再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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今回もフライング投稿です。


夏休み編 真相の説明

 生徒総会が終わった翌日の朝。

 

「そう言えばさ、二人は投票用紙に何て書いたんだ?」

 

「は? 何て書いたって……中条先輩しかいないだろう」

 

「中条先輩以外に誰かいたかしら?」

 

 教室に来て早々、俺が昨日の事を尋ねてみると、修哉と紫苑から真面目な返答が返ってきた。

 

 どうやら二人は気付いていないようだ。昨日のアレには別の候補者がいた(・・・・・・・・)と言う事に。

 

 一科生達の幼稚な騒動を見て完全に呆れていたのだから、気付かないのは当然か。

 

 尤も、他のクラスメイト達の何人かは気付いているようだ。その証拠に、此方の会話を聞いてピクリと反応していたのだ。俺が視線を向けたら途端にサッと視線を逸らしている。

 

 アイツ等も中条以外の人物を記入したと見て良いだろう。俺と同じ事をしてるとは、中々遊び心のあるクラスメイト達に感心する。勿論、良い意味でな。

 

「因みにリューセーは?」

 

「ああ、俺は――」

 

 修哉の問いに答えようと、投票用紙に記入した人物の名を告げようとする。

 

 その直後、二人が思いっきり吹き出す事になるのは当然の流れだった。

 

 

 

 

 

 

 一方、場所は変わって生徒会室では――

 

「ななな、何故これがわたしとお兄様の得票にカウントされているのですか!?」

 

 真っ赤な顔をしながら深雪が叫んでいた。

 

 この場には生徒会メンバーの他、風紀委員側で摩利と達也も同席している。

 

 彼女達が朝からいるのは、昨日に行われた投票の集計結果で中条あずさが生徒会長に見事当選したから、その祝福を送る為であった。本当ならこれで一件落着となる筈だったのだが……それとは全く別の事も起きていた。

 

 今回の選挙は一人だけなのだが、何故か三人の争いとなっていた。中条あずさだけでなく、立候補していない筈の司波兄妹二人がいつの間にか加わっていたのだ。

 

 達也と深雪にも相当な票が集まっていたが、演説者以外の名前を記入しての投票は無効である為、自動的にあずさが当選となったのは言うまでもない。

 

 そこまで聞いて、何故深雪が叫んでいるのかと疑問に思われるだろう。そうなってる原因は、投票用紙に記入された名前に問題があったから。

 

 記入された中には『女王様』や『女王陛下』や『スノークイーン』など、不名誉極まりない名称が深雪の得票としてカウントされていたのだ。これで彼女が叫ぶ理由は納得するだろう。尤も、これは昨日に暴走した深雪の自業自得でもある為、生徒達がそんな風に書くのも当然とも言える。

 

 そんな不名誉極まりないな名称だけでも深雪は既に怒り心頭に近い寸前であるも、途中でそんな物が吹っ飛ぶかのような凄い名前が記入されている事が発覚した。

 

「何ですかこの『司波カップル』という名前は!? わ、わたしとお兄様はこ、こ、恋人や、ふ、夫婦、でもなく、兄妹なのですよ!? い、一体どなたが書いたのですか!?」

 

『……………………』

 

 否定しつつも実は凄く喜んでいると言う複雑な深雪の叫びに、(達也を除く)一同は何故か無言となった。

 

 否。必死に抑え込んでいると言った方が正しい。

 

 彼女達は『非常に的確な表現』みたいな事を口に出したい衝動に駆られるも、何とか出さずに言葉を呑み込んでいる。

 

「……投票用紙には『司波』と書かれておりましたので……そうカウントせざるを得なかったかと」

 

 苦しい言い訳をするみたいに、申し訳なさそうな声で鈴音が宥めるも、深雪に何の効果も無かった。

 

 完全に頭がパンクしてしまう始末となり、今は兄の達也がどうにか抑える事となってしまう。

 

 因みに投票用紙に『司波カップル』と記入した犯人は分からないが、明らかに深雪が喜ぶ事を知っている人物だと、生徒会メンバー+摩利は大体の見当が付いていた。

 

 そして、その人物は……恐らく1-Fの兵藤隆誠だろうと推測するも、詮索する気は一切無い。無記名投票である上に、詮索するのはルール違反となっているから。

 

 これは達也も当然そう考えているのだが、今は愛する妹を優先しようと宥める事にしている。

 

 またしても司波兄妹による、余りの甘ったるい雰囲気を見せ付けられる事になった一同は胸焼けを覚えるのは必然と言えよう。

 

 

 

 

 

 

