再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

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横浜騒乱編 尋問・戦闘

 西暦2095年10月25日

 

 

「ところで司波、論文コンペの準備は大丈夫なのか?」

 

「問題無い。俺の分担は仕上がっている」

 

 火曜日の放課後。護衛役の俺は司波と摩利、真由美と一緒に関本が拘留されている八王子特殊鑑別所へ向かった。

 

 あと五日と迫ってる論文コンペの準備は、正しく最後の追い込みとなってる筈だが、司波は仕上がってると言い返してきた。嘘を言ってる感じが見受けられないから、本当に問題無いのだろう。

 

 今回の面会にはエリカにレオに幹比古も行きたがっていたが、真由美達と一緒というのがネックだったようだ。けれど、司波だけでなく俺も護衛役として同行すると知った途端、エリカ達から抗議されると同時にお願いもされた。自分達も護衛役として連れて行って欲しいと。勿論、俺と違って役職が無いエリカ達の同行は認められない為、即座に却下させてもらった。尤も、委任状が四人分しかない為、結局は無理な話だが。因みに副会長の司波妹が俺に氷の微笑(ブリザード)を向けられるも、それを流しながら「文句は俺じゃなく、真由美さん達に言ってくれ」と言い返された事で押し黙る事となった。

 

 鑑別所に到着し、入り口で色々と手続きがあったが、中に入った途端に拍子抜けするほどフリーとなった。本来なら職員が同行される筈なのだが、真由美が十師族――『七草(さえぐさ)』の名を使ったからである。十師族は表向きとして民間人の扱いとなっている筈なのだが、やはりこう言った裏側では超法規的な特権を持っているのだと改めて認識された。

 

「達也くん、リューセーくん、私達はこっちよ」

 

 摩利を除き、真由美の案内で俺達が入った部屋に関本はいない。だが、隣の部屋に関本がベッドに座っているのが見えている。

 

 此処は対象が拘留されている部屋の中を伺い見る事が出来る隠し部屋だった。それは当然、向こうには見えていない。

 

 因みにそこにいる関本は、何の拘束も受けていない。単に病院の検査着と似た簡易的な服を身に纏い、今もベッドにジッと座っているだけだ。言うまでもないが、徹底的な身体検査を受けられている為、武器やCADを隠し持っているのはゼロだ。

 

 そんな中、壁に偽装された覗き窓の向こう側で扉が開いた。そして入って来たのは、さっき別れた摩利で、先程まで無表情だった関本が彼女を見た途端に驚愕を浮かばせた。

 

『渡辺……何をしに来た?』

 

 不審と警戒に塗りつぶされながらも、ベッドに座ったままの関本は左手首を擦っている。咄嗟的な癖になっているのか、取り上げられたCADを探しているのだろう。

 

『事情を聞かせてもらいに来た』

 

『い、いくらお前でも、ここで魔法は使えないぞ』

 

 関本は同じ風紀委員として、摩利の事をよく知っているのだろう。だが、それは魔法を使用しての手段な為、使った瞬間に監視システムが作動するから、彼はそう指摘したのだろう。

 

『そうか?』

 

 尤も、それは監視システムが正常に機能していればの話だった。本来あり得ないのだが、隣にいる真由美が『七草』の権力を使って一時的に停止させているのだ。

 

 直後に摩利が魔法を発動させ、気付いた関本が慌てて息を止めるも、既に手遅れだった。

 

「匂いを使った意識操作ですか」

 

「と言うより、アレは洗脳同然の魔法ですね」

 

 隠し部屋で見ている司波と俺は、摩利が何をやったか一目で理解した。

 

 この手の方法は魔法が発達する以前から医学的に解明されている。特殊な香料を嗅がせる事で心理的抵抗力を低下させ、強制的に知覚させる為の自白剤と同様の効果を生み出せる物もあった。摩利はそれを魔法として代用している。

 

「達也くんとリューセーくん、見るのは初めて?」

 

 真由美からの問いに俺と司波は頷いた。

 

『デモ機のデータを吸い上げた後、司波の私物を調べる予定だった』

 

 俺達が倫理的に問題がありそうな魔法である会話をしてる中、俺達は関本の自白を聞き逃していない。

 

『何が目的だったんだ?』

 

『宝玉の聖遺物(レリック)だ』

 

 目的を問う摩利に、関本から予想外の返答が返ってきた。

 

 聖遺物(レリック)とは、魔法的な性質を持つオーパーツを意味している。以前にブランシュが使っていた『アンティナイト』も分類されている。因みに俺がブランシュのアジトにいる(つかさ)(はじめ)達を倒した際、保管されていたアンティナイトをくすねさせてもらった。と言っても一つだけで、『キャスト・ジャミング』を解析する為の研究用資料として。

 

 それは当然、軍事物資とされている為、一般人の俺が持っていたら問題になってしまう。尤も、キャスト・ジャミングの解析を終えた後、既に処分している。聖書の神(わたし)能力(ちから)によって、跡形も無く消滅済みだ。

 

