再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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本当は0時に更新する予定でしたが、色々書き直した為に遅れました。


夏休み編 護衛の依頼

 司波とエリカとの話を終えた以降、これと言って珍しい事は起きなかった。俺に関しては、だが。

 

 今年行われる会長選挙には生徒会書記の中条あずさが立候補したようだ。見た目通り小動物タイプで気弱そうな彼女だから、てっきりやらないと思っていたのだが、自ら進んで立候補した事に逆に疑問を抱いた。

 

 少し気になった俺は(能力(ちから)を使って)探ってみたところ、どうやら司波の説得によるものだった。生徒会長に立候補すればFLT製の飛行デバイスをやると言う餌に釣られたのだ。

 

 中条とは大して話してないが、重度なデバイスオタクである事は真由美から聞いている。それに加え、FLTにいる魔工師――『トーラス・シルバー』を尊敬しているらしい。その人物が作ったデバイスを司波から貰った為、相当躍起になっている。

 

 それを知ってデバイスを餌にした司波の手腕には恐れ入るが、同時に迂闊でもあった。恐らく司波本人は自分の仕出かした事に全く気付いていないだろう。

 

 九校戦の頃から疑問を抱いていた。何故司波妹が飛行魔法を使う事が出来るのかと。

 

 この世界の飛行魔法が実現したと発表されたのは七月頃なのに、その翌月には九校戦のミラージ・バット本戦で司波妹が披露すること自体おかしい。

 

 司波兄妹はトーラス・シルバーが所属するFLTの関係者である事が考えられる。そうでなければ、未だ市販化されてない飛行魔法を使う事が出来ない筈だ。

 

 そして決定打となったのは、司波が中条に餌として与えた飛行デバイスである。もしかしたらアイツは秘匿されている魔工師のトーラス・シルバー本人かもしれない。あくまで俺の推測に過ぎないが。

 

 理由はある。

 

 いくらFLTの関係者だからと言っても、飛行デバイスを簡単に持ち出す事なんて出来るだろうか。一般社会では普通、発売前の商品を会社から持ち出すのは厳禁となっており、その時点で情報漏洩となって大きな損害になる。

 

 にも拘らず、司波がそれを平然と持ち歩いていると言うことは即ち、重大な違反を犯している事になる。だが、俺はそれを即座に否定した。寧ろそれとは逆に、平然と持ち出せる権限があるのではないかと。

 

 そう考えないと辻褄が合わないのだ。発売前の飛行デバイスを現時点で用意出来るのは、トーラス・シルバーである司波じゃなければ無理だと、な。

 

 司波達也は非常に用心深くて頭も切れるのだが、意外と詰めが甘い(まぬけな)所もある。俺がそこを指摘すれば、一体どんな表情をするのやら。司波深雪の近くで言えば、確実にブリザードが吹き荒れてるだろうが。

 

 しかし、アイツも中々面白い経歴がある奴だ。国防軍の特殊部隊である『独立魔装大隊』の軍人であり、FLTに所属する魔工師『トーラス・シルバー』でもある。恐らくだが、まだ他にも秘密があると見て良いだろう。司波達也は明らかに普通の魔法師じゃないのは、初めて会った時点で直感してるから。

 

 まぁ今のところ如何でも良い事である。今の俺は司波よりも、友人達を鍛える事が大事なのだ。

 

 部活で鍛えてる修哉とは別に、九校戦後に紫苑から何か教わりたいと直接頼まれた。それを聞いた俺は、先ずは身体能力や魔法力を磨く為に、修哉の修行に使っていた初級用バンドを渡している。

 

 手足に付けて早々に倒れそうになるも、最初に苦労していた修哉と違って簡単に動けるようになった。

 

 バンドに魔力、じゃなくて想子(サイオン)を送り込めば徐々に重さが無くなっていく仕組みになっている。魔法力が低い修哉と違って、紫苑は逆に高いからバンドが軽くなったのだ。

 

 けど、その軽さを維持する為には常に想子(サイオン)を使わなければいけない。分かり易く言えば、紫苑は常にフルパワー状態を維持しなければ、まともに動く事が出来なくなってしまうと言う訳である。使い過ぎれば命に関わるかもしれないが、そこは俺の能力(ちから)による安全装置(セーフティ)が作動する仕組みになっているから問題無い。