 昼休み、携帯端末を通じて真由美から急な呼び出しを受けた為、俺は食事を終えて早々生徒会室へ向かっていた。

 

「失礼します……おや?」

 

 目的の場所に着いて早々中に入ると、意外な人物がいる事に少しばかり目を見開く。

 

「来たか、兵藤」

 

 生徒会長の真由美は勿論の事、風紀委員長の摩利も昼食時には必ずと言って良いほど生徒会室にいるから別に問題無い。だが、もう一人は別だった。何と本日で会頭を引退する予定の十文字克人がこの場にいるのだ。

 

 失礼なのは充分に分かっているが、十文字がいる事にどうしても違和感を覚えてしまう。会頭として生徒会室に来るのは別に何ら問題無いのだが……まぁ、そこは横に置いておくとする。

 

「摩利さんと十文字会頭が生徒会室(こちら)にいるのは、あの件についてですか?」

 

「ええ。運良く私たち三人だけしかいないから、今の内に済ませておこうと思ってね。君が提示した条件にピッタリだったから」

 

 俺の問いに真由美が答える中、既に話を聞いているであろう摩利と十文字も頷いていた。

 

 生徒総会が行われる前日、真由美と一緒に下校してる最中、噂の真相を説明する条件を付けた。『時間帯は問わないが、生徒会長の真由美、風紀委員長の摩利、会頭の十文字の三人以外の同伴は一切認めない』と。

 

 確かにこの場には俺と三巨頭しかいないから、俺が提示した条件を満たしている。説明しない理由は一切無い。

 

「念の為に訊きたいのですが、他の生徒会メンバーと司波兄妹は?」

 

 俺の確認に苦笑しながらも真由美は答えてくれた。

 

 中条は同級生に生徒会就任の祝福を受けて欠席。

 

 市原は特に用が無い為に姿を見せていない。

 

 そして司波兄妹は、チョッとした諸事情により欠席らしい。

 

 中条と市原はともかく、司波兄妹の欠席についての深くを訊いてみたら、投票用紙に“とある名前”で記入された件があった事に物凄く恥ずかしがっていたようだ。

 

 どうやら俺が記入した『司波カップル』は相当お気に召したようだ。我ながら的確な表現をしたと改めて認識する。

 

 ついでに司波兄が俺を呼び出さない理由も分かった。アイツは今も恥ずかしがってるであろう妹を優先しているのだと察して。

 

 まぁ俺としては司波兄妹がこの場にいないのは大変好都合だ。司波兄が使うあの鬱陶しい眼の反応も感じないから、今の内に話しておいた方が良い。

 

「さて、早速話してもらおうかしら。お茶でも飲みながら」

 

「あ、どうも」

 

 座るよう促された俺が席に着くと、真由美はご丁寧にお茶を出してくれた。

 

 折角用意してくれたので、湯飲みを口元へ運んで軽く飲んだ後、改めて対面してる三人と向き合う。

 

「摩利さんと十文字会頭は既に真由美さんから聞いてるでしょうが、俺が金沢にある第三高校へ行って、そこで一条将輝とピラーズ・ブレイク決勝戦をやった噂は本当です。事の発端は――」

 

 九校戦を終えた後夜祭で将輝とのやり取りを簡単に説明する。

 

 やれなかった決勝戦をどこか別の場所でやろうと提案したのは俺であり、了承した一条は会場を用意する為に三高にした。

 

 一通りの話を聞いた三巨頭は寝耳に水と言わんばかりの反応だった。まさか俺が自分達に一切報せずに計画していたなど考えもしなかったんだろう。

 

「……何故そんな重要な話を俺達に前以て教えなかった?」

 

 左側に座っている十文字は怒っていないのだが、凄く真面目な表情をしながら無意識に威圧感を放ってきた。これが普通の生徒だったら、確実に恐がると断言出来る。

 

 だが、他の二人は別だった。中央の真由美と右側の摩利は既にジト~ッとした目で俺を睨んでいる。まるでチョッとばかり裏切られたかのような感じだ。

 

「言ったら絶対面倒な事になると判断したからです。俺や一条としては、十師族のしがらみを一切抜きとした非公式の勝負をしたいと思ってましたので」

 

 それに、と言いながら俺は十文字に向かって――

 

「もし教えれば、十文字会頭がこの前自分に警告した事を本格的にやりそうだと危惧しましてね。俺を十師族に迎える為に真由美さんを結婚相手にして、七草家の婿養子にさせようと言う算段を」

 

「私とリューセー君が結婚!?」

 

「十文字、お前……」

 

 ダンスパーティーが終わった後に呼び出された話を持ち出した瞬間、一緒に聞いていた真由美と摩利が凄い反応を示す。

 