 バレたら面倒な物であるレリックを、まさか司波も持っていたとは予想外だ。まぁコイツの場合は別に問題無いだろう。例えバレたところで、司波の所属先である独立魔装大隊によって隠蔽されるのが目に見えてる。

 

「達也くん、そんなの持ってたの?」

 

 目を丸くして真由美が問いかける。

 

「いえ、持っていません」

 

 即座に否定する司波だが、絶対に嘘だと何となく分かった。

 

 能力(ちから)を使わなくても分かる。どんなに鎌をかけても、司波は全くと言っていいほど顔に出さないどころか、言葉巧みに誘導させてしまう。俺も以前の九校戦で見事にしてやられて、本気で腸が煮えくり返る程だった。

 

 だから俺は思わず司波の言葉を疑ってしまう。人としてそれはどうかと思われるだろうが、一度騙された身である為、簡単に信用出来ない。コイツが俺にそうさせたのだから。

 

「だが向こうは、明らかに持ってると確信してるような返答だったぞ」

 

「少し前に俺が『賢者の石』絡みでレリックの事を調べていたから、それを勘違いしたんだろう。七草先輩はご存知でしょう?」

 

 今度は俺が問うと、司波は相も変わらず顔に出さないで、尤もらしい事を言ってきた。真由美は心当たりがあるのか、そう言えばみたいな感じで思い出している感じだ。

 

 理由があるとは言え、俺には単なる口実のようにしか聞こえなかった。あくまで勘だけど、恐らく噓かもしれない。と言っても追求する判断材料が無い為、此処は敢えて見過ごすしかなかった。今は関本の自白内容を聞く事が先決だから。

 

 そう考えながら会話を聞く事に意識を向けた直後、八王子特殊鑑別所内に非常警報が鳴り響いた。

 

「達也くん、リューセーくん!」

 

 警報を聞いた俺達はすぐに隠し部屋から出て、少し経ってから関本が拘留されてる部屋にいた摩利も出てきた。

 

「侵入者ですね」

 

 天井にあるメッセージボードを見て司波が言う。真由美と摩利もそれを見て事実と確認した。

 

「どうやら此方が狙いのようです」

 

 対して俺はボードを見る事無く、中央階段の方へ視線を向けながら言った。

 

 真由美と摩利、司波は揃って俺の方へ視線を向けてる先に、大柄な男が姿を見せた。俺や司波より頭一つ上の身長があり、よく引き締まった身体は鈍重さの欠片も無い。見るだけで相当な手練れであるのがよく分かる。

 

(ルゥ)剛虎(ガンフゥ)

 

 摩利が目の前の男を知ってるように名を呟いた。初めて聞く名である為、俺と真由美に心当たりは無い。司波は相も変わらず厳しい表情のままだが、軍に属してるから、恐らく知っていると判断して良いだろう。

 

 見るからに厄介そうな相手かもしれないが、それでも聖書の神(わたし)が全力を出してまで戦う必要は無い。実力に関して、前世(むかし)の頃に戦っていた『禍の団(カオス・ブリゲード)』の英雄派――ヘラクレスより数段劣っているってところだろう。勿論、神器(セイクリッド・ギア)無しでの実力で、な。

 

 俺の考えとは他所に、こちらを向いて歩いていた(ルゥ)が、俺たち四人に目を留めた。厳密に言えば、奴の視線は摩利へ向いている。

 

「この場は逃げるべきなのですが」

 

「どうやら少し遅かったようですね」

 

 そんな中、俺と司波は一瞬目が合った後、淡々とした口調で真由美達の前に出た。

 

 態々口に出さなくても分かっている。奴は二人で倒すべき相手であると。

 

 呂へ向かって歩き出す俺達の肩に、摩利の両手が掴んで阻止された。

 

「あたしが前に出る。君達は真由美のガードを頼む」

 

 おいおい、と俺は少しばかり呆れた。司波も似たような感じが見受けられる。

 

 彼女の表情からして呂とは何か因縁があるかもしれないが、一人で戦おうとするなんて無謀だ。俺からすれば大した相手ではないと言っても、この世界の人間から見れば圧倒的強者の一人だ。

 

「摩利、気を付けて」

 

 だが意外な事に、真由美は摩利の提示した内容に賛成のようだ。本当なら止めたいところだが、今は内輪揉めしてる場合でない為、後輩である俺と司波は引き下がるしかなかった。

 

「司波、もしもの時は……」

 

「ああ……」

 

 俺が小声で呟くと、それを聞き取った司波が頷いた。摩利がやられそうになった瞬間、俺と司波はいつでも動けるように構えている。

 

 信用出来ない相手だと言っても、緊急時に関しての戦闘は別だ。それは当然コイツも同様の事を考えているだろう。

 

「ただ者でないのは分かってるさ」

 

 此方の会話が聞こえなかったのか、前を向いたまま軽く上げられた摩利の左手が、自身のスカートを叩くように後ろから前へ勢いよく振り下ろされ、振り上げた。それによりスカートが大きく捲れ上がり、太腿に巻いていたホルスターに収納されていた得物を引き抜く。それは折り畳み式のように、まるで二枚の短冊を細いワイヤーで繋がれた小型剣だった。

