再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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今回は別視点での内容で、いまいち分かり辛い内容かもしれません。


横浜騒乱編 幕間

 喫茶店で隆誠が友人の修哉と紫苑に『飛翔術』について語った数時間後、とある一軒家では重大な話をしていた。

 

『そうだ特尉、私からも訊きたい事があるのだが』

 

「何でしょう?」

 

 場所は司波家。そこは当然、司波達也と司波深雪の兄妹が住んでいる家だ。

 

 そのリビングにある電話機を使って、達也は独立魔装大隊司令部の秘匿回線に連絡していた。

 

 少し前に司波兄妹の母親、正確には義母である司波(しば)小百合(さゆり)が訪れて達也に仕事の依頼をしたが、複雑な関係であるが故に結局諦める事となった。

 

 小百合が自動運転のコミューターで駅に向かう途中、黒い自動車に乗ってる正体不明の密入国者に襲われるも、まるで予想していたかのように達也が撃退。だがその途中、長距離からの超音速で飛来する凶弾を受けてしまうも、達也は即座にとある魔法(・・・・・)を使い、すぐに態勢を立て直して狙撃手を始末。その際、撃退した密入国者達が回収され、黒い自動車に逃走されてしまい、小百合を襲った襲撃者の正体も判らず仕舞いとなってしまった。

 

 襲撃によって気絶していた小百合が目覚め、自分が先程まで狙われていた事を理解した途端に顔を蒼くし、依頼をする予定だった聖遺物(レリック)を達也に押し付けて、到着した駅で別れた。

 

 そして達也は自宅へ戻り、襲撃があった件を独立魔装大隊に状況報告。一通りの報告を聞いた風間は眉を顰めるも、襲撃で撮影された街路カメラの処理の他、襲撃に使われた黒い自動車の処分を行うとの事で話は終わる。

 

 すると、まるで思い出したかのように風間が達也に別の事を訊こうとしていた。

 

『兵藤隆誠にはチョッとした噂があったそうだな。何でも、九校戦後の夏休み中に金沢へ足を運び、一条将輝と会ってピラーズ・ブレイク決勝の再戦をしたとか』

 

「……はい」

 

 達也は返事をするのに少しの間を要した。あの時の再現だと思い出しながら。

 

 学校内でしか話してない内容である筈なのだが、一体何処で知りえたのかと流石の達也も少しばかり知りたくなるも、この上官の前では無意味な事だと諦める事にした。

 

『彼に関して目ぼしい情報があれば連絡して欲しいと、特尉に言っておいた筈だが?』

 

 風間、もとい独立魔装大隊は隆誠への警戒感が達也並みの過大評価をしている。

 

 隆誠が九校戦で圧倒的とも言える魔法力や身体能力を披露した事で、十師族の九島烈から大層気に入られている。他の魔法師からすれば、色々な意味で信じられないと声高に叫ぶだろう。

 

 既に軍を引退し、師族会議議長を降りている身であるとは言え、九島烈と言う老人は未だに日本魔法師協会で強い影響力がある。そんな超大物が魔法師の卵である隆誠が大活躍と言えるべき試合を欠かさず見て、後夜祭では凄く親しげに会話していた。これによって、隆誠は完全に注目の的になっている。

 

 だが、それとは別に風間は不審な点があった。九島と隆誠には何らかの繋がりがあるのではないかと。

 

 そう考えたのは、九校戦のミラージ・バットの競技中、無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)が刺客として会場に送り込んだ『ジェネレーター』の件である。監視していた藤林達がいたにも拘わらず、ジェネレーターと隆誠を突如見失うと言う失態を犯した後、九島の部下が監視対象(ジェネレーター)を拘束した。まるで嘲笑うかのような展開となった事で、風間は九島と隆誠が繋がっているのではないかと疑っている。

 

 一応、風間の方で九島に尋ねるも、当の本人には単なる偶然だと白々しい返答をされる始末。想定していたとは言え、事実無根だと主張してくる老人に少しばかり不快に思う最中、またしても予想外な事が起きた。無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)がいる拠点に向かわせた藤林からの報告で、幹部達が消息不明になったと。そして、またしても九島の部下が無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)の幹部達を一網打尽にし、更には機密情報を入手したとの話を聞いて、風間の九島と隆誠に対する疑念が更に深まった瞬間となる。

 

 ここまで予想外な出来事が立て続けに起こると、まるで九島と隆誠の掌の上で踊らされてるみたいだと風間は苛立ちを覚えそうになった。

 

