花に月〜(無職転生だけど)コナ○騒動〜    作:麓63

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※あとがき部分に拙い挿絵を1枚付けています。
 イメージが壊れたり、限定される恐れもありますので、好まれない方はご注意を。





花に月〜コナ○騒動〜 3

ー3ー

 

ロキシーの朝は遅い。

仕事があるから最後にはなんとか起き出してくるものの、家族揃っての朝食のタイミングに間に合わないことも多々あった。

 

昔からロキシーは、いろいろな場面で〝眠いのだろう〟と指摘されることが多かった。

けれども、それはあくまで顔の造作の問題であって、当然ながらいつも眠いわけではない。

ただ、朝だけは本当にめっぽう弱かった。

 

昨夜はララにお乳を飲ませながら、ついそのまま眠ってしまったらしい

ルーデウスが帰ったら出迎えようと思って待っていたのに、失敗だ。

 

「パパは帰ってきたんでしょうかねー」

腕の中のララに話しかけながら、ロキシーは寝ぼけ半分部屋から出た。

 

なんだろう、やけに階下が騒がしい。

 

アイシャだろうか、キャッキャと朝から元気いっぱいの笑い声。

「ぴったりね!」 はっきり聞き取れたのはエリスの言葉で、

シルフィやリーリャの声も断片的に聞こえてくる。

 

もともと賑やかな家ではあるのだが、普段はこれほどではない。

今朝は一体どうしたんだろう。

寝起きに、このテンションはついていけそうにない。

 

ロキシーはうっかり踏み外さないよう慎重に階段を降り、なお賑やかなダイニングルームを覗いた。

ゼニスを中心に輪ができている。

 

「……おはようございます……」

気後れ気味に声をかけると、笑顔のままに皆がいっせいにこちらを向いた。

 

正確には全員ではない。

ゼニスはロキシーの挨拶にもちろん反応しないし、ほかにもうひとり。

 

なんだ? この子は……?

 

ゼニスの豊満な胸に埋もれて、ジタバタしている子どもがいる。

ぎゅうっと両手で抱きすくめられ、逃れられないのだろう。

ゼニスはあいかわらずボンヤリした表情ながらも、柔らかそうな茶色の髪にスリスリと頬ずりしていた。

 

彼女は時折、ルーシーやララに触れたり、頭を撫でたりすることがあった。

ゼニスなりに、幼いこの子らが愛すべき孫であることを理解しているのだろう。

言葉はなくとも、心は深いところで繋がっている。

家族の絆を感じさせてくれる心温まる姿だと、日頃ロキシーは好ましく思っていた。

 

だが、このゼニスの様子はどう解釈したらいいのか。

孫以外にも反応するものだったのか? 子どもならいいのか? 基準がわからない。

 

「あの……それで、こちらのお子さんは?」

「んふふふ〜、誰だと思う?」

楽しげなシルフィの言葉に、エリス、リーリャ、アイシャ……その場の皆がロキシーの返事を興味津々と待ち構えている。

ルーシーだけは、きょとんとしているが。

 

「いや、そんな、期待されましても……。

それより助けてあげないと、もしかして息が苦しいんじゃないですか?」

微笑ましい光景には違いないが、さっきより子どもの抵抗が弱くなっているように見える。

 

「あ、本当に! 奥様、奥様!」

リーリャがゼニスの腕を半ば無理やり解くと、子どもがプハッと息をついて離れた。

「いや……死ぬかと思った」

スーハー、スーハー……

深呼吸を繰り返す子どもの背中を見ながら

「はて……?」とロキシーは考える。

 

ダボダボのシャツにも見える黒くストンとしたワンピース、足元は上品な花の刺繍がほどこされた愛らしい水色のブーツ。

後ろ髪の一部は束ねられ、細い尻尾のように背中まで垂れていた。

 

アイシャやノルンよりいくつか年下だろう。

ゼニスが懐いているから知り合いのはずだが、朝っぱらから家に遊びにくるような子どもに心当たりはなかった。

 

「申し訳ないですが……どちらのお嬢さんでしょうか?」

「ぷはっ! ロキシー姉ったら、期待どおり!」

手を打って喜ぶアイシャを「こら!」とリーリャがたしなめ、シルフィもエリスも笑っている。

 

なんだか、ものすごい疎外感だ。

いじけかけたロキシーに、問題の女の子がクルリと振り返った。

サラサラの前髪の下から見上げてくる瞳は若草色で、左目の下には泣きぼくろ。

「……あ?」

 

「おはようございます、ロキシー。ララもおはよう」

子どもがにっこり笑った。

 

ロキシーの目がバッチリ覚めた。

 

 

ゼニスと並んで朝食を取る。

いつもは長いテーブルの端と端が指定席だったが、俺の腕を掴んで離してくれなかったのだ。

 