 

 得物を出して構えた摩利に、呂は身体を前に垂らすように構えながら突進していく。

 

 二人の戦いが始まったかと思いきや、先に仕掛けたのは俺と司波の後ろにいる真由美だった。

 

 左右の壁と天井から魔法陣が浮かびあがり、そこから無数の白い弾丸が呂に目掛けて降り注ぐ。

 

 それを直撃してるにも拘わらず、呂はダメージを一切受けてないように前進している。恐らく奴の身体には、敵の攻撃を防ぐ情報強化の魔法を施しているのだろう。普通なら怯んでもおかしくない威力だが、流石と言うべきだろう。

 

 対して摩利は真由美からの援護を受けながらも斬撃を仕掛けようとする。呂は素手で受け止めたが、当たった瞬間、鈍い金属音がした。あんな音を出すと言う事は、相当な硬さである事を証明される。

 

 斬撃を防いで呂が反撃するかと思いきや、途端に奴は顔を仰け反らせた。そうしたのは、摩利が手にしてる小型剣の刃が二つに分離して、自身の顔に当たろうとしていたから。

 

 直後、真由美の第二射が放たれるも、呂が即座に大きく後方へ跳ぶ。奴の判断は正しかった。もしも直撃したら、無数の傷跡が刻まれる床と壁みたいな事になっただろう。第一射と違って細かく、硬く、速度もあり、貫通力が倍増していた物だったのだ。

 

 ここで呂は先程と違って人間らしい表情が浮かんでいた。まるで信じられないと言った感じだ。恐らく奴は、たかが学生、益してや女子高生相手にここまで手間取るとは予想だにしなかったのだと予想する。

 

 すると、呂は考えを改めたかのように、己の全身を覆って何層もの想子(サイオン)情報体が構築された。障壁魔法を強化した、と言ったところか。その証拠に真由美が第三射が放たれても、全て簡単に防がれていた。威力は第二射の時と同じである筈なのに。

 

 防御を強化し終えたのか、呂が再び突進しようとする。摩利は二枚の刃を直線上に固定して迎撃の構えを取るも、接触する瞬間、呂の姿が消えた。そして現れた瞬間、此方へ向かってくる。

 

 どうやら奴は摩利を後回しにして、先程から何度も援護してくる真由美を先に始末しようと考えたのだろう。

 

 それは正しい判断かもしれないが、間違いでもあった。何故なら真由美の前に俺と司波がいるから。

 

「リューセーくん!」

 

 既に身構えてる司波から一歩先に出た俺が構えた事に、目を見開いてる司波とは別に真由美が叫んだ。

 

 だが俺は気にせず、構えてる右の拳を猛烈な勢いで繰り出した。

 

「ごっ!」

 

 呂は途端に表情を歪め、突進していた足を止めた。まるで何かに当たったかのように、両手で腹部を押さえている。

 

 他にも、展開されている障壁魔法も完全に無くなっている。呂は何故と言わんばかりの様子だ。

 

 予想外の光景だったのか、司波や真由美、そして摩利が呂の姿を凝視するばかりとなっている。

 

 だが俺は気にせず、構えていた拳を下げて、今度は力強くキッと睨んだ。

 

「ぎっ!」

 

 その瞬間、呂は吹っ飛ばされるも、即座に態勢を立て直して、地面に両足を付ける。

 

 さっきまで当てたのは『遠当て』で、以前相手した『ジェネレーター』を倒せる威力で放ったのだが……予想以上に頑丈な奴だった。普通の人間なら、確実に骨がバラバラになってもおかしくない筈なんだが。

 

 尤も、今の奴は立つのがやっとみたいな状態だ。それでも何とか足を動かそうとするも、無駄な努力に過ぎない。もう奴は既に詰んでいるのだから。

 

 呂の背後から摩利が襲い掛かり、左手で振り上げた小型剣から二枚の刃が突然抜けた。短冊形となってる刃はクルクル回りながら、呂の頭上に達している。

 

 直後、摩利の右手が突き出され、そこから黒い粉が呂の頭部に向かって飛ぶ。

 

 気付いた呂は振り返り咄嗟に目と鼻を庇うも、黒い粉が燃焼した事で、奴の周囲は低酸素状態となった為に呼吸困難で動けなくなる。

 

 完全に隙だらけとなってる呂に、摩利はワイヤーのみとなっている左手の得物を振り下ろした。ワイヤーだけでなく、頭上に浮いている刃も同時に落ちていく。呂は辛うじて摩利の振り下ろすワイヤーを躱すも、二枚の刃が呂の肩と背中に食い込んだ。その攻撃が決め手になったみたいで、呂は遂に崩れ落ちて意識を失う事となった。




久々にリューセーの戦闘でしたが、達也の見せ場だけを取って、後は摩利が決めると言う、殆ど原作同然の流れとなってしまいました。

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