 その為、風間は達也に命じたのだ。『片手間でも構わないから、兵藤隆誠に関する情報を入手したら報告して欲しい』と。

 

「申し訳ありません。未だ確証が無かった為、下手に報告すれば少佐に無駄足を踏ませてしまうと思いまして」

 

 否。達也は確証があった。と言うより、既に知っていた。四葉家当主――(よつ)()真夜(まや)より、その情報を得ていたから。

 

 

 

 

 

 

(俺もそろそろ寝るとするか)

 

 九校戦が終わった後、夏休み中に雫から小笠原の別荘に行かないかと誘われて準備をしていた。

 

 今日も女性陣の買い物に付き合わさせられて、達也は内心疲れていながらも、敢えて表情に出さなかった。

 

 既に夜中であり、深雪は買い物ではしゃいで疲れた為か、既に自身の部屋で眠っている。

 

 達也は旅行以外にやる事がある為にリビングにいて、残りは明日でも問題無いと思って就寝準備に移ろうとした。

 

 すると、いきなり電話が鳴った。普通に考えれば、こんな夜遅くに電話するのは非常識だと憤ってもおかしくない。

 

 だが、達也はそんな事を微塵も考えないどころか、一気に緊張感が走った。今鳴っている着信音の他、電話機には自分がよく知ってる人物の名が表示されているから。

 

 一切慌てる事無く電話に出ると、画面には妙齢と思わしき女性が椅子に座っており、その後ろには初老の男性執事が控えていた。

 

 その二人は達也が良く知っている人物である。女性は四葉家当主――四葉真夜であり達也の叔母。男性執事は四葉家に使える執事――()(やま)忠教(ただのり)

 

『こんばんわ、達也さん。こんな夜分に電話してごめんなさい』

 

「いえ。こちらこそ、このような不躾な格好で大変申し訳ありません」

 

 謝ってくる真夜に達也は気にしてないどころが、逆に謝罪していた。

 

 四葉家当主である彼女と話をするのは、例え身内と言えども正装で対応しなければならない。それを分かっていながらも、達也は相手が真夜だと分かっても電話に出らざるを得なく、こうして謝罪しているのだ。

 

「すみませんが、深雪は今眠っていますので、すぐ起こしに行きます」

 

 本当は眠っている深雪を起こしたくないのだが、相手が真夜であれば話は別だった。

 

 達也が行動に移そうとするも、それを見た真夜はすぐに止めようとする。

 

『その必要はありませんわ。今日は達也さんに御用があって電話しましたの』

 

 てっきり用があるのは深雪だと思っていた達也だったが、予想外の台詞を聞いた為に動きが止まった。

 

 だが、それも束の間で、すぐに姿勢を正そうとする。

 

「叔母上、俺に御用件とは一体何でしょうか?」

 

『その前に達也さん、先日の九校戦はお見事でした。叔母として誇りに思いますわ』

 

「恐縮です」

 

 四葉家当主である真夜から称賛の言葉を頂いた為、達也は恐れ多いように頭を下げる。

 

 そうしながらも、内心疑問を抱いていた。以前は目立つような行動はするなと言っていたのだ。なのに表舞台の九校戦に出場すれば叱られてもおかしくない筈だが、逆の展開となっている。流石の達也も、これには疑問を抱かずにはいられない。

 

 とは言え、真夜が何を考えているか分からない以上、達也はその言葉通りに受け取る事にした。

 

『その他に、中々興味深い選手がいましたね。確か達也さんと深雪さんがいる第一高校の生徒で、お名前は……兵藤隆誠、だったかしら』

 

「!」

 

 達也は即座に気付いた。真夜が今回電話してきた理由について。

 

 隆誠の名前が出たと同時に、ある事を思い出す。新人戦ピラーズ・ブレイクに出場した隆誠が、光の収束魔法を使って勝ち進んでいた時の事を。特に驚かされたのは一回戦で、真夜が使う魔法『流星群(ミーティア・ライン)』に少しばかり似ていたのだ。

 

 もしかしたら真夜から何かしらの連絡が来るんじゃないかと予想していたが、それが見事に的中した。出来れば当たって欲しくなかったと内心思うも、こうして連絡が来た以上そうもいかない。

 

『聞いた話では、彼は老師に随分気に入られてるみたいですね。十師族でもないのに、あれ程の強さを見せられたら当然でしょうけど』

 