 二人は全くの初耳だったのか、揃って十文字を注視している。真由美は結婚と聞いた途端に顔を赤らめ、摩利は呆れたような目となっていた。

 

「む……すまん。時期が来たら話すつもりだったのだが……」 

 

 結婚話を暴露された事により、十文字がさっきと打って変わる様に、少々罰が悪い表情となりながらも謝罪していた。

 

 十文字達の反応とは他所に、俺は話を続けようとする。

 

「そして三高で勝負する事を息子を通じて知った一条家現当主の一条剛毅殿、並びに第三高校前田千鶴校長が立ち合いの下、俺は三高の全校生徒が見守っている中で一条将輝とピラーズ・ブレイク決勝戦を行いました」

 

 俺が一条剛毅の名を出した途端、十文字と摩利は即座に理解した。この件には十師族の一条家が大きく関わっており、情報が彼によって封鎖されていた事に。

 

 既に知っている真由美は、分かっていながらも嘆息している。あの時は“名門”と遠回しに言ったが、俺が改めて一条家と口にした事で更に信憑性が増したのだろう。

 

「成程な。道理で私達が知らない訳だ」

 

 普段の一人称が「あたし」である筈の摩利が「私」になっている事に、俺は思わず彼女の方を見ていた。今回の件に十師族が大きく絡んでいるとなれば、そうならざるを得ないかもしれない。

 

 十師族に連なっている真由美と十文字も、北陸・山陰地方を監視・守護している一条家が情報封鎖するのは当然だと納得の表情である。加えて、三高の前田校長も協力しているなら猶更に。

 

「それで、一体どっちが勝ったの?」

 

 情報封鎖の大元が分かった事により、真由美は俺を追及せず、勝負の結果を知ろうと催促してきた。

 

 摩利と十文字も同様に気になるのか、俺の返答を待っている。

 

「その前に約束して下さい。特に十師族の一員である真由美さんと十文字会頭、この件に関しては口外しないと、是非ともこの場で誓って頂きたい」

 

 でないと情報封鎖してくれた一条家の顔を潰してしまう事になります。そう付け加えると、二人はすぐに無言となった。

 

 十師族として連なる真由美と十文字としては、流石に了承せざるを得ない。特に十文字は現在代表補佐をしている立場だから、下手に口外して一条家との関係を拗らせる様な事はしたくない筈だ。

 

 七草家当主について今のところ全く知らないが、少なくとも真由美は報告しないと思っている。十文字と同様に十師族としての立場は重く理解してるだろうから。

 

「……良いだろう。十文字家代表補佐を務める魔法師として、今回の件について一切口外しない事を約束する」

 

「私も父には言わないわ。九校戦ではリューセー君に色々助けられたから、此処だけの話に収める事を誓います」

 

 重い決断を下したかのように十文字が腕を組みながらも了承し、真由美も同様の答えを返してきた。

 

「……どこかでやったやり取りだな。一応言っておくが、風紀委員長の私も口外しないと宣言しておく」

 

 以前の事を思い出したのか、摩利は嘆息しながらそう言った。

 

 三人の言ってる事が嘘ではないと分かった俺は、懐から携帯端末を取り出す。

 

「では今から見て頂きたい物があるのですが、真由美さん、この端末に繋げて映像を再生出来る機材はありますか?」

 

「あるけど、何の映像なの?」

 

「前田校長が撮ってくれた、三高でやった俺と一条のピラーズ・ブレイク決勝の映像記録ですよ」

 

 俺があっさりと答えた直後、真由美はすぐに接続する為の機材を用意しようと席から立ち上がる。

 

 タブレットを用意されたのを見た俺は、携帯端末をそれに繋げた後、指定したフォルダの閲覧可能設定も施した。

 

 真由美がそれを確認して直ぐ指定フォルダを開き、アイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦が記録されている映像ファイルを開く為にポンッと指でタップする。因みに摩利と十文字も気になるかのように、食い入るようにタブレットを注視している。

 

 

『待たせたな諸君! いよいよ選手入場だ!』

 

 

 映像を開いて早々、前田校長のハイテンションな実況をしてるのを見て、三人は突然の不意打ちを受けたかのように固まっていた。

 

 面識があるであろう真由美達も、彼女が普段から猫を被っている事までは知らなかったようだ。

 

 それは置いておくとして、映像で流れている俺と一条の試合が始まった途端、すぐに真面目な表情へと変わる。

 

 将輝の『爆裂』に対し、俺は『ソールパニッシャー』、もとい『星屑の(スターダスト・)一撃(ストライク)』と言う名の分解魔法を披露。互いに一瞬で全ての氷柱を消した事により、流石の三人も開いた口が塞がらなかった。

