花に月〜(無職転生だけど)コナ○騒動〜    作:麓63

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※あとがき部分に拙い挿絵を1枚付けています。
 イメージが壊れたり、限定される恐れもありますので、好まれない方はご注意を。





花に月〜コナ○騒動〜 1

ー1ー

 

とある迷宮に隠された魔石。

 

それを確保するのが、今回の任務だった。

迷宮といってもそう深いものでなく、攻略され尽くされてもう誰も見向きもしない。

そんな場所だ。

問題の魔石は、ちょっと手の込んだ隠され方をしていたうえ、ほかに目を引くマジックアイテムが残っていたりしたものだから、冒険者たちに気付かれないままに数百年放置されていたらしい。

場所や封印の解除法を知って入り、難なく見つけ出すことができた。

 

それは思ったより小さかった。

小指大の丸っこい円筒形、真ん中あたりで赤から白へと色彩が変わっている。

形状と色から、生前世界の薬剤カプセルを思わせる。

いや、内部には毒だか呪いだかが封じ込められているそうで、本当にカプセルと言えるのかもしれない。

 

外に出ると、石が木漏れ日を受けてキラリと反射した。

光を透かして内部の揺らめきがほの見える。

宝石類が結晶化する際、水分が入り込むことがあるという。

その魔石バージョンなのだから、かなりなレアものだ。

 

失くさないよう布に包んで、腰のポーチに仕舞っておこう。

 

その時。

大きな目眩に襲われ、たまらず俺はその場にうずくまった。

例えるなら、ジェットコースターの最初の急降下のような。背すじが、下半身のある部分がひゅっとなるような。

いわゆるタマヒュンだ。

 

収まるまでたっぷり数十秒。

恐る恐る目を開けて辺りを窺うが、木々に半分覆われた迷宮洞窟の入り口があるだけだ。

チュンチュンと、のどかな小鳥のさえずりが聞こえる。

平和なもんだ。

 

念のため警戒しながらゆっくり立ち上がると、不意に脚をなにかが掠めた。

つづいて感じる爽やかな風。

 

視線を落とせば、足首を取り巻く布の塊があった。

というか、これは俺がついさっきまで履いていたパンツとズボンだ。

 

コントかよ?!

いやいや、パンツまで脱いだらコントじゃ済まない。

もしここが天下の往来だったら、間違いなく変態露出魔だ。

……誰もいないよな? 

周囲をキョドキョド見回しつつ、素早くパンツを引き上げた。

 

おや? 

腰紐が随分とユルい。

脱げ落ちたのはそのせいかと、紐をぎゅうっと引っ張り結び直す。

ほかにも無視できないレベルの大きな違和感がいくつもあったが、ズボンを履くのが先だ。

すると……

 

なんということでしょう!

 

腰まで引き上げたにも関わらず、ズボンの裾は依然として折り重なり、半分近くが足元に残っていた。

しかもズボンを掴む自分の手は、見慣れたものよりひと回りふた回り小さい。

もともと袖まくりしていたアンダーシャツが、萌え袖どころではないレベルで指先まで届いている。

着ていたローブは脱ぎ落とされ、身体を囲むように地面に広がっていた。

 

 

混乱の極みから復活するまで、数分。

これは……ありえないことだが

ひょっとして、俺の身体が縮んでしまったとか?

服が急に巨大化したという線も捨てがたいが、視界も低くなったように感じる。

 

落ち着いて、大切な獲物を改めてポーチに納める。

ローブくらい身に付けたいものだが、丈が長すぎて引きずるだけだろう。

もたつくズボンもいらない。シャツの裾が膝まであるから、これで構わない。

いや、構いたいのだが、構っていられない。

それらをできるだけ小さくまとめて、バックパックの上に結わえ付けた。

魔導鎧でも着込んでいたら、それこそ大荷物になるところだった。

ちょっとしたお使い程度の仕事だと、軽装備で出てきたお陰でまだマシだ。

 

えっちらおっちら、転移魔法陣を目指す。

歩きにくいことこの上ない。靴のせいだ。デカすぎる。

いっそ裸足が楽かとも思うが、森を歩くには、やはり履き物はあったほうが無難だろう。

荷物も増えるしな。

脳内でミッキー○ウスが、細い足に見合わぬデカイ靴で軽快にステップを踏む。

ミッキーさん、尊敬します。俺には無理です。

ガッポガッポ、ズルズル……脱げないよう踏みしめながら足を運ぶだけ。

 

とにかく帰ろう。オルステッドなら対処を知っているはずだ。

 

途中魔物に襲われたが、荷物や靴のせいで動きにくいものの、魔術は問題なく使える。

行きがけの倍の時間をかけて、無事帰り着くことができた。

 

すでに夜。

夕方には戻るって出てきたんだけどなあ。

 

 

転移魔法陣のある地下室からガッポガッポと階段を上がっていき、灯りの漏れるオルステッドの書斎を目指す。

とりあえず任務は成功……でいいのだろうか?

