再び転生した元神は魔法科高校へ   作:さすらいの旅人

98 / 223
横浜騒乱編 事後処理

 呂が倒れた後、駆け付けた警備員達によって拘束される事となった。

 

 普通なら戦闘をした俺達に事情聴取される筈だが、そこは真由美、ではなく『七草』の権力で素通りされた。こういう時は便利なモノだと思いながらも、俺達は特殊鑑別所を後にした。

 

 ゲートを出たところで、さっきまで黙っていた司波が俺に話しかけた。

 

「兵藤、お前が使った『遠当て』は魔法なのか?」

 

「いきなり何だよ」

 

 司波からの質問に俺は訝る。

 

 真由美と摩利も気になっているのか、敢えて何も口にせず黙って聞いている様子だった。

 

「あの時の呂剛虎は、障壁魔法による強化を施していた。七草先輩が放った魔法を簡単に防ぐほどの鉄壁だったにも拘わらず、お前はソレを簡単に貫いた。『遠当て』は謂わば『見えない衝撃波』と言う物理攻撃だから、本来であれば対物障壁魔法で防がれる筈だ」

 

 ほう、成程ね。そう来たか。

 

 どうやら司波は俺の放った遠当てが、実は魔法ではないかと疑っているようだ。

 

 確かに呂剛虎が使った障壁魔法は、どんな系統魔法や物理攻撃が簡単に通用しない程の防御力だった。並みの魔法師程度では絶対に破る事は出来ないだろう。司波がそう考えるのは無理もなかった。

 

 だが、それはあくまでこの世界にいる魔法師の視点によるものだ。残念だが司波の考えは大ハズレである。俺の遠当ては決して魔法じゃない。前世(むかし)の頃、大好きなドラグソボールを見て再現した技だ。因みに前世の(イッセー)も使っていた。

 

 遠当ては自分より格上相手だと牽制(ジャブ)程度の攻撃に過ぎない。けれど逆に自分より格下相手だと、相当重い一撃となる。加えて、『遠当て』に聖書の神(わたし)のオーラをチョッとばかり加えると、魔法師が施した情報強化すら貫く事が出来る。呂剛虎の障壁魔法の鎧を剥ぎ取るかのように。

 

 そう考えれば、司波が使う術式解体(グラム・デモリッション)と似てるかもしれない。だから司波はマナー違反だと分かっていながらも、改めて俺が使う『遠当て』の詳細を訊こうとしてるのだろう。自分と似た魔法を使うのなら、非常に面倒で厄介極まりない相手だと思いながら。

 

「お前が俺の『遠当て』をどんな風に見てるのかは知らんが、取り敢えず『違う』とだけ答えておく」

 

 普段人の事をコソコソ調べてる司波の質問に答える気は無いが、真由美と摩利が気になってる表情をしてるので、二人の誤解を解く意味も込めて答える事にした。

 

 俺の返答に司波だけでなく、真由美と摩利も完全に信用した表情ではない。半信半疑、と言ったところか。

 

「そうか。ではもうついでにコレも訊いておきたいんだが」

 

「今度は何だよ」

 

 何か最近の司波は俺に対して遠慮が無くなってる気がする。

 

 まぁ、コイツもコイツで俺に踊らされてる事があるから、気遣う必要は無いと考えたのだろう。

 

「お前の『遠当て』は、十文字先輩の『ファランクス』すらも貫く事が出来るのか?」

 

「「!?」」

 

 司波からの質問に真由美と摩利がハッとするかのような表情となった。

 

 よりにもよって、此処でそんな事を訊くかよ。しかも十師族の一員である真由美の近くで。

 

 まぁぶっちゃけ言うと、聖書の神(わたし)のオーラを纏わせた『遠当て』で、十文字の『ファランクス』を貫く事は勿論出来る。実際に試した事がなくても、この世界の魔法は聖書の神(わたし)能力(ちから)を防ぐことが出来ないのは証明済みだから。

 

 出来ると素直に答えた瞬間、司波だけでなく真由美、そして後から知った十文字克人からも完全に俺を警戒する事になるだろう。『ファランクス』は十文字家の代名詞である為、それを破る事が出来ると世間に知られたら、十師族としても到底見過ごせない筈だ。

 

 司波がそれを意図して質問したのかは知らないが、どちらにしても余計な事を訊いてきた事に変わりはない。そろそろ本格的に釘を刺すことを考慮しておく必要がありそうだ。

 

