しようと思っての」

 

「って言うのが建前で、本当はリューセーと二人っきりで行きたいんじゃないのか?」

 

「そ、そそ、そんな訳なかろう!」

 

 修哉が揶揄うように言うと、顔を赤らめながら否定する沓子。

 

「こら修哉、沓子に失礼だろうが」

 

「いや、そこまで堂々とリューセーにくっ付いてるから、ついそう考えちゃってな」

 

「ごめんなさいね、四十九院さん。修哉には後で私から言っておくわ」

 

「って、紫苑も似たような事考えてたじゃないか」

 

「私はアンタと違って、失礼な事は言わないのよ」

 

 納得行かないと修哉が反論するも、紫苑はさも当然のように言い返してた。

 

「お、何じゃ? 夫婦喧嘩か?」

 

「「夫婦じゃない!」」

 

「……はぁっ」

 

 今度は沓子が二人に向かって失礼な発言をした事により、修哉と紫苑はユニゾンするように声を揃えて否定した。

 

 もう如何でも良いから、早く茶屋街に行きたいんだがなぁ。沓子が案内してくれるなら、携帯端末で地図アプリを使う必要は無いだろうと思いながら。

 

 

 

 ――とまあ、そんな事があった訳だ。

 

 沓子が案内役をしてくれた事で、様々な場所を近道して行けるから非常に助かっている。

 

 午前中に茶屋街や市場を見終え、金沢ならではのランチも楽しんだ。午後からは工芸品を見たい俺のリクエストに応えようと、焼き物を売っている陶芸工房店へ案内してもらっている。

 

 そこは数多くの焼き物が販売してる他、自身で焼き物を作れる体験教室もあるらしい。料金は少々高いが、そこは妥協するしかない。

 

 因みに修哉と紫苑は午前中まで一緒だったが、今は別行動中である。時間になったら金沢駅に集合する予定になっている。何か非常事態が起きた場合、迷わず俺に連絡するよう言ってるから大丈夫だ。

 

 あの幼馴染達はお互い口には出さずとも両想いだから、二人だけの時間(デート)も必要だと思って、俺が敢えて分断しようと言った。個人的に二人が恋愛成就して欲しいと思ってるから。

 

 俺の方も沓子と二人で行動してる時点でデートみたいなものだ。沓子がどう思ってるかは知らないが、生憎俺は今のところ彼女に対して恋愛感情を抱いていない。自分に甘えてくる孫、みたいな程度だ。

 

 前世(むかし)の俺はまともな恋愛が出来なかった為、この世界で再び転生してもそれほど興味は持てない状態だった。故に今は家族愛、そして友愛を優先したいと思っている。前世の俺を知っている人がいれば理解してくれるだろう。

 

 と、そんな事は置いといてだ。今は沓子の案内で来た店に意識を向ける事にしよう。母さんが好きそうな皿があれば良いんだけど。

 

 

 

「ほほ~う、中々良いのが揃ってるなぁ~」

 

「うむ。此処は金沢で有名な『九谷焼』を中心に売られてるのじゃ」

 

 店に入って早々、様々な食器として販売されてる九谷焼を見て色々と目移りしている中、俺の反応を見た沓子が自慢気に語ってくれていた。

 

 九谷焼については前世(むかし)から知ってるが、それでも記憶合わせをしようと、敢えて何も知らない振りをしながら説明を聞く事にしてる。

 

 一通り聞き終えるも、やはりと言うべきか、全く同じだった。世界や時代は違えど、日本の文化は全く同一のようだ。

 

 取り敢えず土産として買うのは、九谷焼のマグカップにしよう。母さんはお茶やコーヒーを飲む時はマグカップで飲んでいる。気に入ってくれれば良いんだが。

 

「隆誠殿、体験教室はすぐに出来るそうじゃぞ」

 

「おう、分かった」

 

 さてさて、今度は俺の目的に移るとするか。体験教室で作る焼き物は……そうだな、茶碗でも作ってみるか。少しばかり手の込んだ幻想的な茶碗を、な。

 

 

 

「まさか初心者向けでなく、上級者向けを選ぶとは……」

 

「ははは。ただ型を作って終わりじゃ味気ないから、いっそ本格的に作ろうと思ってな」

 

 九谷焼体験教室を始めて約二時間経ち、俺の茶碗制作は完成間近となっていた。

 

 因みに沓子は俺と違って初級者向けを選択しており、一時間前から既に型を作り終えている。俺のを真似て茶碗の形状だ。

 

 その時点でこの後は退屈な時間になるんじゃないかと思いきや、沓子はずっと俺が作っている茶碗をまるで魅入られてるように見続けている。退屈じゃなければ見ても構わないから、敢えて何も言わないでいた。

 

「………………」

 

 沓子に電動ろくろのレクチャーをしていた店長さんは、何故か分からんが無言で凝視している。別に違法な作り方はしてない筈なのに、何故そこまでして見るのかが全く理解出来ない。俺はプロの陶芸家じゃないと言うのに。

 

 まぁ一切口出しはしてないから、問題無いと思って良い筈だ。

 

 っと、型とデザインは一先ず完成した。最後に焼いたら、俺が想像した茶碗の出来上がりとなる。茶碗の中に宇宙が見えるような幻想的な光景が見える筈だ。

 

「店長さん、出来ました。これが完成するのはどれくらい掛かりますか?」

 

「そ、そうですね。約二ヵ月後には出来上がるかと……」

 

 どうしたんだ? 俺の茶碗を見て何やら自信なさげな感じがするんだが。ちょっと手の込んだ作り方をしたからかな?

 

 どちらにしろ、何かしらのトラブル起きて多少遅くなったところで別に構わない。俺としては完成さえしてくれれば何の文句も無いから、ここは気長に待つとしよう。

 

 あっ、そろそろ修哉達との合流時間が迫ってきたな。楽しい時間はあっと言う間に終わってしまう。

 

 名残惜しいけど、急遽案内役として同行してくれた沓子とはそろそろお別れ、か。

 

 あ、いけね。セージとセーラのお土産をまだ買ってなかったな。スイーツ好きだから、金沢名物の和菓子と洋菓子で大丈夫だろう。

 

 

 

 

 ~隆誠が東京へ帰り、茶碗が完成した二ヶ月後~

 

 

「こ、こ、これは、ままま、まさか……!」

 

「どうしたんですか、店長? それってお客が作った茶碗ですよね? 凄く綺麗に出来てますけど、何をそんな驚いているんですか?」

 

「ば、馬鹿者ぉ! お前は知らんのかぁ!?」

 

「え?」

 

「これはなぁ! 既に失われた日本の国宝かつ重要文化財――『曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)』なんだよぉ!!」

 

「……はぁ!?」

 

「あ、あの少年、一体どうやってこれの製法を知ったんだ……!? 既に文献すら失っている筈なのに……!」

 

「えっと、店長、どうするんですか? その茶碗、この後すぐに郵送手続きしないといけないんですが……」

 

「そんなこと出来るかぁ! 非常に申し訳ないが一旦保留だ! 私はこれから、知り合いの鑑定士に確かめてくる!」

 

 その後、隆誠が作った『曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)』は一条剛毅の耳に入った途端に仰天する事になる。

 

 そして彼は一条家当主として、並びに石川県民の代表として兵藤家に出向き、とある交渉をする事になるとは予想だにしなかった。




以上で金沢でのお話は此処までです。

次回は「アメリア・イン・ワンダーランド」にリューセー+αが介入します。

感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。