 

ノックをして声をかけた。

「ルーデウスです。ただいま戻りました」

おおう、これは。

声変わり前、汚れを知らぬボーイズボイスだ。

 

帰りの道中、俺はふたつの可能性を考えていた。

ひとつは、某高校生名探偵のように、肉体年齢が退行してしまったパターン。

もうひとつは、大人のパーツで手足が短い、小人族(ホビット)体型のパターン。

どちらにしても、困ったことには変わらない。

顔なんかはわからないが、全体的に細くなっているから、やはり前者かなと思う。

 

とかなんとか考えるのに十分なほどの間があって、ようやく「入れ」と返答があった。

 

思い切り怪しまれてるよ。

 

そりゃそうだろう、当然だ。

足音もおかしければ、声もおかしい。

普通に考えれば、ルーデウスの名を騙る偽物だ。それも、かなりお粗末なレベルの。

ただ俺としては、彼から見捨てられたら、もうどうしようもない。

 

すがるような気持ちでドアを開けたところで、そのまま回れ右したくなった。

「むっ、お前は……」

オルステッドの剣呑な視線が突き刺さる。

殺気すら感じるよ、こ、こえ〜。

 

「え、え……と、こんなナリではありますが、ルーデウスです……たぶん」

小さくなった身体をさらに小さくしながら部屋に入った。

うず高く背負った荷物が、ドアを通り抜ける時に引っかかってつんのめる。

なんとか態勢を立てなおすと、ガッポガッポと間抜けな音を響かせながら長椅子まで進み、ようやく大きな荷物を床に置いた。

荷物は下ろせたが、肩の荷は下りない。心はズシンと重いまま。

 

オルステッドは沈黙を保ち、ただじっと俺を見張っている。

な、なんか喋ってくれないだろうか。

 

この部屋には姿見が置いてある。俺が土魔術で作ったヤツだ。

表面をできるだけ研磨し、銅鏡のように仕上げた。

そこで初めて、己の姿を客観的に見た。

「ああ……やっぱり……」

鏡の中からは、小学校低学年くらいの子どもが〝あちゃー〟って顔でこちらを見つめ返していた。

 

射抜くような視線で俺を観察していたオルステッドが、聞き捨てならない言葉をつぶやいた。

「……魔石から漏れたのか……?」

 

 

寿命の短い人族にとって、永遠の命とか若さとかは見果てぬ夢だ。

 

だが、自分としては、人生というものは限りがあるからこそと思っている。

とくに俺のような怠け者には、締め切りの有無は想像以上に重要だ。

一部の種族のように数百年の寿命が約束されていたら、また今度やればいいかといつまでたってもダラダラしてるに違いない。

打倒ラプラスを掲げるペルギウスですら、普段は退屈そうだし。

俺の知る不死魔族にいたっては、享楽に流されながら、ひたすらノンビリ暮らしているイメージだ。

ループを繰り返しつつも、なお勤勉に精力的に動きつづけるオルステッドは、例外中の例外なのだ。

 

とにもかくにも、魔石の中に込められていたのは、遠い昔に作られた不老不死のエッセンス、いうなれば呪いのようなものらしい。

ただ、出来は不完全で、下手をすれば命を落としたり、人ならざるものに変化したり、効果があったりなかったり、害があったりなかったり。

もはや毒薬だ。

そのため使われることはなくなり、やがて忘れ去られた。

たまたま残っていたものが、長い年月をかけて魔石化したらしい。

 

石になった今では作用しようがなく、危険なものではないはずだった。

しかしこのまま放置すれば、もう間もなく、うっかり飲み込んでしまう魔物が現れるそうだ。

そしてソイツの強烈な胃液で中身が溶け出し、やがて手のつけられない凶悪な魔物へと変化する。

それを討伐するまでに実に数多くの冒険者や兵士が投入され、死んでいった。

その中に、先々の歴史で重要な位置を占める、ある人物の先祖が含まれる可能性が高い。

 

なので、先に回収した。 

めでたし、めでたし。

 

で、めでたくないのは、俺だ。

魔石カプセルを飲み込んだわけでもない。

気付かなかったが、内部の液が微かに染み出してたか、気化してたか。

ひょっとしたら、反射光あたりが影響したのか。

死んではないし、人外の化け物に変身しなくて良かったと思うべきかもしれない。

しかし事前に〝取り扱い厳重注意!〟と教えてほしかった。

 

提出した魔石カプセルを、オルステッドが険しい顔で検分している。

 

いつもの感じで腰掛けたら、床に足が届かなかったので、尻をずらして浅く座りなおす。

靴は鏡のところで放棄したため、むき出しの膝小僧と華奢な裸足の足先が見えた。

これが俺の足ですか……。

エリスに初めて会ったころ、これくらいだったかも。

 

「あの……オルステッド様」

「なんだ」

「今の俺、なん才ぐらいでしょうか」

我ながら情けない質問だ。

 

そんなもん知らんと一蹴されるかとも思ったが、彼は魔石を机に置くと、俺の頭の上から足の先まで睨めつけ、微妙な表情をした。

「お前と初めて会った時より、幼い……かもしれん。

俺とて比較対象がないと、細かいところは判断がつかん」

 

ですよねー。

さっき見た感じでは、ノルンやアイシャより小さい。

10才……いや、もう少し下ってところかな?