「ルーデウス坊ちゃんが家を出たあと、食事のたびに

〝ルディはちゃんと食べてるかしら、独りぼっちで淋しくしてないかしら〟って、

ずっと心配なさってたんですよ……」

なんてリーリャが目頭を押さえるもんだから、これで母さんを振りほどけたら俺はオニだ。

親孝行と思って、好きにさせている。

 

ただ、アーンで食べさせようとするのは勘弁してくれ。

それからリーリャさん、坊ちゃんと呼ぶのはやめてくれ。

 

ああ、ルーシーがこっちを見ている。

お子様椅子に座って、ひとりで上手に食べながら。

っていうか、いつの間に自分で食べられるようになってたのか。えらいな。

 

「ママ、この子だーれ?」

 

ルーシーは澄んだ瞳を真っ直ぐに俺に向け、当然の疑問を口にした。

俺はにわかにテンパった。

 

愛娘の成長を見誤っていたのだ。

いずれ戻る(はずな)ので、下手に名乗って混乱させることもなかろう。

〝ちょっと知らない子が混ざってるなー〟くらいに流してくれたらいいなと。

朝から顔を合わせた時は、ピコンと首を傾げてシルフィをチラリと見上げ、それから「おはよー」と挨拶を返してくれた。

俺は受け入れてもらえたことに安堵すると同時に、ルーシーの仕草の可愛いさにデレたのだった。

 

愛する娘に嘘はつきたくない。

かといって、この状況で〝ルーシーのパパだよ〟と告げてしまっていいものだろうか。

 

正直、一緒に過ごせる時間が長いとは決して言えない。

長期出張から戻ると、毎回〝知らないおじさん〟へとリセットされてしまう俺が。

むしろオルステッドをパパと認識してしまう幼い娘に。

 

「ルディだよ」

動揺しまくる俺を尻目に、シルフィがさらりと答えた。

「ルディ?」

ルーシーは小首をかしげて「ふーん」とつぶやくと、皿の上で滑って逃げる豆を捕まえようと、右手のフォークに左手も添えて格闘しはじめた。

 

うんうん、嘘じゃないよな。さすがシルフィ。

 

額に浮かんだイヤな汗を、ゼニスがナフキンで拭き拭きしてくれた。

 

 

今朝のこと。

 

ひそかに夢オチを期待していた俺に、改めて現実が突き付けられた。

俺はガックリと肩を落としつつ、ベッドから出る。

 

そこらへんのシャツを適当にかぶり、スリッパを引っ掛けてダイニングルームに降りていくと、リーリャが倉庫から服を持ってきてくれた。

ノルンがシャリーアに来た時に持ち込んだ衣類だ。

 

「お兄ちゃん、あたしのメイド服もあるよっ!」

すでにリーリャから説明されていたのだろう、アイシャは俺の姿にもさほど驚くことなく、ひたすら「可愛いなあ」とニコニコしている。

 

ミリシオンで揃えたという服は、この近辺ではあまり見かけないデザインで質も良い。

ただ、当たり前だが女児の服だ。

ひらひらスカートだったり、リボンがあしらわれていたりで、大変可愛らしい。

まさか父さんの趣味か? ヴェラさんあたりが選んでくれたのかな?

俺は服装に大してこだわりはないが、さすがにリボンふりふりは遠慮したい。

 

ノルンの剣術の訓練着を借りるという手も考えたものの、今現在彼女が使っているものを拝借するのはためらわれた。

〝お父さんの服と一緒に洗濯しないでよ!〟って、お年頃女子のあるある話。

〝お兄ちゃんが着たのなら、こんな服いらない! 臭っ!〟なんて言われた日には、立ち直れない自信がある。

 

サイズが合ったので、とりあえずブーツだけ借りたら、女性陣が大いに盛り上がった。

皆さん朝からお元気で、結構なことだと思う。

 

昨夜からずっと、家族のいいオモチャだ。

おかげで深刻な事態にも関わらず、なにやらほのぼのムードで収まっているのは助かっている。

 

「どうしようかな、クリフ先輩に会いに大学に行きたいんだが。

これで出かけて問題ない……よな……?」

さっきはあんなに喜んでくれたのに、一転してブーイングと化した。

なんでだよ。

 

結局、朝イチで服を買いにいくことになった。

ロキシーは後ろ髪を引かれながら仕事に向かい、俺はパパ(エリス)とママ(シルフィ)に挟まれるような格好で、一緒に商店街に出る。

 

上からローブを羽織る以上、どんな格好でも良かったんじゃね?

そう思ったが、シルフィがあれこれコーディネートを考えながら楽しそうに選んでくれるので、黙ってお願いすることにした。

いずれ長男が生まれた時に着せれば、無駄にはなるまい。

 

というか、また子作りに励めるようになるのだろうか。

 

 

 

 

 

 





【挿絵表示】

この家は、なんでこんなに人が多いのでしょう。
面倒になってリーリャさんにご遠慮いただきました。
ごめんなさい。


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