 すると、笑みを浮かべている真夜が少しばかり変化した。更に笑みを深めてるだけなのだが、先程と比べて雰囲気が段々と変わり始めている。画面越しである筈なのに、達也は何故か空気が少しばかり重くなったと感じているも、敢えて何も口にしない。

 

『達也さん、貴方は兵藤隆誠がピラーズ・ブレイクで使っていた魔法を見ていた筈です。その時に貴方の「眼」はどのような結果が出ましたか?』

 

 魔法を見るだけで起動式を読み取り、魔法式を解析する事が出来る『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』ならば分かった筈だ。真夜は暗にそう口にしている。

 

 これでもし達也が、『流星群(ミーティア・ライン)』同様の術式であったと答えた瞬間、真夜は四葉家として命令を下すだろう。兵藤隆誠とその家族を密かに捕縛し、どうやって術式を得たのかを強制的に吐かせる為の命令を。

 

 兵藤隆誠は相当の実力者であるが、一般家庭に生まれた魔法師に過ぎない。九島のお眼鏡に叶った人物とはいえ、十師族でない一般人を秘密裏に消すのは、四葉にとって造作も無い事だった。

 

「残念ですが、俺の『眼』では、兵藤の使った魔法の術式が全く視えませんでした」

 

 達也からの予想外の返答が来た事により、真夜だけでなく、彼女の背後に控えている葉山も眉を顰めていた。

 

『……私の記憶が確かなら、「精霊の眼(エレメンタル・サイト)」はあらゆる魔法の術式を解析出来る筈ではなかったかしら?』

 

「俺もそう思って兵藤の魔法を何度も視たのですが……誠に恥ずかしながら、起動式すら全く分からず仕舞いでして……」

 

 常にはっきりと答えている達也だが、こればっかりは歯切れが悪い返答をせざるを得ない。

 

 これまで解析出来ていた『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』が全く機能しなかった事に、達也は思わず自分の能力に疑念を抱きそうになる程だった。

 

 何度試しても、隆誠の魔法をいくら視ても結果は変わらず、結局は判明出来ないと言う前代未聞の結果となってしまった。

 

『そうですか……。まさか、達也さんの「眼」ですら分からないとは』

 

「叔母上のご期待に添えられず、誠に申し訳ありません。この度は、いかなる処分も受ける覚悟です」

 

 自身の不甲斐無さを恥じるように深々と頭を下げて謝罪する達也。

 

 今回は間違いなく真夜に失望されたと達也は考えている。下手をすれば深雪のガーディアンから外される事を考慮しなければいけない。四葉家当主の期待に応えられなければ終わりだと分かっているから。

 

 だが――

 

『そこまで気負う必要はありません。貴方は私の甥で、姉さんの息子なのですから、処分なんて物騒な事はしませんわ』

 

 真夜は達也に失望する事無く、不問に付すこととなった。

 

 大事な家族として慈しむように言われるも、達也は内心疑問を抱く。失態を犯した筈なのに、何故こうもあっさりと見逃してくれるのかと。

 

『ですが達也さんの心情を考えれば、是非とも汚名返上したいでしょうから、機会を与えようと思います』

 

「ありがとうございます」

 

 真夜より機会を与えられると聞いた瞬間、達也は口では感謝しながらも、内心すぐに理解した。失態を犯したなら、挽回する為の功績を作るよう仕向けたのだと。

 

 達也はそれに逆らう事が出来ない為、当主の命令に従う選択肢だけである。四葉に連なる者である以上は。

 

 一体どんな命令を下すのかと思いながら、達也は真夜の言葉を待つ。

 

『九校戦終了後、こちらの方で兵藤隆誠を独自に調べていたのですが、少々面白い情報を得ました』

 

「面白い情報、ですか?」

 

『ええ。何でも、兵藤隆誠は一条家が守護している金沢へ行き、一条将輝とピラーズ・ブレイクの再勝負をしたそうです。報告によりますと、その時に使った魔法は達也さんの「分解魔法」と似ていたとか』

 

「!」

 

 驚愕する達也を余所に、真夜は気にせず話を続けている。

 

 そしてこう命じた。兵藤隆誠扱う魔法の詳細を徹底的に調べるように、と。

 

 他にもある。真夜が得た情報は風間少佐に報告せず、タイミングを計って達也の方で噂を流すよう命じられた。理由としては、四葉が兵藤隆誠について調べてると独立魔装大隊の耳に入れば、後々面倒になるかもしれないとの事だ。

 

 何故そんな回りくどい事をするのかと達也は真夜に対して疑問を抱くも、命じられた以上やるしかなかった。




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