今回は短めです。
一高で新生徒会が発足してから一週間が過ぎた。
意外だと思われるかもしれないが、何と俺――兵藤隆誠は二科生でありながらも、新生徒会メンバーの一人に選ばれている。しかも司波深雪と同じ副会長だ。
事の発端は生徒会の新体制が発足する前、新生徒会長の中条から副会長就任の打診をされた。『生徒会一科生限定廃止案』が通った為、二科生の俺に是非とも副会長をやって欲しいと。
最初は(修哉の修行で)剣道部を優先したいと言う理由で断ろうとするも、中条は諦めずに粘り強く交渉すると言う予想外の反撃を喰らった。小動物タイプの彼女にしては珍しいと目を見開いた程である。
何故そこまでして自分を副会長にしたいのかと改めて訊いてみると、廃止案が通って二科生も選出出来るなら、一科生以上の実力を持った俺と司波を生徒会メンバーにしたいそうだ。俺の場合は九校戦で総合優勝に大きく貢献したのが一番の要因らしい。
俺が知る限り、生徒会は事務作業が中心だ。それを考えると風紀委員で事務担当をやらされている司波が一番の適任者だ。加えて、生徒会には司波妹がいるから、あのシスコン兄としては願ってもない筈である。
そう考えながら司波達也を推すも……既に断られていたらしい。しかもアイツ以外にも強く反対した新・風紀委員長の千代田花音によって。
最初は一体何の冗談かと思って改めて問うも、彼女曰く、「司波君に抜けられると風紀委員会の事務が回らない」だそうだ。しかも司波と中条がいる前で堂々と口にしたらしい。
これを聞いた俺は「開いた口が塞がらない」という心境で心底呆れた。自分から事務が全然出来ないと言い切った千代田に対し、本当にアレが風紀委員長で大丈夫なのかと本気で心配する程に。
だがまだ続きがあり、どうやら司波が作成した引継書にそう書かれていたそうだ。それはつまり、千代田に反対理由を言わせる為に司波が作成した、と言う事になる。アイツがそんな
結局のところ、司波は新年度からも生徒会へ移籍せずに引き続き風紀委員に残留と言う結果になった。その為、中条は俺を最後の望みとして今年度の副会長をやって欲しいと必死に頼み込んでいたのだ。
しかし俺はここで疑問を抱いた。中条が何故そこまでして俺を副会長にしたがっているのかを。司波曰く、「兵藤は生徒会に興味はありませんから、恐らく俺と同様に断りますよ」と言われたらしい。
確かに司波の言う通り生徒会に全く興味無いし、入ろうと言う意思も全く無い。………のだが、俺はすぐに考えを改めた。副会長になる決意をすれば、司波の奴は確実に戸惑うだろう。
そう考えたのには勿論理由がある。アイツは俺を警戒してると言っても、何か面倒事が起きれば押し付けようとする節が見受けられる。故に俺は決めたのだ。最近調子に乗り始めてる司波に少し灸を据える為、想定外の事態に直面させてやろうと。
俺の気の変わりように中条は最初戸惑っていたが、承諾した事に大喜びして即座に就任の手続きを開始。これにより、生徒会長の中条を補佐する副会長に
ついでと言ってはいけないが、他の顔ぶれには書記・光井ほのか、会計・五十里啓、となっている。俺としてはどちらも二科生に対する差別意識が無い知り合いであるから、非常に好都合だった。
そして、新生徒会発足に伴って新たなメンバーが発表された放課後、司波から奇襲同然の呼び出しをされた。勿論、そうなる事は俺も予想済みだった。
此処から先は会話形式で語るとしよう。
「兵藤、何故お前が副会長になっているんだ?」
「中条会長から、『どうか司波さんと一緒に副会長になって下さい!』って説得されたんだよ。あそこまで必死に頼まれたら断れなくてな」
「俺の記憶が確かなら、お前は生徒会に興味が無い筈だ。それと生徒会長にもなる気も一切無いと、兵藤の口から直接聞いたんだが?」
「そうだな。以前までの俺は司波の言う通り、生徒会には微塵も興味は無かった。けど、新しいメンバーを聞いて気が変わってな。司波さん以外に、書記の光井や会計の五十里先輩であれば、一科生と二科生のしがらみが無いから、楽しく出来そうだと思って受ける事にしたんだよ」
「………確かに深雪達なら問題無いだろう。だが、俺には兵藤がそんな理由で受けるとは思えないな。お前は一体何を企んでいる? 剣道部の天城を見なくても良いのか?」
「企むとは人聞きが悪い。それに修哉との訓練はいつも通りやるさ。別に生徒会に入ったからって、部活を疎かにする訳でもない。それに中条会長からも、俺は基本的に部活を優先して良いって許可も貰っている。だから問題無いんだよ。ご理解頂けたか?」