 

 俺のバンドは日常でも鍛える事が出来るから、紫苑は夏休みが終わる前から使用してる。部活の時は時折倒れそうになって千代田から心配されていた事もあったが、今は全く問題無さそうだ。

 

 十月頃になれば修哉達の魔法力はそれなりに高まると予測した俺は、ある事を考えた。以前から考えていた飛翔術を二人に教えてみようと。

 

 

 

 

 

 

 九月も月末週に移った。

 

 やっと秋らしくなってきたと思いながらも、俺は放課後のクラブ活動のために剣道部の部室へと向かう。

 

「リューセーくん」

 

 その途中、まるで待ち伏せしていたかのように廊下で佇んでいた風紀委員長の摩利に呼び止められた。

 

 学校が再開してから既に彼女とは何度も会って会話もしている。けれど、アイス・ピラーズ・ブレイクの件については触れていなかった。やはり会長選挙の件がある為、後回しにしているのだろう。

 

「何か御用ですか、摩利さん?」

 

 部活に行きたい俺は、彼女に続きを促した。

 

「急で悪いが、風紀委員会本部へ来てくれないか」

 

「……は?」

 

 突然の事に俺は思わず目が点になってしまった。

 

 え、何? 俺、風紀委員会に目を付けられる事でもやったか?

 

「安心してくれ。別に君を連行する為じゃない。少し相談したいことがあるんだ」

 

 俺の考えを見抜いたかのように、摩利が苦笑しながら理由を言った。

 

 風紀委員長である彼女が態々一年の俺に会って相談、ねぇ。この時点で凄く訳ありな案件だと言うのが充分に伝わる。

 

「あのぅ、ご存知かと思いますが、俺はこの後クラブ活動がありまして……」

 

「勿論それは重々承知している。後であたしの方から壬生に説明する予定だ」

 

 分かっている上で俺に相談したい、か。

 

 遅れた事を向こうが説明してくれるなら別に構わない。

 

 俺が了承の返事をすると、摩利は「すまんな」と言って俺を追い越し、足を進めた。

 

 

 

「初めて入りましたが、生徒会室と同様綺麗に整っている部屋ですね」

 

「ま、まぁな……」

 

 風紀委員会本部に入って早々に感想を述べる俺に、何故か摩利は誤魔化すような笑みを浮かべていた。

 

 その反応を見て何かありそうだと思うも、敢えて追求はしない。部外者である俺が知る必要は無いのだから。

 

 応接セットがある部屋に案内され、俺と摩利は向かい合わせで腰を下ろした。

 

「――さて、本来ならば風紀委員でも生徒会でもない君に、このような相談をしてはいけないんだが」

 

 随分と勿体を付けた前置きだ。これはそれだけ重大な案件と見た方が良いだろう。 

 

「一応確認だが、リューセーくんは真由美が明日の生徒総会で通そうとしている『生徒会一科生限定廃止案』に、反対派がいるのは知っているか?」

 

「ええ、勿論です。けれど、その反対派にしては余りにも大人しいから、今日、もしくは当日に何かやらかすんじゃないかと危惧してますが」

 

 一科至上主義の連中からすれば、真由美の廃止案は絶対に阻止したい筈だ。対象が生徒会であっても、今まで格下と見ていた二科生が急に対等な立場になるのは簡単に受け入れないだろう。

 

 だがさっき言ったように、生徒総会が明日に迫っているのも関わらず、一向に阻止する動きを微塵も見せていない。普通なら喜ばしい展開なのだが、それはそれで逆に怪しいと考える。

 

「そうだ。その反対派がどうも大人し過ぎる。あたしも、君が危惧してるように、今日か明日のどちらかで真由美の身に何か起きるんじゃないかと考えてな」

 

「当の本人に言っても、『大丈夫』とか言って軽く流されたのでしょう? 敢えて失礼な事を言いますが、あの人、チョッとお人好し過ぎますし」

 