「さぁな、試した事が無いから分からん。『ファランクス』は防壁を幾重にも作り出す多重移動防壁魔法だと聞いてるから、いくら俺の『遠当て』でも貫くのは流石に無理だろうな」

 

 十文字家に警戒されたくない他、名誉を守る為として、敢えて無理だと嘘を吐く事にした。

 

 その後は、これ以上の質問は受け付けないと言い切ると、今度は摩利の方から俺達にこう言ってきた。彼女が使っていた魔法剣技――『ドウジ斬り』については他言無用にして欲しいと。

 

 

 

 

 

 

 特殊鑑別所にいる関本の面会が中断となってしまった為、後日改めて行う事となった。呂剛虎の襲撃により、向こうは非常に大慌てな状態となっている為、翌日以降に再面会するのは流石に無理だと思うが。

 

 同行していた司波は多少の不満があるも、論文コンペの準備がある為、これ以上は無理だと判断して諦めるようだ。と言っても、どうせアイツの事だから、何処かで密かに情報を得ようとするんじゃないかと思う。独立魔装大隊を通じて、とかな。

 

 真由美から俺は学校には戻らず、このまま帰宅して休んでいいと言われた。勿論、特殊鑑別所で起きた件については一切他言無用であると念押しをされている。

 

 家に戻り、夕食と入浴も済ませて自分の部屋で寛いでいる時に、予想外の人物からの電話が入った。

 

『全く、君には本当に驚かされるばかりだ。まさか君が呂剛虎を捕らえた一人だったとはね』

 

「何処で知ったんですか……なんて、貴方には愚問でしたね、閣下」

 

 俺に電話してきたのは、九校戦を通じて縁が出来た老人――九島烈だ。

 

 携帯端末に表示されたディスプレイの名前を見た途端、何の冗談かと思いながら電話に出たら、本当に九島本人からの電話だった。

 

 俺としては色々忙しかった事もあって、論文コンペが終わってから彼に電話しようと考えていた。

 

「それで? 今もお忙しい筈の閣下が、学生の俺に態々電話してくるとは、一体どう言う御用件でしょうか?」

 

『なに、久しぶりに君と色々話をしたいと思って連絡したのだよ。私の話し相手になる気分じゃなければ、このまま切っても構わないが?』

 

「いえいえ、滅相もありません。俺としても、閣下にチョッとばかり訊きたい事もありますから」

 

 九島を尊敬してる人物がいれば、こんな軽口同然の会話シーンを見た瞬間に仰天確実だろう。

 

 にも拘らず、俺の態度に九島は不快にならないどころか、かなり楽しんでいるように声が弾んでいる。

 

『良かろう。では君の方から言ってくれたまえ』

 

「先程仰っていた(ルゥ)剛虎(ガンフゥ)とは一体何者なんですか? 見た感じ、軍人らしき雰囲気を感じましたが」

 

『らしきではなく、本物の軍人だよ。奴は大亜連合特殊工作部隊に所属していて、「人食い虎」と呼ばれる凶暴な魔法師だ。対人接近戦等で世界の十指に入ると称される程の強敵でもある。ついでに言うと、君が以前拘束した「ジェネレーター」如きとは比べ物にならないよ』

 

 成程。道理で普通の魔法師とは桁が違うオーラを感じた訳だ。

 

 俺の遠当てを受けても両足で立っていられるのには本当に驚いた。もう少し威力を上げれば確実に倒せるだろうが。

 

「そうだったんですか。まさかそんな恐ろしい相手だったとは……」

 

『その呂剛虎を捕らえた兵藤君も充分に恐ろしいと私は思うのだがね』

 

「別に俺一人じゃありませんよ。ウチの先輩方がメインで戦っていましたから」

 

 主に戦ったのは摩利と真由美だ。近接戦で挑む摩利を、真由美がドライアイスの弾丸で援護していた。俺はその手伝いをしただけに過ぎない。

 

『ふむ……まぁ、そう言う事にしておこう』

 

 そう言う事って……何か明らかに九島は俺一人でも倒せるんじゃないかと思ってそうだ。まぁ正解だけど、そこは敢えて何も言わないでおくとする。

 

『他に訊きたい事はあるかね?』

 