「……理解はした。だが……」
「まだ不満なのかよ。ってか司波、何でお前がそこまで俺のやる事に異議を唱えるんだよ。まさかとは思うが、お前の頭の中では『俺が司波さんの近くにいたら危険』とか考えていないか?」
「そんな事は考えていない。お前が深雪にあることないことを吹き込むんじゃないかと心配している程度だ」
「どっちも似たようなモノじゃないか。本当にお前は呆れるほどのシスコン野郎だな。いつまでも妹を甘やかす事ばかりしてないで、少しくらい突き放したらどうだ? 時には厳しくするのも教育の一つだぞ」
「兵藤には関係の無い事だ」
「あっそ。なら生徒会で司波さんと二人っきりの展開にでもなったら……おっと、危うく変な事を言いそうだった」
「待て兵藤! 深雪に一体何をする気だ!? 内容次第では許さんぞ!」
「今度は父親面かよ。お前って本当に妹の事になると感情的になるんだな」
と、司波とそんな会話のやり取りがあったのだ。
因みにコレは1-Fと1-Eの中間位置の廊下で話していた為、修哉と紫苑、司波一行の四人(レオ、幹比古、エリカ、柴田)だけでなく、他の生徒達も凝視していた。
特に皆が驚いていたのが、激昂していた司波の姿だ。普段から冷静沈着に会話をするアイツが、まるで人が変わったかのように激昂していたから。司波の友人であるレオ達も同様の反応だった。シスコンだと知ってても、あそこまで豹変するとは思っていなかったらしい。
まぁ、俺も言い過ぎだったと反省している。アイツが妹関連で激昂するのは九校戦の時に知っていたにも関わらず、迂闊にも感情を昂ぶらせるような発言をしてしまった。
あの会話の後、キチンと頭を下げて謝罪をした。それを見た司波も冷静になったのか、俺と同様に謝罪を返して一先ず和解と言う形で収まった。
同時に何とか俺の副会長就任を認めるも、『深雪に何かあれば即座に駆け付けさせてもらう』、との捨て台詞を残して風紀委員会本部へと向かった。
以上が、発足後に起きた出来事だ。まだ語り足りないがここまでにしておく。
さて、俺の仕事は昼休み前に終わったから、食堂に向かう修哉達の為に席を確保しておこう。
ついでに言っておくと、今日は突然職員室から『一昨年の記録を出せ』と言われた為、授業を途中で切り上げて生徒会室でデータベースを検索していた。副会長の俺だけでなく、他の生徒会メンバーも同様にだ。
そんなのは放課後にしてくれよと内心思いながらも、副会長としての責務を果たす事にして、俺が検索する分は問題無く終わっている。
「ええ!? 兵藤君、もう終わったんですか!?」
俺が終わった事に気付いた新・書記の光井が凄く驚いたように言った。
彼女も俺と同じくデータベース検索をしているが、慣れないシステムだからか、まだ半分程度しか終わっていない。
「兵藤さん、出来ればほのかを助けてあげて。このままだと、昼休みが過ぎちゃうから」
「ああ、そう言えば君等も兄の司波達と一緒にランチを取っているんだったな」
北山からのお願いに俺は思い出した。彼女と光井、そして司波妹はE組の司波達と昼食を取っている事を。
因みに部外者である北山が此処にいるのは、光井の手伝いとして来ていた。けど、彼女も慣れないシステムに手間取っていた為、検索速度は光井と大して変わらない。
「分かった。それで光井、どこら辺までやったんだ?」
「は、はい! えっと、ここまで進んだんですが……」
彼女達を置いて先に行くのは気が引けるから、彼女達を手助けしようと、即座に検索してデータを引っ張り始めた。
「凄いですね、兵藤くん。生徒会に入ったばかりなのに、もう使いこなしているなんて」
光井の隣で同様の作業をしている司波妹が、システムを理解してるように使ってる俺を見て只管感心していた。
「こう言った作業は、それなりに得意でね。はい、完了っと」
「速っ!」
「……どうやったらそこまで出来るの?」
開始して数分も経たない内にデータ検索を終えた事で、光井と北山が信じられないように俺を見ている。
「そんな事より、残りの抽出は光井と北山でも簡単に出来るだろう? 早くしないと司波とのランチに遅れるよ」
「あ、そうだった!」
「ほのか、あと少し」
司波と聞いた瞬間、二人は目的を思い出したかのように作業を再開する。
そして放課後に再び生徒会室に来た際、司波妹と光井から昼休みの時間に遅れる事無く司波達と合流出来た事を感謝されるのであった。