2095年8月中旬
金沢での用事+観光を終えた数日後。
俺――兵藤隆誠は家族サービス、と言うより弟のセージと妹のセーラの面倒を見ている。
九校戦だけでなく、金沢で泊りがけの遠出を続けた所為か二人はすっかりご機嫌斜めだった。食べ物のお土産で多少緩和されたが。
そして今日は約束した通り遊園地へ行く予定となっている。セージたちが満足するまで一日遊び倒すつもりだ。
(流石にこればっかりは無理だよなぁ~……)
部屋で準備をしてる俺はそう思いながら嘆息していた。
本当なら友人の修哉と紫苑も誘いたかったが、あの二人にも家の用事もあるだろうから、敢えて声を掛けなかった。
今回は家族である俺が弟と妹の保護者だ。因みに母さんは仕事の関係で、夜まで帰ってこない予定となっている。母さんに迷惑を掛けてしまった分、父親代わりである俺がやらなければならない。
『兄ちゃん、はやく~!』
『にぃに、まだ~!?』
「はいはい、今行くから~」
既に待機してるであろう家族の催促に、準備を終えた俺は部屋を出た。
玄関には予想通り、既にお出かけ着となってる弟のセージと妹のセーラがいる。
因みにこの二人、少しばかり
セージは前世の弟――
苦楽を共にした日々を思い出すが、それとは別に俺は『ある決意』をしてる。主にセージに関してで、絶対にイッセーみたいな
あの時はキツイ修行の息抜きには必要だと敢えて放置していたのだが、それが却って仇となってしまった。学生時代には多くの女子生徒達に多大な迷惑を掛けてしまう変態に成り下がってしまった事に、俺は心底後悔する事になったのだ。
イッセーの二の舞にならないよう、セージは必ず真っ当な子にするつもりだ。今はまだ小さいから問題無いけど、性に興味を持ち始める年頃になったら、ある程度言い聞かせるつもりでいる。
セーラに関しては問題無い。まぁ敢えて挙げるなら、俺が余り過保護にならないようにする事だ。
アーシアを溺愛してた事もあって、周囲からサーゼクスやセラフォルー並みに呆れるほどの超シスコンと言われていた。それを反省しようと、この世界では過保護にならないように気を付けている。
「よし、行こうか」
「「お~!」」
家の扉を施錠した後、ギュッと俺の手を繋いでくる弟と妹を連れて、目的地である遊園地――『ワンダーランド』へと向かう。
☆
ワンダーランドに着いたのは良いんだが――
「い、いや~、私てっきり兵藤君の子供かと……」
「そんな訳あるか。チョッと年が離れた俺の弟と妹だ」
ゲート前で知り合いと遭遇していた。
俺の目の前にいるのは、俺と同じく九校戦に参加したメンバーの一人である第一高校一年の女子生徒――明智英美。
彼女は家族で来た俺とは違い、同性の友人と遊ぶ為に此処へ来たようだ。けれど、来るのが早過ぎた為に待っている状態であった。
その際、俺が手を繋いでるセージとセーラを目撃した瞬間に叫んでいた。『兵藤君、高校生なのにもう子持ちだったの!?』と。
当然、その叫びを聞いた遊園地に入るであろう観客達から、あらぬ誤解を招かれたのは言うまでもない。
思わず明智に軽い遠当てをぶつけてやりたい衝動に駆られるも、何とか抑えて誤解を解いた。その後には勝手に騒いだ明智からの謝罪を受け取っている。
「んで、そちらの友人はまだ来ないのかい?」
「え、え~っと、あと少しで来るかと」
話題を変える為に明智の事を聞いてみるも、未だに来ている様子ではないようだ。
「兄ちゃ~ん」
「にぃに、はやくはいろ~」
「っと、そうだったな」
列に並ぶよう言っていたセージとセーラから、順番が回って来たとの報せが来た。
彼女には悪いが、俺は二人を連れて先に入場させてもらうとしよう。
「そう言う訳で明智、悪いけど先に行かせてもらうよ」
「ど、どうぞどうぞ」
先程の件が尾を引いてるのか、ワンダーランドに入場しようとする俺達を明智は全く問題無いように促した。
因みに俺達は招待券を持っていない為、当日券を購入しなければならない。既に買ってるが、さっき明智が余計な事を言った為、セージとセーラに並ぶよう言っておいたのだ。
そして俺は弟と妹と一緒に、三人で「
「兄ちゃん、あっちいこ~」
「にぃに、クレープたべた~い」
「分かった分かった。だからそう慌てるなって」
楽しんでいるセージとセーラから引っ張られてる兄の俺は、どうにか宥めながらも二人の要望に応えていた。
入場してそれなりに時間が経っており、恐らく明智も友人と一緒に入っている筈だ。もしかしたら何処かで鉢合わせる可能性があるかもしれない。
それとは別に、俺がいなかったらセージとセーラは確実に迷子になっていただろう。
