放課後に生徒会の仕事をしている最中、面白い情報を耳にした。司波達也が論文コンペに参加する事が決定したと。
論文コンペ。正式名称は『全国高校生魔法学論文コンペティション』。日本魔法協会主催で行われ、魔法学、魔法工学の研究成果を大学、企業、研究機関などに向けて発表する場である。
細かな説明は省くが、毎年十月の最終日曜日と決められており、開催地は京都か横浜で交互に行われるらしい。今年行われるのは横浜国際会議場だそうだ。
参加するのは市原の他に、五十里啓と三年の女子生徒――平川小春となっている。しかし、その平川が今回諸事情によって不参加となってしまった為、その代役として司波が選ばれた。
それらの情報を知る事になったのは、元生徒会メンバーの市原鈴音が生徒会室へ来た時だ。突然の来室に中条が驚くも、彼女が来た目的は司波達也に用がある為に捜していた。
風紀委員会本部にいなかったから、生徒会室にいるんじゃないかと思ったらしい。確かに彼女の言う通り、生徒会には司波妹がいるのだから、そう考えるのは至極当然だろう。尤も、司波兄は図書館にいると判明した為、そこを司波妹が市原の伝言を預かって(凄く嬉しそうに)向かう事となった。
そして市原は五十里を連れて生徒会室を出た後、司波の論文コンペ参加すると結果報告が帰ってきたと言う訳である。
今回のイベントは夏の九校戦と違い、
「司波が論文コンペの代表に選ばれた?」
「凄いじゃない。九校戦と違って、全校で三人だけしか選ばれないのに」
下校し、行きつけとなっている喫茶店で、俺は生徒会で得た情報を修哉と紫苑に教えていた。時期が来るまで口外してはいけないと言われてないから。
恐らくだが、司波の友人達も参加する本人から聞いて、今頃は驚きを示しているだろう。俺の予想では、幹比古あたりが真っ先に反応すると見ている。
「アイツが選ばれるなら、リューセーも選ばれておかしくないと思うんだけど」
「生憎、俺はそう言った物に興味無いから、誘われたところで断ってるよ」
やろうと思えば出来るが、それは
研究と言えば、
っと、少し話が逸れたな。ともかく俺は論文コンペに参加する気は毛頭無い。どこぞの軍や組織は、九校戦で俺が使った(
もしも参加するとしたら、
『ディテクター』とは、ドラグソボールのフリーズ一味が使っていたモノクル型電子機器で、様々な機能を持ち合わせている。目標の存在位置を特定する『索敵機能』、目的の距離や方角を算出する『誘導機能』、相手の強さや能力などを調べる『分析機能』、同機種間での無線音声通話および任意通信傍受をする『通信機能』。使用者に様々なサポートをする非常に便利な機械で、俺やイッセーは勿論の事、ドラグソボールのファンだったら是非とも使いたい夢の装備だ。
それを人工型
あの時は理想の『ディテクター』を作る為に様々な機能を付けようとしたのが原因だった為、思うように量産出来なかったのだ。特に大変だったのが戦闘時による『分析機能』で、測定不能になっても爆発しないよう改良を重ね続けたのが仇となっていた。まぁそれも今となっては大事な思い出の一つだが。
そんな思い出があったから、俺はこの世界で一般用もしくは魔法師用の『ディテクター』を作製しようかどうか悩んでいる。あくまで探知に関する機能だけを限定すれば、俺一人だけでも作製する事は出来るのだが……一番の問題は費用だった。今の俺は
「まぁ、論文コンペは司波がやるから、俺には関係の無い話だ。それよりも」
無関係な俺達が論文コンペについてああだこうだ言っても何の意味も無いので、俺は話題を変える事にした。
修哉と紫苑は俺が何を言おうとしているのを気になるのか、聞く姿勢となっている。
「紫苑、あのバンドを付けて一ヵ月以上になるが、今はどうだ?」
「最初は身体が重かったけど、今はもうすっかり慣れたわ」
全然問題無いと強調する紫苑を見るも、一切強がっていない事が分かった。
今もバンドによって身体に負荷が掛かっている筈だが、持ち前の魔法力によって何とも無さそうだ。
「ったく、俺の時は凄く大変だったのになぁ……」
自身が初級用バンドを使った時の事を思い出してる修哉は、紫苑を羨ましそうに見ていた。
こればっかりは仕方がない。魔法力によってバンドの負荷が作用されるため、紫苑より魔法力が低い修哉ではどうしても重くなってしまう。
しかし、既に中級用バンドを問題無く使ってる今の修哉は、身体能力だけでなく魔法力もそれなりに向上している。入学する前と比べれば差が全然違うと断言出来るほどだ。
「そう言うなよ、修哉。お前も充分に強くなってるから」
「毎回剣道部で叩きのめされてるリューセーに言われても、いまいち実感が湧かないよ」
「ふむ……」
確かに修行とは言え、未だ俺に一本も当てる事が出来ない修哉としては、そう思わざるを得ないか。
ならば自信を付けさせる為に、バンドを外した状態で誰かと手合わせさせれば良いんだが……肝心の相手が見付からない。
主将の壬生は勿論、他の剣道部員達では修哉の相手にならない。やらせるとしたら剣術部の桐原だ。機会が訪れたら頼んでみるとしよう。互角の勝負、もしくはそれ以上になるかもしれない。
「じゃあ今度、俺がお前の実力に見合う相手を呼ぶから、その時まで待っててくれ」
「その相手って?」
「まだ考え中だから明かせない」
桐原と言いたいが、まだ確定してない状態で教えるのは不味いから時期が来たら明かす事にした。
「さて、それは今横に置いておくとして」
「出来れば置いとかないで欲しいんだが……」
再び話題を変えようとする事で修哉がジト目で睨むも、俺は敢えて気にせず話を続ける。
「二人の魔法力が向上してるのを見て、そろそろアレを教えても良い頃合いだと思っている」
「何を教えてくれるの?」
気になる内容だったのか、紫苑が少し身を乗り出しながら訊いてきた。
俺はニヤリとしながら――
「CAD一切無しでも使える飛行魔法――『飛翔術』を、な」
「「!?」」
トーラス・シルバーが開発した飛行魔法と異なる術を教えると言った途端、紫苑だけでなく修哉も目を見開いていた。