「えっと、そうですね。最近ウチの学校で大陸系の術師と思われる式神が執拗に探りを入れてるみたいですが、これも呂剛虎がいる大亜連合の仕業なんでしょうか?」

 

『我が国の術式でないのであれば、恐らく連中が送り込んだスパイの仕業かもしれんな』

 

「そうですか。因みにそのスパイ達の行方は判明したんでしょうか? 論文コンペを控えてる学生の俺達としては、非常に迷惑極まりないんですが」

 

『安心したまえ。今は此方が連中を拘束しようと動いてる最中だ。とある部隊から得た情報を元に調べている。あと数日で片が付くだろうが、それまではもう暫く辛抱してくれ』

 

「了解です」

 

 どうやら軍の方でも本格的に動いていたみたいだ。ならば俺が独自に調べて拘束する必要はないな。

 

 となれば、司波から貰ったメモリーキューブも渡す必要は無さそうだ。後で俺の方で処分しておこう。

 

「ところで閣下、こんな事を訊くのは凄い今更ですけど、学生の俺に軍で行ってる事を話しちゃっても大丈夫なんですか?」

 

『本来話してはいかんが、君や第一高校の生徒達は既に奴等の被害者であるから、それを知る権利は十二分にある。だがまぁ、私が話した事は内密に頼むよ』

 

「勿論そのつもりです」

 

 俺と九島は九校戦の件でチョッとした一蓮托生となってるから、誰にも話す気など毛頭無い。

 

「しかしまぁ、奴等の目的は一体何なんですか? まさかとは思いますが、三年前の沖縄海戦に関係しませんよね?」

 

 沖縄海戦とは、2092年の夏に大亜連合が日本の沖縄へ進攻した戦争である。詳細は大して知らないが、その時の戦争は日本が勝利し、大亜連合は深手を負って敗北。聖書の神(わたし)からすれば実に愚かしい戦争だった。

 

『どうであろうな。私としても、向こうが過去の屈辱をいつまでも引き摺っているとは思いたくないが』

 

 九島はそう言ってるが、もしかすれば俺と似たような事を考えているんじゃないだろうか。敗北したのを雪ぐ為に、再び日本に攻め入ろうとしてるんじゃないかと。

 

 けれど、だからと言って、学生である自分がああだこうだと言ったところで、如何にも出来る訳じゃない。後の事は軍に任せれば良いだけだ。

 

『まぁとにかく、魔法を学ぶ若人の君達は、限りある学生生活を謳歌するといい』

 

 要するに、後の事は全て軍に任せろって事か。

 

「分かりました。ではそうします」

 

 特に反対する理由がない俺は、言葉通り受け取る事にした。

 

 大亜連合の件について話が終わった直後――

 

『さて、今度は私からも君に訊きたい事があるのだよ』

 

「何でしょうか?」

 

 先程まで真面目だった九島の声が途端に変わり、今度は楽しげな感じになった。

 

 何故だろうか。急に嫌な予感がしてくる。

 

 すぐに電話を切りたい衝動に駆られるも、取り敢えず話を聞かないといけない。

 

『実は私の方で、チョッとした噂を耳にしたのだが……九校戦後の夏休み中に兵藤君が金沢へ足を運び、一条将輝君と会ってピラーズ・ブレイク決勝の非公式試合をしたと言うのは本当かね?』

 

 やっぱりそれか! 何で学校で流れた噂が軍にいるアンタの耳に入ってるんだよ!? どうせ司波辺りが漏らしたんだろうけどな!

 

 あ~やばいやばい。九島が楽しそうな声になってるって事は、内心チョッと怒ってるかもしれない。どうして自分に黙っていた、みたいな感じがするよ。

 

 こうなる事を考えて、前田校長から記録映像を貰っておいて良かった。それさえ渡せばどうにか機嫌が良くなる、と思いたい。

 

 取り敢えず教える前に、一条家が情報封鎖してる事を踏まえて、口外しないよう頼んでおかないと。何か仕方ないとは言え、剛毅がやってる事を無駄にしてるような気がする。

 

 あ、そう言えば剛毅で思い出したけど、前に金沢で観光した時に作った茶碗がまだ来てないんだよな。もう二ヵ月以上経ってるから、そろそろ届いてもおかしくない筈なんだが……何かトラブルでも起きたか?




取り敢えず原作の「横浜騒乱編〈上〉」は終わりで、次は「横浜騒乱編〈下〉」となります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。