まあ、はっきりさせたところで意味はない。なんの解決にもならないしな。

最初の遭遇、つまり彼に殺された時より前なのは確かだろう……って、トラウマレベルにイヤな思い出だ。

……あっ! ということは!

 

重要なことを閃いた俺は、椅子からピョンと飛び降りる。

そして、ワンピースみたいになっていたシャツを勢いよくめくりあげた。

「お、おい! なにをする!」

オルステッドの珍しく焦った声が聞こえたが、よくわからないから無視をして、胸の真ん中部分を確認してみると。

傷痕は、あった。

「オルステッド様! あの時の傷痕が残っています。

ということは、時間が巻き戻ったというより、元の肉体の情報を残して変化した、ということになりますよね!」

 

ふむ、興味深い。

興奮した俺が、見てくださいとばかりに胸を突き出せば、ためらいがちに伸ばされたオルステッドの長い指が、古傷をなぞるようにつうっと動いた。

「ひゃっ」

冷たい指先がくすぐったくて、思わず声を出して身をよじった。

「…………」

俺たちの間になんともぬるい空気が漂う。

 

「まあ、その……履いていたのだな」

 

一瞬なんのことかと思ったが、パンツか! うん、履いててよかった。

と、同時にふたたびピンと閃く。

中身の成長具合を確かめれば、そこそこ正確な身体年齢がわかりそうだ。

あとでこっそり見てみよう。

 

 

もう遅い時間だ。

家族になんと言い訳しようか。

 

良い肉が手に入ったからじっくり煮込んで夜にみんなで食べようとか、シルフィが言ってたなあ。

そういえば腹も減った。もう夕食は終わったろうな。

今ごろ心配してるかもしれない。

それとも、この姿で帰ったらもっと心配をかけるだろうか。

 

身体が戻ってから帰宅してもいいのだが、いつ戻れるか、そもそも本当に戻るかすら怪しい。

今や俺は3人の妻と2人の娘がいる、一家の主人だ。

そのほか母と妹も2人ずつ、ペットもいろいろ。

無責任に投げ出すわけにはいくまい。

先送りもダメだ。限りがあってこそ人生だと、断言したばかりではないか。

 

よし。

「家に帰ります」

 

オルステッドの表情がいっそう険しくなった。

いや、これはたぶん困惑している顔だ。

社長として責任を感じているのだろう。

労災といえばそうかもしれないが、俺の不注意でもある。

とりあえず今のところ、小さくなった以外は身体に害はなさそうだし、いったん出直そう。

呪いだったら、クリフあたりに相談する手もあるか。

 

「外は暗い。子どものひとり歩きは危なかろう」

「…………は?」 

突然、ルイジェルドが憑依したのか?

「いや、俺ですよ? 魔術もいけますし」

「……そうか」

 

俺がひとりで歩いたところで、なにをどうすれば危険なのだ。

人攫いにかどわかされるとか思うのか?

 

「あ、でも履き物は欲しいですね。これじゃあ歩きにくくって。

倉庫にサンダルみたいの、ありませんでしたっけ?」

オルステッドの三白眼が、何かを思い出すようゆっくりと斜め上に向けられた。

「子どもの足に合う履物に心当たりはないが、ほかに良いものがある」

 

部屋を出ていったオルステッドを、足をブラブラさせながら待つ。

社長にパシリをさせるなんて、俺も偉くなったものだ。

いや、これはお子様特権ってやつだな。

 

すぐに戻ってきた彼の手にあったのは、ローブだ。

「これは、着る者の体格に合わせて伸び縮みする。

素材がいいわけでも、ほかに機能があるわけでもない。

役に立たないガラクタだと思っていたが、取っておくものだな」

 

へー……そんな便利なものが。

受け取って袖を通すと、どういう仕組みか、丈がスルスルと詰まっていい感じになった。

「ありがとうございます」

 

で、足元はやっぱりあれを履いて帰るしかないか。

なんて考えていたら、オルステッドがおもむろに腰を落として、俺に背中を向けた。

「乗れ」

 

まさかおやぶん、おんぶでやんすか?

 

思わず脳の回路が混線するほど恐ろしかった。

結局、おんぶしてもらったけどね。

 

 

 

 

 

 





【挿絵表示】

ちっちゃくなっての帰還報告。
外套脱いだ社長さんの衣装に悩みました。


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