 

 それでも映像は流れ続けており、前田校長が凄く真面目な表情で公平な立場ジャッジをすると宣言する他、観戦している剛毅にも念を押していた。

 

 

『―――勝者は第一高校、兵藤隆誠選手!』

 

 

 観客達が様々な反応を示している中、ここで映像が終了となった。

 

 短い内容でありながらも、ハラハラしながら見ていた真由美達は途端に大きな息を吐いている。

 

「チョッとリューセーくん、何この凄過ぎる試合は!?」

 

「もうどこから突っ込めばいいか分からない内容ばかりじゃないか!」

 

「……一条殿や前田校長が情報封鎖する訳だ」

 

 直後、真由美と摩利が色々と複雑な表情をしながら怒鳴り、十文字はどっと疲れが出たかのような表情で重く受け止めていた。

 

「だから前以て言ったでしょう。今回の事は決して口外しないよう誓って欲しいって」

 

 三人がこうなる事を既に予想していた俺は軽く流すように言い返した。

 

 恐らく九島も知れば絶対に抗議するだろう。そう考えると、後で連絡して教える必要があるかもしれない。

 

 あの試合の後、剛毅から俺が使った『星屑の(スターダスト・)一撃(ストライク)』についての詳細を尋ねられたが、敢えて伏せておいた。正直言ってアレは魔法師としてのマナー違反である他、恥の上塗り同然の行為だったから。こればかりは一条家当主としての名誉が大きく関わる為に教えられない。

 

 そして三人は今回の件について一切口外しないと、改めて約束すると誓い、此処だけの話と言う事となった。当然、一高でも口外しないと十文字の方で情報操作するようだ。

 

「しかし、一条殿や三高の前田校長が情報封鎖した筈なのに、一体何処で漏れたんだ?」

 

 すると、十文字が気になるかのように疑問を口にした。真由美と摩利も言われてみれば、と言う感じである。

 

「そうなんですよねぇ。司波の奴は夏休み中に噂で耳にしたそうですが」

 

「え? 達也くんも知ってるの?」

 

「そう言えば、花音があたしに教えてくれた時にそれらしき事を言っていたな」

 

 俺が司波の名前を口にした途端、真由美と摩利が反応した。

 

 真由美はともかく、やはり摩利は千代田経由で知ったようだ。同時に口外しないよう固く口止めさせた事も内心納得しながら。

 

「十師族が情報封鎖すれば、いくら魔法師だからって簡単に情報を得る事は出来ない筈。けれど自称『一介の魔法師』である司波がそれを知ったとなれば……十師族に匹敵するほどのパイプを持っている事になりますね」

 

「「「!」」」

 

 本当は九島経由で司波が独立魔装大隊に所属してる事を言いたかったが、流石にソレは不味いと思った俺は、敢えて遠回しな表現をする事にした。

 

 その後に「あくまで俺の推測に過ぎませんが」と付け加えるも、真由美達は深刻な表情となっている。

 

 一先ずは疑念を抱かさせる事が出来たので、俺としては充分な結果となった。

 

 俺がこうしたのは、司波に対するチョッとした仕返しだ。

 

 アイツは今も俺を警戒してコソコソ調べてるから、正直言ってウンザリしている。だが俺が逆に調べようとすれば、必ず何かしらのアクションを起こすだろう。あの異常な警戒心と用心深さを持った司波の性格を考えれば猶更に。

 

 なので、俺以外の人物から調べさせようと考えた。十師族である七草と十文字に。いくら司波でも、流石にこの二人相手であれば下手に手を出す事は出来ない筈だ。

 

 権力を持っている十師族の二人を隠れ蓑にするのは卑劣な手段だと罵られるかもしれないが、こっちが反撃出来ないのを良い事にやりたい放題してる司波の奴に少しばかり灸を据えたかった。ずっと調べられてる俺の立場を理解してもらう為に。

 

 それでも懲りずに同じ事を続けていたら………どうしてやろうか。

 

 もし聖書の神(わたし)が本気でやれば、司波を倒すのに一秒もかからない。だが、それはそれで確実に面倒な事が起きてしまう。超絶ブラコン娘の司波妹が暴走するだろうし、加えてアイツが所属してる独立魔装大隊も黙っていない。軍が動いてしまえば、俺の家族にも被害が及んでしまう。

 

 全く本当嫌になる。能力(ちから)を持っても儘ならないのは、どこの世界でも共通している、か。




夏休み編はこれにて終了となり、次回から横浜騒乱編を予定しています。

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