「まあな。そこは友人のあたしにとっても悩みの一つだよ」

 

 同意する様に頷く摩利だが、突然笑みを浮かべる俺を見た途端に怪訝な表情となった。

 

「何故笑う?」

 

「別に深い意味はありません。身の上を案じられてる真由美さんは、摩利さんに凄く愛されてるなぁと思いまして」

 

「んなっ!」

 

 愛されてると言う単語で過敏に反応したようで、摩利の顔が一気に真っ赤となった。

 

 言ったら絶対殴られるだろうが、顔が赤くなってる摩利は意外と可愛い。恋人の前で見せる乙女の表情とは別に。

 

「人が真面目な話をしてると言うのに、年上の先輩をからかうとは随分いい度胸をしてるじゃないか……!」

 

「すいません、悪ふざけが過ぎました」

 

 このままでは不味いと判断した俺は、すぐに頭を下げて謝罪した。

 

 数秒後、摩利がコホンと咳払いをして本題に入ろうとする。

 

「さて、ここまでの話を聞いて察しは付いただろう。リューセーくん、君に頼みたいのは……クラブ終了後、真由美と一緒に下校してもらえないだろうか」

 

「構いませんが……今更ですけど、それって摩利さんがやれば良いんじゃないですか?」

 

 真由美を護衛させる人物なら、目の前にいる風紀委員長の摩利が適任だ。危惧してるなら彼女が同行すれば良い。

 

 あと他は(司波を含めた)風紀委員か、真由美に片思い中の服部など、適任者はいくらでもいる。

 

「そ、そうしたいのは山々だが、生憎あたしは警備の打ち合わせや、風紀委員の方の引き継ぎがあってな」

 

 何だか言い訳染みた理由みたいに聞こえるも、取り敢えず忙しい事は分かった。

 

「では司波兄妹は? 兄は風紀委員で、妹は生徒会なんですから。そのどちらでもない部外者の俺よりも、あの二人が適任だと思いますが」

 

「…………」

 

 俺が更に問うと、摩利が途端に罰が悪そうな表情となった。

 

 この様子からして、彼女は既に頼んだような気がするな。

 

「まさかとは思いますが……もしや司波兄から『自分よりも兵藤が適任ですよ』とか上手く言い包められましたか?」

 

「……ま、まぁ似たような事を言われた。勿論、あたしは最初反対しようとしたぞ。だが、魔法を使わずとも、『遠当て』や『縮地法』を簡単に使える身体能力を持つ君なら、どんな闇討ちを仕掛けられても大丈夫だろうと、あたしもそう判断してな……」

 

「そうですか……」

 

 司波が口達者なのは既に知ってる為、上手く誘導された摩利を責める気は無い。俺も九校戦の時に、してやられた経験があるから。

 

 余り考えたくないが、司波は今後も何かあれば俺に押し付ける気なんじゃないだろうか。

 

 アイツは俺に対して余り良い感情を抱いてないが、俺の実力に関しては信用している。だから真由美を護衛させるなら、相手を簡単に倒せる実力を持ってる俺が打ってつけだと考えたかもしれない。

 

 まぁ俺としては別に構わないと思っている。今回は敢えて奴の口車に乗るとしようじゃないか。

 

 真由美がやろうとしてる廃止案は是非とも通して欲しい。だから彼女の身に何かあったら、折角期待してる二科生達の信用を失う事になるだろう。

 

「分かりました、お引き受けしましょう」

 

 摩利からの頼みを了承すると、彼女は「ありがとう」と感謝の言葉を述べた。

 

 

 

 

 

「ところで摩利さん。千代田先輩を風紀委員長にするみたいですけど、本当にあの人で大丈夫なんですか?」

 

「そこは心配ない。達也くんが作成した引き継ぎ用の資料を見せてるから抜かりはないさ」

 

「………」

 

「な、何だ。その無言は?」

 

「別に。あと他にも司波から聞いてると思いますが、この前あった初の巡回で、剣道部と剣術部の合同練習中に騒いだからと言う理由で、千代田先輩に危うく取り締まられそうになったんですが」

 

「……そ、そこはあたしの方で指摘しておいたから大丈夫だ」


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