このワンダーランドは敷地全体に渡って生け垣やアトラクション施設が迷路のように配置されてて、またそれぞれのアトラクション施設がある種のカラクリ屋敷になっている。方向音痴な奴が入ったら、もう完全お手上げ状態となるだろう。
一応絶対俺から離れないよう言ってある。特にセージは一人で勝手に何処かに行ってしまいそうで目を光らせておかないといけない。こういう所は
「はむはむ……」
「あむ……」
クレープを人数分買ってあげると、弟達は美味しそうに頬張りながら俺の傍にいる。
あれま、口の周りがクリームだらけになってるし。食べ終えた後で拭いておかないと。
少し休憩しようと、二人を連れて「賢者の塔」へ行く事にした。あそこはワンダーランドのシンボルアトラクションで、最も高い構造物でもある。そこは休憩所も兼ねてベンチも設置してあるから、セージ達を一旦そこで休ませようと考えたのだ。
「あれ、兵藤君?」
「ん?」
あと少しで目的地に到着する寸前、俺に声を掛けてくる客がいた。
相手は明智じゃないが、またしても俺の知り合いだった。九校戦に参加したメンバーで第一高校の女子生徒――里美スバル。相変わらずの美少年と思わせるような外見をしている。もう一人いるけど、今度は完全に俺の知らない女子だ。
因みにセージとセーラは少々警戒するように、俺の後ろに隠れている。
「誰かと思えば里美じゃないか。明智が言ってた友人は君だったか」
「いや、僕は付き添いで来ただけだよ。本命はこちらの彼女さ」
「ど、どうも、初めまして……」
俺と里美の会話に、明智の友人でクラスメイト――
九校戦に出場していた事も知ってか、彼女は俺に対して少々緊張気味な様子である。二科生に対する差別意識は無いだろう。
「えっと、兵藤君の後ろにいる二人は、エイミィが言っていたご家族かな?」
「ああ、そうだ。セージ、セーラ、挨拶なさい」
「はぁい。はじめまして、おとうとの兵藤セージです」
「いもうとの、兵藤セーラです」
俺が促すと、前に出てペコリと頭を下げながら挨拶をするセージとセーラ。
そんな弟達の姿に、彼女達は微笑ましく見ている。
「そう言えば、明智はどうしたんだ?」
「それが……」
俺が明智がいない事に気付いて問うと、知り合いと言う事もあって簡単に説明してくれた。
入場してアトラクションを三つ回ったところで、何故か急にはぐれてしまったようだ。その直後に携帯端末で連絡し、「賢者の塔」で落ち合う予定になったらしい。
一通りの話を聞いて、チョッとした疑問を抱く。明智が迷子となった事に。
俺の記憶が正しければ、確か明智が所属してるクラブは狩猟部だ。野山で鳥や動物を追いかけるハンティングをするには方向感覚が優れていなければ出来ない競技だ。前に聞いた北山の話によると、彼女は相当な実力者らしい。
そんな彼女が突如迷子になるなんておかしい。もし万が一途中ではぐれたとしても、明智がすぐに気付いて合流出来る筈だ。
この先にある「賢者の塔」に明智がいないか確認してみると……彼女のオーラと思われる反応が感じられなかった。ゲート前に明智と会った際、オーラの色を再認識しているから間違ってはいない。
ついでに気になっていたんだが、此処から少し離れた場所で魔法と思わしき
「う~ん……狩猟部に入ってる明智が、急に迷子になるなんて妙だな」
「やっぱり兵藤君もそう考えていたか」
俺が思った事を口にすると、里見は同意する様に言ってきた。
どうやら彼女も俺と似たような事を考えていたみたいだ。
迷子になるのが考えづらい明智が迷子になったのだとしたら、何か面倒事に巻き込まれてる可能性があるかもしれない。ただの迷子ならそれまでの話となるのだが。
付き合いは短いと言っても、同じ一高生徒として放ってはおけない。彼女は二科生に対する差別意識がないから。
「里見、チョッと俺の方で明智を捜してみるから、悪いけどこの子達と一緒に『賢者の塔』で待っててくれないか?」
「え?」
「兄ちゃん……」
「にぃに……」
俺が突然提案した事で里見が戸惑っていると、途端にセージとセーラが不安そうな表情となり、片手で俺の服をギュッと掴んでくる。
二人の頭を撫でながらを安心させた後、未だに戸惑い気味の里見と桜小路に二人を任すように言っておいた。
念の為、今も俺の傍で透明化になってるレイとディーネに、セージ達の護衛役に徹するよう念話で伝えておくとしよう。
――ずっと見てたけどあの子達、ご主人様にあんなに甘えさせてもらえるなんて……。
――凄く、羨ましい、です。
何か精霊二体が妙な念話を送り返されたが、敢えて気にしないでおくとしよう。
感想お待ちしています。